HFルートの途中でもし士郎がキャスターを助けていたらというお話 作:ふりかけ@木三中
キャスターとの同盟を成立させた後、とにかく俺の家に戻って一旦休もうと言う話になった。
葛木先生の遺体は放置しておく訳にもいかないので、どうしようかと悩んでいたが、キャスターが何らかの魔術的な処置を施した後、彼女のローブでその身を包むとその姿は消えていった。異空間とかに繋がっていて、そこに移動させたのだろうか。
一成達のことも心配だが、キャスターが生気を吸い取ったせいで衰弱して気絶しているだけとのことらしい、救急車も匿名で呼んでおいたので命に別状はないだろう。
「それじゃあ……坊やの家に向かおうかしら」
そうしてキャスターと共に帰途へつく。
正門を出る際、僅かに名残惜しげに柳洞寺を見るキャスターの視線がどこか印象的だった。
◇
役者達が舞台を去る。
本来ここで消える運命にあった魔女は何の因果か、少年と歩みを共にすることとなった。
「――――」
人の気配がなくなったその場所に『ソレ』は現れ、ただ佇む。
「――――」
黒い影。
そうとしか形容できない奇怪なそれは月を見上げるように声にならない声を上げる。
黒き聖杯……マキリの杯へと至りつつある少女の無自覚なる影。
喰らうものが無く満たされなかった飢餓感ゆえか。
愛しきものの隣に立つものへの怨嗟の声か。
ただ虚に影は声を上げる。
そしていつまでそうしていたのか。
影は闇へと溶けるように消えさり、再びその場は静寂に包まれた。
◇
「ついたぞ、ここが俺の家だ」
「ふぅん、一応結界は張ってあるのね。霊地としても悪くはないわ」
俺の家を見てキャスターが魔術師らしい見解を述べる。
「今日は疲れたしもう寝よう。詳しいことはまた明日ってことで」
本当は早いうちに情報共有などをしておいた方がいいのだろうがキャスターのことも心配だ。一見普通に振舞っているように見えるが、マスターを失いセイバーとの戦闘もしたのだ、心身共にかなり疲労しているだろう。
「えーと、キャスターにはどこで寝てもらおうかな……あそこの部屋は今は桜が使ってるから……」
「桜?」
「ん?あぁ、俺の学校の後輩の子なんだけど、ちょっと色々ゴタゴタしててな。熱も出してたから今日は家に泊めてるんだ」
「そう……女の子を家に泊めるなんて、坊やも中々隅に置けないのね」
「いや、そんなんじゃなくてだな……また詳しく話すけどその桜って娘の兄貴がライダーのマスターでさ、桜をいざこざに巻き込まないために匿ってるんだ」
「あら、ライダーと既に会っていたの」
「あぁ、昨日な。その時ライダー自体は倒したんだけど、それで慎二……そのマスターの気が立ってて桜に手を上げたりしそうだったからさ」
「……ライダーを倒した?」
俺の言葉にキャスターが訝しげな声を上げる。
何かおかしな事を言っただろうか、ライダーがセイバーに吹っ飛ばされて消滅するのを俺は確かに見たのだが。
「……まぁ、いいわ。その話はまた後日詳しく聞くとしましょう。それで……話を戻すと私の寝る場所に困っていたようだけど、私達サーヴァントは霊体化できるからそんなものは必要ないわよ」
あぁ、そう言えば普通のサーヴァントは霊体化と言って姿を消すことができるのだったか。セイバーは契約が上手くいかなかったせいか霊体化できないので忘れていた。
「うーん、霊体化した時の感覚が俺には分からないんだけど、それって体が休まるのか?」
「……まぁ、休息という意味ではきちんと眠った方が効率はいいかしらね。微々たる差ではあるけれど」
「なら、ちゃんと寝た方がいいだろ。どうせ部屋は余ってるんだし、遠慮しなくてもいいよ」
和室と客室が余っているがキャスターはどっちがいいかな、布団よりはベットの方がいいだろうか。
「待ってください、シロウ。彼女を1人にするというのは危険すぎます。見張りの意味も込めて私と同じ部屋の方が良いでしょう」
どうするか考えているとセイバーが声を上げる。布団を移動すればセイバーの部屋に2人寝ることは可能だろうが……
「キャスターはそれでもいいか?」
「えぇ、1人になったところで何かするつもりはないけれど、セイバーの警戒は最もでしょうし、ムサい男ならばともかく可愛らしい彼女ならば別に構わないわ」
まぁ、キャスターが構わないというならそれで良いか。布団をセイバーの部屋に移動させ、パジャマは藤ねえのものを貸し与える。
時計を見れば日付が変わっていて、さすがに俺も眠くなってきた。自分の部屋へと戻り寝床の中に入る。今日の夜は色々あって俺もやはり疲れていたのだろう、暖かい布団の中に入るとすぐに意識は闇へと落ちていった。
◇
「う……?」
フワフワとした感覚に包まれながら目を開ける。
あれ……俺は何をしていたのだったか。
目覚めたばかりだと言うのにそんなことを考えてしまった。夢の中で夢を見ているような奇妙な感覚。
どれくらい寝ていたのか、今が夜なのか朝なのかは分からない、視界がフィルターでも通したみたいに赤色に染まっていてどこか現実感がない。
グルリと部屋を見渡す、当たり前だがさっきまで俺が寝ていた部屋だ。そこまで広くもなく、かといって狭くもない普通の部屋。
だが、妙な圧迫感を感じた。
何か、窮屈な感じがするというか、小さな箱のような罠に閉じ込められたネズミにでもなった気分だ。
「あ――――?」
布団から上半身を起こすが鉛でもつけているかのように体が妙に重い、項垂れるように視線を横に向ける。
