宿した者(仮)   作:雲丹

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夜の向こう

 

 

 

 

 

 扉から入って来たのは部長さんと副部長さんの二人だ。

 

 

「――流石は私の下僕ね」

 

 

 あらましをザッと説明すると、部長さんはイッセー先輩の鼻先を突いた。

 

 

「それで部長にお願いが――」

 

 

「これでしょう?」

 

 

 部長さんがイッセー先輩の眼前に出したのは紅いチェスの駒。

 

 

「っ」

 

 

 木場先輩に支えられたまま、イッセー先輩は勢いよく頭を下げた。

 

 

「お願いです、部長! アーシアを……部長の眷属にしてあげてください!!」

 

 

 支えていた木場先輩ですらよろめくような勢いと、今までにない必死さのイッセー先輩に、先輩達三人は面喰らっていた。

 

 

「……ええ、構わないわ」

 

 

 少しの沈黙の後、部長さんは言った。

 

 

「ほ、本当ですか!?」

 

 

 これまた勢いよく顔を上げ、部長さんの顔を見つめるイッセー先輩。

 

 

「元々そのために持ってきたんだもの。けれどその前に――」

 

 

「持ってきました」

 

 

 ズルズルと堕天使を引き摺ってきたのは小猫だ。

 

 

「……ひどいな」

 

 

「人を物のように投げる人に言われたくない」

 

 

 そりゃそうだ。

 俺は引き摺られてきた堕天使の顔の前に屈む。

 

 

「おーい、起きろー」

 

 

 ペチペチと頬を叩が……起きる気配は……って目が開いた。そして合った。

 

 

「お?」

 

 

「…………」

 

 

 目が合ったのも一瞬、すぐに焦点が合わなくなり、どこかボーッとした感じになってしまった。

 

 

「私にお任せを」

 

 

 副部長が手を上にかざすと、宙に水が生まれていく。

 俺と小猫が堕天使から離れると同時に、その水は堕天使に被せられた。

 バシャッという水音のあと、すぐに咳き込む堕天使。

 今度こそ意識が覚醒したのか、視線が動き、ちょうど見下ろしている部長を捉えた。

 

 

「ごきげんよう、堕天使レイナーレ」

 

 

「グレモリーか……」

 

 

 あァ、こいつレイナーレって言うんだっけ。

 

 

「はじめまして。次期グレモリー家当主のリアス=グレモリーよ。お見知りおきを」

 

 

 笑顔で言い渡す部長を堕天使は睨む。

 ……あ、あの神父起きそうだな。

 話し合いの場に俺は不要そうなので、適当に神父の意識を狩っていくことにする。

 なんだかんだで殺してないんだよなァ……。

 

 

「してやったりとでも思っているのかしら? 残念。上に内緒といえど、私に協力してくれた堕天使もいるわ」

 

 

「先に言っておくけれど、彼女達は来ないわ」

 

 

 嘲笑を浮かべた堕天使を、逆に可哀想なものを見るかのように部長さんは言った。

 

 

「最初に捉えたドーナシーク、彼が目覚めたから情報をいただいたの」

 

 

 これが証拠よ、二枚の黒い羽を部長さんは取り出した。

 

 

「う、嘘……」

 

 

「本当よ。……まぁ安心なさい。命は奪っていないから」

 

 

 呆然とした様子の堕天使に、部長さんはハッキリと言った。

 

 

「涼夜が取引材料として捕らえてくれたんですもの。無駄にはしないわ。ここにいる神父も、誰も命を落としていないでしょう? 私が言ったからよ。“生命の危険に陥らない限り、できるだけ殺すな”って」

 

 

「まァ取引とはいかなくても、貸しの一つにはなるだろ? 結構殺してるんだろうし」

 

 

 我ながら白々しい。

 ここがグレモリーの支配地……いや、俺が部長さんと知り合ってなかったら、俺は間違いなく堕天使達を殺していた。

 俺は種族を差別しない。

 優しい心を持ったやつは何処にでもいるからだ。

 ……だが逆に人間でも、救いようがないようなのはいる。

 そういう連中に慈悲は必要ない。

 

