HFルートの途中でもし士郎がキャスターを助けていたらというお話   作:ふりかけ@木三中

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30話目 2月12日 朝 キャスターの願い

 

「キャスター達は今日も一日、聖杯の製作をするつもりなのか?」

 

 朝食の焼き鮭を突きつつ、今日の予定ついて話し合う。

 まぁ他にすることもないし、また部屋に籠って聖杯作りに勤しむのだろうが……

 

「そうね、今日はその前にどこかに買い物に出かけたいと思っているのだけれど」

 

 だが、俺の予想とは違い、キャスターは買い物に行きたいと言い出した。

 

「買い物?何を買うつもりなんだ?」

「魔術に使う用具や材料よ。薬草や、ビーカーなんかの備品、あとはまぁ刃物やらピンセットやらね。遠坂さんがある程度、材料や用具は持ってきてはいるのだけど、それだけでは足りなくてね」

「そうなのか。でも、うーん、商店街には売ってなさそうだな……新都の方にでも買いに行くか……」

 

 あっちの方が店も多いし、キャスターの求めているものもあるかもしれない。

 

「シロウ、外出をするなら皆でまとまって移動した方がいいでしょう。もう大した力は残っていないと思いますが、まだアサシンのサーヴァントがいます。不意打ちを防ぐためにも固まって動いておいた方がいいかと」

 

 俺の言葉にセイバーが警告を発する。

 アサシンか……確かに、既にマスターを失ったアイツに大した力が残されているとは思えないが、死なばもろともの覚悟で暗殺を実行してくる可能性もなくはない。

 変に少人数になるよりは、皆で移動したほうが安全だろう。

 

「じゃあ、どうせだし皆で買い物いくか?」

 

 臓硯に桜やセイバーをさらわれたりして買い物なんか言ってられる状況でもなかったからな、まだ完全に戦争が終わったわけではないとは言え少しの息抜きぐらいは許されるだろう。

 俺も、冷蔵庫の食材が尽きてきて、そろそろ買い物には行きたいと思っていたし。

 

「わーい買い物買い物!」

「いいわね、私もちょうど色々欲しかったところだし」

 

 イリヤや遠坂も喜んでいる。まぁ呑気に買い物なんてできるのも久しぶりだからな。

 

「セイバーも何か欲しいモノとかないのか?言ってくれたらお金は出すけど……」

「いえ、私は特に入用なものはありません」

「そ、そうか、まぁ欲しいモノができたら遠慮なく言ってくれよ」

 

 セイバーにもそう声をかけるが、にべもない返事を返される。

 

 やはり、昨日の一件以来、セイバーとはなんとなく気まずい感じがするな。

 

 この機会にセイバーにも現世を楽しんでもらえば、彼女も彼女自身の幸せについて考え方を変えてくれるかもしれないと思っていたのだが、この調子では難しそうか……

 

 セイバーの願い……彼女の未練……どうにかしてやれないものか……

 

「そういえばさ……キャスターの元々の願いってなんだったのか聞いていいか?」

 

 セイバーの聖杯への願いについて考えていると、ふとキャスターのことが気になって、そんな質問を投げかける。

 

「えっ……どうしたのよ、いきなりそんなことを聞いてきて」

「いや、ただ別になんとなく気になってさ。そういえばキャスターの本来の願いを聞いてなかったなって」

 

 今でこそ、キャスターは葛木先生の蘇生のために動いているが当然初めからそれが目当てで戦争に参加したわけではあるまい。

 聖杯に叶える願いがあるからこそ、この戦争に参加し、その最中に葛木先生への想いを募らせたのだろう。

 

 戦士然とした英霊だったりすれば戦いそのものが目的なんてこともあるかもしれないが、キャスターはその手のタイプではないだろうし彼女には元々叶えたい願いがあってこの戦争に参加したはずだ。

 

「あー、いや言いたくなっかたら別に無理に言わなくてもいいんだけど……」

「そうね……まぁ別に隠すほどのことではないし、教えてあげるわよ」

 

