HFルートの途中でもし士郎がキャスターを助けていたらというお話   作:ふりかけ@木三中

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原作途中から話が始まっているので分かりにくいと思いますが
イリヤとはすでに昼に一度会って遊び、再会の約束をしています


6話目 2月5日 夕 白い少女と

 遠坂と話した後は特に変わった事もなく学校が終わり、下校する。

 

 慎二とも一応話をしておきたかったのだが、結局あいつは学校に来なかった。

 風邪ということらしいが、まさかホントに体調を崩したわけではないだろう。ライダーが倒されたことがそれほどあいつのプライドに傷をつけてしまったのか……

 

 だが、慰めるというのは違う気がするし、こちらから下手に家に行くなどのアクションを起こすのもかえって事態を悪化させる気がする。

 

 どうしたものかと考えながら自宅までの帰路を歩く。

 

 アイツに関しては今の俺にできることは何もない、しばらく様子を見るしかないか……

 

 考えを切り替える。

 

 今は今夜の夕飯の献立でも考えよう。そうだな、どうせなら商店街にでもよって何か買っていくか……

 

 ん?商店街?

 

 頭に引っかかりを覚える。

 

 何か約束をしていたような――

 

『じゃあ、明日も来てあげる。期待しないで待っててね』

 

「――――あっ!」

 

 そうだ、色々あったからイリヤとの約束を忘れていた。

 昨日の昼、商店街で出会った白い少女。

 バーサーカーのマスターであり一度は俺のことを殺そうとした恐ろしい魔術師、だが昼に出会った時は打って変わって可愛らしい無垢な少女。

 

 俺は昨日、彼女と話をして、また会おうと約束していたのだった。

 

 慌てて駆け出す、行く先は昨日彼女と最後に別れた公園だ。

 

 

「はぁはぁ…………」

 

 全力で走ったため、息を荒だてながら公園を見回す。

 しかし、周囲にはイリヤどころか他の人が遊んでいる様子もなかった。

 

 イリヤは最初から来ていなかったのか、俺がいないのを見て帰ってしまったのか。

 

 約束と言っても気が向いたら、という言い方だったからイリヤが最初から来てなかった可能性もある。

 だが、もし俺が来ると期待していた彼女を裏切ってしまったのなら悪い事をしたな……

 

 まだイリヤが遅れてくる可能性もあるので一応、もう少し待つことにする。

 

 しかし、ここまで慌てて走ってきたため喉が渇いた。公園に備え付けてある自販機でジュースでも買うか……

 

「あ――――!シロウだけ、ずるーい!」

 

 自販機の前に立った瞬間、いつの間に俺に近づいていたのか、俺の横に立っていた少女が叫び声が上げた。

 

 慌てて少女に目線を向ける、頰を膨らませた銀髪の少女がそこには立っていた。

 

「イリヤ……いつの間に、というか来てたんなら声をかけてくれよ」

「ふーん、士郎が遅いからちょっとイタズラして懲らしめてやろうと気配を消して隠れてたのよ。なのに、士郎は1人でジュースを買おうとするし……!」

「いや、遅れたのは悪かった。学校もあったしさ……ジュース奢ってやるから許してくれ」

 

 イリヤの口ぶりからするに俺より先に公園に来ていたのだろう。今日は比較的暖かいとは言え、この冬空の中待っていたのだとしたら本当に申し訳ない。

 

「むぅ……モノで許して貰おうとするなんて……まぁいいわ私は優しいから今回は許してあげる」

 

 まだ少しご立腹のようだがなんとかお許しが出た。

 イリヤは爪先立ちで自販機のジュースの列を覗き込んで、何を買うか吟味している。

 

「ん?このおしるこっていうのはなぁに?」

「あぁ、外国におしるこはないよな……えっと、豆のスープみたいな奴だ、いやスープというよりスイーツに近いんだけど……」

「ふぅん、甘いの?じゃあこれにする」

 

 2つ分おしるこの缶ジュースを買い、片方をイリヤに渡す。

 イリヤはやはり体が冷えていたのか、熱を持った缶で指を温めた後、おしるこを口にする。

 

「美味し……くもないわね、甘いけど、ドリンクって感じじゃないわ」

「まぁ、割と人を選ぶ味ではあるかな、俺は結構好きなんだけど。嫌いな味だったら残してもいいぞ」

「別に嫌いってわけじゃないわよ」

 