 

「そういう意味では主犯格の貴方も死なないわ。いえ、場合によっては死んだ方がマシになるかもしれなわね」

 

 

 そこはアザゼルの采配だな。

 やるべきことはきちんとやるが、あれで子供っぽい所のあるやつだ。最低でも謝罪させようとか考えそうだ。流石にないか? いや、でもなァ……。

 

 

「それと……涼夜」

 

 

「はいはーい」

 

 

 五人目の神父の意識を狩る。

 

 

「イッセーの神器(セイクリッド・ギア)。これはもしかして……」

 

 

「あァ、うん。それ赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)

 

 

 それを聞いて納得したようにイッセー先輩の籠手を見る部長さん。

 というか何故俺に聞いた? 俺は別に神器(セイクリッド・ギア)に詳しいわけじゃないぞ。

 

 

神滅具(ロンギヌス)!?」

 

 

 対照的に堕天使の方は声を荒げている。

 

 

「言い伝え道りなら、十秒間毎に持ち主の力を倍にしていくのが赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)。上手く扱えれば上級悪魔や堕天使の幹部……それこそ神すら屠れる」

 

 

「と言っても力を溜めるのに時間がかかるからな。今回みたいに相手が間抜けじゃないと、そうそう溜めさせてくれないだろうけどな」

 

 

 恐々と自分の籠手を見ていたイッセー先輩に釘を刺しておく。

 

 

「強いけど弱点も豊富ってことね……」

 

 

 難しそうな顔をするイッセー先輩。

 どうせ悪魔としての出世が楽になるとでも思ってたんだろうな。

 んー? もう目覚めそうな神父はいないな。

 戻ろう。

 

 

「――話は大方終わりか?」

 

 

「そうね。お願い」

 

 

 あいさー、と答え、俺は堕天使の首に手刀いれる。

 「あっ」とか細い声と共に、堕天使は意識を落とした。

 目覚めた時、自分を死に追いやった奴がいても邪魔だし、ちょっかいを出されても面倒だ。

 さて、と呟き部長さんはアーシアの元に近づく。

 

 

「我、リアス=グレモリーの名において命ず。汝、アーシア=アルジェントよ。いま再び我の下僕となるため、この地へ魂を帰還させ、悪魔と成れ。汝、我が僧侶として、新たな生に歓喜せよ!」

 

 

 部長さんの体を紅い魔力が覆い、駒が紅い光を発して、アーシアの胸に沈んでいく。

 

 

「……ふぅ」

 

 

 部長さんが魔力を流すのをやめる。

 呆然としているイッセー先輩。

 少しして、アーシアの瞼が動き始めた。

 

 

「あれ?」

 

 

 少女――アーシアが口を開いた。

 上半身を起こし、辺りを見渡して……イッセー先輩を見る。

 

 

「……イッセーさん?」

 

 

 怪訝そうなアーシアを、イッセー先輩は抱きしめた。

 その様子を見て、俺達は少し離れる。

 

 

「涼夜、彼女の神器(セイクリッド・ギア)の方は……」

 

 

「ん、俺が責任を持って彼女に返すよ」

 

 

 部長さんにそう答える。

 取引……というか堕天使の引き渡しだけならグレモリーなら可能だろう。

 俺の仕事はアーシア=アルジェントの神器(セイクリッド・ギア)の回収と返却だ。

 まァそれも、アザゼルに直接言ってやればすぐだろ。

 アザゼル(あいつ)神器(セイクリッド・ギア)の研究をしてるからな。

 

 

「アザゼルには便利屋時代のツテがあるんでね」

 

 

 俺が笑ってそう言うと、部長さんは目を丸くしたのだった。

 

 

 

 

 

 




はい! というわけで一巻はここまでとなります。
涼夜はアーシアと絡んでないです。
全く絡んでないです。
彼女はイッセーのヒロインということですね。


次からは二巻……焼き鳥の扱いはいくつか考えております。
期待……はせずに、暇が潰せたらいいなァくらいの考えでいてください←
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