HFルートの途中でもし士郎がキャスターを助けていたらというお話   作:ふりかけ@木三中

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36話目 2月14日 昼 言峰襲来

 

「坊や!ついに聖杯ができたわよ!」

 

 キャスター達の作業の邪魔にならないように、リビングでテレビを見ていたらそんな声と共にキャスター達が部屋へ入ってきた。

 

 見れば、手には黄金の杯が握られている。

 どこか神秘的な輝きを放つそれが、今回の戦争で用いられることとなる新たなる聖杯ということなのだろう。

 

「本来は数年かけて作るものを数日で作ったわけだしね、滅茶苦茶大変だったわよ……」

 

 キャスターに続いて部屋に入ってきた遠坂が眠たげに目をこする。

 イリヤと桜もダルそうにしている。

 

 ずっと作業してもらっていたし、イリヤと桜は血を抜いたりもしたようだからな。

 本当にみんなよくやってくれた。

 

「みんなお疲れ様、ついに完成したのか……けど、これで作業終了ってわけじゃないんだよな?」

「えぇ、あとは大聖杯を浄化した上で、この小聖杯とリンクさせ、さらにイリヤさんと桜さんの中にある敗退したサーヴァントの魂を移せなければならないわ」

 

 万能の願望機に至るのに重要なのはその器では無く中身だ。

 大聖杯と同期し、サーヴァント達の魂を集めて初めて、完成と言える。

 

 さらに汚染されている大聖杯の浄化もしなくては、また10年前の大火災のようなことになりかねないし、まだまだやることは多い。

 

「じゃあ、この後は大聖杯のとこに行くのか?」

「えぇ、柳洞寺から大聖杯を形作る魔術回路へとアクセスできるから、そこで行うつもりよ。もっとも、まだ日が沈まぬうちに始めて一般人に見つかったりしても面倒だし、作業は夜になってからね」

「なら私は夜までの数時間、ちょっと仮眠をとるわ……流石にずっと作業しててちょっと疲れたし……」

「私もまだ体調が本調子じゃないしもうちょっと眠ってるわね」

 

 次の作業は夜からと聞いて、遠坂とイリヤはヨロヨロとベットへ向かう。

 

「何にせよ、聖杯に関する問題はこれでなんとかなりそうだな……」

 

 あとは、未だ姿を見せぬアサシンの存在は気がかりだが……結局、奴が何か仕掛けてくる様子はなかった。

 臓硯を失いマスターのいなくなった奴は現界する魔力もそろそろ尽きるはずだ。

セイバーやキャスターには敵わないと悟り、このままひっそりと消えゆくことを選んだのだろうか……?

 それならばこちらとしては楽な話ではあるのだが、少なくともまだ消滅してはいないようだし警戒をしなくては……

 

 そんな事を考えている時だった、ピンポーンと、玄関の呼び鈴が鳴る。

 

「ん……誰だろ?まさか、慎二とかか……?」

 

 臓硯の本性を知った時、慎二の身も危険なのではないかと心配していたのだが、桜の話では慎二は桜の身体を乗っ取った臓硯を恐れて、どこかへ逃げ出してしまったらしい。

 とりあえずは身の危険のない場所へ逃げてくれたのならば良かったと安心していたのだが、今になって戻ってきたのだろうか?

 

「はーい、どちら様で……」

 

 だが、玄関の前に立っていた訪問者は思いも寄らない人物だった。

 

「アンタは……言峰……!!」

 そこには聖杯戦争の監督役である男が悠然と立っていた。

 

 かつて教会で臓硯がギルガメッシュと戦った時に、奴はどこかへと逃げ延びていたらしい。

 

 そのままどこかに隠れ潜んでいるのかと思っていたがこのタイミングでまた会うことになるとは……

「久しぶりだな、衛宮士郎。無事、セイバーと間桐桜を取り戻し、あの間桐臓硯を倒したようだな。さらには新しき第3の小聖杯まで作るとは、私としても驚いたよ」

「あ、あぁ……なんとかな……」

 

 言峰は俺を労うかのようにそんな言葉をかけてくる。

 

 こいつ……どこまで事情を知ってるんだ?

 

 臓硯の話はともかく、新しい聖杯のことまで知っているとは……

 

「そうだ!あの教会にいたギルガメッシュって奴アンタ知ってたのか?まさかランサーみたいにアンタのサーヴァントだっんじゃ……」

「一応、そういうことになるな。……その辺りの話や、間桐臓硯の話もしたい。ここで話すのもなんだ、とりあえず家に上がらせてはくれてないかね?」

 

そんな風に世間話でもするように、気軽に応対をする言峰。

 

「あ……あぁ、そうだなとりあえず中で話そう」

 

 その気軽さに思わず俺は奴を家に招き入れてしまった。

 こいつが――ランサーやギルガメッシュのマスターであった男であることを、信用ならない男であることは分かっていはずなのに。

 

「―――いかんな」

 

 ジャリ、っと音を立てて奴が一歩足を踏み出し、俺の家の敷地内に入ってくる。

 

「魔術師にとって工房とは要塞でもある。実際キャスターはこの家の結界を強化することでアサシンでも容易に侵入できないほど強固なモノとしていたのだが――肝心の家主が安易に招きいれてしまうのではな」

 

 アサシン?何故ここでアサシンの話が――?