 そう言ってごくごくとイリヤがおしるこを飲む、思ったよりは気に入って貰えたようだ。

 その後もしばらくは取り止めのない会話をしていたが、急にイリヤが真面目な顔をしてこちらを見る。

 

「シロウさ、キャスターのこと、助けたでしょ」

「えっ……なんで知ってるんだ?」

「……シロウってホントに聖杯戦争のことも魔術のことも分かってないのね。私も使い魔を街に放ってるもの、ある程度の情報は得てるわ」

 

 使い魔か……魔術師ならやはり普通はソレを作って繰れるし、そうやって情報収集するのが定石なのだろう。でも、俺には残念ながら使い魔を作る技術はない。今度キャスターに作れないか聞いてみようかな……

 

「それで……キャスターのことがどうかしたのか?」

「どうかって、キャスターは士郎にとって敵のはずでしょ?」

 

……まぁキャスターを助けたのはよそから見ていたらやっぱりおかしく感じるよな。

この際だ、一応イリヤにも聖杯が汚染されてるって話はしておいた方がいいだろう。

 

 だが、その前に1つ聞いておかなけれればならない。

 

「イリヤ、葛木宗一郎って人物を知ってるか?」

「クズキ……なんて?日本人のフルネームは覚えにくいわ」

 

 特にその名前に聞き覚えは無いようで、イリヤは首をひねっている。

 

「キャスターのマスターだった人物なんだけど、知らないか?」

「さぁ……キャスターとは一度戦ったけど、その時はマスターは見てないわね。どうしてそんなこと聞くの?」

 

 へぇ……既にイリヤ達とキャスターは交戦していたのか。まぁ聖杯戦争はバトルロワイヤルではあるんだし、俺の知らないところで戦いがあるのは当然だ。

 それより重要なことはイリヤが葛木先生を知らない……つまり、葛木先生を殺した犯人ではないということだ。

 もし犯人だったら後々に禍根を残す可能性もあったので、とりあえず違うようで安心した。

 

 もっとも、イリヤとバーサーカーならそもそも葛木先生から殺すなんて回りくどいことをしなくても、バーサーカーを突っ込ませた方が手っ取り早いだろうし犯人の可能性は薄いと思っていた。

 

「俺たちがキャスターの拠点に行った時は既に葛木先生……キャスターのマスターだった人はやられていたんだけど――」

 

 柳洞寺でキャスターと出会い、そして彼女を助けた時の経緯。

 さらに、聖杯が既に汚染されてていて、正常な状態ではないかもしれないと言うことをイリヤに話す。

 

「ふぅん、流石は魔術師のクラスのサーヴァント。既にそこまで掴んでいるなんて……それにしても聖杯の汚染か、なるほどね……」

 

 驚くか、あるいは信じてもらえないと思っていたのだが、イリヤは納得の表情を浮かべる。

 今の言い方……イリヤは汚染された聖杯について知っていたのか?

 

「知ってたってわけじゃないんだけど……そうなっていてもおかしくないかな。アインツベルンは聖杯を提供している都合上システムに詳しいけど、確かにそういったことが起こり得る可能性はあるもの」

 

 聖杯を提供している?

 

 聖杯がどんなものなのか具体的には知らないが、今の言い方だとアインツベルンの家が聖杯戦争のたびに聖杯を作っているのだろうか。

 

「そもそも今回の聖杯は私が……っと、これは流石に言っちゃうのまずいか……」

 

 何かを言いかけてイリヤが慌てて口をつぐむ。

 

「うーん……多分そもそも、聖杯が汚染された原因はアインツベルンなのよね。かつての第三次聖杯戦争においてアインツベルンが召喚したアンリマユ、それこそが聖杯を侵した呪いのもとになっちゃんだと思う。まぁ意図してたって訳ではないんだけどね」

 

 アンリマユ、ペルシャの神話に伝わる悪魔の名前。退治されるべくして産まれた絶対悪。

 

 キャスターは聖杯が汚染された詳しい経緯までは分からないが、何かが混ざったことが原因だろうと言っていた。

 

 かつての聖杯戦争で呼び出されたそれが、聖杯を狂わせる原因となったのだろう。

 

 しかし、イリヤはそこまで事態を把握しても納得こそすれ、驚いた様子も取り乱した様子もない。今回の戦争の目的である聖杯がそんなことになっているということは、イリヤにとっても一大事のはずなのだが。

 

