宿した者(仮)   作:雲丹

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旧校舎のディアボロス
CHANGE THE WORLD


 

 

 

 

 

 俺の名前は黒上(くろがみ)涼夜(りょうや)

 今年で十六歳。

 言うところの高校一年生。

 諸事情で入学式に間に合わず、新入生の筈なのに転校生みたいな扱いを受けたのが俺だ。

 

 

「これが今日の成果ですか」

 

 

 俺と同い年にも関わらず、どう考えても小さい少女。いや、俺が男で向こうが女だからとかではなく、女の子の中でも小柄な方の同級生。

 名前は塔城小猫――が、家庭科室のテーブルに置かれたショートケーキを、普段よりも僅かに鋭く見える視線で貫いて言った。

 

 

「形は大分良くなった」

 

 

 ジッとショートケーキを見つめるクラスのマスコット的なポジションの女の子。

 聞いた話では、入学して一ヶ月もしない現段階で既に学校中のマスコットになりつつあるとか。……そんなマスコット系少女だが、今の表情は完全に職人のそれだ。

 

 

「……いただきます」

 

 

「お、おっす」

 

 

 フォークでケーキを器用に裂き、小さな口に運んでいく。

 その動作を見ながら俺と、俺の周りにいる数人のクラスメイトは息を飲んだ。

 

 

「――……美味しい」

 

 

 ゆっくりと噛まれ、飲み込まれたケーキ。

 普段から無表情なことが多い塔城小猫が、僅かに顔を綻ばさせた。

 

 

「「「い……」」」

 

 

 い?

 俺がホッと一息吐くと、俺と同じく結果待ちをしていた生徒達が何か呟いた。

 

 

「「「ぃやっったあああああああああああああああああ!!」」」

 

 

「おお!?」

 

 

 叫びと共に衝撃。

 周りのクラスメイト達が俺に飛びついて来たのだ。

 突然の衝撃に「ちょっ!?」と声が零れ、体が色んな方向にぐらつかされる。

 

 

「やったね! 黒上君!!」

 

 

「今の顔すっごく可愛かったね!」

 

 

「今度は何に挑戦する!?」

 

 

 俺をもみくちゃにするクラスメイトの、詳しく言うのなら家庭科部に所属する皆さん。

 っていうか皆女の子なのにそんなベタベタしないで欲しい。色々と困るから!

 

 

「ってか次か……希望は?」

 

 

 ワイワイと騒がしい中、こちらの様子を横目にケーキを食べているマスコットちゃんに尋ねる。

 

 

「とりあえず料理を覚えたらいいと思う」

 

 

 ……流れで判るかもしれないが、小猫がいま食べているケーキを作ったのは俺だ。

 というのも、俺の隣の席が小猫で……そうなると会話する機会も当然ある。

 でだ。

 小猫はお菓子とかが好きだ。お菓子以外もだが、基本的に甘党である。

 そして何を隠そう俺も甘党だ。

 自然と話すことも増えていく。

 どんなものが好きか、とか。

 何処の店がいいか、とか。

 その過程で何故か、俺が作って小猫が食べるというイベントが発生していた。これに関しては本当に謎だ。しかも結局、俺は作るだけで食べられないし。……あァいや、味見はしたけど。

 小猫は作ってくれていないので、手作りケーキというのを食べられていないんだ。……友人の手作りっていうのは、ちょっと憧れる。

 話を戻そう。

 ケーキを作ることになったが、俺にはお菓子を作った経験がなかった……そこで手を貸してくれたのが家庭科部の人達というわけだ。

 

 

「ぐぅの音も出なかった」

 

 

 五日目にして漸く「美味しい」と言ってもらえたわけだが、俺には料理スキルが備わっていない。

 小猫の言うことも尤もだ。

 

 

「あ、そういえば黒上君って料理できないんだっけ」

 

 

「けどすぐにケーキ作れるようになったし、きっと才能あるよ?」

 

 

