押田くんと異世界探検する   作:とにざぶろう

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【9】遭遇、幕間再び

 その瞬間は、荷台車を走らせ始めて20分ほど経過した頃にやって来た。

 

「あー……」

 

 スマホのバッテリーが切れてしまったのだ。

 とはいっても、支障はメモ帳アプリを失うことくらい(メモした内容は紙へ書き写しておいた)だが、いざ文明の利器であるスマホを失うと、とてつもない心細さを感じてしまう。

 

「押田くん、君のスマホはまだ充電が残っているか?」

 

 振り返り押田の方を確認すると、彼女はのそりとスマホを取り出し、その画面をぼうっと見やった。

 

「残り20%だな。明日の朝まではもたないだろう」

 

 私の口から、自然とため息が漏れる。

 

「……先ほどの学校からはかなり距離は取った。今日はこの辺りで停車して、眠るとするか」

 

「ああ、そうだな――と、おい、安藤くん、前」

 

 押田に指摘されて首の向きを前方へ戻すと、数メートル先に何やら板きれの山のようなものが転がっていた。

 

「ぉおおうっ!?」

 

 慌ててハンドルを切り、板きれの山を避ける。

 その間にも押田が後方のレバーを引いてくれたのだろう、急ブレーキがかかり、荷台車が停止する。

 

「なんだなんだっ!」

 

「人影があるな」

 

 そう言って押田が指さす先では、見知った姿が見知ったポーズを取っていた。

 左手にカンテレを抱え、右手でサムズアップ。

 先ほど我々の荷台車を奪っていった、ミカだ。

 

「殺してやる……」

 

 胡乱な目つきでミカを睨む押田を「いやいや気持ちはわかるが殺すな」と制止する。

 

「私が話をする。お前は荷台車の上で待ってろ。良いな」

 

 荷台車を飛び降り、ミカへ歩み寄ると、言葉を放る。

 

「何の用だ。我々も仏ではない。あれだけのことをしておいて、潔く水に流すつもりはないぞ」

 

「気を悪くしたのなら謝るよ。ミッコが言った通り、車は借りただけ、本当に返すつもりだったんだ」

 

「……ではまず荷台車を返せ。それから話を聞いてやる」

 

 私の言葉へ返すように、ミカは右手をすっと横へ伸ばす。

 人差し指を立て、何かを指し示しているようだ。

 その視線の先へ目を向けると――、

 

「マジかあ……」

 

 先ほどの板きれの山は、破壊された荷台車の残骸であった。

 

「気を悪くしたなら謝るよ」

 

「そりゃあ悪くするだろ。当たり前だ。どうしてこうなったんだ。説明しろ」

 

 今度は、右手を反対側へ向ける。

 そちらにあったのは、両手両足を縛られ、猿ぐつわを噛まされたミッコの姿だった。

 

「……え、どういうこと?」

 

 意味がわからない。二人は仲間ではなかった? ミッコが裏切ったのか?

 

 状況の説明としては不十分だと理解してくれたのか、ミカはミッコへ近付くと、その猿ぐつわを解く。

 瞬間、噛みつこうとするミッコを、ミカはさっと避けた。

 

「……殺してやる」

 

 先ほど押田が言ったのと同じ言葉。

 しかし今度は、ミッコの口から発せられた。

 

「殺してやる。八つ裂きだ。手足をもぎ取って引き回してやる」

「耳を焼き、目を潰し、鼻を切り取る」

「殺してやる、殺してやる殺してやる――」

 

 私は、何も言うことができなかった。

 先ほどの快活な少女とは、まるで別人だ。

 悪魔が乗り移ってしまったかのように、ミッコは呪詛の言葉を吐く。吐き続ける。

 

「もう十分かい」

 

 ミカはそう言うと、手慣れた様子で猿ぐつわを再びミッコの口へ噛ませた。

 

「本当にごめんね。全部、説明する」

「だから君たちさえ良ければ、ここでしばらく私の話を聞いてくれないかな?」

 

 断ることなどできるはずがない。

 ミカの言葉に、私は黙って頷いた。

 

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【幕間】

 

 おいし~い!

 するする飲んで、もう紅茶は四杯目。

 ぱくぱく食べて、もうケーキは三つ目を平らげたところ。

 マリーさんのお話はよくわかんないところも多いけど、優しいし楽しいし、もう最高!

 私も、ミッコのこととかミカへの文句とか、ここに流れ着くまでの旅のこととか、いっぱい話して、マリーさんにも満足してもらえたみたい。

 

 ずっとここで暮らしたいな、なんて思いつつ――ぶるりと冷えた感覚に襲われる。少し飲み過ぎたみたいだ。

 

「ごめんなさい、ちょっとお花を摘んできたいな」

 

「ええ、そこの扉を出て右へずっと行ったところよ」

 

 言われたとおり、なが~い廊下を右手に歩いていって用を足すと、食堂に戻ってくる。

 マリーさんは、いつの間にかパンツァージャケットに着替えていた。

 

「さあ、そろそろ行きましょうか」

 

「え、ど、どこへ……?」

 

「決まってるじゃない。四人を捜しに行くの」

 

 ――確かにそんな話もあったけど。

 

「マリーさん、とっくに忘れてると思ってた……」

 

「しっかりしなさい。仲間と二度と会えなくなっても良いの?」

 

「えぇー……お茶にするって言い出したのマリーさんだよ……」

 

 私の言葉を無視して、マリーさんはすたすた歩き出す。

 慌ててその後を追いかけて、私もお屋敷を出る。

 石畳を歩いて、左手の海の方へ。

 

「ねえ、そっちは海しかないよ?」

 

 背中を向けたまま、マリーさんが言葉を返す。

 

「良いの、こっちで」

 

「えぇ~……」

 

「大丈夫、準備は終わってるわ。貴女にも手伝ってもらうわよ」

 

「もちろんそのつもりだけどお」

 

 ふいにマリーさんが立ち止まる。

 ……え、これって。

 

「さ、乗って」

 

「マリーさん、ホントに、どこへ行くつもりなの?」

 

 私の見上げた先にあったものは――。

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