HFルートの途中でもし士郎がキャスターを助けていたらというお話 作:ふりかけ@木三中
朝に話していた通り、買い物に行くため。バスにのって新都に移動する。
セイバー、遠坂、桜、イリヤ、キャスターを連れてバスの後ろの座席に座ろうとしていると、他の乗客たちの視線がこちらを向いていることに気づく。
「やっぱり……この腕は目立つのかな」
今、俺の左腕は包帯でぐるぐる巻きにしてある。
というのも、今俺の腕に移植されているアーチャーの左腕が悪目立ちするだろうと思ったからだ。
一応、アーチャーの腕自体は『遙か遠き理想郷』の効果もあってか拒絶反応などは見られず、痛みなどは無いのだが、やはりこう注目を集めてしまうと少し困るな……
「……あぁ、いや、俺のことを見てるわけじゃないのか……」
だが、よく見れば乗客たちの視線は別に俺のことを向いているわけじゃないことに気づく。確かに俺の腕にも一瞬、目はむけているがその視線はすぐに別の方向に向いている。
セイバーやキャスター、イリヤにだ。
まぁ3人とも日本人離れした外見をしているからな、人目を引くのはわかる。
凛々しさと可愛らしさを備えたセイバー
人間離れした美しさを持つキャスター
人形を思わせるほど整った顔立ちのイリヤ
まぁ俺なんかよりそっちに興味がいくのは当たり前だ。
そんな風に、改めてセイバーやキャスターの日本人離れした容姿を実感しつつ、新都へと向かうのだった。
◇
「欲しいモノは買えたか、キャスター?」
「えぇ、一通りそろっったわ。流石にモノの流通なんかは私のいた時代とは比べ物にならないぐらい良いわね」
わざわざ新都のショッピングモールまできたということもあって、キャスターが欲しがっていた道具や材料はすぐに見つかり、あっさりとこの買い物の目的を果たすことができた。
「あと、なんか買っとくものとかあるか?」
「そうね……この機会だし、服なんかもいくつか買っておこうかしら」
「服?でも服は藤ねえのとか貸してるし、キャスターが元々柳洞寺に住んでた時に着てたやつもあるだろ、そんなにたくさんいるのか?」
俺の言葉に、セイバーを除く女性陣から冷たい目が向けられる。
「あのねぇ、衛宮君じゃなんだから、数が少ない服を何回も着回しするのは嫌に決まってるでしょ?」
「そうですよ。それに、他人から借りた服はやはり抵抗もありますし、下着なんかは合う合わないもありますし……」
俺の言葉に遠坂と桜からそうお叱りを受ける。
別に俺だってそんな服を着回ししまくっているわけではないが……まぁ、確かに、キャスター達は女性なんだから、俺もその辺に関しては配慮が足りていなかったか。
「私は特に服は必要ないのですが……」
「いや、まぁこれもいい機会だしな。セイバーも遠慮せずに服を選べよ」
「そうですか?まぁシロウがそういうのなら……」
戦っていない時ぐらいはキャスターやセイバーには羽を伸ばしてもらいたいしな、セイバーも案外これでショッピングやファッションの楽しさに目覚めるかもしれないし、ここは奮発して二人に服を買うことにしよう。
◇
そんなわけで、服を買うためにキャスターが選んだ店はピンクの看板のいかにも、女性向けと言った感じの店だった。
チラリと、店の外から商品を見てみればフリフリのドレスや煽情的な下着なんかも置かれているのが見えて、思わず気恥ずかしくなって俺は店の外で待って女性陣だけで服を買いに行かせることにした。
だが、30分たっても1時間たってもキャスターたちが店から戻って来る気配は無く、しびれを切らした俺は仕方なく様子を見に行くことにする。
「セイバーたちはどこだ……ん、あれは遠坂と桜か」
遠坂と桜を見つけて、その姿を盗み見る。どうやら服ではなく、小物の類を見ているようだ。
遠坂が薄紫色のリボンを桜の髪につけてやったり、逆に桜が遠坂の髪に合うリボンがないか見繕ったりしているようだ。
その表情は2人とも笑みに溢れていて、心の底から楽しそうだ。
そんな2人を見て、俺も知らず笑みがこぼれる。やはり彼女達は家族なんだから、こうして一緒に笑い合ってる方がいい。
そんなことを考えつつも、今は二人の邪魔をしないほうが良いだろうと判断し、セイバーやキャスターを探す。
「お、いたいた」
試着室の近くで、大量の服を抱えたキャスターを発見する。
だが、様子を見るにその服はキャスターが着る訳では無くセイバーに着せるために見繕ってきたもののようで、セイバーが試着室に押し込められて無理矢理キャスターに服を着せられている。
