HFルートの途中でもし士郎がキャスターを助けていたらというお話   作:ふりかけ@木三中

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34話目 2月13日  昼 士郎の料理教室第2回

 

「おっ……そうそう、そんな感じだ。それでバターが溶けたら中火にして……」

 

この前、キャスターと料理をした時に悪戦苦闘したことをキャスター自身気にしていたのか、昼食を作る手伝いをしたいと言ってきた。

 

 本日のメニューは白身魚のムニエルだ。

 

「和食なんかだとキャスターには馴染み薄いだろうけど、魚料理とかならキャスターにも馴染み深いんじゃないか?」

 

 古代の食文化に詳しいわけではないが、焼き魚ぐらい海に面している国ならどこでも作られていただろう。

 そう思い、魚料理をチョイスしたのだがキャスターは首を横に振る。

 

「私の祖国……コルキスの面していた黒海はあまり魚が取れないのよ。一応、漁業はしていたけどそこまで魚は流通していなかったわ」

 そういえば、黒海は塩分濃度やら酸素濃度やらの関係であまり魚がとれないみたいなことをテレビで見た記憶があるな。流通や保存法が発達していない当時なら尚更食べる機会も少ないだろう。

 アルゴー船に乗っていた時期なんかは魚を釣って食べていたかもしれないが、当時の船旅中に豪勢な料理なんかできるとも思えないし、ちゃんとした魚料理を食べたことは意外に少ないのかもしれない。

「じゃあ、キャスターの国ではどんなもの食べてたんだ?」

「そうね、魚なんかよりは果物や穀物などの実りある国として有名だったわね。外国からもそういった豊かな実りを求めて侵略をうけることもあったぐらいよ。あぁ、そういえばお父様は自国のぶどう酒をよく自慢してたわね、私は当時子供だったから結局飲まずじまいだったけれど」

 

 キャスターがどこか懐かしげに目を細めながら自らの故郷について語る。

 

「良い国だったわ。発展と言う意味では他の国には劣っていたかもしれない小国だったけれそ、それでも私はあの国にいて幸せだった。暖かな家族と豊かな自然に、青い海。それだけで満ち足りていたはずなのに……」

 自らの故郷を、自らの過去を思い出しているのかポロリとキャスターがそんな言葉をこぼした。

 悔いに満ちた声……話を変えるように俺はキャスターに話を振る。

 

「そういえばさ……キャスターがアルゴー船を下りた後の話で気になってることがあるんだけど聞いてもいいか?」

「船を下りたあと?まぁ、あまり愉快な話にはならないと思うけれど、なにかしら?」

「キャスター……メディアの伝説だと、確かアルゴー船を下りた後にエリュシオンの管理者になったって話も聞いたことがある。その辺実際どうなんだ?」

 『魔女メディア』の伝説において、アルゴー船の冒険とその後の英雄イアソンとの決別は有名な逸話であるが、その後の彼女の行方については諸説ある。

 他の国の王をたぶらかして亡命しただとか、故郷に戻り再び王族に戻っただとか、魔女として人々に魔術を授けるようになっただとかその説は様々だ。

 そして、その中の一つに、不死となってエリュシオンという地の管理者になったという説もある。

 エリュシオン。

 中国に伝わる桃源郷、アーサー王伝説に登場するアヴァロン、黄金郷と謳われるエルドラド。

 世界各地に理想郷伝説というものは存在するがエリュシオンもその一つだ。

 ギリシャ神話の中で語られる至福者たちの島。

 生前に善行を積んだものや神々に認められるような偉業を成し遂げたものだけが、死後に招かれるという理想郷だ。

 その島では、常に穏やかな気候に包まれ、白ポプラの花々が生い茂りっており、死者達はそんな安寧とした空間で戯れて暮らしているという。

 そうしているうちに死者たちは生前の記憶を失くし次の生命へと転生するらしい。

 エリュシオンは冥王ハデスが管理する冥界の地の1つであるが、いわゆるおどろおどろしい地獄というよりは、そのイメージはどちらかといえば仏教の極楽などに近い。

 傷ついた魂を癒し、魂を再び現世へと送る、死と生を司る輪廻の地だ。

 そして、そんなエリュシオンの地を不死となったメディアが管理していたという話を思い出して、彼女に真偽を聞いたのだが、キャスターは鼻で笑うようにその話を否定した。

「もし、不死を得ていたのなら私はここにはいないでしょうね。サーヴァントというのは死した英雄の写し身、死のない存在はよほど特別な事情がなければ座に記録されることもないからサーヴァントとして召喚することはできないもの」

 うーむ、そんなもんなのか……

 まぁ確かに死者の管理なんてできるほどスゴイ立場にいて力も持ってるなら、そもそも聖杯なんて求めてない気もするな……葛木先生を生き返らせるのにこんな苦労もしてないだろうし……

「私の魔術の師であった女神ヘカテーは神々の中でもそれなりに強い権能を持っていてね、冥府において冥王ハデスとその妻ペルセポネに次ぐほどの権力を持っていたわ。その辺りの話や私自身も神の血を引いていることから、私がエリュシオンの管理者という話が出てきたのかもしれないわね」

「じゃあ……キャスターがエリュシオンの管理者になったって話は嘘なのか?」

「嘘……というわけではないわね。英霊というのはとてもあやふやな存在、例え後世に語られた伝聞であっても影響を及ぼすわ。事実かどうかに関係なくね。だから、私がエリュシオンの管理者となったという逸話が存在している以上、サーヴァントである今の私にも影響はあるのでしょうね」

 うーん…………その辺りの話はイマイチよく分からないが、ともかくキャスター自身がエリュシオンの管理者になったということはないらしい。

「じゃあ……実際のキャスターはアルゴー船での一件のあとどうしてたんだ?」

「別に……確かに多少のイザコザはあったけれどね、特に語るほどでもないわよ。ただ、故郷で弟を殺して、アルゴー船からも降りて、あの男に復讐をして、その後はひたすら逃げるように彷徨って……そうして死んだわ、それだけよ……」

 それだけの下らない話だと、それが自らの……『魔女メディア』の伝説だとキャスターは自嘲するように語る。

 

「ほんとにロクなことがない人生だったわ……だから、せめて今度こそは……」

 

 キャスターが強い決意を込めてそう呟く。

 

 そんな姿に、改めて彼女の願いの強さを再認識するのだった。

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