 

「強固な結界も内側からならば意味はない――これならば令呪の効力も発揮できる」

 

 そう言って、奴が服の袖を捲ると、腕にビッシリと刻まれた赤い令呪が見えた。

それを認識すると同時に自分の失態を認識し、同時に意識を戦闘に切り替える。

 言峰綺礼――こいつは俺たちの敵だ。

 

「アサシンよ、イリヤスフィールを攫ってこい」

 

 俺が動くよりも早く、言峰が令呪を消費する。

 

 こいつ……アサシンとまで契約したのか!?

 

 いや、それよりも今の命令、イリヤの身が危険だ――

 

「キャアアアアァァア!」

 

 つんざくような悲鳴が鼓膜を揺らす。

 

 くそ、アサシンをイリヤのもとへ転移させたのか!

 

 続いてパリンとガラスの割れる音が聞こえてくる。

 

「アサシン……!」

 

 気がつけば、屋敷の塀の上にアサシンが立っていた。

 纏われた黒衣とは対照的な白い髪の少女が、その右腕に抱えられてる。

 

 イリヤはぐったりとして目を閉じてはいるが、令呪の命令は『イリヤを攫え』だった。

 恐らく気を失っているだけだとは思うが、このまま連れさられたらどうなるか分かったものではない。

 

「シロウ!ご無事ですか!」

「あれはアサシン……!?まだ向かってくる余力があったとは……」

 

 セイバーとキャスターが異変に気づいたのか、中庭に飛び出してきた。アサシンとイリヤの姿を確認し、状況を把握したのかそれぞれ剣と杖を構える。

 俺も投影してアサシンに向かおうとするが、それを見咎めるように言峰が声を発する。

「さて……安い脅し文句で言う方も照れくさいのだが……動くな衛宮士郎、この娘の命が惜しければな」

 

 その言葉と共に、アサシンの持つ短刀の切っ先がイリヤの白い首筋をなぞる。

 

 ……戦力差で言えばセイバーとキャスターがいるこちらの方が圧倒的に有利だが、それ故にここで下手に動けばこいつらはホントにイリヤを殺すだろう。

 死なばもろとも、どうせ正面から戦って負けるのならせめてイリヤを道連れにと考えても不思議はない。

 

「セイバー……キャスター……手を出すなよ……」

 

 2人が万が一にも飛び出さないようにそう厳命する。

 チラリと横目で確認すればセイバーもキャスターも武器を構えて言峰を睨んではいるが、とりあえずすぐに攻撃しそうな気配はない。

 それを確認してから、俺は言峰に問いかける。

 

「お前……何が目的なんだ?イリヤを聖杯として使う気か?」

 

 7騎揃っていないとはいえ、イリヤの中には既に数騎の英霊の魂が取り込まれている。

 その魔力を使えば万能の願望機……とまではいかなくても、小規模な願いを叶える程度の力は発揮できるかもしれない。

 

 だが……そもそも、現在の聖杯は汚染されていてまともな願望機として機能していないことは、言峰も承知のはず……こいつの目的が読めない。

 

「フッ……それが、知りたければ柳洞寺に来い。最終決戦というやつだ」

 

 そんな言葉を残して、言峰とアサシンが去ってゆく。

 

 俺たちはただ、それを黙って見ていることしかできなかった……

 

 

 

 

「怪我はないか、遠坂?」

「えぇ、イリヤの隣にいたから転移してきたアサシンに突き飛ばされたけど、それだけよ。特に外傷はないわ」

「桜も大丈夫か?」

「はい、私は離れた所にいましたから……でも、まさかイリヤさんが攫われてしまうなんて……」

 

 言峰達が去ったあと、とりあえず皆の無事を確認する。

 

「みんな、すまない。こうなったのは迂闊に言峰を招き入れた俺のせいだ」

「……まぁ、衛宮君の不用心は今に始まった話じゃないけど、今回は仕方ないわよ。アサシンはともかく言峰の方は警戒してなかったわけだし」

 

 謝罪する俺に、遠坂が慰めるように声をかけてくれる。

 

「私も、お爺さまの記憶からあの神父さんが怪しいことは知っていたんです。けれどまさか、イリヤさんを攫うなんて……」

 

 そう、言峰も汚染された聖杯については知っているはずだからこそ、今回のような暴挙に及び出るとは思わなかった。

 

 あいつの目的は一体なんなんだ……?

 

「あるいは、汚染された聖杯による呪いこそが目的なのかもしれないわね。いつの時代も破滅主義者といえのは一定数存在するものだもの」

 

 キャスターが言峰の目的をそう推察する。

 呪い自体が目的か……確かに今の状況を考えるにその可能性が高いのだろうか、ただの破滅主義者なんかとは違う印象を受けたのだが……

 

「何にしても、まずはイリヤスフィールを取り戻さなければね。何か面倒な事をされないうちに一刻も早くね」

「はい、先程は不意を突かれましたが、現状の戦力ならばイリヤスフィールを保護することも決して難しい話ではないはずだ」

 

 キャスターとセイバーが武器を構えてそう進言する。確かにキャスターの魔術によるサポートとセイバーの力による制圧力があれば、イリヤを取り戻すこともできるだろう。

 

「私もいくわよ、ここ最近、聖杯の作成で篭りっぱなしで体が鈍ってきてたし、一発暴れたいしね」

「私もいきます!イリヤさんのことが心配ですし、先輩の力にもなりたいですから」

 

 遠坂と桜がやる気十分というように、むんと拳に力を入れる。

 

 そんな2人を見て、俺も気合を入れ直し、宣言する。

 

「行こう、柳洞寺へ!」

 

 




明日、最終話まで一気に更新します。
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