HFルートの途中でもし士郎がキャスターを助けていたらというお話   作:ふりかけ@木三中

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エピローグ これからの話

 

 聖杯戦争――あの激動の戦いが終結してから1月ほどの時間がたった。

 

 気候も冬の突き刺すような寒さから、春の暖かな陽気に変わりつつある。

 そんな中で、俺は柳洞寺の境内に立っていた。

 

 柳洞寺――ここに来ると、キャスターと初めて出会った時の事を思い出すな。

 

 街から魔力を集めているサーヴァントがいると聞いて来てみれば、結局はキャスターと同盟を組むことになったのだから運命とは分からないものだ。

 

 そうしてキャスターと手を組み、なんとか他のサーヴァント達を倒して、最期の戦いをすることになったのも何の因果かここ柳洞寺であった。

 

 最後の勝者を決めるキャスターとの戦い。

 結局、あの死闘を制したのは俺とセイバーで、聖杯戦争の勝利者として俺たちは願いを叶える権利を得たのだった。

 

「…………」

 

 周囲の景色を見渡す。

 俺達以外無人だった最終決戦の時とは違い、そこには多くの人で溢れかえっていた。

 

 キャスターに魔力を吸い取られて入院していた僧侶たちが回復したというのもあるが、この賑やかさはそれだけが原因ではない。

 周囲には俺の通う穂群原学園の生徒の姿も多く、見受けられる。

 

 そんな彼らの雑談が、なんとはなしに俺の耳に入ってくる。

 

「しっかし、柳洞寺でガス漏れ騒ぎがあってバタバタ人が倒れたなんて聞いて時はビックリしたけど、みんな無事で良かったねぇ」

「一成会長がここの跡取りってのは有名だったけど、葛木先生もこの寺に住んでたなんて今回の事件で初めて聞いたわ。もう暫く学校休んでくれてた方が授業も自習になって楽だったんだけどなぁ」

 

 葛木先生――俺たちの学校の教師であり、キャスターがその身を懸けて蘇生を願った想い人。

 

 俺は結局、葛木先生の蘇生と言うキャスターの願いを叶えてやることにした。

 

 ただ、そこに1つ条件を加えさせてもらった。

 

 

 その条件は――

 

 

「皆さんお待たせしました!それでは――新郎新婦の入場です!」

 

 

 境内に……結婚式会場に、そんな司会の声が響く。

 

 それと同時に新郎と新婦……キャスターと葛木先生が入堂する。

 

 純白の和装……白無垢に身を包んだキャスター、その表情は緊張の色が見てとれたが、その手を葛木先生がしっかりと握ってやって二人して参道を歩く。

 

 俺がキャスターに出した条件――それはキャスターと葛木先生が結婚式をあげることだった。

 

 キャスターは仮に優勝して葛木先生の蘇生という願いを果たしたとしても、彼女自身はそのまま消滅するつもりだと語っていた。

 

 俺はそれが嫌だった。

 

 葛木先生のために戦い続けたキャスターがそれじゃ何にも得られてないじゃないかとむしゃくしゃした。

 

 キャスター本人がそれで納得しているとしても、俺のやっていることは余計なことなのだとしても。

 

 

 俺は、キャスターの幸せな姿が見たいと思った。

 

 

 それが俺が――この聖杯戦争の中で得た、俺自身の願いだった。

 

 

「ただ、まさか、こんなに早く結婚式を開くことになるとはな……」

 

 聖杯戦争の勝利者として、キャスターに条件を突きつけたものの、キャスターは自分などが葛木先生の伴侶になってもいいのか、このまま消えてしまった方がいいのではないかと渋っていた。

 それはかつて『幸せ』を奪われたキャスターの生い立ちからくる恐怖心と葛木先生を危険に巻き込み一度は死に追い込んでしまった罪悪感からくるものなのだろう。

 

