押田くんと異世界探検する   作:とにざぶろう

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【5】人型、暗闇

「いいから、とっとと案内しろ」

 

 ごちゃごちゃと喚く押田を黙らせると、二人で教室を出て中庭の見える廊下を進んだ。

 角を曲がると、正面は昇降口になっており、下駄箱が並んでいる。

 

「で、どこにいるんだ?」と問いかけると、押田は人差し指を唇の前に突き立てて見せた。

 口を開くなということだろう。

 黙って先行する押田の後に続き、下駄箱まで辿り着く。

 そこで押田はぴたりと止まり、そろそろと下駄箱の端から校舎の外の方を覗いた。

 

「…………」

 

 しばし硬直して、再びそろそろと振り返る。

 顔を強ばらせた押田は、人差し指で校舎の外を指さした。

 なるほど、いるのか。

 

 私も押田に倣って下駄箱の端から顔を出して覗くと――。

 

「……なんだあれ」

 

 それは、ガラス戸の外に立っていた。

 人型で、肌色をしていて、もちろん手足もついている。

 

 そうやって言葉にすればヒトのようにも思えるが、あいにく、そいつには髪の毛も眉毛も一切の毛がなく、顔も皺もない。服も着ていない。

 ここから見る限りでは、骨も関節もないようで、まるでぶよぶよとしたゴムのようだ。

 身長は大体120センチくらいか。

 どうやら見張りをしているらしく、腰にベルトで無線機を装着し、横には見慣れた手砲弾のケースを置いていた。

 

 この高校を根城にしているのは、あいつ――いや、あいつらということだろう。

 おそらくは先ほどの小学校もだ。

 

 集団行動を取っており、武器を使う知性もある……。

 この世界を広く見てきたわけではないが、だとすれば、もしかして――、

 

「あいつらが、この世界の人間なのか?」

 

 ガラス戸から距離を置いてそう呟くと、押田は呆れたような表情を浮かべる。

 

「どうやら君の目は鉛で出来ているようだな」

 

「そうじゃない。あんなナリをしてはいるが、あいつらが我々の世界でいう人間――道具を使って世界を牛耳る高等動物なんじゃないかって意味だ」

 

 押田は「……ああ、それはそうかもしれないな」と同意。

 ただ、あまり興味は引かれなかったのか、ぱっと表情を変えて言葉を続けた。

 

「さ、安藤くん、あれは邪魔だろう、ここから追い払うべきだと思わないか」

 

「いや、どう考えてもコミュニケーションを取るべきだろう」

 

 私が言うと、押田は顔をしかめた。

 

「……君、正気か?」

 

「言葉が通じるかどうかは知らんが、あれが人間だと解釈すれば、まずはコミュニケーションから始めるべきだ」

 

「少し平和ボケが過ぎるんじゃないか……?」

 

「押田くん、きみが野蛮なだけだ。……まったく、普段ならこれは君の台詞なのにな」

 

 まあ良い。

 

「ともかく、やってみる価値はあるだろう。さあやるぞ」

 

「待て待て待て……っ」

 

 動きかけた私に肩に、押田が手を置く。

 

「先ほどの例を忘れたのか……っ! あれが野蛮な怪獣だったらどうするっ!? 食い殺されるぞ……っ!」

 

「状況からして、奴らは毛玉に追われる形で小学校を後にしている。あの毛玉よりは弱いはずだ」

 

「確かにそれはそうだが――――あれを使われたらひとたまりもないんじゃないか?」

 

 押田の言う『あれ』というのは、手砲弾のことだろう。

 

「だったら、会話を始める前に奪っておけば良い。向こうの印象は悪くなるだろうが、致し方なしだ」

 

 体格ではこちらが勝っている。

 手砲弾さえ奴らの手になければ、交渉が決裂しても制圧できるはずだ。

 

「さあ、いくぞ」と体を浮かしかけた私の服の裾を、ついと押田が引っ張る。

 

「まだ何か懸念があるのか?」

 

「スリッパで外に出るわけにはいかない。履き替えてくる」

 

 …………。

 

「お前っ! そんなことを気にしている場合かっ!」

 

