◇
扉から入って来たのは部長さんと副部長さんの二人だ。
「――流石は私の下僕ね」
あらましをザッと説明すると、部長さんはイッセー先輩の鼻先を突いた。
「それで部長にお願いが――」
「これでしょう?」
部長さんがイッセー先輩の眼前に出したのは紅いチェスの駒。
「っ」
木場先輩に支えられたまま、イッセー先輩は勢いよく頭を下げた。
「お願いです、部長! アーシアを……部長の眷属にしてあげてください!!」
支えていた木場先輩ですらよろめくような勢いと、今までにない必死さのイッセー先輩に、先輩達三人は面喰らっていた。
「……ええ、構わないわ」
少しの沈黙の後、部長さんは言った。
「ほ、本当ですか!?」
これまた勢いよく顔を上げ、部長さんの顔を見つめるイッセー先輩。
「元々そのために持ってきたんだもの。けれどその前に――」
「持ってきました」
ズルズルと堕天使を引き摺ってきたのは小猫だ。
「……ひどいな」
「人を物のように投げる人に言われたくない」
そりゃそうだ。
俺は引き摺られてきた堕天使の顔の前に屈む。
「おーい、起きろー」
ペチペチと頬を叩が……起きる気配は……って目が開いた。そして合った。
「お?」
「…………」
目が合ったのも一瞬、すぐに焦点が合わなくなり、どこかボーッとした感じになってしまった。
「私にお任せを」
副部長が手を上にかざすと、宙に水が生まれていく。
俺と小猫が堕天使から離れると同時に、その水は堕天使に被せられた。
バシャッという水音のあと、すぐに咳き込む堕天使。
今度こそ意識が覚醒したのか、視線が動き、ちょうど見下ろしている部長を捉えた。
「ごきげんよう、堕天使レイナーレ」
「グレモリーか……」
あァ、こいつレイナーレって言うんだっけ。
「はじめまして。次期グレモリー家当主のリアス=グレモリーよ。お見知りおきを」
笑顔で言い渡す部長を堕天使は睨む。
……あ、あの神父起きそうだな。
話し合いの場に俺は不要そうなので、適当に神父の意識を狩っていくことにする。
なんだかんだで殺してないんだよなァ……。
「してやったりとでも思っているのかしら? 残念。上に内緒といえど、私に協力してくれた堕天使もいるわ」
「先に言っておくけれど、彼女達は来ないわ」
嘲笑を浮かべた堕天使を、逆に可哀想なものを見るかのように部長さんは言った。
「最初に捉えたドーナシーク、彼が目覚めたから情報をいただいたの」
これが証拠よ、二枚の黒い羽を部長さんは取り出した。
「う、嘘……」
「本当よ。……まぁ安心なさい。命は奪っていないから」
呆然とした様子の堕天使に、部長さんはハッキリと言った。
「涼夜が取引材料として捕らえてくれたんですもの。無駄にはしないわ。ここにいる神父も、誰も命を落としていないでしょう? 私が言ったからよ。“生命の危険に陥らない限り、できるだけ殺すな”って」
「まァ取引とはいかなくても、貸しの一つにはなるだろ? 結構殺してるんだろうし」
我ながら白々しい。
ここがグレモリーの支配地……いや、俺が部長さんと知り合ってなかったら、俺は間違いなく堕天使達を殺していた。
俺は種族を差別しない。
優しい心を持ったやつは何処にでもいるからだ。
……だが逆に人間でも、救いようがないようなのはいる。
そういう連中に慈悲は必要ない。
「そういう意味では主犯格の貴方も死なないわ。いえ、場合によっては死んだ方がマシになるかもしれなわね」
そこはアザゼルの采配だな。
やるべきことはきちんとやるが、あれで子供っぽい所のあるやつだ。最低でも謝罪させようとか考えそうだ。流石にないか? いや、でもなァ……。
「それと……涼夜」
「はいはーい」
五人目の神父の意識を狩る。
「イッセーの
「あァ、うん。それ
それを聞いて納得したようにイッセー先輩の籠手を見る部長さん。
というか何故俺に聞いた? 俺は別に
「
対照的に堕天使の方は声を荒げている。
「言い伝え道りなら、十秒間毎に持ち主の力を倍にしていくのが
「と言っても力を溜めるのに時間がかかるからな。今回みたいに相手が間抜けじゃないと、そうそう溜めさせてくれないだろうけどな」
恐々と自分の籠手を見ていたイッセー先輩に釘を刺しておく。
「強いけど弱点も豊富ってことね……」
難しそうな顔をするイッセー先輩。
どうせ悪魔としての出世が楽になるとでも思ってたんだろうな。
んー? もう目覚めそうな神父はいないな。
戻ろう。
「――話は大方終わりか?」
「そうね。お願い」
あいさー、と答え、俺は堕天使の首に手刀いれる。
「あっ」とか細い声と共に、堕天使は意識を落とした。
目覚めた時、自分を死に追いやった奴がいても邪魔だし、ちょっかいを出されても面倒だ。
さて、と呟き部長さんはアーシアの元に近づく。
「我、リアス=グレモリーの名において命ず。汝、アーシア=アルジェントよ。いま再び我の下僕となるため、この地へ魂を帰還させ、悪魔と成れ。汝、我が僧侶として、新たな生に歓喜せよ!」
部長さんの体を紅い魔力が覆い、駒が紅い光を発して、アーシアの胸に沈んでいく。
「……ふぅ」
部長さんが魔力を流すのをやめる。
呆然としているイッセー先輩。
少しして、アーシアの瞼が動き始めた。
「あれ?」
少女――アーシアが口を開いた。
上半身を起こし、辺りを見渡して……イッセー先輩を見る。
「……イッセーさん?」
怪訝そうなアーシアを、イッセー先輩は抱きしめた。
その様子を見て、俺達は少し離れる。
「涼夜、彼女の
「ん、俺が責任を持って彼女に返すよ」
部長さんにそう答える。
取引……というか堕天使の引き渡しだけならグレモリーなら可能だろう。
俺の仕事はアーシア=アルジェントの
まァそれも、アザゼルに直接言ってやればすぐだろ。
「アザゼルには便利屋時代のツテがあるんでね」
俺が笑ってそう言うと、部長さんは目を丸くしたのだった。
◇
はい! というわけで一巻はここまでとなります。
涼夜はアーシアと絡んでないです。
全く絡んでないです。
彼女はイッセーのヒロインということですね。
次からは二巻……焼き鳥の扱いはいくつか考えております。
期待……はせずに、暇が潰せたらいいなァくらいの考えでいてください←