HFルートの途中でもし士郎がキャスターを助けていたらというお話   作:ふりかけ@木三中

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8話目 2月6日 朝 キャスターの魔術教室

 朝、窓から射しこむ日の光を浴びて目を覚ます。

 

 昨日の夜は戦闘の後、あの影の正体につながる証拠が何かないかと念のために柳洞寺を調べて回ってみたのだが特にめぼしいものは見つからなかった。

 未だに疲れが残る体を引きずって居間に向かう。

 昨日の朝と同じように、すでにセイバーとキャスターは起床していた。

「あれ……キャスター、その服どうしたんだ?」

 キャスターは今まで元々纏っていたローブか、俺が貸した藤ねぇの服を着ていたのだが今日は違う服を着ていた。

「えぇ、昨日柳洞寺に行ったときに元々使っていた服をついでに回収しておいたのよ。日ごろからローブ姿でいるのもおかしいし、借りていた服はあまり私の趣味に合っていなかったから」

 そうなのか、まぁ藤ねぇの服はなんというか……騒がしい感じの服が多いからな。

 改めてキャスターの服装を見る。

 シックな色合いのスカートに上品そうな黒のシャツ、上に羽織っているジーンズ素材のジャケットは少しサイズが大きいのか、腕をまくっている。

 その服装は全体的に落ち着いた雰囲気で、スラリとしたスタイルのキャスターにとてもマッチしており、大人っぽい上品さを感じさせた。

「なんというか……キャスターは服の趣味が良いな。よく似合っている」

「えぇ、ありがとう。けれど……坊やはむしろ男性とは言え、少し身だしなみに気を使わなさすぎじゃないかしら。洗濯してあるのを見たけれどどれも似たような服ばかりじゃない」

「機能性と安さ重視だから俺はあれでいいんだ」

 そんな話をしながら朝食を作る準備にかかる。

「そういえばさ、昨日、アサシンのサーヴァントを見たとき『真のアサシン』って言ってたけどさ、あれどういう意味なんだ?サーヴァントは全部で7体なんだろ、真も何もなんじゃないか?」

「あぁ……一応セイバーには話したのだけれど、そういえば坊やには話してなかったわね。柳洞寺にいたときは私が別のアサシンのサーヴァントを召喚して従えていたのよ」

「別のアサシンのサーヴァント……」

 

 別のアサシン……

 サーヴァントであるキャスターに召喚されたサーヴァント。

 そんな存在がいたのか……

 

「えぇ……昨日出会ったアサシンは恐らくそのアサシンを触媒にして何者かが変則召喚したのでしょうね。坊やと出会ったあの夜、アサシンの気配が妙なものに変わるのを感じたもの」

 なるほど、だからあの髑髏面のサーヴァントを真のアサシンと呼んだのか。

 それにしても、 サーヴァントを媒介として別のサーヴァントを召喚する、そんなことまで可能なのか……

 そう言えば、キャスターと俺が出会ったあの夜、柳洞寺に突入する前にセイバーが刀のようなものを見た気がすると言っていたな、あれは消えゆく元々のアサシンの残滓だったのだろう。

「ふーん……ちなみにその元々のアサシンってどんな奴だったんだ?」

「そうね……サーヴァントである私がサーヴァントを召喚するという特殊な方法を使ったせいで、英霊のガワを被った亡霊崩れが呼ばれってしまってね、日本の英霊のガワを被ってたらしいけれど詳しい経歴までは知らないわ」

 

 ふーん、誰だろう。

 アサシンで日本の英雄といえば忍者とかだろうか?

 

「サムライって言うのかしら?刀を持ったキザな男だったわよ。全く、仕事をしろと言えば減らず口ばかり返してニヤニヤしているような奴だったでね……どうせならセイバーみたいに可愛くて強い女の子を呼びたかったのに……」

 

 キャスターがセイバーを見つめながら、愚痴るように語る。

 

「戦力としてもそこまで使いものにならなかったわね、魔術の知識もろくにないし、火力もそれほど高かったわけではないし……あぁ、けれど剣技だけは中々のものだったわね。私は剣は門外漢だけれど、生前も含めて魔法に迫るほどどの剣技というのは見たことがなかったもの」

 