「……あ、安藤くん……っ?」

 

 大声を張り上げた私は、驚愕の表情を浮かべる押田を見て気付いた。

 我々は、何のために小声で話を続けていたのか。

 

「あ」

 

 ガラス戸の方を見れば、身を捻った人型が、のっぺらぼうのような顔でこちらを眺めていた。

 

「ぅうううおおおっ!」

 

 咄嗟に駆けて校舎の外へ出ると、手砲弾のケースに飛びつく。

 同時に人型も手を伸ばしたが、初動の早い私が勝った。

 ざざとアスファルトを滑り、剥き出しの手首が擦り切れる。

 

「安藤くんっ!」

 

「や、やあやあ、すまない、防護策を取らせてもらった」

「貴方方に危害を加えるつもりはない。まずは友好的に話し合おう」

 

 なにはともあれコミュニケーションだ。些か予定から逸れてしまったが、ともかく作戦は続行する。

 

 人型との距離は僅か10センチほど。

 人型の顔の部分を見上げる形になった私は、交渉決裂に備え、地面に尻をついたまま、じりじりと距離を広げる。

 

 するとふいに、肌色だった人型の色が変わった。

 

「おうあ」

 

 黒、黄緑、そしてまた肌色。

 ぱっぱと、人型は色を変えてゆく。

 

「おあう、おおう」

 

 赤、橙、赤、紫、橙。

 気味の悪い声は、人型から発せられている。

 

 瞬間、理解した。

 これは駄目だ、逃げよう。

 

「ぅううんんっ!?」

 

 などと思ったものの一足遅く、人型の手がぬるりと私の右足首に触れる。

 人肌にしては温く、水に触れた程の冷たさはなく、固めのスライムのような感触がただただ不快で気持ち悪い。

 一瞬ひるんだ隙に、もう片方の手で左足を掴まれた。

 ぐいぐいと裾を引っ張っているのは、こいつ、まさか私のズボンを脱がそうとしているのか。

 

「は、離せ……この……っ!」

 

 人型の力は強くはないのだが、如何せん、肌が柔いせいでうまく押しのけられず、徐々に徐々に、私の足にまとわりついてくる。

 生理的な嫌悪感で背中にぞくりと冷や汗が走る。

 

 ――と、さらに悪いことに、突然に脳みそががつんと揺さぶられた。

 

 脳が犯される。浸食される。真っ黒い何かが私を占めて、景色が目の前からかき消える。

 支配される。真っ暗闇に私一人が立っている。この闇は振り払わなければならない。

 もう駄目だ。もはや、死ぬか、殺すかだ。ならば当然殺すだろう。どうして応じる必要がある。

 とにかく全てを破壊しなければならない。

 ああ、嫌だ嫌だ。全てが嫌いで、全てが憎い。やるしかない。私がこの手で終わらせるのだ。

 あれを、これを、あいつを、こいつを、私を――――、

 

 ばこん。

 

 ふいに軽い音が聞こえた気がした。

 

 光が灯る。暗闇が晴れ、景色がクリアになる。

 

「安藤くん! 行くぞっ!」

 

 手を引かれた。押田だった。

 

 私の下半身にまとわりついていた人型は、すぐ傍で倒れ伏している。

 

「ほら、早くっ!」

 

「あ、あぁ……」

 

 押田の腕を引き、身を起こす。

 どうやら人型は押田に蹴り飛ばされたでもしたのだろう、ぱかぱかと体色を黄色に点滅させながら、「いあい、いあい」と呻いている。

 私の身に何が起こっていたのかはわからないが、ともかく、戻ってこられたらしい。

 

 ……なるほど、私は押田に助けられたのか。

 

「どうした、何をぼうっとしている?」

 

 そう言う押田は、スリッパで地を踏んでいた。

 彼女へ言葉をかえす。

 

「なんというか、この期に及んで、まだ貴様が靴に履き替えているようなら、あの世から貴様を呪い殺していただろうな、と、そう思っただけだ」

 

 彼女は苦い表情を浮かべた。

 

「素直に礼を言えないのか、君は」

 

「それはお互い様だろう」

 

