押田くんと異世界探検する   作:とにざぶろう

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【13】砲撃、宝石

『さて、では改めて、あの子はどこに捕まっているのかしら』

 

「……普通に考えれば、体育館の中だな」

 

 ソミュアを走らせながら、ハッチごしに隊長と会話をする。

 

 これまでの調査で、敵の拠点は突き止められている。

 例の演説をしていた学校だ。

 

 まずは作戦を決行する前に偵察からだろうと、アタリをつけて近付いたのだが、それが見事に的中した。

 敷地外にも人型の兵がおり、見張りをしていたのだ。

 

 正面からは近づけず、森の中から徒歩で回り込んで裏門から侵入した。

 錠がかけられていたが、昨夜、合い鍵の束を頂戴していたので問題はなし。

 校内には人型がぎっしりといて、どこに移動しても会敵するので、ろくに偵察を行える状態ではなかった。

 とはいえ、裏門のほど近くに位置する体育館の守りが一際堅いということは、何とか確認ができたのだった。

 

「構造的に兵が大量に常駐できるというのもある。可能性は高いだろう」

 

『んー、そうかもしれないわね――あ、後方に機銃掃射』

 

「了解」

 

 隊長に言われ、ぱらぱらと機銃を撃つ。

 

『じきに到着するよ。結局どこから攻めるんだい?』

 

 足下からミカの声が響く。

 3名共にヘッドフォンと咽喉マイクを介した無線機を利用しているので、隊長にも声は届いているはずだ。

 

『もちろん正面からよ』

 

『良い案だね』

 

『ふふ……安藤、後方に機銃掃射』

 

 私は「了解」と再び機銃を放つ。

 

 今のところ、作戦は順調に進行している。

 ……若干、しすぎているくらいだが。

 それはともかく、あくまで現状はまだ準備段階に過ぎない。

 本番はここからだ。

 大量の敵に対して、我々はソミュア一輌。

 手砲弾の一つでも命中するだけで危機に陥るだろう。

 ――まずは、会敵の瞬間を切り抜けられるかだ。

 

「見えてきたわ。距離、およそ五キロ」

 

 おそらく双眼鏡を使っているのだろう、隊長の声が届く。

 時速から計算して、会敵まで9分というところか。

 

「こいつらもそれまでこのテンションを保ってくれれば良いんだけどな」

 

『この子たちなら大丈夫よ』

 

「何を根拠に言っているんだ……」

 

 たわいもない会話をして、時折、機銃を撃っていると、あっという間に、

 

『残り1キロ。おそらく気付かれたわ』

 

『蛇行するかい』

 

『いえ、そのまま直進して。安藤、後方へ機銃掃射』

 

 言われたとおり、機銃を後方に放つ。

 

『後方への機銃掃射はこれで最後よ。砲塔を前方へ向けておきなさい』

 

「了解」

 

 旋回ハンドルをぐるぐる回し、砲塔を回転させる。

 照準眼鏡を覗くと、正門と、その手前に大量の人型の姿が見えた。

 おそらく数は200といったところか。

 

『正面の大軍へ砲撃』

 

 トリガーを引く。砲弾は大軍に命中し、人型が弾け飛ぶ。

 

 ……あいつらがこの世界の人間ということを意識すると、強烈な罪悪感と後悔に襲われる。

 しかし今は、それらの感情を脳みその奥底へと仕舞い込まなければならない。

 大事なのは、誰の命か。

 

『安藤、砲塔を9時の方向へ!』

『ミカ、先頭の5メートル手前で3時の方向へ旋回して直進っ!』

 

『無茶を言ってくれるね……っ』

 

 そう言いながらもミカは綺麗に旋回してみせる。

 

『砲撃っ! その後すぐに機銃掃射っ!』

 

 砲塔を回しきり、大軍へ砲撃と機銃掃射を浴びせる。

 

『さあ、この子たちは仕事をしてくれるかしらっ!?』

 

 砲弾を装填し、照準を覗く。

 

「……成功か」

 

 この子たち――我々を襲った黒い毛玉の親玉は、見事、人型の大軍へ飛びかかり暴れ回っていた。

 

 我々の作戦の要は、こいつら黒い毛玉達だ。

 敵意を覚えた相手を執拗に付け回すことはわかっている。

 であるならば、奴らの根城へ片っ端から出向き、我々のことを追い回してもらえば良い。

 結果、確保できた毛玉の数はなんと5体。

 どれも、体長4メートルはあろう巨大な個体だ。

 あとはそのままここ――人型の本拠地にぶつければ、奴らを混乱に陥れることができる。

 少なくとも対応に必要な人員は100ではきかないだろう。

 

『2時方向へ旋回っ! その後は蛇行っ!』

 

 急な旋回にぐいと体が引っ張られ、車外で爆発音が響く。

 おそらく人型が手砲弾を投擲してきたのだと思われる。

 

『安藤、9時の外壁へ砲撃っ!』

 

 照準を合わせてトリガーを引く。

 砲弾の命中した外壁は崩れ去り僅かに敷地内の様子が見えるが、すぐさま空いた穴からわらわらと人型が現れる。

 

