HFルートの途中でもし士郎がキャスターを助けていたらというお話 作:ふりかけ@木三中
「止まれ――セイバー!」
その言葉と共に俺の手に刻まれた令呪が光を放ち、その三画のうちの一つが消えていく。
「なっ…………!?」
令呪はサーヴァントへの絶対的な命令権。
セイバーの動きが固定されたかのようにガクリと急停止し、その剣もキャスターを切り裂く僅か手前で止まった。
「シロウ!?何故……!」
セイバーがギロリとこちらを睨む、すんでのところで助かったキャスターもまだ状況が飲み込めていないようで訳が分からないというような視線をこちらに向ける。
「悪い、セイバー。でもまだキャスターは倒さないで欲しい。俺はキャスターに話を聞きたいんだ」
「シロウ、何を馬鹿なことを言っているのです!彼女は敵なのですよ!今すぐトドメの許可を!」
セイバーの言い分はもっともだ。
キャスターは敵で、サーヴァントだ。
セイバーはキャスターを圧倒していたが、隙を突かれれば俺なんて簡単にやられるだろうし、魔術破りの短剣のこともある。
普通に考えれば今ここで彼女を倒すべきだ。
でも、それが正しいことなのだろうか。
相手の事情を顧みずに、一方的にねじ伏せることが。
瞬間、頭の中にかつての地獄がフラッシュバックする。
訳もわからず、家を、家族を、自身を、全てを失った10年前の風景が。
こちら側の理屈など関係なく全てを奪われる理不尽、それは俺にとって許容できるものではなく、許容してはいけないものだ。
やはり、倒すのならばせめて事情を聞いてからだ。少なくとも、彼女が葛木先生を思って涙を流していた真意があるとすれば俺はそれを確かめたい。
「キャスターが俺たちの迎撃にすぐに来なかったりと、おかしな状況だったのはセイバーも感じてるだろ。それに、話を聞けば、他のサーヴァントの情報なんかも手に入るかもしれない。令呪を使ってしまった以上、ここで倒せばそれこそただの無駄遣いだ。そうだろ、セイバー?」
その言葉にセイバーは少し不満そうにしつつも、僅かに剣の切っ先を下に降ろす。それを了承ととった俺はキャスターに向けて話しかける。
「あ~……と、その、とりあえず、大丈夫か?」
座り込むキャスターの様子からは特に外傷を負っているようには見えないが、とりあえずそう声をかけてみる。
「……なんのつもりかしら、セイバーのマスター?令呪を使ってまで私を助けるなんて」
キャスターは険しい顔でこちらを睨みながらも、とりあえず返答してくれた。思いの外しっかりとした返答に安堵しつつ、言葉を重ねる。
「なんのつもりって聞かれたら、とりあえずキャスターから話が聞きたかったんだ」
「話……?この殺し合いの場で、随分と甘いことを言うのね」
「殺し合いだからこそだ。あんたを倒した後に後悔はしたくない。倒すかどうかは今のアンタの真意を知ってから決めたいんだ」
「それが甘いと言っているのだけれど……まぁいいわ、どの道セイバーに勝てるとも思わないし。それで、何を聞きたいのかしら?」
俺の言葉を聞いたキャスターは少し呆れたように嘆息しつつも、こちらに話を促してくる。
「いくつか聞きたいことはあるけど……まず、葛木先生はあんたのマスターだったのか?」
『葛木』と言う言葉を聞いてキャスターの瞳が僅かに揺れた。その様子を見て、やはり葛木先生を殺したのはキャスターではないと確信する。
「えぇ……そうね、形式上はそう言うことになるのかしら。もっとも彼は魔術師ではなかったけれど」
「魔術師じゃない……?じゃあ、葛木先生は聖杯戦争に巻き込まれた一般人ってことか?」
「……そうなるわね、あの人との契約はホントに偶然よ。聖杯戦争に関しては私が教えるまで全く知らなかったし、その後も契約しただけでほとんど関与をしていなかったわ」
葛木先生は魔術師ではない一般人であったが、なにか偶発的にキャスターのマスターになった……ということか。
「じゃあ、次の質問、葛木を殺したのはあんたじゃないよな?」
「……まるで、私が犯人ではないと分かっているような聞き方ね。状況を見れば、真っ先に私を疑うべきだと思うけれど。魔術師ですらない一般人のマスターに見切りをつけて裏切り殺した。そう考えるのが自然でしょう」
「かもしれない、けど……キャスターは殺してない。違うか?」
「――どうして、そう思うのかしら?」
「別に、なにか確固たる証拠があるわけじゃない。ただ、キャスターの様子からそう思っただけだ」
「……変わった坊やね……えぇ、そうよ、私は彼を殺していないわ」
誰かまでは分からないが、恐らく他のマスターにやられてしまったのだろうとキャスターが語る。
キャスターが犯人ではないと思っていたが、彼女自身の口からその答えを聞き出し、心のどこかで安堵する。
そんな俺の様子を見てキャスターが言う。
「……あなたね、敵の言うことをそうやって簡単に鵜呑みにして良いのかしら?」
「ん?まさか、嘘なのか?」
「いいえ……嘘ではないけれど……」
どこか釈然としない様子のキャスター、構わず次の質問をする。
「じゃあ後の質問は……最近、街で起きてる昏睡事件、あれはキャスターの仕業か?」
「……えぇ、そうよ」
発せられる肯定の言葉。
思わず体に力が入る。セイバーもその言葉を聞いて手にしていた剣をより強く握り締める。
「それは、葛木先生の命令か?」
「言ったでしょう、彼は聖杯戦争にはほとんど関与していないわ。全て私の独断、彼は何も知らないわ」
その言葉に少しだけホッとする。
いつも授業を受けていた教師が悪人ではないということに。
「それで……私が一般人を襲っていると分かったあなたはどうするのかしら?やはり……私を殺すのかしら?」
キャスターをどうするか。
一度長らえさせた命をまた摘み取るのは忍びないという思いもある。
だが……キャスターが人を襲っているというのなら……
「あなたが私を殺すと決断したのならば、私には抗う手段はないけれど……そのまえに、私の方からも一つ質問をいいかしら?」
そう言って、キャスターは目を細めてセイバーに視線を向ける。
「セイバー、あなた、聖杯にかける願いが何かあるのかしら?」
「当然だ。サーヴァントは願いを持つが故に召喚に応じ、聖杯を得るために戦うのだから」
「そう……けれど残念ね、たとえ聖杯を手にしたとしても貴女の願いは叶わないわよ、セイバー」
そう言って、セイバーを見るキャスターの唇はどこか笑っているように見えた。