 へぇ……アルゴー船に乗り、数多の英雄たちを見てきたキャスターをして、そう言わせるほどなのだからよっぽど腕の立つ剣士だったのだろうか。

 消滅していなければ、心強い味方になったかもしれない。

 いや……でもその場合はあの夜に門でセイバーと戦うことになってた可能性もあるから難しいところだな。

 個人的にはその魔法に迫るほどの剣技とやらは一目見てみたかったものだが。

「…………先輩、おはようございます」

 そんな話をしながら丁度朝食を並び終えた辺りで、桜が戸を開けて居間に入ってきた。

「桜……昨日はだるいとか言って早く寝たけど大丈夫なのか?ちょっと顔色が悪い気がするけど……」

 少し血色も悪いし、目もどこか虚ろなように見える。

 朝の挨拶の声にも覇気が無いように聞こえた。

「はい……私は大丈夫ですから、気にしないでください」

 無理に作ったような笑顔を浮かべなら桜が席に座る、あまり大丈夫そうには見えないんだがな……

「ホントに何でもないんです。少し悪い夢を見ちゃって寝覚めが悪いだけですから」

 そう桜が必死に否定するが、やはり空元気を装っているだけに見える。

 実際、桜は無理をして朝食を食べようとしているようだが、3口ほど食べた辺りで箸は止まり、気分悪そうに顔を俯かせてしまう。

「桜……やっぱり、熱があるんじゃないか?額を貸してみろ?」

 桜の髪をかき分け桜の額に手を添える。

 桜はヒャッと小さな驚きの声を上げるが、驚いたのはこちらの方だ。

「うわっ……桜、すごい熱じゃないか!40度ぐらいは出てるんじゃないか?」

 桜の体は体感でわかるほどに熱く火照っていた。これほどの熱ならこうして起きているのも辛いのではないだろうか。

 

「先輩、私はホントに大丈夫ですから……」

「こんな熱出してるのに大丈夫なわけないだろ。学校には俺が休みを伝えておくから今日はもう眠っておけ」

 

 ぐずる桜を部屋に連れて行ってベッドに寝かしつける。

 

 あの熱だと、汗もかくだろうし着替えの服も用意しておいた方がいいか……水分補給用の飲み物も置いておいた方がいいだろう。あと薬もまだあったはずだから……

 

 桜のために一式の道具を揃える。

 

 ホントは寝る前に一回ちゃんと汗を拭いたりした方がいいのだろうが、桜は今だるそうだし、流石に俺がやるって訳にもいかないしな……

「…………桜さんの看病、私にさせてもらっていいかしら?」

 

 どうしようかと迷っているとキャスターがそう提案してきた。

 

「え……でも……」

「女同士の方が、気兼ねする必要もなくていいでしょう。それに……彼女の症状には少し心当たりがあるわ」

 

 ふむ……キャスターは優れた魔術師だし、医学や薬学にも精通していいてもおかしくない、ひょっとすれば桜を治療することも可能かもしれない。

 女同士の方が気兼ねないということも確かだろうしここは素直に彼女の言葉に甘えよう。

 

「分かった。じゃあ、頼むよ」

「えぇ……それと……私が桜さんと話している間は絶対に部屋に入ってこないでね。声を近くで聞くことも禁止よ」

 

 そう言って、キャスターは桜の部屋に入っていった。

 俺に部屋に入るなというのは汗を拭くために桜の服を脱がしたりするからだろうか。

 

 その割には少し声に警戒の色が混じっていた気がするが……俺って覗き見をするような奴とキャスターに思われているのだろうか。

 

 

 

 

「キャスター、随分と桜と話し込んでるな……」

 

 カチコチと針を刻む時計を見ながらそう呟く。

 

 キャスターが部屋に入ってから既に2時間ほど経過している。

 いくらなんでも遅すぎると思うのだが……桜と雑談でもしてるんだろうか。部屋に入るなと言われたから様子を見ることもできないし……

 

 流石に俺が痺れを切らし始めた頃、ようやくキャスターが部屋から戻ってきた。

 

「遅かったな、桜と何か話してたのか?」

「えぇ、まぁ……少し、女同士の話をね」

 

 キャスターが何やら言葉を濁す。

 詳しく聞いても教えてくれそうな雰囲気じゃないな。

 

「それで桜の具合は大丈夫そうか?」

「…………」

 

 そう聞くと、何故かキャスターが俺の顔をじっと見てきた。

 