「はぁ……いいわ、やっぱりセイバーはこういう可愛らしい服が似合うわね」
「そうでしょうか……私としてはもっと動きやすい服のほうが好ましいのですが……それに、私のような者にはこのような愛らしい服装は似合わないのでは……」
キャスターに半ば無理矢理、白いフリフリのドレスを試着させられているセイバー。
その顔は羞恥と困惑に彩られており居心地悪そうに鏡に映る自分の姿を見つめている。
「確かに、セイバーは少年のような凛々しさも持っているから一見可愛らしい服は似合わないと思うかもしれないれど、だからこそドレスを着た時に普段とのギャップであなたの可憐さが引き立つというものなのよ」
「はぁ……そんなものなのでしょうか……」
伏し目がちに自分の服装を改めて見回すセイバー。
クルクルと回るようにしてドレスを翻していると、後ろで見ていた俺と目が合った。
「なっ……士郎!いつからいたのですか!この服はキャスターに無理矢理着せられたもので……」
「いや……セイバー達の買い物が中々終わらないから、今様子を見に来たところだけど……」
俺に見られていると意識したとたんに恥ずかしくなったのか、セイバーは何やら言い訳をしつつ手で体を抱きしめるようにして、身を縮こまらせている。
「ほら坊や、女の子がこんなにかわいい服をきているのよ、なにか言うことがあるんじゃないかしら?」
「え?あぁ……そうだな、えっと……よく似合ってると思うぞセイバー」
キャスターに言わされたような形になってしまったがこの言葉は本心だ。白いドレスは彼女の華奢なシルエットと眩い金髪によく似合っていた。
「そ……そうですか……」
「ほら、坊やもこう言ってるんだし、この機会にいろいろ着てみましょうよ」
キャスターはまだまだセイバーに服を着せるつもりのようだ。
俺としてもセイバーの色んな服装を見たい気持ちがないわけではないのだが、あまり着せ替え人形みたいにされるのも気の毒だし助け舟を出してやるか。
「そういうキャスターは何か試着してみないのか?今、手に持ってるワンピースとか似合うと思うんだけど」
そう言って、キャスターが手に持っているフリルがあしらわれた水色のワンピーズを指し示す。
「え……私?私にはこんな服似合わないでしょ」
「いや、キャスターもさっきセイバーに一見似合わないと思っても、それがギャップになって魅力が引き立つ時があるとか言ってたじゃないか。以外にキャスターもそういう服が似合うんじゃないか?」
俺の言葉にキャスターは怪訝そうな顔をして手に持ったワンピースを睨む。
「…………坊や、私はこの時代の男性の服の好みと言うものが分かっていないのだけれど、こういった可愛らしい服装を私がして好まれるものなのかしら?いえ……もっと、言えば宗一郎様はこういった服装を好まれると思うかしら?」
葛木先生か……やはり、キャスターの基準はあの人なんだな。
「うーん……そうだな、正直俺はファッションとかには疎いし、葛木先生の好みもわかんないけど。キャスターが葛木先生のことを想って服を選んだっていうならそれだけで葛木先生は嬉しいと思うぞ」
葛木先生の好みは分からないが、恐らく人の容姿や服装にはあまり頓着が無い気がする。
それよりは、きっとキャスターが葛木先生のために服を選んだという想いを汲んでくれる人だろう。
そんな俺の言葉にジッと服を見てキャスターは考え込む。
「そうね……まぁ一着ぐらいはこういった服も持っていてもいいかしらね」
そう呟き、服を買い物かごに入れる。どうやら買うことにしたようだ。
「……シロウ」
「ん、何だセイバー?」
「シロウもやはり、女性が自分のために服を選んだとなると嬉しいモノなのですか?」
「えっ?あぁ、まぁそりゃ当然嬉しいけど……」
「そうですか……いや、しかし、やはりこの服は……」
今、自らが来ているフリフリのドレスを見て悩まし気な顔をするセイバー。
そうしてキャスターが持ってきた服を吟味して、一着の服の選び取る。
セイバーが手に持った服は、清潔感のある真っ白なワンピースだった。
キャスターが他に持ってきたフリルのついた服なんかよりは機能性に優れた、しかし、女の子らしい可愛さも持った服だ。
セイバーならもっと機能性のみを追求した服を選ぶのかと思っていたのだが……これは俺のこと意識してくれたという事でいいのだろうか?
