押田くんと異世界探検する   作:とにざぶろう

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【10】焚き火、手砲弾

 改めて言うけど、ホントにね、この車は借りるだけのつもりだったんだ。

 君たちに依存しきるのも良くないかと思ってね。

 食料と、荷台車をもう一台確保したくて。

 

 ……あぁ、そうだね、ごめん。もう一度謝るよ。

 断りを入れずに借りてしまったのは、そういう性分なのかもしれないね。交渉事は苦手なんだ。

 

 話を戻すよ。

 荷台車に乗った私とミッコは、まずは彼らの住む学校を探すことにした。

 彼らのことは、なんて呼ぶのが良いのかな……うん、それなら私も人型と呼ぶことにしようか。

 荷台車を走らせて15分ほど経った頃かな、人型の住む学校を見つけた。

 たぶん大きさからすると小学校だね。

 

 私たちは……そう、慣れているからね。忍び込むのに苦労はなかったよ。

 それから、校内を回って物資を集めた。

 食料となる肉や果実が主かな。未知のものばかりだったけど量だけは確保できた。

 

 ミッコは見つけた食料の一部をその場で食べていたよ。

 この辺りから彼女の様子は普段とは違ったね。

 最初は、頭痛かな、気分が優れないのかな、くらいに考えていたけれど、少しそれとも違うみたいだった。

 

 あいにく、校内に荷台車はなかった。

 だから君たちから借りた荷台車に物資を乗せて、その学校は後にしたんだ。

 

 それから間もなくのことだったよ。

 運転をしていた私は、背後からミッコに突き飛ばされた。

 すでに夜になっていたから手には懐中電灯を持っていたのだけど、それも落としてしまったよ。

 

 ……柄にもなく慌ててしまったのかな、荷台車の上で倒れ込んだ私は、何が起きたのかがわからなくて、まずは状況を把握しようと床に転がる懐中電灯を拾ったんだ。

 懐中電灯を向けると、ミッコは手砲弾を持っていたよ。

 

 ――うん、幸いにも、そうはならなかった、ほら、私もミッコもこうして生きているだろ?

 咄嗟に、私はミッコの手を掴んで手砲弾を奪い取った。

 だから手砲弾が放たれることはなかったんだ。

 けれど代わりに私は突き飛ばされてね、荷台車から落下してしまった。

 ミッコを一人残してね。

 

 ……そうだね、土が硬かったから、背中が少し擦れたくらいかな。大した怪我じゃない。

 心配してくれたんだね、ありがとう。

 

 話を続けるよ。

 このままミッコを行かせるのがまずいというのはわかったから、私は遠ざかっていく荷台車を止めることにしたんだ。

 方法はすぐに思いついたよ。

 私の手には、手砲弾があったからね。

 荷台車めがけて投擲して、見事、着弾したわけさ。

 

 ……仮定の話をする必要はあるのかな?

 上手くいった。それだけで良いじゃないか。

 荷台車が大破したのは……そうだね、運が悪かったのかもしれない。

 でもミッコは無事だった。

 

 地面に倒れていたミッコは、立ち上がると、なおも私へ襲いかかってきたよ。

 私は荷台車の残骸からロープを取り出して、彼女を縛りあげた。

 あまり耳にしたくない言葉を続けるものだから、口も封じておくことにしたんだ。

 

 疲れもあったからね、そのまま腰を下ろして休息に移った。

 そうして幸運なことに、しばらくして君たちがやってきてくれたんだ。

 

 ……そうだね、君たちと別れてからの出来事としては、このくらいかな。

 うん、もっと別の話が聴きたいって顔をしているね。

 それじゃあ本題に入ろうか。

 

 では、どうしてミッコは変わってしまったのか。

 正直なところを言うと、私にも正確なところはわからないんだ。

 でも、予想を立てることなら出来る。

 

 結論から言おう。

 おそらく原因は、この世界の飲食物を摂取しすぎたから、じゃないかな。

 この世界に触れすぎてしまったから、とも言えるね。

 つまりはヨモツヘグイさ。

 

 ……心当たりがあるのかな? その顔はありそうだね。

 ともかく、私がそう考えた根拠を二つ説明しておくよ。

 

 一つは、この世界の水を飲んだ際に、精神汚染のようなものを感じたことだ。

 今思い返しても、あまり気分の良いものではなかったよ。

 君たちもこちらに心当たりがあるんじゃないかな?

 あれが進行するとミッコのような状態になってしまうというのは、ありそうな話だと思わないかい?