「何だ、俺がどうかしたのか?」

「いえ、少しね……桜さんは大丈夫よ。ただ少し疲れ気味で熱が出ただけ見たいね。とりあえず安静にさせておきましょう」

 何かキャスターの態度が気になるが……まぁ、変な病気とかじゃなくてただの熱ならとりあえずは良かった。

 一昨日も熱が出ていたし、慎二のこととかもあったから、ストレスも溜まっていたのかもしれない。

 

 今日は一日、俺も学校を休んで桜の看病をするとしよう。

 

 

 

 昼ごはんを食べた後、キャスターとセイバーと共に土蔵へ移動する。

 俺の魔術の特訓をキャスターに見てもらうためだ。昨日の夜は結局、ランサーとアサシンの戦闘があったので途中で中断してしまったからな。

 桜はぐっすり眠ってるみたいだから、覗かれる心配もない。今のうちに魔術関連の事を終わらせてしまおう

 

 ちなみにセイバーも付いてきているのはキャスターを警戒してとのことらしい。魔術回路のスイッチを作る際、当然俺の体をいじる事になる。その際に何かキャスターが仕掛ける可能性があるからだという事だ。

 

 ただ、流石にキャスターとの生活も3日目になってきたからだろうか、警戒と言ってもセイバーもそこまで殺気だった様子はなくリラックスして俺たちのことを見つめている。

 

「さて……それでは魔術回路のスイッチを作りましょうか」

「スイッチって言ってもさ……魔術回路ってそんな簡単にオンオフみたいに切り替えられるものなのか?」

 

 今回の目的は俺が今までやってきたやり方では効率が悪いので、魔術回路を確立させ、そのスイッチを作ろうということらしい。

 だが、10年間魔術の特訓で毎回、魔術回路を組み立てていた俺としてはそんな簡単なものなのかとどうにも信じられない話ではあるのだが。

 

「切り替えられるものなのよ。大体、坊やのやり方だとあまりに危険すぎるわ、魔術師が魔術を使うために毎回死のリスクを冒している訳ないでしょう」

 

 そう言われるとそうなのだろうか。

 いや、でも俺みたいなやつが10年間大きな失敗もなかったんだから、普通の魔術師なら簡単にできるものな気もするが……まぁ、でもリスクが減った方が良いというのはその通りだ。大人しくキャスターに従うことにする。

 

「それで……スイッチを作るって実際にどうするだ?」

「えぇ、それ用の薬でも作ろうか迷ったのだけれどね。まぁ時間もなかったし、今回は私が直接やるわ」

 

 そう言ってキャスターが自分の服の袖をまくる。

 

「私が直接魔力を送り込んで、回路を開き、そして定着させるわ。さぁ上着を脱いで」

 

 魔術回路を定着させる……なんでもないことのように言ってるけど、そんな簡単なことなのだろうか

 そう思いながらも促されるままにシャツを脱ぐ。

 

「あら……意外に体を鍛えてるのね坊や。でもあんまり鍛えてバーサーカーみたいに筋肉の塊になっても女の子にモテないわよ」

 

 キャスターがそんな大きなお世話な事を言ってくる。俺としてはむしろ身長が低いのをちょっと気にしていたりするのだがな……

 

「さて……それでは行くわよ。目を閉じて神経を集中させて……」

 

 キャスターが俺の肩に手を置く。

 キャスターの手の冷たい感触を感じながらも短く息を吐いて集中する。

 

「あぁ……それと、多分かなり痛いと思うけれど――頑張って耐えて頂戴ね」

 

 えっ――――?

 

 と言う暇もなく、キャスターが俺に魔力を流し込んだ。

 

「ギッ――――!!!」

 

 高温に溶けた鉄を血管が流れているかのような錯覚。

 右腕が燃えているかのように熱くなり、ドリルで神経をほじくり回されているような激痛が走る。

 

「さて……もうできたわよ」

 

 あまりの痛みに、悲鳴すら上げられずに目を白黒させているとキャスターはそう言って、俺の肩からパッと手を離す。

俺は激痛の余韻に息を切らしながらもキャスターに文句を言う。

 

「ハァハァ……こんなに痛いなら最初にそう言ってくれよ……」

「一瞬だし、下手に脅す方が良くないのと思ったのよ。それで右腕の感触はどうかしら」

 