 実際、結婚ともなればキャスター自身の意思だけではなく、葛木先生の意思も重要だ。

 だから、葛木先生を聖杯の力で蘇生した後は、とりあえず彼にキャスターが消えてしまわないように説得してもらい、結婚云々の話は後々のこととするつもりだった。

 だが、キャスターがそのままでは消滅する気であること、そうさせないためにもキャスターと一緒にいてあげて欲しいことを伝えると、彼はただ淡々とキャスターと添い遂げれば良いのか?と問うてきた。

 

 普通、結婚ともなれば交際したりと色々と段階を踏むものだろうし、特にキャスターはサーヴァントであってただの人間ではない。もっと悩むものだと思っていた俺が逆に葛木先生の淡々とした態度に面食らってしまった。

 

 もし蘇生されたことに義理を感じて無理に結婚しようとしているのならばその必要は無いと告げたのだが

 

『衛宮達には感謝している――だが、この選択は私自身の意思だ』

 

 と、返されてしまった。

 

 そのセリフはいつも通り抑揚のないものではあったが、しっかりとした意志が込められていて、俺が予想していた以上に、葛木先生もキャスターのことを想っていたのかもしれないと驚いたものだ。

 

 それからはこの、柳洞寺の僧侶たちも2人の結婚をこれはめでたいと、仏前での結婚式を行う準備をしてくれたりしてとんとん拍子にコトは進み、今日という日を迎えたことになる。

 

 改めてあたりの景色を見回す。

 柳洞寺の中庭には多くの参列者たちが談笑をしている。

 

 サーヴァントであるキャスターには、当然、現世で招けるゲストなどいない。

 だから参列している人々は、柳洞寺の僧侶や穂群原学園の生徒達だ。

 

 普通、教師の結婚式に生徒は参列しないと思うのだが、あの不愛想な葛木先生が結婚し、しかもお相手が異国の美女だという噂がいつの間にか学園中に広まり、一目見たいと押し寄せる結果となったのだ。

 

 葛木先生もキャスターも特にゲストが増えることをどうこう言うことは無かったので、随分と賑やかな式になったが結果的にはこれでよかったと思っている。パーティーは賑やかな方が楽しいに決まっているからな。

 

「あら、衛宮君じゃない」

「先輩、こんにちわです」

 

 そんな感慨にふけっていると唐突に声をかけられた。

 

「遠坂に桜か……二人も来てたんだな」

「当然です、キャスターさんのハレの日なんですから!」

「イリヤは来てないのかしら?衛宮君のところに居候してるんじゃなかったっけ?」

「あぁ、イリヤは今はアインツベルンの本家に里帰り中だ。夏ごろにはまた日本にくるってさ」

 

 小聖杯として造られたイリヤの体は結局、第3の聖杯をもちいることでその本来の役目を全うすることは無かった。

 だが、聖杯として調整され続けてきた彼女の肉体はその寿命を大きく削っており、聖杯戦争を終えればそう遠くないうちにイリヤの命は尽きてしまうだろうと彼女自身の口から告げられた。

 

 最初は驚きうろたえたものだが、その辺りはキャスターがしっかりと対策をうってくれていたようで寿命を普通の人間と同じくらいまで伸ばす施術方法を考案してくれた。

 その施術を受けるためにも現在はアインツベルンの本家に帰って色々と肉体の魔術的調整なんかをしているらしい、次に会える時には元気な姿が見れるといいのだが。

 

「桜もイリヤの施術のために色々と知識を出してくれたんだろ?ありがとうな」

「はい、お爺様が私を聖杯にしようと色々と研究していたことが役立ちました」

 

 その後は、桜の方は体調は大丈夫かと言った話や聖杯戦争中の思い出話などをしばらくしていたのだが、そういえばとふと思いついて彼女たちに質問してみる。

 

「あぁ、そういえば遠坂達はプレゼント何買ったんだ?」

 