 キャスターの言葉に横で話を聞いていた桜やイリヤが興味深げに視線を向ける。

 セイバーも表情にこそ出していないが、キャスターの言葉に耳を傾けているようだ。

 

「私の元々の願い……それは故郷に帰ることよ」

 

 キャスターの故郷……それはかつて王女だった頃のメディアが住んでいたというコルキスの話だろうか。

 そう言えば、昨日の夜に遠坂とキャスターが話していた時も、国を出た後、再び帰国することは無かったと言っていたな。

 それがキャスターの未練であり、彼女の願いなのだろう。

 

「幼き日に離れて以来、足を踏み入れることのなかったあの地にもう一度帰りたい。かつて家族と共に暮らしたあの海風の吹く祖国に……それが私の願いよ。つまらない願いでがっかりしたかしら?」

「いや、つまらないなんてことはないよ。故郷や家族を想うのは当然の事だろう」

 

 俺はずっと冬木で過ごしてきたわけだが、それでもキャスターの気持ちはわかる。

 かつての大火災で俺は家族を失い、住んでいた家や見慣れた街通りも全て炎に焼かれ消えてしまった。

 そういう意味では俺も、もう二度と幼少の頃を過ごした『故郷』へと帰ることはできないのだから。

 

「でも、いいのか?今のキャスターの願いは葛木先生を生き返らせることだろう。キャスターが葛木先生を慕っているのは分かるが、やっぱり元の願いにも未練はあるんじゃないのか?」

 

 今のキャスターにとっては葛木先生の事の方が重要なのだろうが、郷愁の念が消えてしまった訳ではあるまい。

 その辺り、キャスターはどう考えているのだろうか。

 

「そうね……確かに、国への想いが消えたわけではないけれど……ただ、もし宗一郎様が間桐臓硯にやられていなかったとしても、私は国へ帰ることを望まなかったと思うわ」

 

 キャスターの言葉に皆が首をかしげる。

 キャスターの元々の願いは国へ帰ることじゃなかったのか?

 なのに、それを望まないとはどういうことだろうか?

 

「あの雨の日に宗一郎様と出会って、柳洞寺で他愛のない日々を共に暮らして……そうしている内にね、どこか満たされていると感じている自分がいたのよ。あぁ、私はこの人と共にいれて幸せだとね」

 

 キャスターはその蒼い瞳で宙を見据えて、葛木先生と過ごした日々を懐かしむようにしながらそう語る。

 そんなキャスターを見て、昨日、キャスターが遠坂に言っていた言葉を思い出す。

 

 愛する人がそばにいるというのは、ただそれだけで幸せな事なのだと。

 

「私の願いはきっと……すでに叶っていたのでしょうね……あの人と出会って、共に過ごすことができた時点で……」

「キャスター……」

 

 それは……国へ帰るという前世の未練よりも、現世を葛木先生と共に過ごすという願いが勝ったということなのだろうか。

 だから仮に葛木先生がやられることがなくても、国に帰るという願いを望まなかったということか。

 しかし……これは驚いたな。キャスターが葛木先生を慕っていることは今までのことで分かってはいたが、それほどまでに強い思いだったとは。

 

「…………なぜです」

 

 キャスターの願いについて考えていると、唐突にセイバーが疑問の声を上げた。

 険しい顔でジッとキャスターを見て質問をするセイバーに少し驚く。

 

 セイバーがキャスターの願いについてどう思っているかはともかく、他人の願いについてはあまり追及をしたり、口をはさんだりするタイプではないと思っていたのだが……

 

「何故、とはなんのことかしらセイバー?」

「貴女の願いについてです。そもそもサーヴァントが召喚に応じるのは願いを叶える為だ。ならば貴女の元々の願いも決して軽々しいモノではなかったはず。なのに何故、そう簡単に願いを変えることなどができるのです」

 

 確かに……セイバーの疑問も分かる。わざわざこんな物騒な殺し合いの召喚に応じてまで叶えようとした願いなのだ。その想いもかなりのものだろう。それは彼女が生前帰ることのなかったと言う故郷の話をした時の表情からも何となく分かる。

 だというのに、それをあっさり諦めてしまえるものなのだろうか?

