異聞帯系企画SSまとめ   作:子無しししゃも

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タイトルの通り
フレディがなんか死ぬやつ


NY勝利IFルート

 ニューヨークの街は、いつもと変わらない穏やかで平和な雰囲気を保っていた。

 銃声、怒号、悲鳴……大方、どこかのストリートギャングが抗争でもしているのだろう。

 日常の一部と化したそれを聞きながら、マンションの一室でフレディは冷めたコーヒーを煽る。

「3年、か」

 彼が世界を救い世界を滅ぼす戦争に身を投じ、勝利を勝ち取ってから3年が経った。

 かつての仲間達と幾万の人々の屍の上に成り立ったこの世界は、今日もなにも変わらない。

 彼に言わせれば見るだけで気が滅入る、彼の戦友に言わせれば理想そのものである街のままだ。

「どうしたんだい、そんな浮かない顔をして!」

「……!?」

 憂鬱げに考え事をしていた彼は、背後から突然投げかけられた声にびくりと肩を震わせる。

 気配はなく、突然背後に。

 そこには、幼い外見に似合わぬ小洒落たスーツを纏った少年……にしか見えない男が立っていた。

 彼――フレディの戦友であるこの都市の王の来訪は、いつも唐突かつ刺激的だ。

「ううん、なんでも。王様、なにしに来たの?」

「良い報告と悪い報告があってね! どっちからがいい?」

 フレディにとって良い報告なのか悪い報告なのかわかったものではない。

 むしろ、真逆な場合が多いのだ。

「じゃあ、いい報告で」

 フレディは好きな食べ物は後で取っておくタイプである。

 だから、先にいい報告を聞こうとした。

「キミのお誕生日会へのお誘いさ! どう、このサプライズ!」

 しかし、珍しいことに今回はフレディと王の良い事悪い事は一致していたらしい。

 懐から取り出したカレンダーをフレディに見せ無邪気に笑う王。

 明日の日付に赤丸が付いている。

 思い返せば、明日が自分の誕生日だった。

 ……確か、20になるんだったっけ。

 最近は忙しかったため、フレディもすっかり忘れていたのだ。

「驚いたけど……ありがとう、嬉しいよ」

 王は不思議と自分に好意的だ。

 性格が合わないにも関わらずのそれは共に世界のために戦った同士だからなのかもしれないと、フレディは思っているが、それ以上のことはわからない。

 

「うんうん、用意した甲斐があったな! でもね……」

 満足げに胸を張る王。

 しかし、その瞳に一瞬、ほんの一瞬だけ、冷たい光が走り。 

 

「キミはその日を迎えられない」

 フレディは、自身へと向けられた銃口を見た。

 

「……どうしたの、王様。なんの話?」

 王が指を少し動かしただけで死が訪れる。

 しかし、フレディはそれに恐怖や驚きを示さず、困惑と共にその意図を尋ねた。

 

「あはは、フレディくんもすっかりこの街に馴染んじゃったね! 前までならカマかけたらすぐにビビッてよくわかんない事喋っちゃいそうだったのに落ち着いたものじゃないか!」

 まったく、とフレディは溜息をつく。 

 悪戯好きなのはいつまで経っても変わらない。

 ただ、少しの違和感があった。一体それはなんだろうか。

 その答えは碌に考えるまでもなく、次の王の言葉で理解できた。

 

「で、本題だけど。キミのやろうとしてる事、全部バレてるよ」

「さっきみたいなカマかけじゃない。ボクを殺そうとして、あれこれ企んでいるって知ってるんだ」

 

 そうだ。王様は、冗談でも僕に銃を向ける事なんてこれまで無かったんだ。

 無言を保つフレディに、王はすらすらと自身が知り得た情報を諳んじていく。

 フレディが貧困層の人間を主として話をつけ、自分に対して反旗を翻す準備をしているという事。

 裏路地の情報屋たちを派閥に取り込み、情報を操作している事。

 

 この3年でフレディが街に撒き続けてきた手品のタネを、無遠慮に明らかにしていく。

「……聞いてもいい? どこからわかった?」

 黙秘は無駄だとフレディは理解する。

 同時に、これから自分を待つ運命も。

「えっと……何人目か忘れたけど、そいつの12本目の指が教えてくれたかな☆」

「……そう」

 フレディがこの計画のために集めた仲間たちの数は、常に増減し続ける。

 増える要因は、フレディと同士たちのたゆまぬ努力の成果。

『この街を正しい形に』。

 そんな、子どもじみた理想に賛同した馬鹿たちだ。

 減る原因は、数えるのも億劫になる程ある。

 その内のひとつが、反対勢力を嗅ぎ回る王の■■によるアウトローたちだ。

 そして、今この破滅を招いたのも。

「ねえフレディくん、なんで待てなかったんだい?」

 フレディの前ではいつも陽気な彼らしくなく、少し残念がるように。

 王は、彼のトレードマークのひとつでもある帽子を取る。

 それは情報の開示などではなくただの再確認だった。

「また、ひどくなったね」

 目を伏せ心配するような声色のフレディに、ボクを殺そうとしてるんだろキミは、と王は苦笑する。

 そこには、少年のような若々しい容姿に似合わぬ白髪があった。

 狂気による浸食。

 この世界を存続させるための戦いのひとつで刃を交えた相手に刻まれた癒えぬ傷は、戦争が終わってなお彼の心身を蝕み続けていた。

「きっと、キミがおじいちゃんに……いや、オッサンって歳になるまで僕は持たないだろうね」

 フレディがよく見れば、髪だけでなく目には深い隈が刻まれ、表情にも繕ってなお微かに伺える焦燥が見て取れる。

 誰かが頭の中で囁きかけてくると言っていた。

 おそらく、夜もよく眠れないのだろう。

 