そこにはローブを纏った女性が立っていた。
「キャス、ター……」
青い髪が微かな月明かりに反射しきらめいている。いつのまに部屋に入ってきたのか、キャスターはそこにぼうっと立っていた。
「坊や……」
キャスターの口から言葉が発せられる。
その言葉を聞くと頭の中に霧がかかったように思考ができなくなっていく。
「あ……キャスター……どう、したんだ?」
フワフワとした感覚の中、なんとかキャスターに問いかける。
「坊や……あなたの魔力を私にくれないかしら」
そう言うと、キャスターは纏っていたローブを脱ぎパサリと落とした。
下にも服を着ていたが、薄暗い部屋の中、僅かに差し込む月明かりにキャスターのシルエットが映し出される。
どこか大人びた静かな雰囲気と彫刻品のように滑らかな影の形に思わずどきりとしてしまう。
「魔力……?」
キャスターは短時間とは言えマスターがいない状態にあった。サーヴァントにとってマスターがいなくなることはかなりの負担らしい。
今は俺と契約しているとはいえ、俺は魔術師としてあまり優秀という訳ではなく、キャスターの魔力が足りない状態にあるのかもしれない。
「魔力って、俺はどうしたらいいんだ?」
「あら……ホントは分かってるんじゃない?」
その言葉と共に、キャスターが俺の体にもたれかかってきた。体に感じる暖かな感触、青い髪が俺の顔をくすぐる。
「キャスター……?」
思わず身をよじって逃げようとしたが、何故か思うように体が動かない。
そんな状況でキャスターと目が合う。
どこか蛇を連想させるような金色の瞳。その瞳に見つめられると鎖にでも絡められたかのように体が動かなくなっていく。
「ふふっ……今から何をされるかホントに分からないのかしら?」
キャスターが目を細めてこちらを見る、その瞳は熱に浮かされたように蠱惑的でもあり、同時に餌を見つめる捕食者のような冷たさもあった。
「貴方は今から――私に食べられるのよ」
ペロリとキャスターが舌なめずりをする。その赤い舌を見て、なんとなく爬虫類みたいだと思った。
キャスターの舌が俺の首筋を撫でる。
ピチャリとした水音と伝わってくる生温かな触感。
そしてキャスターが口を大きく開ける、そこから見える歯は牙のように尖っていた。
その牙が俺の首筋へと突き立てられてて……
◇
「坊や、起きなさい!」
そんな叫び声が聞こえて、布団からガバリと飛び起きた。
「??……キャスター?あれ、ここ俺の部屋だよな、あ、今のは夢か?」
寝起きだからか頭が混乱したままだ、何が夢で現実かあやふやになる。
目を開けると、そこには険しい顔したキャスターとセイバーが俺を揺り起こすように見つめていた。
あれ、さっきまでのは夢だよな。じゃあ、なんで今もキャスターが目の前にいるんだ?
「坊や、体が何かおかしい感じはしたりしないかしら?」
そう言われて、自分の体を見回す。見た感じは特に何も起きていない、ただ先程の夢の影響か体が少し熱っぽい感じはするがそれだけだ。
「別に特に支障はないけど……どうしたんだ、何かあったのか」
「……確かに問題はなさそうね……誰か他のサーヴァントが夢を通じて坊やの魔力を吸い取ろうとしてたしていたようだから慌てて駆けつけたのよ」
夢を通じて……ってことはさっきのは敵の能力かなんかで見せられた夢だったのか。
先程の夢、その艶やかなキャスターの仕草を思い出し、思わず顔が赤くなる。同時に敵の能力とはいえあんな夢を見てしまった自分を恥じる。
本物のキャスターなら俺に対してあんな行為はしないだろう。いや、葛木先生のため、生き残るために仕方なく行うことはあるかもしれないが少なくともあんな嬉々とした表情はしないはずだ。
「えっと、それで敵のサーヴァントはもういないのか?」
「えぇ、恐らく本気で仕掛けてきていたわけではなく。元々つまみ食い程度のつもりだったのでしょうね。それにしても、敵マスターからわざわざ魔力を吸い取ろうとは、変わった嗜好でもあるのか、よほど魔力に余裕がないのか……それにあの能力、いえ宝具の特性は」
キャスターが指を口に当ててぶつぶつと考え込む。とりあえず敵がすぐ近くにいると言う訳ではないらしい。
チラリと時計を見れば既に深夜3時を指していた。
「というか、悪いなこんな深夜に。起こしちゃっただろ」
「いえ……どうせ寝つけていなかったから構わないわよ」
寝つけなかったのか、やっぱり布団よりベッドの方が良かったか。そう思いながら改めてキャスターを見る。
「あっ…………」
部屋の明かりをつけていなかったので、今まで気づけなかったがキャスターの目は僅かに赤みがかり、目元は少し腫れていた。それはまるで先程まで泣いていたかのようで……
……そうだよな、葛木とキャスターがどんな出会いをして、今までどんな積み重ねをしてきたのか詳しいことは聞いていない。
だが、大事なパートナーであったことは分かる。そして、それを失った時のショックもきっと相当のものだろうということも。
ちらりと、キャスターの隣で俺の安否を慮るように視線を向けているセイバーを見る。
俺ももし自分の相棒を……セイバーを失えば、その喪失感はきっと計り知れないものだろうから。
原作ではライダーがシロウに凛の淫夢を見せてつまみ食いするシーンでしたが、今作では直前にキャスターを助けていたことが無意識に影響を与えて、キャスターの夢を見ていました