宿した者(仮)   作:雲丹

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ヒトの温もり

 

 

 

 

 

 さて。

 今日一日でこなしたことを纏めてみよう。

 アーシア先輩を除いた五人とは、俺と一対一で戦って貰った。

 小猫と木場先輩は前衛なだけあってそこそこ戦える印象だ。

 部長さんと副部長さんはやはり後衛。

 俺の戦闘スタイルがある程度全距離に適応しているせいか、ひどいもんだった。あァいや、後衛としては優秀だし、全く戦えないわけじゃない。

 ただ間合いを詰めれた場合と、味方と敵が密集している場合が辛い。

 ので、とりあえず回避技能を上げることに専念する。

 部長さんが負けると、それはゲームの敗北だ。不満そうだったが納得させた。

 副部長さんは回避行動をとりながらの戦闘だ。いかに距離を詰めさせないようにしながら魔法を放つか、それを意識して戦ってもらっている。

 イッセー先輩とはひたすら戦闘。

 とりあえず最初の五日、或いは七日は神器(セイクリッド・ギア)はなしだ。そこは先輩次第だろう。

 アーシア先輩には主に回復に回って貰っていたのだが、別に無意味なことではない。

 聖女の微笑(トワイライト・ヒーリング)の使用に慣らすためだ。無限に使用出来るわけじゃないから、少しでも回数が増えればいいと思う。

 あと合間に小猫に鍛えてもらってる。主に合気道関連。

 制圧しろ、とは言わないが、アーシア先輩でも受け流しくらいは出来るようになってほしい。

 まァ戦闘以外にも時間はとれそうだし、それなりの成果は出せそうだ。

 

 

「うおおおおお!」

 

 

 そして今。

 

 

「美味えええええええ!!」

 

 

 絶賛夕食中である。

 騒いでいるのはイッセー先輩。

 

 

「……確かに美味い」

 

 

 テーブルに並べられているのは豪華な食事ばかりで、色とりどりの料理が並んでいる。

 

 

「あらあら、おかわりもあるからたくさん食べてくださいね」

 

 

 この夕食、作ってくれたのは副部長さんだ。

 皆も箸を止めることなく食べている。

 あの大量の荷物の大半が調理器具とはたまげた。

 

 

「……おかわり」

 

 

「は? あァ……はい」

 

 

 隣の小猫に茶碗を渡され、俺は小猫と逆サイドに置かれた炊飯器からごはんをよそって渡す。

 

 

「場所交換するか?」

 

 

「おかずが遠くなるからいい」

 

 

 あ、そう。

 静かだけど豪快に食べるなァ。

 

 

「それで涼夜。どうだったかしら?」

 

 

「まだなんとも。だけど、不死鳥兄妹以外はなんとかなるだろ」

 

 

 なんだかんだで小猫、木場先輩、副部長さんはそれなりに戦えるし。

 十日も経験積めば、危機察知能力も上がるだろうし、策も考えられるだろうし。

 

 

「そう……やっぱりそこがネックなのね」

 

 

 難しい顔をしたのも一瞬、部長さんは明るい顔を浮かべる。

 周りを不安にさせないための切り替えだろう。

 

 

「さ、食事を終えたらお風呂に入りましょうか。ここは温泉だから素敵なのよ」

 

 

「「温泉!!」」

 

 

 俺とイッセー先輩が同時に声を上げた。

 

 

「僕は覗かないよ、イッセー君」

 

 

 木場先輩がニコニコとイッセー先輩に先制した。

 

 

「ばっ、お前な! なんで俺だけなんだよ!?」

 

 

「あら、私達の入浴を覗きたいの? なら一緒に入る?」

 

 

「うふふ、涼夜君も男の子ですのね。私も構いませんわ」

 

 

 あれ、なんで俺は覗きたいと思ってる風な扱いなんだ? それは誤解だ。

 

 

「いや、俺は――」

 

 

「アーシアも、愛しのイッセーがいれば大丈夫よね?」

 

 

 部長さんの言葉に、顔を真っ赤にして俯いたアーシア先輩は小さく頷いた。

 

 

「ねェ、聞いてく――」

 

 

「涼夜も乗り気だけど、小猫はどうかしら?」

 

 

「……嫌です」

 

 

 小猫が両手でバッテン印を作り、俺を見た。

 

 

「……スケベ」

 

 

 ……理不尽過ぎるぜ。

 俺はただ温泉ってのに喜んだだけなのに……。

 

 

「じゃ、なしね。残念、イッセー」

 

 

 そして部長さん。

 俺の名前を呼ばないってことは完全にわざとだな? 俺の心情を察した上だな? ……ったく、悪戯っぽく笑いやがって……。

 

 

「……覗かせたら恨む」

 

 

「え? 俺?」

 

 

 小猫の呟きに、釘を刺された! と呻くイッセー先輩は置いておき。

 まさか俺に対して言うとは。……信頼されてると考えるべきなんだろうが、俺は先輩達と風呂に入るつもりはないんだよなァ。

 結局、俺は食器洗いという理由をつけて温泉の時間をずらした。

 覗きの件? あァ、木場先輩に任せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから数時間。

 時刻は日付が変わるちょっと前、俺は温泉に入っていた。

 

 

「うぇ~……」

 

 

 体を洗った俺は、肩までゆっくりと浸かる。

 最高だ!

 かしきりだ!!

 そんな風に思いながらゆっくりと息を吐き出す。

 気を抜いていたからか、脱衣所の扉の開いた音に気が付かなかった。

 

 

「……え?」

 

 

 後ろから聞こえた声に、俺は恐る恐る振り返っ――(いった)ァ!?

