◇
ライザー達がいなくなり、再び室内を重い雰囲気が包み込む。
「涼夜様」
そんな空気の中、グレイフィアが俺に声をかけてきた。
「サーゼクス様から極秘の依頼があります」
「妹とその眷属を鍛えてほしい……とか?」
俺の予想にグレイフィアは静かに頷いた。
「ちょ、ちょっと待って!」
割り込んできたのは慌てた様子の部長さんだった。
展開に着いて行けないみたいだ。
……当然か。
俺のこと、あんまり知らないもんな。
「お嬢様、少し落ち着いてください」
「だ、だってお兄様は……それに涼夜に依頼って……」
グレイフィアに窘められ、勢いを徐々に消していく部長さん。
「お嬢様はDevil May Cryというのを知っていますか?」
「Devil May Cry……悪魔も泣きだす?」
あ、知らないのね。
首を傾げている部長さんが、他の部員を見渡す。
皆が首を振る中で、最後に俺を見る。
「Devil May Cryは主に悪魔……じゃない。魔物絡みの事件を解決する便利屋だよ」
言ってしまえば察するだろう。
俺が所属している便利屋がDevil May Cryなのだと。
「そして非公式ではありますが、サーゼクス様も依頼をなさったことがあります」
アザゼルもな。
「一応言っとくけど、俺にじゃなくて師匠にな」
大事なことなので言っておく。
「そうは言いますが、もう十年以上を師と共に過ごし、鍛えられ、依頼をこなしています。実力は折り紙付きです」
「ねェ、過大評価やめて」
俺が頬を掻きながら指摘する。
「照れているのですか?」
「照れてないです」
「顔が赤いですよ?」
「気のせいですよ」
「そう言えば褒められ慣れていないんでしたね」
知っててやってんのか!!
しかも今小さな声で「新鮮だったのでつい」って言ったな!?
あーもう、部長さん達が唖然としてるじゃないか!!
「でだ。真面目な話、俺に誰かを鍛えるのは……」
とっとと話を変えさせてもらおう。
「あれ? でもお前、小猫ちゃんと特訓してるじゃん」
まさかのイッセー先輩から攻撃が来た。
「そう言えば僕もたまに打ち合ってもらってるね」
木場先輩から追撃でござる。
それを聞いてグレイフィアは付け足した。
「ちなみに報酬は言い値で払うそうです」
と。
吹き出した。
冗談抜きで。
言い値って……お前……。
「……そうね」
あァ? 何を納得してるんだ、部長さん。
「涼夜、私達を鍛えてもらえるかしら?」
……参ったな。
さっきの情報のせいで断れなくなってきた。
「私からもお願いしますわ」
深々と頭を下げる副部長さん。それを見て慌てて部長さんも頭を下げる。
「俺からも……頼む!」
「僕からもお願いしていいかな?」
イッセー先輩、木場先輩……。
「あ、あの私も頑張りますので、お願いします!」
「……お願い」
……まァ俺がやろうとしてたことよりマシか。
全員に頭を下げられては、断れない。
「…………グレイフィア」
壁際にいたグレイフィアの前に立つ。
「なんでしょうか」
「サーゼクスに伝言。報酬は結果を見て決めろって」
「かしこまりました」
俺の答えが判っていたのか……いや、判ってたんだろうな。
満足そうに頷いたグレイフィアは転移して行った。
「……あ?」
ふと視線を部員の皆の方に向けると、なぜか俺を見て硬直していた。
あれ、なんかデジャヴ……。
「涼夜!」
「涼夜君!」
「ヘアッ!?」
一番大きなお二人の歓喜の声と共に抱きつかれた。
それも小猫、イッセー先輩、アーシア先輩、木場先輩を巻き込む形で。
しかも俺の後ろが壁だったせいで、抑え付けられる形になってしまっている。つまり抜け出せない。
年長者組に包まれるようにもみくちゃになる俺達下級生組。
「……きつい……あつい……ちかい……」
俺の胸に顔を埋めてしまっている小猫がなんか呟いている。
イッセー先輩は横の木場先輩を離そうとしているが、背中にいる部長さんと前にいるアーシア先輩の感触を楽しんでいるみたいだ。余裕だな!