 

「そもそもを言えば、今貴女が叶えようとしている、マスターの蘇生という願いについても疑問です。もちろん、マスターを大事に思う心を理解できない訳ではありませんし、私もシロウには死んでほしくないと思っています。しかし……サーヴァントというのは基本的に過去を生きた英雄の写し身だ。私は世界との契約によって少々特殊な現界をしているが、キャスター、貴女は英霊の座からの正規の方法で召喚されているはずだ。そして写し身たるサーヴァントやそのサーヴァントが召喚された現世でどんなことが起きようが、本体のいる座には影響を与えない。貴女ほどの魔術師ならその仕組みはよく理解しているはずだ。なのに何故……」

 

 セイバーはまくしたてるようにキャスターに質問を投げかける。

 確かに、サーヴァントというのは基本的に座にいる英雄の影法師だ。なら極論を言えば葛木先生が死のうが、なんならこの世界が滅んだって座にいる『メディア』には関係のない話なのだ。

 もっとも、セイバーとて現世を完全にどうでもいいと思っている訳では無く、俺やこの街に被害が出たりすることへの忌避感を覚えるぐらいには良識はあるのだろう。

 それでもセイバーにとっては元の願いを捨てて現世で出会ったマスターを取ったキャスターの姿にはやはり疑問を覚えるのだろう。

 

「そうね……確かに、サーヴァントとしての生は座には記録としては残されるけど、それでかつての時代を生きた『メディア』という人物に何か変化があるわけではないわ。そういう意味では魔術師としては非合理なことをしているのでしょうね」

「それが分かっているならば何故……」

「理由……と言われると難しいわね。前にも話したように、宗一郎様とは出会いこそ強烈だったけれど、その後何か特別なことがあったわけでもないし、故郷への未練だって完全に捨てたというわけでもないわ」

 

キャスターはそこで言葉を区切ると、目をつむり、思い返すように呟く。

 

「でも……しょうがないじゃない……だって、好きになってしまったんだから」

「ッ―――――」

 

 キャスターの言葉にセイバーが目を見開く。

 それほどまでにキャスターの言葉が予想外だったのだろう。

 

「いえ……しかし、だからといって願いを簡単に……」

「そういう貴女はどうなのかしら、セイバー?召喚されてからこの世界で過ごしてみて、貴女は全くその願いが揺らぐことがなったのかしら?そうではなかったから私にわざわざこんな質問をしたのではなくて?」

「!!」

 

 そんなキャスターの質問に、セイバーは動揺したかのようにチラリと俺の方をみたが、すぐに表情を引き締める。

 

「いえ……私の願いは、もはや義務であり叶えなくてはいけないものだ。そこに私個人の感情など関係は無い。私は何としても聖杯を手に入れ、私の願いを叶えるだけです」

「…………そう、まぁ私はそもそも貴女の願いを知らないし、知ったとしてもとやかく口出しするつもりは無いけれど……」

 

 改めて自身の願いについて決意を新たにするセイバー。キャスターはそんなセイバーに意見するつもりはないらしい。

 まぁキャスターにとってそもそもセイバーとは聖杯を奪いあう敵同士だ。セイバーの願いが叶うということはキャスターの願いが叶わないということであり、その逆もしかりだ。

 なら相手の願いにあまり関心がないのは当然か。

 

「ただ、私の経験則から言うと、選択肢なんて言うのはどっちを選んでも苦労はあるし、後悔だってするものよ。ならば、せめて自らの信じた道を歩みなさい。それが運命の翻弄されて死んだ私からのアドバイスよ」

「……自らの信じた道……私がかつて信じたものは……」

 

 キャスターの言葉にセイバーが俯くようにして、考え込む。

 

 自らの信じた道か……俺が信じるものはなんなのか……セイバーやキャスター、そして俺自身がどうなるように望んでいるのか。

 キャスターの言葉を聞いて、改めて、俺もそんなことを考えるのだった。

 

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