 

 もう一つの根拠は、症状が表れていない私は、ミッコと違って食事を取っていないこと。

 ミッコは赤黒い果実だったり、何のものかわからないお肉だったりを食べていたけど、私はどれも口にしなかったんだ。

 ミッコとはずっと一緒に行動していたからね、私とミッコで違いがあるとすればそれくらいだ。

 

 ……あぁ、それは語らいの時間――食事をとるのは夜中にしようかと思っていたからだね。その程度の理由さ。

 

 あくまでこれは予想に過ぎないものだけど、真実に近いところは突けているんじゃないかな。

 何事も、全てを理解してから行動したのでは遅いものさ。

 確かに、空腹を我慢するのはとても辛いことかもしれない。

 それでも、安藤さんと押田さんも、なるべく食事は控えた方が賢明なんじゃないかな。

 

 ――うん、話はこれでおしまいだ。

 ご静聴、ありがとうございました。

 

 なにか質問はあるかい?

 ないようであれば、次はこれからの話をしよう。

 

 ……………。

 

 安藤さん、何も言わず、右手を前へ出してもらえるかい。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 疑問に思いながらも、ミカに言われた通り、焚き火を避けるようにして右手を彼女の方へ伸ばす。

 

「うわあっ!?」

 

 と、ぐいと勢いよく手を引かれ、彼女の方へと倒れ込んだ。

「いったあ!」と地面に膝を打ち、なおも引っ張られてほとんどミカの抱き合う姿勢になる。

 

「い、いや、ホントに何なんだ、君はっ!?」

 

 危うく焚き火に突っ込むところだったぞ。

 

「立って。急いで」

 

 直後に、爆発音と衝撃。

 背中と後頭部に痛みが走る。

 咄嗟に後頭部へ手をやると湿り気を感じる。どうやら出血しているらしい。

 

「早く」

 

 ミカに急かされ、ようやく立ち上がる。

 振り向くと、焚き火の微かな明かりに照らされ、土埃が揺らいでいる。

 その向こうには見慣れた金色の髪が見えた。

 

「押田くん……?」

 

 そう口に出してから理解した。

 たった今、ミカから説明を受けたばかりだった。

 ミッコが変わってしまったのは、ヨモツヘグイのせいだと。

 これまでの押田の行動を思い返せ。

 彼女は、どれだけの食料を口に運んでいたことか。

 

「嘘だろ」

 

 口から漏れたのはそんな言葉だった。

 頭では理解できているはずなのに、まるで矛盾している。

 

 下手から照らされた押田の表情は、冷たく濁っていた。

 口を固く閉じ、瞳孔の開いた押田は、手砲弾を手にしている。

 彼女は、手砲弾を私に向かって投げたのだ。

 ミカに助けられなければ、私は死んでいただろう。

 そして今度こそ私を仕留めようと、押田は次弾を手にしているのだ。

 こんな至近距離だ。投げられた手砲弾が我々に当たれば、押田自身も無事では済まない。

 ……それでも、今の押田ならば投げてしまうのだろうな。

 

「おいどうす――」

 

 ミカへ声をかけようとして驚く。

 隣にいたはずの彼女の姿が消えていた。

 ……え? 逃げた?

 

「こっちだよ」

 

 声は前方から聞こえた。押田よりもさらに向こうだ。

 目をこらすと、押田の背後にミカの姿が見える。なるほど、分散のために移動していたのか。

 

 押田もミカの方へ首を向ける。

 

「安藤さんっ!」

 

「わかっている!」

 

 この隙を逃してはならない。

 私は押田へ向かって駆けた。

 押田はミカへ手砲弾を投げ、さらに次弾を腰に提げた筒から取り出す。

 だが遅い。私は押田へと飛びついた。

 

 もみ合いになり二人してその場へ倒れる。私が押田に覆い被さる形だ。

 押田の持っていた手砲弾が気になったが、衝撃はなし。

 どうやら爆発はしなかったらしい。

 代わりに遠方から爆発音が聞こえるが、こちらは先ほど投擲したものだろう。

 

「気を抜くな!」

 

 ミカの声だ、どうやら彼女も無事らしい。

 眼前に迫っていた押田の拳をすんでのところで避ける。

 だが、そのせいで姿勢を崩し、立場が逆転する。私は押田の淀んだ顔を見上げた。

 

「押田……」

 

 口をついて出たその言葉に、押田の反応はない。

 拳が飛んでくる。そう認識した瞬間には視界がぶれ、頬に痛みが走っていた。

 

「ぁあくそっ!」

 

 迷っている余裕はない。

 がむしゃらに腕を伸ばし、押田の左手を両手で押さえ込むことに成功する。

 しかし押田の右手には手砲弾が残っている。

 

「ミカっ!」

 

 私が叫ぶのと同時に、ミカが覆い被さり、押田の右腕を捻り上げる。

 二人分の重力が私にのしかかる。

 