 押田は「ふん」と吐き捨て、言葉を続ける。

 

「とはいえ、今から靴を取りに戻るのは構わないだろう?」

 

 ……やれやれ、いちいち勘に触るやつだな。

 とはいえ、助けられた弱みだ、仕方あるまい。

 

「さっさと行こう。早いところ、この学校を脱出した方が良い」

 

「無論だ」

 

 頷く押田を確認すると、横たわったままの人型を捨て置き(手砲弾の筒は拝借した)、下駄箱を通り過ぎ廊下を駆け、来客用入り口へと戻る。

 

「……おいおい、なんなんだアレはっ!」

 

 右手の廊下の奥から、いつの間に集まってきたのか人型の集団がわらわらこちらへと向かってくる。

 通路は完全に塞がれており、やり過ごせそうにはない。

 

「押田くん、履き替えている時間はないぞ」

 

「分かっているっ!」

 

 押田が革靴をひっつかむのを確認すると、来客用入り口から校舎の外へ飛び出す。

 

「うはーーっ!」

 

 人型は校舎の外にもたんまりといて、我々が現れるのを待ち構えていた。

 数は少なく見積もっても20を超えるだろう。

 

 脱出口である正門までは距離にしておよそ50メートル。

 ただし、開いていたはずのそれは、いつのまにやら堅く閉ざされている。

 乗り越えようとも、脱出の前に引きずり下ろされるだろうことは容易に想像できる。

 

 立ち止まっていてはすぐに追いつかれてしまうので、とりあえず人型らの数の少ない運動場方面へ走り出すが、捕まるのは時間の問題だ。

 

「おいおいどうするっ!?」

 

「あーどうしようかなあっ!?」

 

 やけくそ気味に叫ぶ押田は、次の瞬間、「いや待てよ」と平静を取り戻して呟く。

 

「何か思いついたかっ! 何でもいいから言ってみろっ!」

「つまらないことだったら承知しないからなっ!」

 

 息を切らして全力で走りながら、隣の押田へ叫ぶ。

 すると押田は右へ垂直に方向転換して体育館へ向けて走り出してしまった。

 

「貴様は馬鹿なのか! それとも、ついにとち狂ったか!」

 

「説明している時間はないだろうっ!?」

 

 あぁまったく、その通りではあるのだがっ!

 

 運動場を抜け、体育館へと辿り着く。

 が、押田は目の前にあった裏口の扉を無視して通り過ぎてしまった。

 

「おい、どこへ行くつもりだ?」

 

「こっちだ」

 

 押田に続き巨大な体育館の角を曲がると、その先に一回り小さな建物が見えた。無機質な鋼板性だ。

 物置倉庫にしては少し大きめだが――なるほど、ガレージか、これは。

 

 建物の前方へ回ると、一面に渡るシャッターが上がり、中に置かれた奇妙な物体が見えていた。

 

「これは、車なのか……?」

 

「ああ、おそらく。校舎の窓から遠目にこれが見えていたんだ」

 

 ぱっと見た感じは軽トラックの荷台だ。

 運転席などはなく、直接、荷台に四輪が付いている。

 荷台車とでも呼ぶべき代物だ。

 正面にハンドルが設置されていることから考えると、おそらくは自立して動くということなのだろう。

 よく見れば尻にはレバーが付いている。

 

「……本当に動くのか、こいつは」

 

「とにかく調べよう。まずはエンジンをかけなければ」

 

 荷台車の周りを探ると、エンジンはすぐに見つかった。

 尻の部分に設置されており、スターターロープが飛び出している。

 

「あったぞ! ご丁寧にスターターも付いている!」

 

「やるじゃないか、安藤くん! 早く引け! 奴らはすぐそこまで迫っている!」

 

 そう言って押田は車体へと登り、ハンドルの前へ位置取る。

 

「面倒な仕事を他人に押し付けるよなあ、君はっ!」

 

 言いながら私は、ぐいと勢いを付けてスターターロープを引く。

 が、一度では起動せず、二度、三度――――四度目でようやくエンジンがかかった。

 ぶぶぶ、とけたたましい騒音が響く。

 

「いけたぞ! さあ発進しろ! アクセルを踏め!」

 