 カコーンという小気味いい音と共に、桶が後頭部にヒットしたようだ。

 

 

「……なんでいるんですか」

 

 

 振り返るより先に桶がヒットしたので目視はしていない。

 が、この声、気配、間違いなく小猫だ。

 ……初めての温泉だからって気を抜きすぎた。

 

 

「……俺の台詞な気がする」

 

 

 だってここは男湯だ。

 

 

「ここは女湯」

 

 

「は? おいおい、俺は布連も確認したぜ?」

 

 

 間違いなく男湯だったはずだ。

 大体、男湯にしろ女湯にしろでっかく布連に書いてある。それを見間違えるとか……ないだろ。……いや、それは小猫も同じか。

 どういうことだ……?

 

 

「…………」

 

 

 ちゃぷ、と水音。

 湯に広がる波紋。

 おいおいおいおい……。

 

 

「まさか入ったのか?」

 

 

「……冷える」

 

 

 いや確かにまだ夜は冷えるかもしれないが。

 しかも以外と近い位置にいるし。二メートルくらいか?

 

 

「……夜の特訓が終わって、部長に温泉に行くように勧められたから……」

 

 

「犯人あいつかよ……!」

 

 

 そしてハッとなった。

 俺はいま、小猫に背中を向けてしまっている。

 やっべ、しくった。

 体の向きを……。

 

 

「こっち見ちゃダメ」

 

 

 ですよねー。

 くっそ、湯に浸かってるから大丈夫か? 見えてないか? っていうか小猫はこっちを見てるのか!? 

 ああああああ! と頭を掻きむしりたい衝動に襲われる。

 俺の背中はひとに見せるようなもんじゃ……。

 

 

「…………涼夜」

 

 

「うっ」

 

 

 頭にチョップを喰らわされたみたいだ。

 

 

「な、何しやがる……」

 

 

「呼んでも返事がなかった」

 

 

 マジで!?

 

 

「……すいません」

 

 

 それは俺に非が……ある、のか? なんとも言えない気分だが、まァ俺が悪いのだろう。素直に謝り、気が付いた。

 また距離が近くなっている。

 ……腰にタオルを巻いているとはいえ、いいのか、これ。

 

 

「……で、どうした?」

 

 

「……私はまだ使ってない力がある」

 

 

 ……知ってるよ。

 小猫と、副部長もか。

 

 

「気が付いてますよね?」

 

 

 俺は「あァ」と短く返す。

 既に一ヶ月以上を共に過ごしている。別に同居とかではない。学校で一緒にいる時間だけでも充分に判ることだ。

 

 

「……使えって言わないの?」

 

 

 俺は黙ってしまった。

 小猫もだ。

 静寂が訪れ、時たまに雫の落ちる音が響く。

 

 

「……俺はな」

 

 

 右手を湯面から出し、上に伸ばす。

 

 

「自分の力が好きじゃないんだ」

 

 

 悪魔の力。

 魔物の力。

 

 

「別に悪魔が嫌いなわけじゃない。魔物もな」

 

 

 魔物を狩るのは、あいつらが基本的に人に仇なす存在だからだし、そういう連中は悪魔も、堕天使も、人間にだって容赦はしない。けれど誰彼構わず殺しているわけじゃない。

 

 

「自分がそうだからなのか。小猫や副部長に、使いたくない力があるんだなって……直感的にそう思った」

 

 

 言うなれば一方的なシンパシー、というやつだろうか。

 俺は伸ばした腕をゆっくりと湯に落とす。

 

 

「俺は性質上割り切ったけど、それを他の誰かに強制できないんだよなァ……」

 

 

 俺は自嘲するように笑う。

 

 

「どうして割り切ったのか、聞いてもいい……?」

 

 

 ……遠慮がちだな。

 別に大した理由じゃない。

 

 

「制御できなかったんだよ」

 

 

「え?」

 

 

 小猫は驚いてくれたようだ。

 最近皆して俺を高評価してるからな。俺なんて、そんなもんなんだよ。

 

 

「だから制御するために、敢えて使った。今も使うのは、体に馴染ませるためさ」

 

 

 結果的に戦闘でも役に立ってるんだから笑かすよな、と笑ってみせる。

 俺も師匠達のように、父の力を誇りと共に受け継げていたのなら違ったのだろう。それなら、俺でも魔人としての力を……自分を嫌うこともなかったかもしれない。

 

 

「判ってるんだよ。魔人としての力(こいつ)が無かったら、俺はただの人間だってことは」

 

 

 魔人でなかったら、俺は今ここにはいない。

 でも、俺は今の場所は気に入ってる。

 ここにいるには、魔人でなければならなかった。

 なのに未だに、この力を好きにはなれない。

 

 

「――難しいよな……」

 

 

 水面が揺れ、小猫がゆっくりと俺に背中を合わせた。

 小猫の胸元まで巻かれているのだろうタオルの感触が伝わる。

 

 

「……涼夜でも、そういう風に思うんですね」

 

 

 意外そうな、安心したような声が響く。

 よく判らないがホッとしたのか。

 それはいいんだが――……やべェ。

 超だるい。

 これ完全に逆上せた。

 よくよく考えると俺は長湯の経験なんてない。

 出たい。

 出たいけど、この状況じゃ出られない。

 どうしよう……?

 結局、小猫が先に上がるまで俺は湯に浸かることになる……のだけれど、温泉から部屋に戻るまで記憶がない。ベッドに倒れて眠ったのは覚えているのだが……これからは気をつけよう。

 ちなみに翌日。

 部長さんと副部長が俺と小猫の様子を窺っていたが、二人揃って普段通りなのを見て残念そうにしていた。どうやら何もなかったと勘違いしたらしい。

 実際は浴場でエンカウントという嬉し恥ずかしイベントがあったわけだが……っていうかマジで覚えてろよ。絶対に仕返しするからな。

 

 

 

 

 

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