宿した者(仮)   作:雲丹

14 / 52
Crisis

 

 

 

 

 

 数日後、部室にて俺はクッキーを焼いていた。

 中々上手くできそうだな。いつもなら鼻歌を歌うレベルだ。

 だが今。

 部屋中に立ちこめる甘い香りに対して、雰囲気の方はひどく重い。

 部長さんは機嫌が悪そうだし、笑顔で冷たいオーラを漂わせている副部長さん。小猫は俺の横でオーブンレンジで焼かれているクッキーを眺めていて、銀髪のメイド――グレイフィアがクールな面持ちで佇んでいる。

 そんな中、部室の扉が開かれた。

 イッセー先輩と木場先輩、アーシア先輩だ。

 

 

「まいったね……」

 

 

 部室の様子に、木場先輩が顔を強張らせて呟く。

 アーシア先輩も不安を感じているのか、イッセー先輩の制服の袖口を掴んでしまっている。

 とりあえず俺が手を振ると、新人二人は幾ばくかホッとしたようだった。

 

 

「全員揃ったわね。では、部活を始める前に少し話があるの」

 

 

 部長さんがメンバーの一人一人を確認すると、口を開いた。

 

 

「お嬢様、私がお話しましょうか?」

 

 

 グレイフィアの申し出を部長さんが手で制する。

 

 

「実はね――」

 

 

 部長さんが口を開いた瞬間、部室の床の魔方陣が輝いた。

 ……転移か。

 魔方陣に描かれていた紋様が変化した。

 

 

「――フェニックス」

 

 

 小猫が小さく言った。

 フェニックス……不死鳥か。

 魔方陣から炎が巻き起こり、室内を熱気が包み込んだ。

 これ、電子機器大丈夫なのか?

 

 

「教えてくれてありがとさん」

 

 

「いえ、言っておかなかったら何をしでかすか分からないので」

 

 

 なまじ当たっているせいで否定できない。

 いやね? こんな攻撃的な登場のされ方をされたら、な? もしも教えてもらっていなかったら、俺は今のを敵襲だと判断していた。

 具体的に言うのなら制圧していた。

 

 

「ふぅ、人間界は久しぶりだ」

 

 

 炎の中のシルエットが腕を横に薙ぐと、周囲の炎が振り払われた。

 

 

「ああ? なんで人間がいるんだ? ……使用人か」

 

 

 そこにいたのは赤いスーツの男。

 俺を見、エプロンをしているのを確認して一人納得している。

 

 

「さて……愛しのリアス。会いに来たぜ」

 

 

 スーツを着崩した見た目二十代前半の男は、口元をにやけさせて言った。

 

 

「さっそくだが、式の会場を見に行こう。日取りも決まっているんだ、早め早めがいい」

 

 

 軽々しい男を、部長さんは半眼で見つめていた。

 その部長さんの腕を男が掴んだ。

 

 

「……離してちょうだい、ライザー」

 

 

 低く迫力のある声で、部長さんは男の腕を払った。

 男の方は振り払われたことを気にしていないように苦笑している。

 俺はチラリとイッセー先輩を見る。……ムカムカした顔をしてる。

 

 

「おい、あんた。部長に対して無礼だぞ。つーか、女の子に対してその態度はどうよ?」

 

 

 あ、言っちゃったよ。

 

 

「あ? 誰、お前?」

 

 

 不機嫌な口調の男。

 判り易い性格だな、こいつ。

 

 

「俺はリアス=グレモリー様の眷属悪魔! 兵士(ポーン)の兵藤一誠だ!!」

 

 

 言ってやったぜ顔のイッセー先輩に対し、男の方は特に興味なさげに「ふーん」とだけ返した。

 拍子抜けなイッセー先輩。

 

 

「……つーか、あんた誰だよ」

 

 

「あ? リアス、俺のこと話してないのか? つーか、俺を知らないのか? 転生者? それにしたってよ」

 

 

 こいつらつーかつーか言い過ぎだろ。

 流行ってんのか?