 そう言われ、右手を何度かグーパーと開閉を繰り返し感覚を確かめる。

 

「とりあえず大きな問題はなさそうだけど……なんかまだちょっと腕がピリピリする」

「それぐらいは当然よ。体を作り変えたようなものなのだから、本来はもっと激痛が走ったり、数日ぐらい腕が使えなくなるといった後遺症が出てもおかしくないのよ。多少の痺れぐらいならばすぐに違和感はなくなるでしょうしそれぐらいは我慢しなさい」

 

 体を作り変えるか……サラッとキャスターはやってのけたが今のはやっぱり凄いことだったんだろうな。

 

「それじゃ、早速魔術回路を使ってみましょうか、やり方は本能的に分かるはずよ」

 

 そう言われて、右腕に視線を落とす。いつも、魔術回路を組み立てていたそこに意識を集中させる。

 

 目を閉じれば、拳銃の撃鉄のイメージが浮かび上がる。

 

 ガチリとそれを振り下ろすと、堰を切ったように魔術が回路に流れ込む。

 

「とりあえずは問題はなそうね。まだ、実際の魔術を使ったりするには魔力のコントロールの問題あるけれど……流石にそのあたりの実践は回路が完全に馴染むまで待った方がいいわね……」

 

 キャスターが俺の様子を見て語る。

 

「そうね……まだ時間もあるし、どうせだから、今日はこのまま暗示なんかに対する特訓もやっておきましょうか。それなら簡単だし、早めに対策しておくに越したことはないもの。スイッチを切り替える練習にもなるでしょうしね」

 

 それもそうだな、葛木先生を殺した相手は搦め手に長けているようだし、昨日の影のこともある。少しでも呪術や暗示などへの対策はしておきたい。

 

「では、今から私を暗示をかけるからそれに抵抗する練習をしてみましょうか」

 

 キャスターが改めて俺の対面に座り、俺と顔を合わせる。

 

「さて……それでは私の目をよぉく見て」

 

 言われた通り、キャスターの目を見る。

 サファイアのような青色の瞳。

 

 目を合わせることはちょっと気恥ずかしく感じたが、これも特訓なのでしっかりと見つめる。

 

「呪いや暗示の類に抵抗するコツは自己をしっかりと保つことよ。相手に干渉させることができないほど自己の殻を保っていれば、内側に入られることはないわ。それじゃ……行くわよ」

 

 その言葉と共にキャスターの目が僅かに光った気がした。

 

「うわっ――――」

 

 次の瞬間、俺は溺れた。

 

 いや、ここは土蔵の中なんだから溺れるはずはない、けれどそうとしか形容できない感覚に陥った。

 

 荒れ狂う波の中に突然叩き落とされたかのような錯覚。

 

「ッ――――」

 

 今、自分がどこに立っているのか分からなくなり、視点がぐるぐると回転する。

どっちが上でどっちが下か、方向感覚もなくなって、次第に自分が分からなくなってくる。

 

 訳が分からない。

 

 訳が分からないが――この感覚には覚えがあった。

 

 いつも魔術回路を作っていた時の感覚。

 キャスターに間違ったやり方と指摘されたそれをしている時、いつも自己を失いそうな感覚があった。

 

 それよりも何百倍もキャスターの暗示はきついが、それでも同じ感覚なら同じ要領で自己を取り戻せるはずだ。

 

 魔術回路のスイッチを入れる。

 

 あやふやになった体の感覚の中で、僅かに右腕の感覚が戻った。

 

 魔術回路が励起し、神経に熱が宿る。

 その熱を起点として自分の体を把握する。

 

「ぐっ――――が―――!!」

 

 濁流に押し流されているかのような錯覚を受けながらも、『衛宮士郎』を認識する。

 

 右腕の起点の感覚を手放したらダメだ、その瞬間にきっともう何が何だかわからなくなる。

 

 ここが右腕ってことは……ここが肩だ、そして胸に繋がってて――

 

 そうやって順繰りに自分を確かめる。

 そうするとさっきまであやふやだった自分の体がだんだんと輪郭を取り戻していくように思えた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 そうして全身の感覚が戻った時、俺は荒い息を立てて土蔵の床に大の字に転がっていた。

 

 そんな俺の顔をキャスターが覗き込む。

 

