◇
「粗茶です」
「あ、どうも」
小猫の発言に困惑していた俺達だったが、すぐに冷静さを取り戻すことができた。
ソファーに座るように促された俺は、姫島朱乃から受け取った温かいお茶を特に口にすることもなくテーブルに置く。
「それで――入部希望……じゃないのよね?」
「ない」
リアス=グレモリーの疑問、そこは即答させてもらおう。大事なことだ。
それに聞いた話だが、この部活は入部条件が難しいらしい。恐らく、俺も無理だろう。……小猫がいなければ、だが。
「部長、涼夜は悪魔の力を持ってます」
やっぱ余計なことを言う……。
……!?
簡単にバラしますね、小猫さん。
隣に座っていた少女の言葉に、俺はひっそりと頭を抱える。
だってリアス=グレモリーがあからさまに目を細めたし。
姫島朱乃と木場祐斗も驚いている。
「特に何も感じないのだけれど……」
「隠すのが上手なんです」
すっげー、マジで容赦なく秘密が暴かれていく。
「最初は気のせいだと思ったんですが……カマをかけたら引っかかってくれました」
どこか淡々と話していた小猫が「ですよね?」と俺を見る。
「……俺自身は人間だけどな」
言って、隠していた魔力を僅かに解放してみせる。
これには小猫以外の全員が目を見開いた。
……この力が覚醒した時のことはよく覚えている。だが、宿ったのはいつだったんだろうか。俺にも判らない。
「ガキの頃に俺と同じような体質の男に拾われて、力の使い方とかを叩き込まれた。悪魔やら天使やらの知識もそう」
なんだけど。
と、今度は俺が小猫を見る。
「……知られるなら早い方がいい」
バレんの確定かよ。
とはいえ……リアス=グレモリーは魔王の妹だし、生徒会長も同じく魔王の妹。
そのことを知ったのはこっちに来た時だったが、この学園や街が戦場になる可能性も高いだろう。
無関係な人間や友人が戦いに巻き込まれてしまえば、俺が不干渉でいるわけにもいかない。
「それに、涼夜と敵同士にはなりたくない」
どこか懇願するように小猫に言われ、俺は言葉に詰まる。
「女の子って狡いよねェ……」
ボソリと呟くと、リアス=グレモリーと目が合った。
なにか珍しいものを見たような表情で小猫を眺めていたが、俺と目が合うと苦笑を浮かべる。
「小猫がここまで言うのなら、私も貴方を信用しましょう」
姫島朱乃と木場祐斗に視線を向けるリアス=グレモリー。
すると二人も文句はないと言うように笑顔で頷いた。
流石、身内に優しいで有名なグレモリーだ。……そこを利用されないといいんだけどね。
「オカルト研究部は黒上涼夜、貴方を歓迎するわ」
「あァ……よろしく」
伸ばされた腕を取る。
リアス=グレモリーと握手をしたところで俺はハッとなった。
完全に流された、と。
ちらりと小猫を見ると、俺の視線に気が付いて声は出さずに口だけを動かした。
け・い・か・く・ど・う・り。
計画道り。
……く、悔しい……!!
「じゃあ改めて自己紹介しましょうか」
朱乃、とリアス=グレモリーが促す。
「はい。――オカルト研究部の副部長を務めている、三年生の姫島朱乃ですわ。これからよろしくお願いしますね」
和風感漂う佇まいで差し出される右手。
「ご丁寧にどうも」
その手を握り、離すと、リアス=グレモリーが今度は「祐斗」と木場祐斗に声をかける。
「僕は二年生の木場祐斗。特に役職はないけど、何かあったら気軽に頼ってほしいな」
おォー!
爽やかだ。紛う事なきイケメンだ。
同性から見ても女性に騒がれるのが判る。
そうして握手。
「小猫……はもう親しいみたいね」
「はい。同類ですから」
同類? とリアス=グレモリーがオウム返しをした。
「甘党で猫舌です」
意外だとでも言うような視線が俺に集まる。
「では、それでお茶に口を付けていないのですね」
姫島朱乃が手をポンと叩き、納得するように言った。
「てっきり警戒されているのかと……」
自分の出したお茶を、警戒されて飲まれていないと思っていたのか……それは悪いことをしてしまった。
でも猫舌なのって一々ひとに話すようなことでもないんだよなァ……。
「だが私は謝らない」
「謝ってください」
「うごっ」
小猫のツッコミという名の拳が俺の脇腹を襲った。
殴られた場所を抑えて震える。……小猫さん、あなた自分の力を理解してるんですか?
「大丈夫、相手は選んでる」
さいですか……。
「――すいませんでした」
「いえいえ、私が勝手に勘違いしてしまっただけですので」
姫島朱乃……朱乃? 副部長でいいか。
副部長に頭を下げると、彼女はにこやかに気にするなと言ってくれた。
「最後に。私が部長のリアス=グレモリーよ。彼らの主であり、グレモリー家の……ってその辺りの知識はあるのかしら?」
頷く。
ざっとではあるが知っている。
グレモリー家は純血の悪魔で、爵位は公爵だったか。
「そう……爵位は公爵で――ってそういえば貴方、涼夜と呼んでもいいかしら?」
「どーぞ」
海外育ちのようなものなので、名前で呼び合うことに特に抵抗はない。
「涼夜は私の眷属になる気はないかしら?」
眷属悪魔、ね。
この部室にいる俺以外は全員悪魔。
リアス=グレモリーが主で、その他が
文字道りの主従関係で、
「んー、特に悪魔になる理由はないな。それに俺の能力知らないで誘うのは軽率だと思うぞ?」
悪魔としての能力は勿論、本来持っていた能力も併せることになるのだが……なにもメリットだけじゃない。悪魔は日光とか苦手だし。
……まァ確かに俺は最初っから悪魔依りだけど。
ちょっと迂闊だぜ、リアス=グレモリー。それとも何か気に入られたのか、俺は? ……ないか。
こっちはなんて呼ぶか。部長?
「……残念。気が変わったら言ってちょうだいね?」
「はいよ。……俺は部長とでも呼べばいいのか?」
思い出してみれば、部員連中はそう呼んでたし。
「そうね。皆もそう呼んでくれてるし、それでお願い」
「あいさー」
小悪魔的な笑みを浮かべる部長さん。
いや、悪魔的と言った方が正しいのか。……どうでもいいわ。
結局、入部しませんとか言えなくなっちゃったし。
はー……まァいいか。
元々どこかの部活に入るつもりもなかったし、強いて言うならバイトがしたかったけど……それもなんとかなるか。
いざとなったら部長さんに相談すればいいしな。
「んじゃ、こちらも改めまして。黒上涼夜、一年。小猫とは同じクラスで、甘味仲間。これからよろしく」
俺は小さく頭を下げたのだった。
この日、一人の男子生徒が命を落とし――新たな生を受けた。
そのことは後になって知った。
◇
プロローグ的な二話です。
最後の一文が誰のことは明白ですね。
彼のデートの日はどう考えても休日なのですが、この小説では平日です。
放課後デートです。