HFルートの途中でもし士郎がキャスターを助けていたらというお話   作:ふりかけ@木三中

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3話目 2月4日 夜 魔女との取引

 

「そう……けれど残念ね、たとえ聖杯を手にしたとしても貴女の願いは叶わないわよ、セイバー」

「なに……どういうことだキャスター!」

 

 キャスターの言葉にセイバーが怒鳴るように問い詰める。

 

「そのままの意味よ。最後のサーヴァントとなり聖杯を手にしたとしても、貴女の願いは決して叶わない。もっとも貴女の願いがこの世界の滅亡だとでもいうのなら話は別だけれど」

 

 セイバーの願いの内容は俺も聞いていないが、そんな物騒なことではないだろう。それよりも、聖杯を手にしても願いが叶わないというのはどういうことだ?

 聖杯は願いを叶える願望機であり、それを手に入れるための聖杯戦争ではないのか?

 

「どういう意味だ?まさか、聖杯が偽物だとでも言うつもりか」

「いいえ、恐らく願望機に足る性能は持っているでしょうね。事実、英霊である私達を7騎も呼び寄せることができているんだもの。それだけの魔力があれば大抵の望みは叶えられるはずよ。もっとも……それは聖杯が正常ならばの話、此度の聖杯は何か良くないものに汚染されて歪んでいるのよ」

 

 聖杯が――汚染されている?

 

 冬木の聖杯はかつての魔術師たちによって作られたアーティファクトらしい。

 何か異常が起こっているとしたら、魔術師のクラスのサーヴァントであるキャスターが気づけたとしても不思議ではない。

 だが、そんな話をいきなりされても信じることもできない。

 

「何故そうなったかの詳細までは知らないわ。けれど、とにかくまともではない。歪んだ願望機に願いをかけたところで叶えられる願いも歪んでいる。あの様子では恐らく願いが叶うどころか、呪いを振りまくことになるでしょうね……10年前のように……」

「呪い……10年前……待てよ、それってまさか……」

 

 キャスターの言葉に、あの日の光景が一瞬頭をよぎる。

 

「えぇ、恐らく坊やの推測は当たっているわ。10年前にこの冬木で起きたという大火災、それは汚染された聖杯によってもたらされたものよ」

「待てよ……今の話だと汚染された聖杯に願いをかけたことで、あんな大災害が起こったのか?じゃあ……今回の聖杯戦争でも誰かが聖杯を手にしたとすれば同じような大災害が起きるかもしれないってことか?」

「誰が手にしても何らかの形で『殺戮』という厄災が起こるというのはその通りだけれど、状況はもっと悪いかしらね。10年前は儀式が途中で中断されたようだから『あの程度』の災厄で済んだのよ。今回もし儀式が円滑に進めば街1つの犠牲では済まないでしょうね」

 

 聖杯と火災の関連性は、セイバーを召喚した日に教会で言峰から聞かされていた。

 だが、それはかつて聖杯を手にした者が歪んだ願いを持っていたか、あるいは聖杯に相応しくなかったがゆえの事故だと思っていた。

 

 しかし、キャスターの言によると、そもそも聖杯自体に問題があって、誰が聖杯を手に取ろうが叶えられる願いは「殺戮」と言う形のみらしい。

 

 それが事実だとするならば、10年前にこの街を焼き払った大災害、あの時以上の厄災が再び起こるかもしれない…

 

「何か……証拠があるのか、聖杯が汚染されてるって証拠が?」

「証拠と言えば、私が証拠かしらね。裏切りの魔女メディアなんて反英雄が呼びだされている。その時点であの聖杯がまともでないことを示しているわ」

 

 魔女メディア、それがキャスターの真名か。

 その逸話は知っている。かつてギリシャの英雄達が集まったアルゴー船、その栄光と破滅を導いた魔女。

 確かに、彼女の生い立ちは純粋な英雄と呼べるものではないだろう。英雄と呼ばれる者たちが集う聖杯戦争に招かれることには違和感がある。

 

「嘘だ……聖杯を手にしても願いが叶わないなど、それならば私は……なんのために」

 