 言って、私も車体へよじ登る。

 押田が慌てた様子で口にする。

 

「安藤くん、大変だ。この乗り物にはアクセルがない」

 

「だったら他に発進する方法があるはずだっ!」

 

 見渡せば、荷台の上には、正面のハンドルと、後方のレバーのみが設置されている。

 ならば消去法だ、こいつを倒せば良いのだろう。

 私はレバーへ手をかけ、ぐいと反対側へ押し倒した。

 

「ぅおうっ!?」

 

 下半身のみ後方に引っ張られ、危うく荷台から振り落とされそうになるのを、レバーに掴まり踏みとどまる。

 

「おぉ、動いた! 動いたぞ!」

 

「少しは背後で危険な目に遭っている私を気遣ったらどうだ!」

 

 車体がガレージを出ると、押田がハンドルを回し、運動場へと戻る。

 荷台車の時速は30キロほどだろうか。大した速度ではないが、この場から逃げおおせるには十分だ。

 人型らはさすがに轢き殺されるのは嫌なようで、荷台車が突っ込むと道を空ける。

 

「はっはっはっ! 散れ散れっ! 化物共っ!」

 

 上機嫌に叫ぶ押田の声も長くは続かなかった。

 突如として外壁が轟音と共に破壊され、巨大な化物が現れたのだ。

 体長は4メートルほど。茶色い体毛に細長い手足。

 間違いなく、押田が見たという、例の毛玉の親玉だ。

 

「ここまで我々を追ってきたのかっ!」

 

「追ってきたのだろうなあっ!」

 

 人型らは突然現れた毛玉に混乱しているようで、校舎の方へ駆けていくものもいれば、腰に提げた手砲弾の筒に手を伸ばす者もいた。統率が取れていない。

 

 毛玉は、そんな人型らへ前足を振るった。

 それだけの所作で、幾人かの人型は体躯を切断され、幾人かの人型は何メートルも吹き飛ばされる。

 

「あんなものを食らったら我々も一溜まりもないぞ!」

 

「当然、逃げるに限る」

 

 私が言うと、押田が「しかし――」と続ける。

 

「どこから逃げるんだ? 正門は閉ざされている。たった今できた、あの外壁の穴から出るのか?」

 

「……いや、あれは無理だろう」

 

 毛玉はいまだ自らの開けた穴の前に陣取り、人型らを蹴散らし続けている。

 外壁の穴を抜けるということは、奴を相手取ることを意味する。

 

「消去法だ。正門へ向かえ」

 

「正門は閉ざされていると言ったはずだがっ!?」

 

「我々にはこいつがある」

 

 ポケットに突っ込んだ手砲弾の筒を取り出す。

 押田は目線をこちらへ向け、合点のいった表情を浮かべた。

 

「なるほど、それで校門を破壊するんだな」

 

「ああ、あの爆発力ならば可能だろう」

 

「ん――いやしかし、手砲弾を持つのは、正確には『我々にも』ではないか?」

 

 我々にも。つまり、奴らにも。

 見れば、遠方からのそのそと寄ってくる人型らは、手に手砲弾を持っている。

 毛玉にではなく、我々へ使うつもりなのだ。

 

 このままでは逃走されてしまう。逃走されるくらいなら、ここで荷台車ごと破壊してしまおう。

 と、そういうわけだろう。

 

「些か攻撃的すぎるのではないか……っ?」

 

「どうするどうする!」

 

「押田くんはそのまま運転していれば良い。私が対処する」

 

 後方から迫ってくる連中には追いつかれまい。警戒すべきは前方180度。

 

 あの威力だ。一度でも手砲弾を食らえば、この荷台車はひとたまりもないだろう。

 となれば、先手必勝。やられる前にやる。

 手砲弾を投げる前の人型を吹き飛ばしてやる。

 

 筒の中から手砲弾を取り出し、「うおお!」とぶん投げる。

 ――が、

 

「ぜんぜん駄目じゃないか安藤くんっ!」

 

 手砲弾は、連中の群体へ届く前に、地に着いてしまった。

 地面が弾け土埃が舞う。

 