「で、そうなればこの街で一番偉いのは? 世界を救った英雄が、もうひとり残ってるじゃないか!」

 もちろんボクとキミの理想は違う、そう簡単にはやらせないけどね、と口端を歪めながら王は語る。

 

「キミはピザをコーラで流し込んで、好みの女の子を抱いて、この街を好きなだけ楽しみながらボクがくたばるのを待ってるだけで良かったんだ……」

「……なのに、なんでそんなに急いだんだい?」

 

 王の言葉には心からの疑問があった。

 フレディがなぜこんな事をしたのかわからないのだ。

 そして、王はそういうだろうなとフレディは思っていた。

 それを理解できない人だったからこそ、自分はこの道を選んだのだと。

「……その時までずっと、みんなが苦しみ続けるから」

 フレディの回答に、王は首をかしげる。

 それは彼にとって、到底理解できないものだったから。

 彼が、正義や義憤などという言葉とは離れた人間であったから。

 

「裏切った僕の事、恨んでる?」

 その話はもういいだろう、と話題を変えるフレディ。

 わずかに寂しさを湛えたその表情に、今度は同じ事を王は思う。

 彼はボクの事を奥までは理解できてはいなかったのだ、と。

 

「いや? むしろ嬉しいのさ! あの遠慮がちだったフレディくんが『王を殺して街を乗っ取る』なんて大それた欲望を抱いてくれたのが! 本当に、この街に慣れてくれたんだってね!」

 

「でも、この街はボクのものだ。それを揺るがすって言うなら、勝負して殺す。それだけの事だよ」

 安心してよ、キミはボクの親友のままだ。

 ちゃんと葬ってあげるし、墓参りにも行くとも。

 なにも心配する事はない、と王はフレディに向けて共に戦い抜いた時と同じ顔で笑う。

 

 

「ああ、ちくしょう……! もう少しだった、もう少しなのに……こんなところで終わるのかよ……!」

 そこで改めて死を認識し、フレディの繕っていた態度は跡形もなく崩れ落ちた。

 脚は生まれたての動物のように震え、大粒の涙がとめどなく零れ落ちる。

 それは、この街を救えなかったという悔悟と、どこにでもいたただの一般人としての、死に対する恐怖だ。

 

「本当にバカだなぁ、そんなに怯えるならやらなきゃよかったのに……」

 帽子を目深に被った王の感情はフレディには読み取れない。

 ただまあ、自分の死を悼むような人ではないだろう。

 その予想に、少しだけ落ち着きを取り戻す。

 

「……ねえ、王様。最後に、ちょっとだけいいかな」

 銃口はこちらの頭に向けたまま、しかし無言の王。

 フレディはそれを肯定を受け取り、頭の奥底から自然に湧いてくる言葉を何にも包まず目の前の戦友へとぶつける。

 

「アンタの事が嫌いだ。悪党で、自分勝手で、この世界ともども、僕の事振り回してばっかで……」

 脳裏を巡るのは、戦いの日々。

 自分は死んだと告げられて、この世界に流れついて。

 この世界の姿とお世話になったみんなと殺し合うという現実に一度は絶望した。

 襲われて死にかけて、そこで王様に助けられていい人がいるんだ、と少しだけ希望を持って。

 その王様がこの街の現状を作り出したと聞いて、また絶望して。

 それでもまだこの世界には希望があるって知って、救わないとと立ち上がった。

 

「でも、そんなアンタと世界を救うために戦うのは……思ったよりも、悪くない気分だった」

 もちろん、こんな街を作り上げた事とかしでかした悪事は許せないけど、と付け加えて。

 一度世界を救ったヒーローになり、そして正義の味方にはなれなかった少年は微かに笑う。

 

「ヒーローがこんな事言うの、失格モノだってわかってるんだけどさ」

 自分は正義の味方にならなくても良かったんだ。

 ただ、みんなを救う事ができれば正義じゃなくても良かった。

 悪に堕ちても、救えるものがあれば良かった。

 たとえ、王様が■■■■■■■■だけだったとしても。

 嗚呼、その答えに辿り着く事ができたのも……。

 

「僕さ、ちょっとだけ……ほんのちょっとだけだけど、王様の事―――」

 

 ニューヨークの街は、いつもと変わらない穏やかで平和な空気を保っている。

 銃声、怒号、悲鳴……人々は上へ上へと上り詰めるため、争い続ける。

 勝利した敵の亡骸や所有物から、■を得て、■を力に、武器に変えて。

 それが、王がそうあれかしと望んだこのニューヨークの在り方である。

 

 そんな街の中に、ぱん、という乾いた音がひとつ、喧騒の中に混じり、誰の気に留まることもなく響いて消えた。

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