HFルートの途中でもし士郎がキャスターを助けていたらというお話 作:ふりかけ@木三中
昼食づくり中のセイバーとの会話の後、彼女との間に少し気まずい空気が流れてしまったが、その後は特に変わったことも無く黙々と飯を食い、時間をつぶすために魔術の特訓や瞑想なんかをしている内に時刻は夜の11時を回ろうとしていた。
「……キャスター達に夜食でも出したほうがいいのかな」
セイバーは早々に眠ってしまったし、俺もすることが無い。
聖杯を作るために今も部屋に籠って作業をしているキャスターたちに何か差し入れでもするか。
セイバーが聖杯にかける願いについては気がかりだが、そもそも聖杯が完成しなければそれ以前の話だからな。
技術面では俺が聖杯作成で手伝えるようなことはなさそうだし、せめて夜食ぐらい作って応援しなければ。
「おにぎりでも作るかとするかな……二人分なら夕食の余りで足りるだろうし……」
聖杯はキャスター、遠坂、桜、イリヤの4人で作っているが、技術的にそれぞれ他家には見せられない魔術なども使用するらしく、今は桜とイリヤは休憩もかねて眠っており、作業しているのはキャスターと遠坂だけだ。
早速、おにぎりを作り温かいお茶入れてキャスター達に差し入れに向かう。
◇
「キャスター、遠坂、お腹がすいてるだろうから夜食を持って……」
キャスター達が作業している部屋にそう声をかけて扉を開けようとした時だった。
「キャスター、桜のこと……礼を言っておくわ。私は結局、何もできなかったから」
僅かに光の漏れる戸の隙間からそんな遠坂の声が聞こえてきた。
恐らく、キャスターに先の桜の救出劇の礼を言っているのだろう。
ただ、その声はどこか真剣なトーンが含まれていて俺は何となく部屋に入るのを躊躇してしまう。
キャスター達も俺の存在には気づいていないようで、そのまま話し声は続く。
「あら?坊やならともかく、あなたから礼を言われる理由は無いと思うけれど?」
「とぼけなくていいわよ……気づいてるんでしょ?私と桜の関係」
遠坂の桜の関係?
関係も何も、ただの学校の先輩後輩じゃ……
扉の外で首をひねる俺をよそに遠坂が言葉を続ける。
「私と桜が姉妹だってことあなたほどの魔術師なら分かっているんじゃない?」
―――姉妹?遠坂と桜が?
その言葉に驚愕するとと共に心のどこかで納得もする。
遠坂はやたら桜のことを気にかけていたし、桜もどこか遠坂に対してぎこちないような態度を取ることがあった。
それらの態度も二人が姉妹だったとすれば得心が行く。
「まぁね……桜さんの体は調べさせてもらったし、アナタについても一通り調べていたもの。確証はなかったけれどそうだろうとは思っていたわ」
キャスターはやはり二人の関係に気づいていたようだ。
臓硯の一件でキャスターは桜の体を詳しく調べていたようだし、遠坂が魔術を使用する姿も何度か目にしている。魔術と血筋は綿密な関係にあるらしいしキャスターには推測がついていたのだろう。
「……何故、アナタと桜さんが離れ離れで他人として過ごしているかまでは分からないないし、あまり深入りするつもりもないけれどね……ただ、あなたは桜さんがあんなことになっているって知っいたのかしら?」
「いえ……知らなかったわ。今までは魔術師としての家のしがらみ何なんかがあって桜にはあまり近づかないようにしていたけど、こんなことなら間桐の家に押し入ってでも桜を迎えに行くべきだったわ」
キャスターの質問にどこか静かな怒りを込めたように遠坂がそう答える。
その怒りはおそらく、桜の躰と魂を犯そうとした臓硯だけではなく、そんな状況に気づかなかった遠坂自身にも向けられたものだ。
それほど、遠坂にとっても桜は大事な存在なのだろう。
「アナタだって魔術師として育てられたでしょうにそんな甘いことを言うなんて……随分と妹想いなお姉ちゃんなのね、アナタは……」
呆れたような、しかし温かみを持った口調でキャスターがそんなセリフを呟く。
そしてフッと短く息を吐いた後、今度は自らの過去について訥々と語りだした。
「……実は私にも姉がいてね……カルキオペーと言う名前だったのだけれど……優しい人だったわ。王族としての礼儀作法や巫女としての稽古を受ける私をよく心配してくれた……私もそんな姉を慕っていたわ。まぁ、結局……私が国を出てからそれっきりになってしまったのだけれど……」
キャスター……魔女メディアの神話では彼女が弟を殺したシーンが有名だが、弟だけではなく姉もいたのか。
確かキャスターは女神の呪いによってイアソンという英雄に盲目的に恋をさせられ、弟を殺し祖国を離れることとなったはずだ。
神話のバリエーションによってはその後、紆余曲折を経て彼女が再び祖国へと帰ったというものもあるのだが、キャスターの言葉を聞くに実際に彼女が再び祖国の土を踏み家族と再会することはなかったのだろう。
実の弟を殺め、残された家族にも再び会いまみえることは無かったキャスター。
そんな彼女には今の遠坂と桜はどう映っているのだろうか?
「もしかしたら今のアナタは、桜さんに対してどう接すればいいのかとか、彼女に対して何ができるのかを悩んだりしているのかもしれないけれどね。特別な事をする必要はないわ。アナタが本当に桜さんのことを想っているというのなら、ただ彼女の傍にいてあげなさい。愛する人がそばにいるというのは、ただそれだけで幸せな事なんだから」
キャスターが、そんな言葉を遠坂に投げかける。
愛する人がそばにいるだけで幸せか……
それは故郷を捨て、男に捨てられて孤独に生きたキャスターが求めたものでもあるのだろうか。
「傍にいる、か……そうね、私と桜は家族なんだもの。まずはそこからよね……」
遠坂がゆっくりとかみしめるようにそう呟く。
……遠坂と桜、その二人の詳しい過去は分からない。だが、今まで他人としてきて過ごしてきたのに今は同じ家に住んでいるのだ、やはり気まずさや距離感をつかみ損ねている部分はあるのだろう。実際、今までの2人はどこか他人行儀に接している部分があった。
俺としては遠坂も桜も大事な人だし、姉妹として二人には仲良くしてほしいという気持ちはある。
だが……まぁ今の遠坂の様子ならば俺がしゃしゃり出なくても桜ときっとうまくやっていくだろう。
だって、2人が互いに互いを大事に思っていることぐらいは、鈍い俺でも分かる。ならば心配はいらない。
愛する人がそばにいるというのは、ただそれだけで幸せな事なのだから――
カルキオペ―は神話では妹だったり姉だったりあやふやで、そもそも型月時空では居るかわからないのですが、妹属性なキャスターもいいよなと思っていることにしました