「そこまで分かってもイリヤは聖杯を求めてるのか?キャスターの話だと聖杯が願いを叶えればそれは歪んだ形となってしまうんだろう?」

「うーん、まぁ確かにキャスターの言ってることは間違いじゃないんだけどね。歪んだ聖杯では歪んだ願いしか叶えられない、それは正しいわ。でも……それは願望機として使用した場合の話、門を開けるために必要なのは相当量の英霊たちの魂であって、その色が何色だろうが関係ないわ」

「門……?」

「あぁ、その辺の話は聞いてないのか。でも説明すると長くなっちゃうからな……まぁ要するにアインツベルンとして用があるのは聖杯そのものであって、聖杯に願いをかなえて貰おうとは思ってないの。だから聖杯が歪んでいようがなんだろうがアインツベルンとしては関係ないの」

 

……よく分からないが、イリヤなりに聖杯についての問題はとりあえず把握しているようだし問題はないか。

 

「それにしてもキャスターがかける願いは死者の蘇生か……さすがは神代を生きた魔術師ね。そんなことが可能なんて」

「ん、どういうことだ?聖杯はどんな願いも叶えられるんだろう」

 

 聖杯に言えばポンと願いを叶えてくれるのかと思っていたのだが、使用者の能力も関係あるのだろうか。

 聖杯はどんな願いも叶えるという謳い文句だったはずだが……

 

「いいえ……キャスターの話では聖杯を門ではなく願望機として使うようだし、その場合は膨大な魔力によって力技で大抵のことが可能になるというだけよ。叶えるための方法すら分からない荒唐無稽なものは叶えられないわ。死者の蘇生も擬似的なものしかできないでしょう」

「それじゃ……キャスターの願いである葛木先生の蘇生は……」

「本来なら叶えることは不可能よ。死者蘇生にはいずれかの魔法が絡むもの……けれど、キャスターなら別かもね。現代で言う『奇跡』が普通に存在していた時代の人間だもの、完全な形での死者蘇生の方法を知っていてもおかしくないわ」

 

 やり方さえ知っていればいいということだろうか。

 それなら確かにキャスターは知っていてもおかしくはない。ギリシャ神話には多くの不死や蘇生の逸話が存在しているし、キャスター……メディア自身にも他者を不死にしたという逸話があったはずだ。

 

「聖杯の魔力とキャスターの知識があれば、真に万能の願望機と言っていい力が手に入るでしょうね。もっとも……それは聖杯をキャスターが手に入れることができればの話だけれど」

 

 そう言い終えるとイリヤがひらりとベンチから立ち上がる。

 

「さて……そろそろ私はいかないと、もう夕方になるわ。士郎もお家に帰るでしょ?」

 

 確かにそろそろ帰らないとまずいか、寄り道することは伝えてなかったしセイバーとキャスターも心配しているかもしれない。

 

「あぁ、それじゃあなイリヤ。気をつけて帰るんだぞ」

「うん、それじゃ……」

 

 僅かに名残惜しそうな顔をしながらイリヤが歩き出す、だが数歩進んだところでチラリとこちらを振り向いた。

 

「……明日もまた、シロウと会えるかな?」

「あぁ、もちろん。今日は色々話せて楽しかった。明日もまた話そう」

 

 今日はイリヤとたくさん喋った。

 聖杯に関する話はイリヤにとって大した意味を成さなかったようだが、それよりもイリヤとの取り止めのない会話の方が俺にとっては重要だった。

 

「うん、それじゃ、また明日!」

 

 花のような笑顔をほころばせて、イリヤがぶんぶんと手を振りながら帰っていった。

 

 さて……俺もそろそろ帰るとするか。

 

 

 その後、家に帰ると鬼の形相をしたセイバーが待っていた。

 こんな時間まで何をしていたのかとこっぴどいお叱りを受ける。

 

 キャスターにも、今、坊やに何かあったら困るのだから不用意なことはしないで頂戴と窘められてしまった。

 

 確かに何も言わずに、寄り道をしていたのは少し軽率だったか、大人しく反省する。

 

「まぁ……シロウにも色々と用事はあるでしょうし反省しているならいいですが……こちらもシロウが学校に行っている間、キャスターと今後の話し合いをしていました」

「セイバー、そのことは私から話すわ」

 

 セイバーの説明をキャスターが引き継ぐ。

 