 結婚式にはご祝儀としてはお金をいくらか包むものなのだろうが、参列者には学生も多いので何かモノをそれぞれプレゼントしようということになった。

 学生が金銭的に苦しまないようにという配慮なのだろうが、周りを見れば中々高価そうなモノを持ってきている生徒もいて、葛木先生の慕われ具合が分かる。

 

「あぁ、それなら私は以前に渡してあるから」

「へぇ、何あげたんだ?」

「戸籍よ、キャスター、戸籍持ってなかったでしょ」

「戸籍って…」

 

 サーヴァントとして召喚されたキャスターが現代日本における戸籍なんて当然持ってるわけはない。

 遠坂はこの冬木の地の管理者らしいから戸籍を用意するツテもあるのかもしれないが、戸籍がプレゼントというのもどうなのだろうか…

 

「何よ、その目は。書類とかも私が書いてあげて、結構大変だったのよ。そもそも私が戸籍作ってあげなきゃ、今日の結婚式も挙げれてないんだからね」

「まぁ、それもそうだが……桜はプレゼント用意したのか?」

「はい、料理器具色々買っちゃいました!これでいつか、キャスターさんと一緒にお料理できたらいいな、なんて」

 

 料理か……聖杯戦争中にもキャスターには何度か料理を教えたが、今でもたまにキャスターが料理を教わりに来ることがある。

 葛木先生という、作ってあげる相手がいることはモチベーションが高まるのか、元々手先が器用だったこともあってすっかり上達し、教える俺としては少し寂しさもある。

 

「それで、そういう衛宮君はどんなプレゼント持ってきたのかしら?」

「あぁ……俺はこれだ」

 

 ポケットから二枚の紙切れを出し、遠坂と桜に見せる。

 

「どれどれ……旅行券?行き先は……ジョージア、って確か……」

「キャスターの故郷に帰りたいって願いを、なんとか叶えてやりたいと思ってな」

 

 故郷であるコルキスへ帰ること、それがキャスターの元々の願いだった。

 葛木先生の蘇生とキャスターの受肉に聖杯の魔力をすべて使ってしまったいま、その願いを叶えることはもはやできない。

 それでも、せめてもと思って貯めたバイト代で2人分の旅行券を買ったのだ。

 

「葛木先生とキャスターの新婚旅行もかねて2人で行ってくれればと思ってさ、もっとも、楽しいだけの旅行になるかは分かんないけどさ」

 

 位置的には同じとは言え、キャスターの生きていた時代から現代は何百年もの時間が過ぎている。かつてのコルキスと現在のジョージアでは文化も風景も随分変わってしまっているだろう。

 それに……自らの弟を殺め二度と祖国へ帰らなかったというキャスターにとって故郷は温かく、安らかな思い出ばかりというわけではあるまい。冷たく、苦しい想いも故郷に対して抱いているはずだ。

 

 それでも……キャスターには葛木先生と二人で自らの故郷へと再び降り立ってほしいと思った。これからの未来で二人が幸せに暮らすためにも、自らの過去と……罪と向き合って欲しいと思い、この旅行券をプレゼントすることにしたのだ。

 

「……葛木先生とキャスターさんならきっと大丈夫ですよ、なんせキャスターさんが選んだ人なんですから、しっかりとキャスターさんを支えてくれるに決まってます」

「あぁ……そうだな」

 

 桜の声に静かに答える。

 葛木先生とは結局深く語り合う機会は無く、生徒と教師と言う関係以上では彼の過去や人柄に踏み込んで知ることはできなかった。

 ひょっとしたら葛木先生にだってキャスター同様に何か暗い過去があることだって考えられる。

 それでも、あの二人ならきっと過去を乗り越えて幸せな未来を築いてくれるだろう。

 

 幸せそうに寄り添う二人を見ながらそんなことを考える。

 

「ん……、慎二も式に参加してるのか」

 

 そうして、キャスターと葛木先生を見ていたのだ、ふと視界の端に見知った顔を見つけた。

 あいつはこういうのには来ないと思っていたんだが……

 

「はい、元々来るつもりは無かったみたいですけど私が引っ張ってきちゃいました」

 

