HFルートの途中でもし士郎がキャスターを助けていたらというお話 作:ふりかけ@木三中
「あ〜、流石にまだ、ちょっと眠いな」
昨日は眠る時間も遅かったし、結局ちゃんと眠ることもできなかった。ボーッとした頭を振りかぶりながら部屋を出る。
現在の時刻は5時。学校に行くまではまだまだ時間はあるが、桜は熱が出てて料理は作れないだろうし、キャスターが増えた分、朝ごはんは多めに作らなくてはならない。早めに朝食の準備に取り掛かることにする。
「――あれ、セイバーにキャスター。もう起きてたのか?」
居間に着くと、すでにセイバーとキャスターが起床していた。
2人とも特に何か話すわけでもなく、テーブルの周りに座っている。
「もしかして、あの後も寝付けなかったのか?」
「いえ、ちゃんと睡眠は取ったわよ。ただ、柳洞寺にいた頃の習慣で早くに目が覚めただけよ」
そういえばキャスターは柳洞寺にいたのだったな。
てっきり、ずっと霊体化して潜んでいたのかと思っていたが話ぶりからするに僧侶達に混じって生活していたのだろうか。
寺ならば朝も早いだろうし早起きの習慣がついていても不思議ではない。
「キャスターは柳洞寺での生活は辛くなかったのか?あそこは割とユルい所とは言え、食事とか早起きとか制限も多かっただろう」
「そうね……確かに多少の戒律はあったけれど、特に苦ではなかったわね。むしろ食事や睡眠については生前の方が厳しかったくらいよ」
言われてみればそれもそうか、神話によればキャスター……メディアは王族として産まれ、そして幼少の頃は女神ヘカテーの巫女として勤めていたらしい。当時の王族や巫女の暮らしは知らないが、それなりの束縛はあったのだろう。
その後のアルゴー船での冒険などでも当然、悠々自適という訳にはいかまい。それに比べれば、現代での寺での生活ぐらい特にどうということもないのかもしれない。
「ふぅん、そんなもんなのか……」
そんな話をしながら、朝飯を作る準備に取り掛かる。
冷蔵庫になんか朝飯の材料があったかな……
桜はまだ熱があるのだろうか、それならお粥とかの方がいいだろうか。いっそ雑炊とか皆んなの分もまとめて作るか。
カチャカチャと食器を出しながら、献立を考える。
「あ、先輩。おはようございま――」
桜ももう目が覚めていたのか、挨拶と共に居間に入ってきた。
だが、その挨拶が途中で止まる。
「えっと……先輩、この方は……」
桜が困ったように居間に座るキャスターを見る。
しまったな……いきなり家に住むことになったキャスターのことをなんて説明するか、言い訳を考えてなかった。
セイバーは確か切嗣の知り合いって説明したんだよな……キャスターことはどうしよう。セイバーの親戚とでも言うか、でも2人は全然似てないしな……
どう説明するか俺が迷っていると、キャスターが先に口を開いた。
「……あなたが桜さんね、シロウくんから話は聞いているわ。私の名前はキャスター。今日からここにお邪魔させてもらうことなったわ。よろしくね、桜さん」
穏やかな笑みを浮かべ、まるでお上品なお姉さんと言った感じに桜に話かける。
「あっ、キャスターさんって言うんですか。私は間桐桜です。こちらこそよろしくお願いします。えっと……それで、キャスターさんは先輩とはどういう……」
「えぇ、実は私は元々柳洞寺でお世話になっていたのだけれど、柳洞寺でガス漏れによる昏睡事故があってね。私はたまたま難を逃れたのだけれど、しばらく柳洞寺には住めなくなってしまって……それでしばらくの間、こちらに泊めさせてもらうことになったの」
キャスターが桜に説明をする。言ってる内容はまぁ完全に嘘って訳ではないな、昏睡事件に関してはキャスターが犯人ではあるが。
「柳洞寺……あぁ、柳洞会長と先輩、仲良いですもんね。それで……」
桜は何やら都合のいい方に解釈してくれたようだ。とはいえ、あまり深く聞かれても面倒なので話を変える。
「それより桜、熱はもう治ったのか?」
「はい、心配させちゃってごめんなさい、でももうすっかり元気です」
そう言って桜はムンと力を入れるようなポーズをとる。
「そうか、それなら良かった。でも、風邪は治りかけが一番危ないとも言うからな、油断するなよ。それじゃ朝ごはん作っちゃうからちょっと待っててくれ」
「はい、それなら私も何か手伝います」
そう言って桜が台所に入ろうとする。まだ病み上がりなんだから止めろと俺が言う前にキャスターが桜の前に立った。