 セイバーが俯き、消え入りそうなほど小さな声で呟く。

 

「いいえ、セイバー、絶望する必要はないのよ。願いを叶えることが不可能になったわけではないのだから。私なら……神代の魔術師である私ならば聖杯を正しく扱える。汚れを祓い、正常な願望期として使うことが」

 

 聖杯の正常化……それもまた、神代の魔術師である彼女ならできてもおかしくはない。

 

「だから……提案よ。セイバーとそのマスター、私と同盟を組まないかしら?」

「……同盟?」

「えぇ、私の見立てでは恐らくサーヴァント5騎分の魂があれば聖杯の顕現自体は可能よ。だから、セイバーは私の代わりに他の5騎のサーヴァントを倒す。そして私は坊やと契約することで現界を続け、現れた聖杯を浄化する……どう?悪い話ではないと思うけれど……」

 

 ローブの隙間からキャスターが手を差し伸べて、そんな提案を持ちかける。

 

……聖杯に関する話は全て状況証拠とキャスターの推測だけであって確かな証拠がある訳ではない。

 聖杯が本当に汚染されているのか、その汚染をキャスターが浄化できるのか、全てはデマカセの可能性もある。

 

「……私の話を信じるか信じないかは自由よ。けれど……私を倒して、聖杯を手に入れた後に困るのはあなた達よ」

 

……確かにそうだ、もしキャスターの言葉が真実にもかかわらずこのままキャスターを倒してしまえば、セイバーの願いは叶わず、ただ災禍だけが残ると言う最悪の結果になりかねない。

 

「……いくつか確認したい。まず、その同盟関係はあまりキャスターにとってメリットがないように聞こえるけど……」

 

 マスターを失った彼女はこのままでは消えてしまうし、万全の状態だったとしても対魔力を持つ他のサーヴァントに勝てるかどうかは分からない。だから、俺と契約して生きながらえながらセイバーに他のサーヴァントを倒させると言う話は理解できる。

 だが、聖杯が1つしか存在しない以上は結局セイバーが聖杯を手に入れてしまい、キャスターにメリットはないのではないだろうか。

 

「もちろん、そういう訳ではないわ。同盟関係は他のサーヴァントを倒し、姿を現した聖杯を浄化するまで。つまり……それが終われば再び敵同士よ。その後に私はあなたたちを倒して聖杯を得るわ」

 

……なるほど、あくまでも他の陣営を倒し聖杯を浄化するまでの一時的な協力関係。聖杯を浄化した後は再びその所有をかけて俺たちとキャスターは戦うことになる…ということか。

 

 どの道ここで拒否されればキャスターは俺たちに倒されるし、万が一逃げることができたとしてもマスターを失った身で他のサーヴァントに勝てる可能性は限りなく低いと言っていいだろう。

 そして、俺たちも魔術に詳しいキャスターがいれば心強くはあるし、何より聖杯を浄化することが可能になる。一応、同盟としての筋は通っているが……

 

「けど……キャスターはそれでいいのか?ハッキリ言って、さっきの戦いを見ていたらキャスターがセイバーに勝てるとは思えないけど」

 

 少なくともキャスターの魔術は全く通じていなかった。さらに強力な魔術もあるのかもしれないが、それでもセイバーを倒しきることができるとも思えない。

 キャスターに勝機があるとすればあの契約破りの短剣だが、体術において彼女の動きは素人に見える。白兵戦において無類の強さを誇るセイバーを相手に、あの小さな短剣を当てることができるとは思えない。

 

「その辺りは後々考えるわ、今は貴方たちに見逃してもらわなければ確実に消滅するだけですもの」

「……そうか、アンタがいいなら俺もそれで構わない。だが、最後に1つだけ聞かせてくれ。もし、聖杯を得たとすればキャスターは何を願うんだ?」

「決まっているわ。万能の願望機たる聖杯ならば死者の蘇生も叶うはず。宗一郎様をお守りすることはできなかったけれど、聖杯を得て私は今度こそ……」

 