 そしておそらくは苦し紛れだろう、押田は手首のスナップだけで手砲弾を投げた。

 それがどこへ着弾するか、爆発するか否かもわからぬ投擲だ。

 

 しかし最悪なことに、手砲弾はミカの足下へ着弾した。

 爆発。衝撃と土埃。私を覆う圧力が消える。

 足には痛み。体が僅かに浮き、後頭部を再び強かに地面へ打ち付ける。

 

「ぃったぁあっ!」

 

 我慢できず声を上げ、痛みに耐えることだけに脳みそを持っていかれる。

 ――じんじんとした痛みは残しながらも、十数秒でなんとか持ち直し、腰を持ち上げる。

 なんだ、何がどうなったんだ。

 

「押田っ! ミカっ!」

 

 私の叫びに返答はない。

 立ち上がり、辺りを見回すと、近くにミカが倒れていた。

 左足からだらだらと血が流れている。

 

「おい、大丈夫か!」

 

 駆け寄り頭を抱えるが、ぐったりとしたまま動かない。

 冷や汗が体を巡る。慌てて脈をとる。

 

「……生きてる」

 

 口元に耳をやると、呼吸も出来ていた。

 一安心ではあるが、左足の怪我はかなり深そうだ。

 爆発の拍子に鋭利な石ころか何かで切れてしまったのか。

 

「そうだ、押田はどこへ行った」

 

 首を回すが、夜闇のせいでほんの十数メートルほどまでしか確認できない。

 少なくとも見渡せる範囲内に押田の姿はない。

 どこかに隠れているのか、それとも逃げてしまったか。

 前者だった場合に隙をつかれ襲撃されては敵わない。

 少し迷ったが、懐中電灯を取りに荷台車へと戻る。

 

「……不運というのは重なるものだな」

 

 途中で押田の放った手砲弾が命中したのだろう、荷台車は車輪を破壊され、走行が不可能な状態となっていた。

 

「ともかく、今はこちらだ」

 

 バランスの崩れた荷台車へ上り、懐中電灯と――あとは救急箱を手に取る。

 ミカの元へと戻ると、彼女は目を覚ましていた。

 

「押田さんはどこへ……?」

 

「姿が見えない。どこかに隠れているか、逃走したらしい」

 

「……ミッコは?」

 

 はたと気付き、彼女の方へ懐中電灯を向ける。

 変わらず縄で縛られ口には猿ぐつわの噛まされた状態だ。

 肩も動いているし、呼吸はしているらしい。

 

「無事なようだ」

 

 ミカが、ふうと息を吐く。

 

「辺りを見てくる。お前はこれで足に包帯でも巻いててくれ」

 

 そう言って救急箱をミカの前へ置くと、彼女は「待って」と声を上げた。

 

「君もひどい怪我だ。治療を優先した方が良い」

 

 指先を私の頭へ向ける。

 

「しかし――」

 

「押田さんがこの辺りに潜んでいることはないさ」

「だとすれば、いまだに襲いかかってこないというのは道理が合わないからね」

 

「だとすれば、捜しに行かなければ」

 

「彼女を見つけても、その怪我では君が負けてしまうよ」

「その前に失血によって倒れてしまうことだって考えられる」

「あまり賢明とは言えないんじゃないかな」

 

「しかしそれでも」

 

「頭に血が上って気が付いていないのかもしれないけど」

 

 ミカは、私の頭を指していた指先を、垂直に地面へ下ろす。

 地面へ目を向けると、そこには血溜まりができていた。

 

「理解できたかい。君はいつ倒れてもおかしくない」

「こんな状態では、押田さんを追うことはできないよ」

 

「ぐ……っ」

 

「彼女も徒歩で移動しているはずだから、きっと遠くへは行っていないさ」

「……一度ここで眠って体力を回復した方が良いんじゃないかな」

 

 ミカの言葉は全て正しかった。

 言い返すことなどできやしない。

 これが戦車道の試合だったなら、もしかすると間違った道を選んでいたかもしれないが、そうではない。

 一つ間違えば、私は死ぬ。ミカは死ぬ。押田は死んでしまうのだ。

 

 冷静に考えれば、明白だ。

 私は死にに行くつもりだったのか。

 

「……悪かった。お前の言う通りだ」

 

 言って、私は腰を下ろす。

 ミカはふっと笑って言葉を返した。

 

「止血をするよ。頭をこちらへ向けてもらえるかい」

 

「お前の怪我は良いのか」

 

「安藤さんが先だよ。早くしないと命を落としてしまう」

 

 それは言い過ぎだろう。

 ――と、その言葉は私の口から出てこなかった。

 

 ふと気付いた時には、視界は暗転し、私は意識を失っていた。

 

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