「想定以上に飛距離が出ないっ!」

 

 などと言っている間にも連中は手砲弾の筒を持ち上げている。

 連中がどうやってこちらまで届かすつもりかは気になるが、このまま観察は続けられない。

 観察が完了した時には、放られた手砲弾が我々に直撃しているだろう。

 

 あぁまったく、早々に仕掛ける必要がある。

 と、目の前で揺れる押田の首元に目が留まった。

 

「押田くん! こいつを借りるぞ!」

 

 押田の首へ手をかけ、「ちょ、な、何をする」と喚くのを無視して、そのスカーフをはぎとる。

 残念だがこのままでは使えまい、びりびり生地を裂き二重の紐状にすると、両端をねじり、中央には広めの空間を残した。

 

「ぁああ! 結構それ大事にしていたのだがっ!?」

 

 中央の空間に手砲弾を乗せると、立ち上がり、両端を持ってぐるぐると頭の上でそれを回転させる。

 

「……なるほど、スリングか! いやしかし私のスカーフを使う必要は果たしてあったのか?」

 

「おらあっ!」

 

 片端から手を離し、手砲弾を投擲する――つもりだったのだが、すっぽ抜けて手砲弾はあらぬ方向へ飛んでいった。

 

「ぜんぜん駄目じゃないか安藤くんっ!」

 

 地で弾ける手砲弾は、連中に届かず、怯ませるくらいの効果しか与えられない。

 

「仕方ない――もう一発だな」

 

「安藤くん、もう校門はすぐそこだ! 狙うなら奴らでなく校門を狙え!」

 

「ん……? おお、確かに!」

 

 距離にして50メートルといったところか。

 時間にすれば、残り数秒だろう。

 ごたついている間に、なんだかんだで放った手砲弾が時間を稼げていたらしい。

 

「一旦、校門前で車体を3時の方向へ向ける、そこで当てろ」

 

「任せろ!」

 

 手砲弾を頭の上でぐるぐると振り回し、左手で荷台の端を掴み体を支える。

 押田がハンドルを回し、ぐいと体が左方向へ引っ張られる。

 校門が目の前へ迫る。

 

「やれ! 安藤くんっ!」

 

 押田が言い終わると同時に、手砲弾を投擲する。

 放たれた手砲弾は弧を描き――見事、校門へ着弾した。

 

「伏せろ!」

 

 爆発音が響き、金属の破片がガンガンと車体へ当たる。

 

「やったか!? やったな!? 脱出するぞ!?」

 

 押田が、身を屈めたまま器用に頭の上でハンドルを操作する。

 腰を上げて荷台の端から顔を出すと、人型らはなおも手砲弾を構えており、その背後からは毛玉が迫ってきていた。

 

「本当にしつこいな、まったくっ!」

 

 もう一発、スリングで手砲弾を飛ばす。

 直後、押田が操作したのだろう、車体がぐるりと旋回する。

 地面に着弾したであろう手砲弾の爆発音が届く。

 

 校門跡にはまだ残骸が残されており不安だったが、乗り越える際にがたんがたん大きく車体が揺れるだけで済んだ。

 振り向いて確認すると、手砲弾に怯んだ人型らは後退し、そのせいで背後の毛玉に襲われて阿鼻叫喚となっていた。

 そんな間にも我々は速度を上げ、人型らは、毛玉は、高校は、どんどん遠ざかり影を小さくしてゆく。

 

「もう、大丈夫だろうか……?」

 

 不安げな声を発する押田へ「ああ、大丈夫だ」と返す。

 あの毛玉もしばらくは人型らとやり合っているだろうし、このまま走り続けていれば安泰だろう。

 

「はあぁー……」

 

 押田は深い息を吐き、ハンドルへ手をかけたまま、その場へ腰を下ろす。

 

「今回ばかりは、さすがに終わったかと思ったな」

 

 私もそれには同意だ。

 ――しかし、

 

「ひとまずは切り抜けられたのだ。勝利を喜ぼうじゃないか」

 

 押田の背中をばんと叩き、言葉を返す。

 

 押田は「乱暴な奴だ」と言って、少し笑った。

 

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