 ジッとこちらを見据えて、そう語るキャスターの言葉には強い決意が込められているように聞こえた。

 

『死者の蘇生』

 

 それは、自然の摂理に反した行為。過去の事実を否定する行為だ。

 個人的にその行為に対して思うところがない訳ではない。だが、それは俺がキャスターに押し付けるようなことではないし、聖杯の浄化にキャスターの存在は必須だ。

 

「……分かった、そういう事なら同盟の話は呑みたい。でも条件もある。まず街の人々から生気を集めているのをやめてくれ。もちろん他の手段でも一般人を害するようなことは無しだ」

 

 キャスターに対して特に命令などをするつもりはないが、この条件だけは絶対だ。この条件をキャスターが受け入れられなければこちらも彼女を見逃す訳にはいかなくなる。

 硬い表情でキャスターの返答を待つ。

 

「……いいわ、あの程度の魔力では対魔力持ちには敵わないと分かったし、それにセイバーがいればそんなまどろっこしいことはする必要がないもの」

 

 俺の条件に、意外にもあっさりとキャスターは快諾してくれた。

 

「良かった。なら同盟成立だな。セイバーもそれで構わないか?」

「……キャスターのことをまだ完全に信用したわけではありませんが、聖杯の汚染という話については私も少し心当たりがあります。今は彼女の提案を呑むしかないでしょう。しかし……もし、キャスターが同盟に背くような行動を取るようであればその時は容赦なく彼女を切ります」

 

 冷たい声音と共にセイバーが警告するようにキャスターを睨む。

 一応、同盟関係自体には納得してくれているようだが、警戒心もMAXと言った感じだ。どうせ協力するなら、できれば仲良くやっていきたいという気持ちもあるのだが……まぁ、いきなりは無理だよな。

 

「えーと、それじゃまずはキャスターとはサーヴァント契約を結んだ方がいいのか?マスターがいない状態が続くのは良くないんだよな?」

「えぇ……そうね。早めに済ませてしまいましょう」

 

 そう言うと彼女がスッと手を伸ばしてくる。

 俺もその手に自身の手を重ね合わせる、キャスターの手は氷のように冷たかった。

 

「私は聖杯を求めキャスターのクラスで現界せしサーヴァント、その真名はメディア、貴方を……我が主として認めるわ」

 

 どこか事務的に発せられる契約の言葉。

 瞬間、俺と彼女の間に見えないパスが繋がったのを感じた。外見上は変わりないはずだがなんとなく自身の体を見回す。

 キャスターの方も確認するようにジッと自身の手を見ていた。同盟関係が終わるまでの仮初めの契約、彼女の短剣があれば一方的に打ち切ることもできる脆い契約ではあるが、一応ここに俺とキャスターの契約は完了したことになる。

 

「……ねぇ、私の方からも同盟に関して1つ条件を出していいかしら?」

「ん?承諾できるかどうかは分からないけど、どんな条件だ?」

「同盟関係が続いている間はあなたの命令は聞くし、あなたの方針にも従うわ。ただ……あなたのことをマスターとは呼びたくないの」

 

 自らの手のひらを見つめながらキャスターはポツリとそう呟く。

 命令は聞くと言っている以上、同盟に異存がある訳ではないのだろう。

 

 チラリと地面に横たわる葛木先生の遺体を見る。

 

 それはきっとただの呼び方の問題、小さなこだわりだ。

 俺のことをマスターと呼びたくない、『彼』以外の人間を主とは認めたくないのだと。些細なことではあるが、キャスターにとって……キャスターと葛木先生にとってはきっと重要なことなのだろう。

 

「……分かった。俺のことは好きに呼んでくれて構わない」

「あら、好きに呼んでいいの?なら……これからよろしく頼むわね。坊や」

 

 そう言って、キャスターが少し唇を吊り上げる。

 こうして、俺たちとキャスターの歪な同盟関係が始まることとなった。

 




ネタバレになりますが、今作では士郎とキャスターが恋仲になることはありません。
葛キャスを前提としたうえで、今後の士郎とキャスターがどう関係を築いていくのかを楽しんでいただければと思います
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