HFルートの途中でもし士郎がキャスターを助けていたらというお話   作:ふりかけ@木三中

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38話目 2月14日 夕 神父の問いかけ

 

「よし……ついたな……」

 

 セイバーとキャスターを連れ、柳洞寺の境内、かつてアサシンとランサーが刃を交えていた池へと辿り着く。

 元々は澄み切った水をしていた、その池は今は見る影もなく、濁り切った泥に汚染されている。

 

 チリチリと肌に感じる異様な魔力。

 

「…………」

 

 チラリと目線を上に向ける。

 池の中心、空に穿たれた真っ黒な孔がそこにはあった。

 

「――――ッ」

 

 その黒い太陽のような孔は10年前、あの火災の中で見たのと同じもの。

 思わずよぎったかつての地獄の記憶に眉根を寄せる。

 

 今はまだ、あの空にポッカリと開かれた黒い孔からボトボトと呪いを帯びた泥がこぼれ落ちてているだけだが、このまま放置すればかつてのような災厄が……いや、それ以上の事態となるのだろう。

 

「…………イリヤ !」

 

 よく見れば黒い孔の中心、まるで祭壇に祀られる巫女のように、白い少女がその身を浮かべていた。

 

「……きたか、待っていたぞ衛宮士郎」

 そして、その道をふさぐように立つ男、言峰綺礼。

 まるで戦意は無いとでもいうような自然体なたたずまいに反して、その視線はしっかりと俺をとらえている。

 

「……キャスター、イリヤは助けられそうか?」

「えぇ……見た感じ、まだ大聖杯は完全に起動はしていない。少し時間がかかるけれどイリヤスフィールと大聖杯のリンクを切り離し、救助することはそう難しくないわ」

 

 そうか……なら……

「セイバー、キャスター、二人はイリヤと聖杯を頼む。俺は少しこいつと話がしたい」

「なっ――正気ですか!?彼は敵なのですよ」

 俺の言葉にセイバーが声を荒らげる。

 

「分かってるよ、別にアイツを見逃そうってわけじゃない、ちょっと事情を聞くだけだ。アイツも俺と話したがってるみたいだしな――」

 改めて、言峰綺礼に視線を向ける。

 奴は俺たちに攻撃を仕掛けてくるでもなく黙って俺達を見つめている。

 かつて敵だったキャスターとも言葉を交え今はこうして肩を並べて戦っているのだ。イリヤに手を出した言峰を許すつもりは毛頭ないが倒すにしてもまずはその真意を確かめたい。

 

「セイバーとキャスターは先に行ってくれ。キャスターはイリヤの救助を……それでも、もし、万が一にも聖杯の呪いが溢れるようなことがあったらセイバーの宝具で聖杯を破壊してくれ」

「しかし……」

「大丈夫、セイバーとキャスターにしこたま鍛えられたんだ。今更、アイツに負けないさ」

 

 俺の言葉に少しだけ困ったような顔をしたあと、二人は頷いて言峰の脇をかけていく。それを見送ってから言峰に対して言葉をかける。

 

「さて……ここまで来てやったんだ、なんでイリヤを浚ったのか起こした目的を話して貰えるだろうな?」

「目的か……確かにあるにはある、この世全ての悪の生誕という目的がな」

 

 この世全ての悪……やはり、黒き聖杯が目的か。

 俺たちが聖杯を浄化する目処が立ったからこそ、アサシン一騎という不利な戦況にもかかわらずの動いたのだろう。

 

「とはいえ……そちらについてはもはや叶わぬだろう。無理矢理起動させてみたものの、聖杯が完全に顕現するにはイリヤスフィールが取り込んだサーヴァントの数が足りていないようだったし、相手はあのセイバーとキャスターだ。今回の作戦もダメで元々、最初から上手くいくとは思っていない」

 

 警戒する俺に対して言峰はため息をつくように言葉を吐く、その様子からは本当に聖杯に対する執着は感じられない。

 

「やはりキャスター……侮っていたわけではないがあれの存在は大きかったな。優先して消しておくべきだったか……そう、そもそもの誤算はお前がキャスターを助けたことだったな……まさか、お前がアレを助けるとは……」