「敵についてや家の守りのことなどセイバーと色々と話したのだけれど、とりあえず今は坊やのことをどうにかしなければという話になってね」

「俺の?」

「えぇ、聞いたところ坊やは魔術師として最低限の技術すらないようだし、今のままではサーヴァントの攻撃はもちろん。マスターの攻撃ですらあっさり死にかねないわ」

 

 確かに……一応、体はそれなりに鍛えてるつもりだが、サーヴァントの常識外れの怪力の前では誤差のようなものだろうし、マスターの攻撃……特に魔術的なものに関しては、俺はほとんど抵抗できるすべを持っていない。

 

「宗一郎様を殺めた相手は恐らく搦め手の類に長けているわ。最低限の魔術防御ぐらいは覚えないとあなたも簡単に死ぬことになる。だから私が坊やのことを鍛えてあげようと思って」

 

 魔術防御といってもキャスターがセイバーとの戦いで見せたような火球のような物理寄りなものに関してはそう簡単に防ぐことはできないが、呪術や精神に働きかける魔術などは基礎ができているかどうかで抵抗力が大きく変わるらしい。

 葛木先生を殺した相手はそういったものに長けているようだし、対策しておくにこしたことはないだろうとキャスターが説明する。

 

「にしても、キャスターが俺の魔術を見てくれるのか……」

「あら、不満でもあるのがかしら?」

「いや、そんなことはない頼もしいよ」

 

 俺みたいなへっぽこ魔術師に神話の魔術師が指示してくれるというのはむしろ恐れ多いぐらいだ。

 

「まぁ、今は桜さんもいるし流石に魔術の修練を行うわけにはいかないわね。夜になったら行うとしましょう」

「あぁ、桜ももう帰ってるのか」

「えぇ、今は部屋にいるはずだけれど……」

 

 そんな会話をしていると不意にピンポーンと家の呼び鈴が鳴った。

 

 誰だろう、こんな時間に。

 藤ねえなら呼び鈴なんて押さずにズカズカ入ってくるし、一成はあの夜、柳洞寺から助け出されて今は入院してるはずだが……

 

 疑問に思いながらも立ち上がり、玄関へと向かう。

 

「あっ…………」

 

 玄関に行くと、桜が既に応対しようとしてくれていたようで、来訪者を固まった顔で見つめていた。

 

「っ…………慎二!」

「兄さん…………」

 

 そこには慎二がニヤついた顔を浮かべた立っていた。

 

「さぁ、そろそろウチに帰る時間だぞ、桜」

 

 そう言って慎二が強引に桜の腕を掴み、玄関から外に出て行こうとする。

 

「お、おいちょっと待てよ慎二。桜が痛がってるだろ」

 

 なんとか慎二を桜から引き離す、桜は掴まれた部分を痛そうにさすり、慎二を俺のことを恨めしげに睨みつけてくる。

 

「おいおい、僕は可愛い妹をわざわざ迎えにきてやったんだぜ。それなのにそんな態度をされると困るな。あぁ、それともお前は桜がいなくなったら困るのか?弱っちくて卑怯なお前のことだから桜を人質にでもしようとか考えてるのかぁ?」

「そんなんじゃない……けど、今のお前がいる家に桜を帰すわけにはいかないだろ」

 

 その言葉に慎二がギロリとこちらを睨む。

 

「はぁ?何お前が勝手に決めてるんだよ、桜は僕の妹なんだ、お前の言い分なんか聞く筋合いないだろ」

 

 そう言って、再び桜に掴みかかろうとする。

 

 そこへ――――

 

「なるほど…………アナタが間桐慎二ね」

 

 いつの間にか立っていたキャスターが、冷たい瞳で慎二を見ていた。

 

「あぁ?誰だよお前、衛宮の知り合いか?」

 

 慎二の問いかけを無視して、キャスターは桜に顔を向ける。

 

「桜さん、アナタは奥に戻ってなさい。彼の相手は私がするわ」

「えっ……でも、キャスターさんに迷惑をかける訳には……」

「アナタはまだここにいたいのでしょう?なら、私に従って頂戴。大丈夫、この手の相手は慣れてるわ」

 

 桜は困惑したように周囲を見渡し、一度チラリと俺にも視線を向けた。

 俺が頷くと、最後はペコリとキャスターに頭を下げて家の奥に戻っていった。

 

「おい、待てよ桜!僕に逆らうとどうなるか分かってるんだろうな!」

 

 慎二がそう桜に向かって叫ぶ、そんな慎二を見てキャスターは呆れたように呟いた。

 