それなら、素直に嬉しいことだ。
恥ずかし気な顔をしながらも、白いワンピースを着たセイバーを見ながらそんなことを思うのだった。
◇
そうしてキャスターの魔術の備品や食料に、皆の服も買い込んで、そろそろ帰ろうと歩いている途中だった。
何か気になるものでもあったのかセイバーがピタリと立ち止まった。
「おや――この本は何ですか?」
「あぁ、旅行用ガイドかな?これは、イギリスの本か」
セイバーの視線の先にあったは本屋に積まれていた本だった。どこかのお城が表紙のイギリスの観光ガイドだ。
イギリス……つまり、セイバーが治めていたブリテンである。セイバーとしても、やはり興味を惹かれたのだろう。本を手に取ってパラパラと読んでいる。
「やっぱりセイバーがいた時代とは、様子が変わってるのか?」
「この本で見る限りでは、建物や道などはほとんど変わってしまっているようですね。城などはいくつか見覚えのあるものもありますが……」
まぁアーサー王伝説の時代から現代はだいぶ経ってるからな。景色なんかはだいぶ様変わりしてるよな。
それでも、セイバーの見覚えのある城があるというあたり、その歴史の深さを思い知る。
「そうですか……ブリテンが滅びても、こうして残っているものはあるのですね……」
古い遺跡や墓、城なんかの写真を見て、そうしみじみとセイバーが呟く。
かつての時代と今の時代を重ね合わせるように眺めなら。
「……コルキスについて書かれた本はないのかしら?」
そんなセイバーの姿を見ていて、キャスターも気になったのだろう。自分の祖国に関する本がないか聞いてくる。
「コルキス ……って今は確かジョージアって言うんだよな。でも観光地とかではあまり聞かないしあるかどうか……」
イギリス関連の本はざっと見ただけでも数冊あるのだが、ジョージアに関する本は見つからない。
日本人にとっては馴染みの薄い国だからなぁ、人によっては国名自体知らないって人もいるレベルじゃないだろうか。
「あぁ、あった。これはどうだ?」
コーカサスの国々について書かれた本の中にジョージアについて書かれたものを発見する。ジョージアの観光地や自然が写真として載せられており、キャスターはそれらをじっと見つめている。俺も隣から覗くと、石造りの遺跡なんかの写真がいくつか並んでいる。
「ふーん、遺跡とかも結構ある歴史ある国なんだな。キャスターの時代のものとかもあるのか?」
「いえ、見た感じ建物などは私の時代より後世のものがほとんどのようね……」
言われてよく見てみると載せられてる遺跡や修道院の写真はキャスターの時代よりも後のものが多いか。
確か、メディアが登場するアルゴー船の物語は、紀元前の話だからな。流石に遺跡などもあまり残っていないのか。
「あぁ……けれど……」
キャスターが載せられて写真の一つをそっと手で撫でる。
「この海の景色は、今も昔も変わらないわね……」
一面に青色が広がる海の写真を、懐かしげに見つめるキャスター。
…………朝の会話でも言っていたが、キャスターの願いは元々故郷に帰ることで、その未練が未だ消えたわけではないのだ。
だから、やはり故郷の風景を見て思うところはあるのだろう。
「…………いつまでもこんなものを見ていても仕方ないわね……そろそろ行きましょうか」
暫く写真を見つめていたキャスターだが、そう言うと本を元に戻して歩き出す。
だが、それでも僅かに名残惜しげな目をしていたキャスターの姿がどこか印象に残った。
◇
「よし、みんな買い忘れとかはないな?他にどこか行きたい店があれば行くけど……」
