◇
不満気にフリードが口を開いた。
「つーかさー、マジなんで剣持ってねぇんだよ?」
イッセー先輩が堕天使の女と戦い始め、他の呆けていた神父達も動き始めた。
大概の神父は小猫と木場先輩を狙っているのだが、稀に俺やフリードに不意打ちをしてくる者もいる。
まァもれなく吹き飛ばされてるんだがな。
「学校から直で来たからな……っていうか何でお前も狙われてんだよ」
「人気者は辛いよねー、っと!」
フリードが神父の足を斬り裂いた。
……嫌われてんな、あいつ。
「イカれた狂犬め!!」とか叫ばれてるぞ。
「けどま、これでいいか」
言って光の剣を背後に放り投げた。
それはさり気なく神父の顔面に当たり卒倒させている。
「合わせてやんよ」
「嘗めてんのか?」
「おいおい、これは優しさですよ?」
「あァ、そうか。負けたときの言い訳か」
「…………」
「…………」
一度無言になり、ははは、と二人で笑い会う。
瞬間、お互いの足下が陥没した。
「くたばれ、狂犬!!」
「死にさらせ、クソ魔人!!」
怒号と共に、俺の拳とフリードの拳がぶつかり合う。
互いに強化しているためか、冗談抜きで黒と白の衝撃が弾ける。
近くに味方がいなくて良かった。
「「「ぎゃあああああ!」」」
でなければ今の神父達のように床に転がることになっていただろう。
俺達を虎視眈々と狙っていた連中だし、自業自得だが。
それにあまり気にしていると、フリードにその隙を突かれる。
「――で、いい加減目的を教えろや」
「なんのことかにゃーん?」
上下左右の猛攻。
それこそ拳から脚を駆使した肉弾戦。
フリードの上段回し蹴りを受け止めて問うが、人を食ったような笑みを浮かべられる。
答える気はなさそうだな。
「お?」
フリードが俺から距離をとる。
「あ? っとォ!?」
何かと思ったら背中にイッセー先輩が飛ばされてきた。
結構な傷を負ってるし、俺の体をクッションに使ってやる。俺は僅かに前のめりになったが……まァ先輩が転がってダメージを負うよりいいか。
「……
大丈夫か? そう聞きかけて――やめる。
倒れてこそいるが、先輩の目はまだ死んでないのだ。
「なぁ、こういう時って神に頼むのかな?」
「……やめとけ、神なんて碌なモンじゃねーから」
堕天使が浮いたままの姿勢で止まる。
近くに俺がいるからだろう。
「あ、そうか。あんなにいい子だったアーシアのことも助けてくれなかったもんな」
「それに先輩は悪魔だしな。魔王にでもお願いすりゃいいんでない?」
「確かに魔王様なら聞いてくれるかな。聞いてます? 俺もいちおう悪魔なんで、ちょっと俺の願いを聞いてくれませんか?」
俺の言葉に、なるほど、と納得して先輩は言葉を続ける。
「いまから目の前のクソ堕天使を殴りたいんで邪魔が入らないようにしてください。ほら、乱入とかマジでごめんです。ああ、傷も大丈夫です。まだ立てます。だからガチンコをやらしてください。いまちょっと怒りが凄まじくて、痛みも耐えられるんです。――一発。一発でいいんです。……殴らせてください」
ぐっと力を込めて立ち上がる先輩。
見た感じだと、光という毒は既に先輩の体中を巡っている。
体中が震えているし、顔にも激痛の色が出てしまっている。
それでも、立った。
確かに力のある奴なら立ち上がれるし、戦闘も続行できるだろう。
けれどイッセー先輩は下級悪魔で、それも成り立てだ。
「嘘!? 立ち上がれるはずがない! か、下級ごときが! あの傷で!! 全身を内側から焼かれているのよ!?」
「あー、
叫ぶ堕天使に、イッセー先輩はブレることなく言い放つ。
「なあ、
『Explosion!!』
あァ……目覚めた。
俺はその光を背に受けながら、近くにいた神父を蹴っ飛ばす。
「うおっと!」
俺が飛ばした神父を、フリードは近くにいた神父を引っ張って盾にしていた。
「あの下級悪魔、イッセー君だっけ? クレイジー過ぎ」
「あァ、けどよ」
――最高に
俺はそう口にして走り抜ける。
やることは掃除だ。
イッセー先輩の邪魔になりそうな神父を、片っ端からフリードの方に飛ばしていく。
手段? んなもん決まってる。
「てっ、めえええ! マジで人間なんだと思ってんだ!?」
「いやお前にだけは言われたくない」
暴力だ。
蹴ったり、投げたり、殴ったり。
とにかく目に付いた神父を飛ばす。
フリードはフリードで、飛んできた神父の対応に追われる。
のだが。
そのフリードは飛んできた神父を普通に殴ったり蹴ったりしている。
神父の数を減らし、結果としてフリードの足止めもできているという一石二鳥だ。
「っておい! お前もかチビ助!!」
小猫が便乗したようである。
木場先輩が神父の剣の光を消し、投げる。殴る。蹴る。
目標は当然フリードだ。
「チビ助じゃない」
あらら、フリードのやつは小猫を怒らせちゃったな。
「い、いや!!」
んん?
あの堕天使逃げようとしてんな。
俺は咄嗟に、けれども偶然を装って、堕天使の近くに神父を投げた。
いきなりの投擲物に堕天使は僅かに動きを止める。
「逃がすか!!」
その僅かな隙を突いて、イッセー先輩は堕天使を掴んだ。
「わ、私は――!!」
「吹っ飛べ! クソ天使!!」
イッセー先輩の左腕に力が集約され、堕天使の顔面に打ち込まれた。
骨が砕けるような音が響き、堕天使は後方へと吹き飛んだ。
俺や小猫が神父を飛ばすのとは訳が違う。
全く容赦のない一撃。
「
大きな破砕音を立てて壁に突っ込んだ堕天使は、重力に従い床に落下する。
壁の方は見事に壊れ、クレーターのようになってしまっている。
ざまーみろ、とイッセー先輩が呟く。
それを確認したほんの数秒のうちにフリードは消えていた。
結局、あいつが何をしたかったのかが判らなかった、それが気がかりだ。
「おつかれさま」
「ん、小猫も」
ほとんど傷のない小猫とそれだけ話し、手と手をぶつけ合う。
イッセー先輩の方を見ると、木場先輩に支えられながらこっちに向かっている。
やはりギリギリみたいだ。
「涼夜、お前最後に手ぇ出したな?」
「なんのことか判りませんなー」
まさか勘づかれるとは思わなかった。
いや、あの時は先輩の力が何十倍にも膨れ上がっていた。
その影響かもしれない。
「……サンキューな」
イッセー先輩のその言葉を、俺は聞かなかったことにして体を伸ばす。
最後、俺は何もしていない。
イッセー先輩が自分の力で成し遂げた……それだけだ。
「あー……動いたら腹減ったな」
考えてみたら晩飯を食い損ねているわけだし、当たり前か。
「どこかに行くかい?」
「……ラーメン」
「いいな。こってりしたの食べたい」
「俺動けねーし……部長にアーシアのこともお願いしないとなんだけど……」
そんな会話をしていると、扉が開かれた。
顔を出したのは紅い髪と、黒い髪の女性だった。
◇