「……はぁ、全く品のない。才も能もないくせに、周りには当たり散らして増長するような男はいつの時代にもいるものなのね」

「あぁ?なんだよお前はさっきから、これは僕たち兄妹と衛宮との話なんだ。部外者は引っ込んでてくれないか?」

 

 大声で喚く慎二。

 だがキャスターは意に介した様子もなく、淡々と見定めるかのように慎二を見つめる。

 そしてすぐにもう見る価値もないとでも言うかのように視線を外し、挑発するように慎二にセリフを放つ。

 

「驚いたわね、魔術師としては坊や……シロウも中々酷いと思ったけれど、それ以下のマスターがまさか存在しているなんて……」

「なっ……まさか僕のことを言ってるのか!僕が衛宮以下だって……ふざけるなよ!お前!誰だか知らないけど、お前みたいな奴……!」

 

 キャスターの挑発に激情した慎二がキャスターに拳を振り上げて近づく。

 

「危ない!キャス――」

 

 思わず俺が間に入って止めようとしたのだが……

 

「ガッ―—――」

 

 慎二の拳がキャスターに届く前に、その体がベタリと地面に転がった。

 堪らず慎二が悲鳴を上げる。

 

「ぐ……なんだよ、これ、体が……重いぞ」

 

 慎二が床にへばりつきながら、溺れているかのようにもがく。

 これは……キャスターの魔術か?

 

「おい、キャスター、あんまり手荒なことは……」

「はァ……坊やは甘いわね、この手合いは1度痛い目を見ないと分からないというのに」

 

 そう言いながら、キャスターが僅かに指を動かす。それで魔術が解けたのか慎二がヨロヨロと立ち上がった。

 

「くそっ、お前も魔術師か、なんで衛宮なんか雑魚と一緒に……クソ、覚えてろよ!」

 

 吐き捨てるようにそんなセリフを放つと、そのまま慎二は逃げるように家から走り出てしまった。

 

「慎二のやつ大丈夫かな……」

「別に坊やが止めたから特に怪我もさせてないわよ、全く……あの手合いは私が一番嫌いなタイプの男だから少し懲らしめてやろうと思ったのに」

 

 確かに、怪我はしていないようだが慎二のプライドは大きく傷ついただろう。

 ライダーを失い荒れる慎二のほとぼりが冷めるまで桜を保護しておくつもりだったが、これは解決が難しそうだ。

 

「それよりも今の感じ、そもそも魔術師ではない……か、魔術回路がなくてもマスターになること自体は可能だけれど……」

 

 キャスターが何かボソボソと呟く。

 

「慎二のことで何か気になることでもあったのか?」

「いえ、まぁ今はいいわ。それより桜さんが怯えてるんじゃないかしら、行ってあげた方がいいのではなくて?」

 

 それもそうだな、部屋に戻った桜の元へと向かおう。

 

 

「あっ……先輩、兄さんは?」

「あぁ、とりあえずは帰ったよ。でもあの感じじゃ、かなり苛立ってるみたいだな」

 

 そう言うと、桜は顔を伏せて俯いてしまう。

 

「…………先輩、やっぱり私、家に帰ります。これ以上は先輩にご迷惑をかけてしまうかも……」

「いや、桜は気にしなくて良い。今帰られてもそれこそ桜のことが心配だしな。慎二にはまた、機会を見て俺から話しておくよ」

 

 聖杯戦争の間は難しいかもしれないが、それが終われば流石に慎二も少しは落ち着くだろう。それまでは桜を家に泊めておくことにしよう。

 

「はい………ありがとうございます、先輩」

「良いんだって、それに今回は慎二を追い返してくれたのはキャスターだし、礼を言うならキャスターに言ってやってくれ」

 

 まぁ、キャスターのやり方は少し手荒だったから逆に事態を悪化させた気がしないでもないけどな。

 

「キャスターさん……さっきは少しカッコよかったですね。私は兄さんみたいな人にああいう風にハッキリとした物言いをするのは無理なので、キャスターさんみたいな強い女性には憧れちゃいます」

 

 そんな桜の小さな呟きに俺も先ほどのキャスターの姿を思い返す。

 キャスターは慎二みたいなタイプは手慣れてるって言ってたな。伝説では彼女の生前はかなり波乱万丈な人生を歩んでいたようだ。国を追われ、様々な者に騙し騙されるような日々。キャスターの慎二へのあしらい方はその中で身につけた物なのかもしれないな。

 

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