「へぇ……魔術師としてはまるで駄目なのかと思ったけれど、まさか1度目で成功するとはね。もし、暗示に成功していれば、操ってなにか芸でもさせるつもりだったのに……坊やは中々自分というものを保つのが上手いようね」

 

 キャスターからお褒めの言葉を頂く。

 というか芸って何をさせるつもりだったんだ。

 

「シロウ、大丈夫なのですが?私からはいきなり、倒れたように見えたのですが」

 

 横で見ていたセイバーが心配そうに手を差し伸べてくれる、その手につかまってなんとか体を起こす。

 

「あぁ、中々きつかったけど。もう大丈夫だ。ありがとうセイバー」

 

 なんとか呼吸を整えて、改めてキャスターに向き直る。

 

「今の感覚を忘れないようにしておきなさい。私が一々魔術をかけなくても今の事を思い出して反復していればそれだけである程度の対策になるはずよ」

 

 ふむ、それなら確かに一々キャスターに付き添って貰わなくてもできるな。

 風呂の時間とか寝る前とか小まめな時間にも、今の感覚を思い出して少しでも暗示なんかに耐性をつけるとしよう。

 

「一応言っておくけれど、暗示や呪いにある程度抵抗できると言っても相手がマスターならの場合よ。サーヴァントや昨日の影相手に対抗できるとは考えないで頂戴ね」

 

 流石にそこまでは考えていない。

 サーヴァント相手に切り掛かった所で叩きのめされるのがオチだろうし、昨日の影はランサーですら抵抗できなかったのだ、俺が直接触れればあっさり死んでしまうことになるだろう。

 

「あぁ、それと、坊やの体を触った時に坊やの体を色々と調べさせてもらったけど、坊やとセイバーのパスがきちんとつながってないじゃない。あれではセイバーが全く実力を発揮できないわ、魔力を節約するためにわざとやっているのかしら?」

「あぁ……いや、そういう訳じゃないんだ。俺がセイバーを召喚した時、殆ど事故みたいなもんだったせいか、ちゃんと契約ができなかったんだよ。キャスターならちゃんと契約を結びなおせたりできないか?」

 俺からほとんど魔力がセイバーに流れていないせいでセイバーが魔力を回復できないし、宝具も使える回数に制限がついたりとかなり不利な状況になっている。なんとか改善できればいいのだが……

「さてね……坊やには敵にやられない程度には強くなってもらわないと困るけれど、セイバーにはあまり強くなられても困るのよね……」

 その言葉で思い出す。

 今、キャスターから魔術を教わったがこの同盟関係はあくまでも一時的なものだ。

 もし他のサーヴァント達を全て倒して聖杯を入手し、浄化すれば、その時点で同盟関係は終了し再び聖杯を求めてキャスターと俺たちは敵対するという事になっている。

 現時点で俺があっさり殺されてしまえばキャスターも困るのでこうして魔術の特訓をしてくれたが、それは彼女にとってもメリットがあったからだということを忘れてはいけない。

 俺がセイバーと契約をちゃんと結べばセイバーは今よりも存分に力を振るうことができるようになるだろう。

 だが、それは最後の戦いのときにキャスターにとって不利になることだ。

「悪い……今の提案は俺たちの同盟には反することだったな。忘れてくれ」

「妙に律儀なのね、坊やは。……まぁ、別にいいわよ。セイバーが魔力回復すらままならいのは他のサーヴァントを倒すときに困るもの。特にバーサーカーなんかは今のセイバーでは勝つことは難しいでしょうし」

 バーサーカーか、確かに奴の怪力と高ランクの攻撃以外を弾く宝具を攻略するためには、変に遠慮している場合でもないか……

「ただ、今日すぐにというのはやめておいた方がいいわね。魔術回路ができたばかりで坊やの体も安定していないでしょうし、パスを繋げる作業をしている間に敵の襲撃を受けたりすれば目もあてられないから、この家の結界の強化なんかもしておいた方がいいでしょうから」

 結局、セイバーとの契約の件についてはまた後日ということになった。

 まぁ、セイバーの魔力が十分に回復できないと言っても今すぐにでも魔力が尽きるという訳では無いらしい、無理に焦る必要もないか。

 一刻も早くしなければセイバーが俺の前から消えてしまう、なんていう訳では無いのだから。

 

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