色々なお店を廻り、遠坂おすすめのお店でご飯を食べたりとしている間に空はすっかり夕焼け色に染まっていた。
戦争がひと段落し、久々に一息つけたとはいえ流石にそろそろ帰らないとまずいだろう。両手に食材の入った袋を抱えつつ皆に買い物が済んだか最終確認をする。
「ショッピングっていうのは初めてだったけど中々楽しかったわ、シロウ」
「私も料理用品とかお洋服とかいろいろ買っちゃいました」
イリヤはこういった体験自体をしたことがなかったようでお菓子と服を多少買った程度ではあったが中々ご満悦な様子だ。
桜ははりきって色々買いすぎたようで、抱えきれずこぼれそうになった荷物を遠坂が持ってやっている。
「キャスターは目当てのものは買えたか?」
「えぇ、問題ないわ。これで聖杯づくりを続けられわね」
キャスターも問題なく買い物ができたようだ、そもそも今回の買い物の主目的はキャスターが必要とする備品や材料を買いにくることだったからその目的が果たせてよかった。
「セイバーは結局、服以外買わなかったのか?何か欲しいモノがあれば俺が――」
そんな風に話しかけようとして、俺は思わず息を呑んだ。
「ッ―――」
セイバーが夕焼けを見つめていた。
どこか懐かしむように、どこか名残惜しそうに。目を細め、金色の髪を撫でる彼女を夕焼けが優しく照らしている。
そんな絵画のような神秘的な光景に目を奪われながらも、改めてセイバーに声をかける。
「っ……セ、セイバー、今日はどうだった?楽しかったか?他に買うものがあればまだ買うけど……」
「……いえ、これ以上、買うようなものはありません。楽しかったと言われればそうですね――」
そこでセイバーは一度言葉を切り、改めて茜色に染まった夕焼け空と人々が歩く街並みに景色を向ける。
「――聖杯から現代に対する知識を授けられているとはいえ、こうして実際に人々の営みの中に入るとやはり私のいた時代とは違うのだと思わされました」
それは……そうだろう、セイバーのいた時代からはすでに何百年もたっている。
俺にとって日常の風景も彼女にとってはそうではないのだろう。
「けれど……変わらないモノもある。私の生きていた時代も今も」
そう語って、セイバーは懐かし気に夕焼けを遠い目で見つめる。
「変わったモノも変わらないモノも、全て私のいた時代から続いてきて今があるのだとそんなことを考えていました……」
そんな風に語るセイバーにつられて俺も夕焼けを見る。
優しく、静かに空を茜色に染める夕焼け。
国も時代も違うけれど、それはかつてセイバーも見た光景なのだろう。
「ありがとう、シロウ。正直、初めはあまり乗り気ではありませんでしたが今日は楽しかった。ですが、もう帰らなくては――」
そう締めくくって、セイバーは夕焼けから視線を外し、帰路につこうと踵を返す。
そんな姿がどこか名残惜しくて俺は
「……まだ、暗くなるには時間があるし、空いてる店もいくつかある。どこかに寄っていかないか?」
思わずそんなことを言ってしまった。
そんな俺にセイバーは一瞬、穏やかな笑みを浮かべたが次の瞬間にはキッとした目つきで俺を見やる。
「……いえ、休息はもう十分でしょう。聖杯戦争はまだ終わったわけではない。私たちにはまだやらねばならないことは残っているはずだ」
今日の買い物は戦争の間のほんのわずかな小休止、それが終われば彼女は少女の顔から騎士の顔へと仮面を被る。
そうだ……まだ戦争が終わった訳では無い、やるべきことはまだまだ残っているはずだ。
そうして、先程夕焼けを見ていた少女の出で立ちを思い出しながら、再び俺は戦争と言う日常に戻るため帰路につくのだった。