 桜がニッコリとそう語る、聖杯戦争を経て間桐家の家庭内ヒエラルキーにもどうやら変動があったらしい。

 

「あいつとは結局、聖杯戦争が終わった後でゆっくり話す機会もなかったからな……ちょっと行ってくるよ」

 

 俺が最後に慎二と最後に話したのは、ライダーを失って苛立っている時だった。

だが、今のアイツは別段殺気立った様子もなく、クラスの女子生徒たちと雑談をしている。

 聞いた話では、臓硯が桜を乗っ取った姿を見て怯えて逃げだし、その後はどういう廻りあわせかアーチャーと一緒にいたらしいが……

 

「慎二、ちょっといいか?」

「…………衛宮か」

 

 俺を見て少し眉を顰めたが、これはいつものことだ。やはり聖杯戦争の時ほどはピリピリした感じは無い。

 会場の隅によって二人で話し込む。

 

「…………あー、と、その、最近どうだ?調子は?」

「絶好調……なんていうように見えるか?爺さんは死んで妹は生意気になって大変だよ、こっちは」

 

 なんと切り出したらいいか思いつかず、そんな問いをした俺に慎二が呆れたような言葉を返し、それからチラリと俺の左腕に視線を向ける。

 

「……衛宮こそ、左腕はもう大丈夫なのか?」

「あぁ……おかげでな、慎二がアーチャーと一緒に義手を用意してくれたんだろう?ありがとうな」

 

 聖杯戦争中にランサーに吹き飛ばされ、アーチャーのものを移植していた俺の左腕。

 しかし、今は一見、普通の腕が取り付けられている。

 

 聖杯戦争の途中で姿をくらませていた慎二とアーチャーだが、冬木を離れて痛んだ赤色と呼ばれる人のところに行って俺の義手を作ってくれたり、イリヤの延命措置のために色々と魔術の素材をかき集めたりと奔走していたらしい。

 

 俺たちが激闘を繰り広げている裏で、慎二とアーチャーもまた珍道中をくりひろげていたようだ。

 

「……あのアーチャーとかいうやつさ、僕に対してやたら馴れ馴れしいし、なんかやたら知ったようなことを言ってくるしさぁ。ホントにウザったらしいやつだったよ」

 

 憎まれ口をたたきながらも、アーチャーとの思い出を回想しているのか慎二が目を細めてそう語る。

 

「魔術を使えてもさ……あんな誰かのためにしか動けないようなバカもいるって分かった」

 

 俺自身は結局あの赤い弓兵とじっくり話をする機会は無かった、ただあの皮肉気な態度と裏腹に常に遠坂を守るように立っていた姿なんかは知っている。

 

「爺さんもあっけなくおっ死んだし……魔術なんてのは使えてもそう大したことじゃないと思ったね。それよりも僕はアーチャーみたいなやつを顎で使ってる方が性にあってるとつくづく思ったよ」

 

 どこか、清々したというようにそう語る慎二、アーチャーとどんな旅をしたのかは知らないが慎二なりに思うところはあったらしい。

 

「……衛宮」

 

 そんなことを考えていると、慎二が声のトーン落としてチラリとこちらを見る。

 

「お前もアーチャーに負けず劣らず、馬鹿だからな。せいぜいアイツみたいにならないように気をつけろよ」

 

 それだけ言うと、慎二はもう話すことは無いというように、パーティーをする人々の輪の中へと戻っていったしまった。

 

「アーチャーみたいに、か……」

 

 慎二の言葉を反芻し、左の義手の手のひらを見つめてしばし物思いにふける。

 

 聖杯戦争……その数日間はまさに激戦の日々だった。

 その中でセイバーとキャスター、2人の師にそれぞれ剣術と魔術を見てもらって俺もそれなりに強くなったという自負はある、それこそサーヴァントととも渡り合えるほどに。

 

 騎士王の持つ癒しの力を有した黄金の鞘

 無限の剣を内包した固有結界

 左腕を介して得た、アーチャーの歴戦の記憶

 

 様々な偶然が重なって俺がこの聖杯戦争で得た『強さ』はきっと本来は一生涯かけてもそれぞれ届き得るかどうかというものだ。

 

  だが、それはあくまで肉体的な話であって、精神的には俺はこの聖杯戦争を通じて何か変わったのだろうか?

