◇
「ひーひー……」
イッセー先輩は尋常じゃない量の荷物を背負っている。
……部長さんと不死鳥のやりとりから一日。
俺達はグレモリー家が所有する山に来ていた。
今日は抜けるほど青い快晴だ。周囲には木々が生い茂り、小鳥が鳴いている。最高の風景だ。
「ほら、イッセー。早くなさい」
イッセー先輩の遥か前方にいる部長さんが檄をとばした。
「……あの、私も手伝います」
「いいのよ、アーシア。イッセーはあれくらいこなさないと強くなれないわ」
最後尾を歩く俺。
目の前をゆっくり歩くイッセー先輩は、巨大なリュックサックを背負っている。更に肩に荷物をかけ、両手にも鞄を持っている。
「ん? 木場先輩なにしてんの?」
山道の脇でしゃがみ込んで。
「これは山菜だよ。夜の食材になるからね」
へー、そういうの判るんだ。
俺が素直に感心していると、木場先輩は涼しい顔をしてイッセー先輩を通り過ぎていく。
彼もイッセー先輩と同じく、巨大なリュックを背負っている。やはりイッセー先輩の地力とは比べものにならないんだな。
小猫も言わずもがな、巨大なリュックを背負っている。それも一番大きなリュックだ。
駒の特性があるとはいえ、イッセー先輩には結構ショックだったらしい。気合いを入れ直していた。まァ今までも筋トレやら何やらやってたし、筋肉痛とかにはならないですむだろ。なったら困る。
「うおりゃああああああ!!」
イッセー先輩の叫びを聞きながら、俺はキャリーケースを引き摺る。
そのイッセー先輩の叫びを何度聞いただろうか。
俺達は木造の別荘へと辿り着いた。
「……生きてるか?」
リビングに上がってすぐにイッセー先輩はぶっ倒れた。とりあえず頭の上に水の入ったペットボトルを乗せてやる。
「……遊ぶな……部長たちは?」
「動きやすい格好に着替えるってさ」
お、これに反応しないとは。相当に疲れてるようだ。
「僕も着替えてくるね」
木場先輩もか。
「覗かないでね」
「殴るぞ! この野郎!!」
余裕のないイッセー先輩は割と本気で木場先輩を睨んでいた。
「お前は着替えないのか?」
「まァね」
俺に尋ねた後、ペットボトルの水を飲み、イッセー先輩も着替えに行ってしまった。
俺は普通に私服だが、私服で戦うのにも慣れてるし問題ない。
それから暫くして木場先輩が戻ってきた。次いで女性陣だ。
皆ジャージだ。
青の木場先輩。
紅の部長さん。
黒の副部長さん。
白のアーシア先輩。
黄色の小猫。
……イッセー先輩も赤いジャージ持ってたよな。なんか俺だけハブられた感じだ。いや、どうでもいいけど。
「一体どんな修行なのか……イッセーが来るまで聞かせてもらえる?」
部長さんが口を開いた。
「……期間が十日しかないからな。戦闘経験を叩き上げる。主には一対一と多対一。基本は一人三十分から一時間。ローテで回して、空いてる時間で休息と雑学……まァその他ってやつだ」
「多対一というのは……」
「俺が一。殺す気で来ないと意味ないからな?」
挑発するような笑みを浮かべてやる。
ノッて来るかなと思ったが、そんな様子はない。
「グレイフィアは最強の
あァそうか。
グレイフィアがどれほどの実力者かは知ってるのか。
良かった。変に気を使われると無駄に時間がかかるからな。
ただでさえ少ない修行期間だ。一分一秒を無駄にしたくない。
……っと、イッセー先輩も来た。
「んじゃ、始めますか」
早速で悪いが、全員で外に出る。
とりあえず木刀はたくさん用意してくれたので、俺はそれを受け取り振り回す。
「まァとりあえず……殺気に慣れるか」
「殺気ですか?」
副部長が問うが、他の面々も同じことを思っていそうだ。
「この前イッセー先輩とアーシア先輩はかなりキツそうだったから……ついでに皆で強烈なのを喰らっとこうぜ? つってもライザーの倍位にしとくから」
笑顔で言い放つと、全員が顔を引き攣らせた。
嫌そうだな……でも毎回毎回強い殺気を受けて硬直してたらやってらんないしな。
俺は不意打ちがてら殺気を放つ。
「く……あ……」
「っ……こん、な……?」
部長さんと副部長さん、なるほど。耐えられはするようだ。プレッシャーで動けないというより、予想より強い殺気に困惑している。
「ハッ……ハッ……!」
木場先輩も……いい方だ。息が荒すぎる気もするが、俺との打ち合いで僅かな殺気を感じ取ってるだろうし、及第点。
「っ……!」
小猫は……俺を睨んでる。……彼女との特訓で何度か殺気をぶつけてるし、ある意味で一番耐性があるな。まさか逆に睨んでくるとは思わなかった。
そこで俺は一旦殺気を収める。
「あ……っ……」
「ひぅっ……」
イッセー先輩とアーシア先輩には強すぎるからだ。
殺気を止めると、イッセー先輩とアーシア先輩は座り込んでしまった。
「……涼夜! イッセーとアーシアは――!」
「必要なことでしょ」
抗議をしてきた部長さんを言葉で切り捨てる。
「一回アレ位のを受けとけば、ゲームでも動けなくなることも思考が止まることもない」
「……理由を聞いても?」
「人は慣れる。実際に小猫と木場先輩は慣れた。……それに、ライザー眷属の中で今クラスの殺気を出せる奴はいないよ」
俺は屈んで、座り込んだ二人に目線を合わせる。
「どうだった?」
「死んだと思った……」
「わ、私もです……」
今のでそういうレベルね。
仕方がないとは言え、今後を考えると厳しいな。
「動けるか?」
「お、おう」
イッセー先輩に倣い、立ち上がろうとしたアーシア先輩を手で宥める。
「今回の修行、アーシア先輩は回復担当ね」
「はい!」
「具体的には俺が皆さんをボコるので、傷を癒やしてあげてください」
「わかりま……え?」
今なんて言いました? そんな風な反応をありがとうアーシア先輩。
イッセー先輩も同じような顔だ。
「小猫、イッセー先輩、木場先輩、部長さん、副部長さん……本気で来い」
アーシア先輩から離れて木刀を肩に掲げる。
「え? ……は!?」
「十日なんて短い期間で戦闘能力を莫大に上げるなんてほぼ不可能だ。故に戦闘経験を積ませる。あァ、俺は銃も使うが、弾丸は魔力生成だから安心してくれ。ゴム弾程度にしとく」
そう宣言して俺は特攻した。
まずは呆けてるイッセー先輩だ。
「切り替えが遅い!」
「んな!?」
頭を左手で掴み、アーシア先輩の脇に投げつける。
アーシア先輩の悲鳴に、ちょっと悪いことした気がした。
「ハァ!」
木場先輩が俺の近くに迫っていた。既に彼の間合いだ。
それを木刀で受けて、同じく近づいていた小猫の拳を左手で受け止める。
「イッセー先輩! もう回復してんだろ!? かかってこい!!」
「は、はいっ!!」
どうしたらいいのか判らない、そんな感じだったイッセー先輩に怒鳴る。
多対一の実戦訓練で、お互いの動きを理解し、危機察知能力も高められたらいいんだが……。ってか、部長さんと副部長さんはあれか、攻撃範囲が広いから中々攻められないのか。
……ま、俺には関係ない。銃撃してやろう。幻影剣もな。
◇
修行はパパッと終わらせますよ。ええ。