副部長さんは必要に俺や小猫の頭を撫でているし……もうどいつもこいつも鬱陶しい!!
「ちょ、離せ! まだ勝てると決まったわけじゃないんだよ!!」
俺がそう叫ぶと、ハッとなったのか部長さん達は離れてくれた。
意外と言うこと聞いてくれるのな。……副部長さんは渋々だったし、イッセー先輩は残念そうだ。あ、アーシア先輩の顔真っ赤じゃん。大丈夫か?
「ご、ごめんなさい。貴方が頼りになるのは知ってたけど、まさかグレイフィアにあそこまで言わせると思ってなくて……なんて言うか……ホッとしちゃって」
それは……もうさ。
言い方が卑怯なんだよなァ……。
ちょっと目が潤んでたし、不安だったってことだろ? 本当に勝ってもらいたくなる。勝たせたくなる。
……あァ、やれるだけやってやるさ。
「顔がニヤけてる」
「これからのことを考えてるの」
小猫、俺は別に部長さんがなんか可愛かったとか思ってるわけじゃない。副部長は頭撫でるの上手かったなとか思ってるわけじゃない。
……本当だからその疑わしげな目をやめなさい。
◇
「それで話を戻すわけだが」
クッキーがテーブルに置かれ、全員の手に副部長の紅茶が行き渡ったところで俺は切り出す。
「十日の間……学校は?」
「それは私の方でなんとかするわ。場所もグレモリーの敷地を提供できるから、そこを使うのがいいと思うの」
部長さんの言葉に頷く。
なら十日はフルに修行に当てられるってことな。
「敵の眷属の特徴は知ってるのか?
俺のことを覗き見てた金髪ちゃん。
「それはレイヴェルね。ライザーの妹よ」
なるほどな。
いも――
「――妹?」
俺は素で聞き返してしまった。
「あいつは自分の妹にも手を出してるんですか!?」
俺の言葉をかき消すほどのイッセー先輩の言葉。
あァ、うん。そうなるよな。
俺も驚いた。
いかにも……というか確実に眷属に手を出してる奴だ。
その眷属に実妹がいるとは……。
「手を出している……かは分らないけど、血の繋がった妹よ」
……とんでもないな、あの男。
そしてイッセー先輩、少し落ち着こう。
「くそなんて羨ま……いや、最低な……けど……」とまさに百面相だ。
「じゃあやっぱり不死なんだな?」
「そうだけど……よく分ったわね?」
「あんだけ近くにいりゃ判る」
こともなく言うと、全員が唖然としていた。
「……相手の力量、能力、そういうのが一目でザッとでも理解出来る。そういう直感とも言えるスキルは経験積めば覚えるよ。ただまァあくまで目安だけど」
なんだかんだで必須技能だ。
力量差が判らないと逃げることすらできない。
「それはいい。他は?」
「ユーベルーナ……私と同じ
爆弾の女王……。
「あれか、ディープなキスをしてた」
頷く副部長。
けどあのメンバーで厄介なのは、その辺りか。
「結論。フェニックス兄妹以外なら確実にどうにかなる……といいなァ」
願望!? と総ツッコミを喰らった。
「聞けよ。俺にできんのは能力の底上げだ。戦術はあまり教えられない。で、戦略は部長さんが考えろ」
レーディングゲームはやったことないからな。
セオリーとかも知らない。
意見を出すことはできるけどな。
「それからフェニックス……不死ってのは結構厄介だ」
「それは涼夜でも……?」
「いや、あのくらいの不死なら殺しきれる」
イッセー先輩に答えると、ほっとしたようだった。他の部員もだ。
「不死ってのは大概が殺し続ければ死ぬ。肉体的にしろ精神的にしろな」
魂ごと吹き飛ばすって手段もあるが、と付け足し……俺は言い放った。
「今回狙うべきは精神の方だ」
こいつは賛否両論かもしれない。
だが、それ以外の道はない、俺はそう言い切った。
◇
レーディングゲームに参加しない涼夜ですが、彼の見せ場はちゃんとありあます。