 

 言峰との最後の問答を思い返す。

 罪人であるキャスターを正義の味方として許容するのかと言う奴の問い。

 結局、その問いに俺は明確な答えを返すことはできなかった。

 

 正義の味方として未熟な理想を張り通しつづけることも

 借り受けただけの誓いを真実とすることも

 全てを捨てて己のエゴを貫くと決断することも

 今の俺にはできなかった。

 

 ちょっとばかし強くなったとはいえ、まだまだ俺は青臭いガキで、これからどんな道のりを歩んでゆけばいいのかすら判然としていない。

 

「おや、シロウ、こんな隅っこで何をしているのですか?」

 

 会場の隅でそう考え込んでいる俺に、ふと声が掛けられた。

 振り返ればそこには金髪の少女……セイバーの姿があった。

 

 聖杯戦争が終結し、彼女が求めていた願望器はすでに手に入る可能性は無くなった。

 だが、彼女の意思で未だにこの世界へと現界を続けている。

 

「セイバーか……いや、さっきまで慎二と話しててそれでちょっと考え事してただけだ。それより、あっちにバイキングあったぞ、もう食べたか?」

「む……シロウ、人を食べることしか考えていないかのように言うのはよしてほしい。流石に他人の挙式でそう、はしたなくがっついたりはしません……まぁ、先程つまむ程度には食べてきましたが……」

 

そんな話をしながら、会場の隅で二人してはしゃぐ人々をぼんやりと見つめる。

 

「……セイバーは本当にこれで良かったのか?後悔はしていないのか?」

 

 葛木先生との式を挙るという条件に聖杯をキャスターに聖杯を譲る。

 実はそれを提案してきたのはセイバーであった。

 

 言峰の乱入があったせいでなし崩し的になったが、最終決戦の前夜に二人で話し合っていたのだ。

 だが、実際にこうして最後の戦いから1月の時間がたち、式に参加することとなって心変わりはしていないのだろうか。

 

「……私には、叶えたい、叶えなければならない願いはありました……今でもその願いを諦めたというわけではありません」

 

 俺の問いに、セイバーは独白するかのように言葉を返す。

 セイバーの願い……かつての選定の儀をやり直し、より良きブリテンの終焉を導くこと。

 その願いは未だに消えたという訳ではないらしい。

 

「だったら……」

「ですが、少し見ていたくなったのです。キャスターのことを、彼女の願いの行く末を……」

「キャスターの……?」

 

 セイバーが、会場の真ん中で多くの人々に囲まれているキャスターと葛木先生に視線を向ける。

 

「キャスター……彼女にも元々叶えたい願いがあると聞きました。故郷に帰るという過去の未練からくる願いが。しかし、この時代に召喚され、彼女のマスターと出会い彼女は彼と共に生きたいと願うようになった――」

 

 葛木先生のことを語るキャスターの姿を思い返す。

 照れから顔を赤くしながらも、自らの想い人のことを嬉しそうに話す彼女の姿を。

 

「それが私には驚愕的ではありました。過去の未練よりも現代で築いた絆を選んだ彼女のことが……」

 

 セイバーの翠色の瞳がゆっくりとこちらを見据える。

 

「いずれ私は元の時代に帰る時がきます。その時に再び、聖杯を求めるかあるいは別の願いを持っているかは分かりません。しかし、キャスター達の行く末を見届けることは、きっと私にとっても重要なことだと思うのです。現代を生き、未来に向いて二人で寄り添うキャスター達を見届けることは……」

 

 だから、キャスターに聖杯を譲り、自らは現代に留まることにしたのだとセイバーが語る。

 