「桜さん、あなたはまだ病み上がりなんでしょう。私が手伝うからアナタは休んでいてもいいわよ」
「えっ……でも、私はもう大丈夫ですよ。キャスターさんこそお客さんなんですから休んでいてください」
「いえ、私はしばらくこの家にお邪魔することになるのだから多少の雑用ぐらいしないと申し訳なくて逆に心が休まらないわ。だから、どうか桜さんは休んでいて」
その言葉を聞いても桜は少し不満そうにしていたが、なら今日だけはお願いしますと小さく呟いて大人しく席に座った。
というか、キャスターのやつ居候することに対して気後れを感じていたのか、別に気楽にしてくれたらいいのに。
「ねぇ、坊や……聖杯戦争のことなのだけれど……」
台所に立つとキャスターが小さく囁いてきた。手伝いを申し出たのは俺と話す口実が欲しかっただけのようだ。
聖杯戦争に関することなら今じゃなくて桜がいないところで話した方が良い気もするが……
「……ライダーのサーヴァントは既に倒したと言っていたけれど、それは確かなのかしら?」
「えっ……あぁ、少なくとも消滅したところは確認したけど……」
一昨日、慎二が従えたライダーを俺とセイバーで既に撃退している。慎二の指揮が悪かったのかサーヴァントとしての格の違いか、あっさりとセイバーはライダーを降し、敗退したライダーは消えてしまった。
「……消えた、というだけならいくらでも誤魔化すことはできるわけね」
俺の言葉を聞いてキャスターは何やら思案に耽っている。
「なんで、いきなりそんなことを聞くんだ?何か気になることでもあったのか?」
「えぇ……まぁ、まだ確信を得ているわけではないのだけれど……」
キャスターは何やら言いにくいように口を濁し、そしてチラッと桜を見る。
「……坊やにとってあの娘は大事な人なのかしら?」
「桜のことか?そりゃもちろん大事だよ。俺にとって家族みたいな存在だ」
それなりに長い期間、桜はこの家に通ってくれてるし、色んな手伝いなんかもしてくれる。彼女の存在はもはや俺にとって日常の1つだ。
「家族……ねぇ」
『家族』という言葉をキャスターは吟味するように呟く。
というか、何故ライダーの話をしていたのにいきなり桜の話題が出てきたのだろうか。
「……ライダーに関しては恐らく私の杞憂よ、あまり気にしないで頂戴」
そう言うと、それっきりキャスターは黙ってしまった。
だが、杞憂と言っておきながらその瞳は何かを考え込んでいるようでもあった。
◇
その後、皆で朝食を食べた。
桜はまだ少しキャスターに対して緊張があるようでそこまで会話は弾まなかったが、見た感じ2人はそこまで相性は悪くないように思う。
打ち解ければそれなりに仲は良くなりそうだ。
「よし、それじゃ学校に行ってくるよ」
朝食を食べ終え、制服に着替えて、セイバーとキャスターに見送られながら家を出る。
「学校……ねぇ、殺し合いの最中に不必要に出歩くとは……魔術師でない宗一郎様はともかく、坊やは緊張感がないというか…」
キャスターが呆れたというように呟く。そう言えば葛木先生もマスターだった筈なのに普通に学校に来ていたな。
「そう言われてもな……勉強は学生の本分だろう。それに学校で遠坂とも話をしないといけないしな」
「遠坂……確かアーチャーのマスターだったかしら」
「あぁ、万が一、俺たちが全滅するようなことがあれば、汚染された聖杯は野放しになってしまう。その時のためにも最低限の情報交換はしておいた方がいいだろ」
「……まぁ、それもそうね。私は坊やが学校に行っている間、セイバーと今後の話でもしておくわ」
「あぁ、じゃあ行ってくる。セイバーもキャスターと喧嘩しないようにな」
「キャスターが害をなすようなことをしない限りは私も無用な争いはするつもりはありません。それとシロウ、昨夜キャスターのマスターを殺めた相手は未だ正体が掴めていません、そちらの方も気をつけておいてください」
セイバーの忠告を聞いて、自分の左手に浮かぶ紋章を見る。
「あぁ、分かった。万が一のことがあれば令呪もある。それでセイバー達を呼ぶよ」
そう言って、手を振りながら家を出るのだった。
◇
昼休みの学校、遠坂と屋上で待ち合わせをして諸々の話をすることにした。
「衛宮君、あなたね……昨日、柳洞寺の魂喰いがいきなり解除されたから妙だとは思っていたけど。無断で突っ込むなんて……いくらセイバーがいるからって危ないとは思わなかったの!罠がはってあったりすればアナタの魔術の腕じゃどうにもできないでしょ!」