 

 

「話す必要がないから話してないだけよ」

 

 

「相変わらず手厳しいねぇ。ハハハ……」

 

 

 目元を引き攣らせる男。

 

 

「兵藤一誠様」

 

 

 ここにきてグレイフィアが介入するようだ。

 どもりながら返事をするイッセー先輩。

 

 

「この方はライザー=フェニックス様。純血の上級悪魔であり、古い家柄を持つフェニックス家のご三男であらせられます。そして――グレモリー家次期当主の婿殿でもあらせられます」

 

 

 イッセー先輩、軽く処理落ちしてないか?

 

 

「つまり婚約者ね」

 

 

 とりあえず現実を見ないでいるのも問題なので、イッセー先輩に聞こえる声で呟く。

 

 

「…………ええええええええええええええええええええええええええええ!?」

 

 

 イッセー先輩の絶叫。

 それはまァ予想ができていたので、俺は耳を塞ぐことで被害を受けずに済んだ。

 ……しかし純血ね。

 つまりこれはその純血を絶やさないための婚約ってわけだ。

 今や純血悪魔は少ないって聞くし、七十二柱の悪魔も半数もいないと言われてる。

 悪魔も必死だ。

 

 

「私は家を潰すつもりはないわ。婿養子だって迎え入れるつもりよ」

 

 

 男……ライザーの腕を再び払い、部長さんは言った。

 ライザーは笑みを深くする。

 

 

「さすがはリアス! じゃあさっそく俺と――」

 

 

「でもそれは貴方じゃないわ。私は私がいいと思った人と結婚する。それぐらいの権利はあるわ」

 

 

 ライザーの言葉を遮って部長さんはハッキリ言った。

 それを耳にしてライザーの機嫌は悪くなったようだ。目元を細め、舌打ちまでした。

 

 

「……俺もな、フェニックス家の看板背負った悪魔なんだよ。この名前に泥を塗らせるわけにはいかないんだ。こんな狭くてボロい人間界の建物になんか来たくなかったしな。というか俺は、妹と違って人間界があまり好きじゃない。この世界の炎と風は汚い。炎と風を司る悪魔としては、耐えがたいんだよ!!」

 

 

 怒鳴る声と共に炎が駆け巡る。

 言う割にしょぼい炎なんですが。あァ流石に加減してるのか。……どっちにしろ別に質の良い炎ってわけでもないが。

 

 

「俺はキミの下僕を燃やし尽くしてでも、キミを冥界に連れて帰るぞ」

 

 

 室内に殺意と敵意が広がる。

 アーシアがイッセー先輩の腕に抱きついた。……プレッシャーに耐えられなかったんだろう。そしてそのイッセー先輩にも、この圧力はきついだろう。

 小猫と木場先輩もいつでも臨戦態勢に入れるようになっているし、部長さんも紅い魔力を纏い始めている。

 

 

「へェ……?」

 

 

 戦闘開始でいいのか?

 

 

「おやめください!」

 

 

 俺がそう尋ねるより早くに、グレイフィアが静かに怒鳴った。

 その視線が最初に捉えていたのは……俺。

 はいはい、何もしませんよっと。

 

 

「これ以上やるのでしたら、私も黙って見ているわけにもいかなくなります」

 

 

 一瞬だけ俺に視線を送ったグレイフィアは、すぐに今回の問題の中心にいる二人に言った。

 

 

「サーゼクス様の名誉のために、遠慮などしません」

 

 

 静かに迫力のある声だ。

 それを聞き、部長さんとライザーはそれぞれ纏っていたものを霧散させた。

 

 

「最強の女王(クイーン)にそんなことを言われるのは、さすがに俺も恐いよ。サーゼクス様の眷属とは絶対に相対したくない」

 

 

 それってつまり格上とは戦いたくないって宣言だろ? 別に全然格好よくないのに、なんで格好付けながら

言ってんだ。

 

 

「刺激があるから人生は楽しいんだろうに」

 

 

 呆れるな。

 こんなんが純血悪魔か。

 せめて何時かは戦いたいくらい言ってみろよ。

 

 

「こうなることは両家共に重々承知でした。正直に申し上げますと、これが最後の話し合いの場だったのです。もし決着のつかなかった場合は最終手段をと、皆様方は仰られていました」

 

 

「最終手段? どういうこと?」

 

 

 部長さんは訝しげな表情だ。

 

 

「お嬢様、意思を押し通すのであれば、ライザー様とレーディングゲームにて決着をつけるのはいかがでしょう?」

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。