 などと口々に言い始める家庭科部の面々。

 家庭科部の人達に言われると、なんとなく自信が持てる。

 俺って昼飯は学食とかだし、それ以外は適当に済ませてたしなー……。

 や、米は炊けるからさ。総菜なんかは買えるし、肉とかなら誰でも焼けるし。

 

 

「焼き肉のタレって偉大だと思う」

 

 

 ごはんにかけても美味いし。野菜炒めとかにも合うし。

 

 

「栄養が偏る」

 

 

 加えて「ご馳走様」と言い、小猫が食器を持って立ち上がった。

 どうやら律儀にも洗うつもりのようだ。……と思ったら別の子に食器を取られてしまった。可愛がられてるなァ。

 

 

「若いからさ」

 

 

 言って笑って見せたら、かわいそうなものを見る目で見られた。……解せぬ。

 それはさておき。

 とりあえず一段落ということで、俺と小猫は家庭科部の皆にお礼を言って家庭科室を出た。

 

 

「小猫は部活か?」

 

 

「うん。来る?」

 

 

「行かないから」

 

 

 さっきも言ったがこの女の子、校内で人気だ。早くも大人気になりつつある。

 だが所属している部活はオカルト研究部だ。

 ……もう一度言おう。

 オカルト研究部だ。

 縮めてオカ研。

 まァやってることは、世間一般のオカルト研究じゃないんだろうけどな。

 

 

「まだ信用できない?」

 

 

「……単純に面倒なのが嫌い」

 

 

 ……小猫には俺の事情が少しばっかりバレてしまっている。

 俺に宿っている力。

 別に俺が戦っているのを見られたとか、力を使っているのを見られた、とか。

 そんな間抜けな真似はしていない。

 簡単に言うのならカマをかけられたのだ。

 なんでも、少し“違和感”を感じたんだそうだ。

 で、俺はそれに見事に引っかかり、仕方なしに彼女にだけ事情を説明するはめになった。

 ……これはこれで間抜けな話だ。

 

 

「本当に?」

 

 

 寂しげな瞳の小猫が俺を見る。

 小猫の身長は百四十もない。対して俺は百七十程。どう転んでも、俺は小猫に見上げられることになる。

 

 

「本当は信用できないだけなんじゃ……」

 

 

「んなことないって。少なくとも小猫のことは信用も信頼もしてる!」

 

 

 しまった動揺した。

 つい少しだけ声を荒げるくらいには。

 それ位に小猫の寂しげな上目遣いに心打たれた。

 って違う。重要なのはそこじゃない。

 

 

「なら来てくれますか?」

 

 

 間髪入れずにこれである。

 俺はつい黙り込む。

 数秒の沈黙の後、小猫が口を開いた。

 

 

「“信用も信頼もしてる”」

 

 

 相も変わらず黙る俺。

 けれど確かに、小猫の言葉が刺さる。

 

 

「嘘だったんですね」

 

 

 期待するような表情から悲しそうな表情になる小猫。

 表情になる、と言っても本当に極僅かなものだが。

 どちらにしろ……またハメられた!!

 

 

「――同行、させて、ください……」

 

 

 俺の敗北が決定した瞬間である。

 

 

「……ん」

 

 

 小さく返事をしてくれた小猫。

 だが俺は聞き逃さなかった。

 此奴が小さく「勝った」と呟いたのを。

 

 

「悪魔め……」

 

 

「そう、私は悪魔」

 

 

 そうでしたねー。

 俺は一度だけ溜め息を吐き、足を進める小猫に続く。

 ……小猫の言った“悪魔”とは比喩ではない。

 この世界には悪魔や天使、堕天使などと言った空想上の存在と言っても過言ではない者達が、実際に生を謳歌している。

 塔城小猫は悪魔。より詳しく言うのなら眷属悪魔。

 俺は人間。詳しく言うのなら魔的な力を持つ人間。

 

 

「涼夜」

 

 

 不意に小猫の声が耳に入った。

 口から「うん?」と抜けた声が零れる。

 

 

「着いた」

 

 

 見ると、既に旧校舎の一室の前まで来ていた。

 扉に掲げられたプレートにはオカルト研究部と書かれている。

 ……どんだけ呆けてたんだ、俺は。

 