耳につんざく怒鳴り声。
開幕早々、遠坂からのお叱りを受ける。
まぁ、確かに昨日は少し深入りしすぎだったか、結果的には良かったと思うが少し軽率ではあった。
柳洞寺に探りを入れるという話はあらかじめしていたが、戦闘になるとは思っていなかったから、遠坂も気が気でなかったのだろう。
「いや、最初は様子見だけのつもりだったんだけど、なし崩し的にな……」
「全く死ななかったから良いようなものを……それで、柳洞寺の中にいるサーヴァントは倒したのかしら?」
「あぁ、柳洞寺にいたサーヴァントはキャスターだったんだけど……」
説明しようとしてその後の経緯に少し言い淀む。街の人達から生命力を吸っていたキャスターを助けたと言ったら彼女は怒るだろうか。
「どうしたの?別に逃したからと言って怒ったりはしないわよ。私も中々尻尾を掴めないでいたんだし……」
「いや……そういう訳じゃなくて実はだな、色々あってキャスターを助けることになったというか……今、家に匿ってるというか……」
イマイチ要領を得ない俺の説明。
しかし、その言葉を聞いた遠坂はジッと俺を睨み、そして――
「ガッ――――!」
いきなり遠坂が右手を伸ばし俺の体を取り押さえる。腕を捻られ関節を固定され抵抗することもできない。
そのまま遠坂は左手で俺の瞼を無理やりこじ開け、まじまじと俺の瞳を見つめる。
必然、遠坂の目と俺の目が見つめ合う。
その瞳をどことなく綺麗だな、なんて場違いなことを考えているといきなり拘束が解除された。
「……どうやらキャスターに魔術で傀儡にされてるって訳ではなさそうね」
「当たり前だろ、俺は正常だよ」
「どうかしら、衛宮君、暗示とかにはてんで耐性がなさそうだし、キャスター相手ならコロッと騙されそうだもの」
……まぁ確かに遠坂の心配はもっともか、俺がへっぽこ魔術師なのは確かだし、キャスターを助けたなんていきなり言ったら怪しむのも無理はない。
「それで、何があったのかしら?まさかとは思うけど、情にほだされてキャスターの事を倒せなかったなんて言ったらぶっとばすわよ」
「……これは戦争なんだ、必要ならば俺も相手を倒す覚悟はしてるさ。ただ……この戦争自体がまともじゃないかもしれない可能性が出てきてな」
その後、俺は昨日の夜に起こった事を話した。
葛木先生がキャスターのマスターだったということ。
そして、その葛木先生が何者かに殺された事。
恐らく、聖杯が何かに汚染されていて正常な状態ではないということ。
キャスターならばそれを正常化できるかもしれず、その為に手を組んだということ。
俺の話が終わるまで、とりあえず遠坂は黙って聞いていた。話終わった後も状況を自分の中で整理しているようでしばらく目を瞑っていたが、やがてゆっくりと目を開けた。
「いくつか気になる所はあるけど……まず葛木先生がマスターだったって言うのは驚きね。魔術師って感じはしなかったんだけど……」
「あぁ、葛木先生自体は魔術師ではない一般人だったらしい。たまたま巻き込まれてマスターになったんだって」
「ふぅん……成り行きでこんな物騒な戦争に参加する危なっかしい奴が衛宮君以外にもいたとはね……葛木先生は結構マジメそうな印象だったんだけどな。そもそも一般人なのに聖杯戦争の話をあっさり信じるなんて……」
それは確かにそうだな。俺は一応、魔術に関する知識があったから聖杯戦争に対して受け入れることもできたが、葛木先生は当然魔術のことなんて知らなかったはず。
聖杯戦争の話を良く信じだものだ。普通は嘘っぱちだと笑い飛ばしそうなものだが……
いやでも、葛木先生はあんまり冗談とか通じなさそうだし、受け入れたのはある意味、彼らしくはある気もするな。
「それと……街の人から生命力を吸い上げてたのは、結局キャスターだったんでしょう。衛宮君はそんな彼女と手を組んでも構わないのかしら?」
「それに関しては今も許したって訳じゃない。でも、少なくとも現状ではやらないって約束してくれた。それなら倒すって言うのは何か違うと思うんだ」
「確かに、魂喰いは今はとりあえず収まってはいるようね。別件で昏睡事件はあるけど、多分キャスターとは無関係でしょうし……」
「別件?」