「……シロウも、あの二人に思うところがあったから聖杯を譲ったのではないですか?あの2人がこれからどうなるかを知りたかったからこそ……」

「……かも、しれないな」

 

 俺がこの聖杯戦争の中で見つけたキャスターの幸せな姿が見たいという願い、なぜそんなことを思ったのか自分でもはっきりとは分からなかった。

 ただ、今のセイバーの話を聞いて、この先キャスターが本当に幸せになれるのか俺もまた確かめたかったのかもしれないと思った。

 

「じゃあブーケトスやるぞー!!みんな集まれー!!」

 

 セイバーと長々と話している間に式もだいぶ進んだのだろう、そんな声が聞こえてきた。

 

「シロウ、ブーケトスとは一体何なのでしょう?」

「あぁ、新婦……キャスターが今、花束持ってるだろ?あれを今から後ろ向いて投げるからそれを受け取った女性が幸せをおすそ分けしてもらえる……つまり、次に結婚できるってジンクスだよ」

「ほう……なるほど、中々面白そうな演出ですね」

「まぁ、元々欧米とかのやり方だろうし仏前の結婚式じゃ普通やらないと思うんだが……ここの人たちはノリがいいからな」

 

 柳洞寺の人達が準備してくれた結婚式は型にハマったものではなく、楽しければいいといった感じのものだが、実際にキャスターも参加者たちもその口元には笑みが浮かんでいる。

 

「あっ、セイバー、こんなところにいたのね。どうせだし一緒にやりましょうよ」

「先輩、セイバーさん借りていきますね」

 

 近づいて来た遠坂と桜がセイバーを誘うが、当の本人は困惑したようにこちらを見る。

 

「いや……しかし、私は結婚などするつもりは……」

「まぁ、いいんじゃないか?結婚云々は抜きにしても、単純に縁起がいいし。それにこれから過ごしていく中で、ひょっとしたらセイバーの気が変わるなんてこともあるかもしれないしな」

 

 俺の言葉にセイバーは少し考えてから、遠坂と桜に手を引かれるようにしてブーケを待ち構える女性たちの列に加わった。

 

 俺は少し遠くから、ブーケトスの様子を見つめる。

 キャスターは葛木先生の横で、ゆったりした静かな笑顔を浮かべている。

 

 俺と暮らしている時もキャスターは笑うことはあったが、それとはやはり毛色の違う、穏やかな……しかし心の底から嬉しそうな笑顔だ。

 

 愛する人の隣に立てるというのは、それだけ幸せなことなのだろう。

 

 そんなことを考えながらぼんやりと、視線をブーケを待ちかまえる女性陣たち……セイバー、遠坂、桜へと向ける。

 

 いつか俺にも……隣に立ってくれるような女性が、共に歩んでくれるようなパートナーが見つかるのだろうか。

 

「それじゃあ、みんな、投げるわよ。せーのっ……!」

 

 そんな幸せに満ちたキャスターの声と共に、真っ赤なブーケが青い空に舞った。

 

 

 




最後までお読みいただき、ありがとうございます。
今回のお話は、SN3ルート全てでキャスターと葛木先生は脱落してしまうことやHAで2人は籍を入れているものの結婚式は挙げていないという話があり、2人の幸せな結婚式が見たい!と思って書き始めました。
葛木先生の蘇生に関しては型月のテーマとして本家ではやらないと思うのですが、二次創作ぐらい幸せな未来を築いてもらいたいと思ってこういった結末にしました。
士郎とキャスターの2人の絡みも好きなので、前作とはまた違った関係性を書くことができて良かったと思います。

士郎自身に関しては、アヴァロン、UBW、アーチャーの腕と原作三ルートでの象徴のような力を使いましたがその分精神的には宙ぶらりんというイメージでこのような結末になりました。

荒削りな部分も多い拙作ですが、読んだ方がキャスターを好きになってくださるとうれしいです。
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