 

「嗚呼、来てしまった」

 

 

 本当に、来て……しまった。

 

 

「行く」

 

 

 俺が立ち往生していると、小猫が痺れを切らしたらしい。

 俺の右手を掴み、半ば強引にオカルト研究部の部室の中に連れ込んだ。

 心の準備もさせてくれない小猫マジ悪魔。

 ……小柄なくせに腕を牽く力強いな。

 

 

「あら?」

 

 

「これはこれは……」

 

 

 まず目に入ったのが人影。

 三人いる。

 声を出した前者はリアス=グレモリー。紅い髪の美人さん。後者のポニーテールをした黒髪の美人さんと二人で駒王学園……あァ、俺達の通ってる学校な。“駒王学園の二大お姉さま”なんて言われてる三年生だ。

 もう一人は整った顔立ちで、今もニコニコしている美少年君。確か二年生で木場祐斗だ。

 三人……いや、小猫も含めて四人がオカルト研究部員で、この学園では知らない者はいないレベルの有名人だ。

 

 

「……」

 

 

 無言でなんとなく周囲を見回してみる。

 部屋中に描かれた魔法陣や抽象的な文字。どこのお土産だよ! とツッコミたくなるような工芸品の数々。

 あァー……。

 

 

「超帰りたい」

 

 

「第一声が!?」

 

 

 お?

 俺にツッコミを入れてくれたのはリアス=グレモリーだ。

 驚きと、なんとも心外だと言った表情でこちらを見ていた。

 

 

「……コホン」

 

 

 あ、わざとらしく咳払いした。

 

 

「小猫、隣の彼は一体誰なのかしら?」

 

 

 どうやら空気を変えたかったらしい。

 どうするか。

 そこを突いて遊んでもいいんだけど、流石に初対面でそれはまずい気もする。

 

 

「黒上涼夜です」

 

 

 リアス=グレモリーに振られた小猫は、俺の名前だけを紹介した。

 俺も何か言った方がいいのか? っていうか俺、小猫になんの説明も受けてないんだけど。

 部室に連れて来てどうしたいんだろうか。

 

 

「……」

 

 

「……」

 

 

「……」

 

 

「……?」

 

 

 リアス=グレモリーと小猫が暫し見つめ合い、最終的に小猫が首を傾げた。

 

 

「そ、それだけかしら?」

 

 

 あらら、なんか困惑してるな。

 いくら普通の部活じゃないとはいえ、いきなり部外者を連れて来て、説明が名前だけ……いやまァ逆の立場だったら俺も困惑すると思う。

 そして他の二人の部員さん、なんか楽しそうですねー。

 

 

「私の友達です」

 

 

 あァ、俺にとっても小猫は友人だ。けどな、求めてる解答は絶対にそれじゃない。っていうか判って言ってるだろ。

 

 

「こちら、オカルト研究部部長のリアス=グレモリー先輩。三年生です」

 

 

 小猫が急に俺の方を向き、リアス=グレモリーの紹介をしてくれた。真顔である。

 

 

「え? あァ、うん」

 

 

「反対側のソファーに座ってるのが、同じく三年生で副部長の姫島朱乃先輩。その隣が二年生の木場祐斗先輩です」

 

 

 小さく頭を下げる姫島朱乃と木場祐斗。

 俺も名前は知ってたけどね。有名だし。

 

 

「今日から涼夜も部員。ちゃんと挨拶して」

 

 

「今日からお世話になります黒上…………うん?」

 

 

 流されるままに自己紹介をしようとしてしまったが、いま小猫のやつはなんと言った?

 

 

「……ごめん、ちょっと聞き逃したっぽいんだが、俺が今日からなんだって?」

 

 

「部員」

 

 

「どこの?」

 

 

「オカルト研究部」

 

 

 ……んん!?

 

 

 

 

 




最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
こういったサイトに投稿するのは初めてなのですが、頑張ろうと思っています。
最低でも一巻か二巻までは←

文字数は三千字ちょいなんだけど、これくらいでいいんですかね……?


改稿15/05/01
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