「ん、ニュース見てないのかしら?昏倒して街で倒れた人がいるって、まぁやり口からしてキャスターとは違う感じだったから恐らく別のマスターかサーヴァントでしょうけど」
そうか……キャスターの件はとりあえずなんとかなったが、この街から脅威が去った訳ではないらしい。
「それでキャスターのことだけれど、流石にセイバーが近くにいればキャスターも悪さは出来ないか……ギアスでもかけられれば一番いいんだけど、魔術師のクラスのサーヴァント相手に下手な制約は意味ないだろうし……ねぇ、衛宮君、アナタ、万が一キャスターがまた悪さをしたらその時は、責任を取れるのかしら?」
責任。
それはもしもの時にキャスターを倒せるのかと言うことだろう。
「あぁ、もしまた街に被害を出すようなことがあったら、その時は俺も容赦するわけにはいかない。そのことはすでにキャスターにも伝えてある」
「そう……まぁ結局死者は出なかったし、とりあえず現状の被害が収まったのなら私としては様子見とするか……」
長い髪を手でパラリと掻き分けながら遠坂が呟く。とりあえずは遠坂と敵対したりせずに済みそうだ。
「さて……それで、1番の問題は汚染された聖杯に関してだけど……流石に事が事だけにキャスターの話をまるっきり鵜呑みにする訳には行かないわね……けど、万が一本当だったら無視するわけにもいかないし……」
腕を組み、眉を寄せて遠坂が考え込む。
「……いいわ、一時休戦ってことにしてあげる。私もこっちで聖杯について色々調べてみるわ。そのうちキャスターにも直接話を聞かせてもらうかもね」
休戦……か、流石に積極的な協力関係までにはなれなかったものの、それでもありがたい。
やはり遠坂と戦うと言うのは抵抗があるからな、戦わずに済むならそれに越したことはない。
「おっ、チャイムが鳴ったな、そろそろ教室に戻らないと」
そんな話をしているうちに昼休みの終わりを告げる鐘が鳴った。立ち上がり教室に戻ろうとする。
「ねぇ、衛宮君。最後に1ついいかしら?桜のことなんだけど……」
「あぁ、桜なら結局ウチに泊めることになった。今日もそのつもりだ」
昨日、ライダーを失って苛立っている慎二とその妹である桜のことを遠坂に相談したら、桜を俺の家に泊めたらどうかと提案してくれた。だが、キャスターが来て少し状況が変わったので遠坂はそのことについて気になっているのであろう。
「キャスターのことなら朝に桜と一緒にご飯を食べてたけど、仲良くやれると思うよ。心配しなくても大丈夫だ」
「ふぅん、キャスターは桜について何か言ってた?」
「ん?いや、別に……俺にとって桜は大事かとかは聞かれたけど……」
「それで……衛宮君はどう答えたの?」
「どうって、家族みたいなもんだし当然大事だって答えた」
その言葉に遠坂は何やら考え込む。
「家族……か、まぁ桜も衛宮君の家にいる方が良いだろうし、私の家に匿うわけにはいかないしな……キャスターは気づいてないってことはないと思うけど、流石にセイバーがいれば手出しもできないだろうし……」
顔を伏せてぶつぶつと何かを呟く遠坂。
どうしたのかと聞こうとした瞬間に考えがまとまったのか遠坂が顔を上げた。
「うん、やっぱり現状維持が一番か。桜は衛宮君がそのまま面倒を見てあげて」
「あ……あぁ、最初からそのつもりだけど……」
「ただ、一応キャスターには気をつけてね。私はまだ完全にキャスターのことを信用したわけじゃないんだから」
「もしかして、キャスターが桜を襲うか心配してるのか?それなら多分、大丈夫だろ。仮に桜から魔力を吸ったりしても魔術師でもない人間一人から得られる力なんてたかが知れてるんだろ、俺たちを敵にまわすリスクを踏んでまでそんなことはしないはずだ」
ライダーを連れた慎二を倒した後、奴の祖父であると言う間桐臓硯と少し話をした。あの老人の話では桜は特に魔術とは関わりは持たずに暮らしてきたらしい。もしかしたら素養ぐらいはあるかもしれないが、慎二がマスターに選ばれていたことから考えるにキャスターがわざわざ狙うほどではないだろう。
「……うん、まぁ、そうなんだけど……とりあえず、用心はしとくこと!いいわね」
そう言うと、遠坂は教室に戻っていった。
まぁ、キャスターが桜を襲うかはともかく俺の家にいれば戦いに巻き込まれる可能性も確かにある。用心はしておくに越したことはないだろう。
SN本編だとほとんど絡みが無い、キャスターと桜ですがHAとかエミヤご飯だと結構仲良さげなコンビで好きなんですよね