「あれを乗り越えるのは無理だなあ!」

 

『当然よっ! ミカ、外壁の角を左へ曲がって!』

 

 ぐいと再び体が引っ張られる。

 

『安藤、10時の方向へ砲塔を向けて機銃掃射っ!』

 

 旋回ハンドルを回して照準を覗くと、その先に人型の大軍があった。

 すぐさま機銃をぱらぱらと放つ。

 

『9時の方向へ戻して、外壁へ砲撃っ!』

 

 外壁へ穴を開ける。

 

『もう一回、外壁の角を左へ!』

『2時の方向へ、機銃掃射! 9時の方向へ戻して外壁へ砲撃っ!』

 

 外壁へ穴を開ける。

 

『最後! 外壁の角を左へ!』

『1時の方向へ機銃掃射、9時の方向へ戻して外壁へ砲撃っ!』

 

 四度、外壁へ穴を開ける。

 これで校舎の外壁には、四方に砲撃の穴を開けたことになる。

 連中は四方を警戒する必要が生まれたわけだ。

 

『180度旋回して直進っ!』

 

 遠心力に引っ張られ、直後、

 

『森へ突っ込むわよっ! スピードは落として大丈夫!』

 

 貼視孔から覗いた時には、すでに戦車は森の中へ入っていた。

 ミカが器用に操縦し、すいすい木々を避けていく。

 車内はがたがたと揺れ、舌を噛みそうで口を開けていられない。

 

『停止っ!』

 

 隊長の声とほぼ同時にブレーキがかかり、ソミュアが停まる。

 瞬間、私は腰を持ち上げ、脇に置いた手砲弾の筒を手に取ると、後部ハッチを開いた。

 

『それじゃあ作戦通り私が――て、貴女、何をしているの?』

 

「隊長、行くのは私だ」

 

 隊長の手を強く引き、少し乱暴に後部ハッチの方へ座らせると、私は跳躍してソミュアから飛び降りる。

 

「安藤、戻りなさいっ! 作戦と命令を無視するつもり!?」

 

「あぁ、悪名高き外部生さまだからな」

 

 事前の策では、確かに隊長が単独行動を行う予定だった。

 私とミカがソミュアで毛玉たちと共に暴れ回る中、隊長が校内へ侵入して押田を見つける作戦だ。

 

 しかしこれは、元はといえば私と押田の問題である。

 一番危険な役回りは、私が果たすべきなのだ。

 それに、敵の目的は隊長なのだから、単独行動をさせるわけにもいかない。

 

「ミカ、隊長を頼むぞ」

 

 私の言葉に応じるように、ソミュアが動き出す。

 ミカとはすでに口裏を合わせてある。

 

『わかった、わかったから待ちなさいっ! 停車よっ!』

 

『良いのかい?』

 

「構わない」

 

 私が答えると、ソミュアが停止した。

 木々の隙間から、ソミュアの上に立つ隊長の姿を見上げる。

 

「まったく、不本意だけれど、口論している余裕もないわ。これを持っていきなさい」

 

 隊長が首元に手を入れ、ペンダントのようなものを取り出す。

 私が投げられたそれを受け取ると、隊長は再び口を開く。

 

「首にかけておきなさい。決してなくさないように」

 

「……これは何なんだ?」

 

 金属のチェーンに、宝石がぶら下がっている。

 

「無線で説明するわ。さ、行って」

 

 隊長はそう言って後部ハッチへ腰掛けると、無線で『発進』と指示を出す。

 

『――ありがとう、隊長』

 

 言われたとおりにペンダントを首にかけると、隊長に倣って服の中へと仕舞い込む。

 そして木々の合間へ消えてゆくソミュアを背に、私も走り出した。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 程なくして、隊長からの通信は訪れた。

 

『安藤、簡潔に言えば、その石を使うと、向こうの世界へ帰るか、二つの世界を一つにすることができるわ』

 

「待て、情報量が多い」

 

 私の抗議の声を無視して、隊長は続ける。

 

『使い方は簡単よ。その石を両手で握って、強くイメージするだけ。貴女の望む世界を、脳裏にね』

 

「……使い方が曖昧すぎないか」

 

『だから世界が雑な分け方になっちゃったのよ』

 

 不安な回答だ……。

 

「これを使わずに切り抜けられることを祈ろう」

 

『もちろん、最善は私の元まで帰ってくることよ』

 

 でも、と前置きして、隊長は続きを口にする。

 

『もしもの場合は、貴女の好きにして良いわ。迷わずその石を使いなさい』

『どちらの目的でもね』

 

 向こうの世界へ帰る。

 二つの世界を一つにする。

 それが、この宝石の利用用途だ。

 

「世界を一つにしてしまったら、本末転倒じゃないか」

 

『それでもよ』

 

 ……それでも。

 

「いいや、そんな事態には、決してならないさ。そうさせないのが、私の務めだ」

 

『――健闘を祈るわ』

 

「ああ、こちらこそ」

 

 言って、私は木々の隙間にそびえる体育館の影を睨み付けた。

 

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