 呟くように言峰が言葉を漏らす、臓硯も俺達とキャスターが手を組んだのは予想外だったと言っていたが、キャスターと出会ったあの夜に俺が彼女を倒さずに助けたことは、俺の思っていた以上に様々な影響を与えていたようだ。

 

「何にせよ、もはや『この世全ての悪』が生誕することはないだろう、だから――これはお前と話がしたかっただけだ。こうして舞台を整えてでもやらなければ、お前は本音を話そうとしないだろうからな」

「俺の本音――?」

「あぁ、そうだ――衛宮士郎、お前にとって正義とはなんだ?」

 正義……その言葉にかつて切嗣と月光の下で交わした約束が頭をよぎる。

 

 切嗣の代わりに、俺が正義の味方になってやるといったあの言葉が。

「そもそもの話だが……衛宮士郎よ。何故お前はキャスターと手を組んでいるのだ?」

「は?キャスターと……?それは前にも話しただろ、汚染された聖杯を浄化するためにキャスターとは休戦して手を組んで――」

「そういう話をしているのでは無い、私はなぜお前がキャスターを許容しているのかと聞いているのだ」

 じろりと言峰の黒い瞳がこちらを射貫く。

 

「なにせ――キャスターは人を殺めているのだぞ?」

 

 言峰の言葉にごくりと息を呑む。

 

「人を殺めてる……?確かにキャスターが俺達と組む前に街中から魂喰いをしていたのは知っている。それは許せない所業だ、けどアレで死人は出てなかったはずだ」

「確かに、その辺りの悪辣になりきれぬ甘さは他のサーヴァントとは違う、温室育ちのお姫様が故なのだろうよ」

 大仰に肩をすくめながらも、やつは動揺する俺に言葉を続ける。

 

「やはり聞いていないのか……もっとも自らの主を殺したなど都合の悪いことをわざわざ告げはしないか」

 

 主を殺した……?

 しかし、葛木先生を殺したのは間桐臓硯のはず……臓硯自身もそう言うっていたのだから間違いはない。

 

「その表情から察するに本当に何も知らないのだな、キャスターは元々アトラム・ガリアスタと言う名前の正当な魔術師に召喚され、その者を殺めた後に柳洞寺に転がりこんだのだ」

 

 元々のマスター……確かに魔術師でもなんでも無い葛木先生がマスターになったという話は妙だとは思っていた。

 セイバーを偶発的に召喚した俺も、聖杯戦争の事情は知らなかったとはいえ仮にも魔術回路を持ち聖杯に選ばれて令呪を持ち合わせてはいたのだから。

 

「もちろん、そのマスターはお前や葛木宗一郎とは違い、聖杯戦争というものを事前に知った上で参加していた。サーヴァントを御しきれずに裏切られたというのはその者の実力不足、自業自得というべきだろう。だが……厳然たる事実して、キャスターは人を殺めている」

 ……今更、言峰の言葉をそのまま信じるほど俺も純粋ではないが、この話に関しては奴は嘘は言っていないのだろう。

 愉悦に吊り上がったその口元と試すような瞳がそう確信させる。

「生前にしてもそうだろう、裏切りの魔女と呼ばれた彼女の悪行は多い。無論、彼女にもそうなるが故の経緯はあったのだろう、神々の策略、民衆の悪意、愛する男からの裏切り……だが、どんな理由であれ彼女は罪を犯した……聖杯を浄化するまでの一時的な同盟だとお前は言ったが、それは罪人たるキャスターが聖杯を得る可能性があるということだ」

 

 ……聖杯を手にしたとしてもキャスターは私欲のためにその願いをかけるのではなく、葛木先生の蘇生のために使うと言っていた、その言葉はきっと真実だろう。

 だが、だとしても、キャスターが害してきた人々にとって彼女だけが自分の愛した人を守りぬくなど許せる話でもないだろう。

 そして、なにより……彼女が罪人だというのならばそれを断ずることが『正義の味方』のはずだ。

「さぁ、お前の答えを聞かせてくれ」

 それは俺を動揺させるための揺さぶりだとか、責め立てるための悪意あってのものではない。

 純粋なる疑問として、俺の本音を引きずり出すためにこんな場を設けてまで、奴は問いを投げかけている。

「お前はそれでも、キャスターを許容するのか……衛宮士郎よ」

 

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