宿した者(仮)   作:雲丹

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炎上路線

 

 

 

 

 

「正しい判断だ」

 

 

 両手を地面に着き、震えているレイヴェルとイザベラを見下ろしながら、聞こえるようにハッキリとそう口にする。

 

 

「戦いを挑むのが勇気? 否定はしねェよ。だが恐怖を知らないなんてのは、戦う者としてのスタートラインにすら立ててない」

 

 

 不死という特性と、ゲームにおける圧倒的な戦績。

 それ故に本当の意味での恐怖を……どうしようもなくなる位に体と心が冷え切り、もう駄目だ。全て終わりだ。

 そう無理矢理に理解させられる程の恐怖を知らない。

 

 

「戦いを回避することは悪いことじゃない。誤った判断で命を散らすより万倍マシだ。お前らはことここに至って、抜いた剣を鞘に納める勇気を得た。弱さを知って、初めてヒトは成長する。……まァ俺も偉そうに言えた義理じゃないんだけどな」

 

 

 反応は返ってこない、か。

 そのこと生かし、仲間の成長を促されるか本人次第……というか本来なら大人が子供に教えてやるべきことだ……って悪魔の寿命から見たら子供なのか。

 部長さんは見た目通りの年齢……つまり今年で十八。なら婚約者たる不死鳥兄もそう変わらないはず。つまり不死鳥妹であるレイヴェルも見た目通りの年齢の可能性が高い。

 これから鍛えていくはずだったのかもな。

 二人の横を抜け、屋上に跳ぼうとして、レイヴェルの声が耳に入った。

 

 

「貴方は……いつ知ったのですか?」

 

 

 未だに震えの止まらぬ声で、放たれた疑問に俺は嘲笑する。

 レイヴェルを嗤ったわけじゃない。自分自身に対してだ。

 

 

「十になる頃だったかな。氷結系の魔法を使う女に、絶望的な力の差を見せつけられた。当時の俺は、それこそ師匠達以外には負けなしで……なんていうか、調子に乗ってたんだよ」

 

 

 だからこそ、俺より少しばかり年上の女に、一方的に嬲られたのは堪えた。そして冗談抜きでトラウマになった。

 しばらくの間、ただの氷すらもまともに見れなくなったからな。

 

 

「だから、師匠達はその女に頼んだんだろうよ。俺の天狗の鼻を折って、ついでに圧倒的な力を教えてやれって」

 

 

 本当に容赦なかったし、あの女。

 ノリは軽いくせに、やってくることがエグいんだよ。……思い出したら鳥肌が。

 あァ駄目だ。

 俺やっぱあいつは苦手だ。

 二度と会いたくない。

 トラウマは克服したつもりだが……っと! 屋上(うえ)が騒がしいな。

 

 

「まァ俺はそういう……情けない感じで思い知らされたんだ」

 

 

 ダサイだろ? と言い残して、俺は大きく跳躍した。

 ちょうど目に入ったのは、一人の男の鎧が消えた瞬間だった。

 イッセー先輩だ。

 鎧が消えたのに、片腕だけが龍の先輩。

 その首を不死鳥兄が掴み、宙に浮かせた。

 

 

「ポーンの力でよくやっ――!?」

 

 

 言葉を続けられなかった不死鳥兄。

 なぜなら先輩を掴んでいた腕を、俺が投擲したアラストルが貫いたからだ。

 アラストルは魔剣で斬れ味は保証付きだ。しかも中々に大きい剣で、腕の中心めがけて突き刺されば、軽く腕を切断できる。

 

 

「貴ッ様……!?」

 

 

 反射的な行動だろうか。

 上を見上げた不死鳥兄に無数の銃弾の雨を送る。

 不死鳥兄は頭を守るように片腕を盾にして、大きく後ろに飛び退いた。

 俺はイッセー先輩の前に着地し、アラストルを引き抜く。

 

 

「妙な感じだと思ったが、腕を龍化させてたのか」

 

 

「……かっこいいだろ?」

 

 

「一人で倒せてたら倍は格好良かった」

 

 

 余裕なんてないくせに余裕そうな先輩は、俺の言葉にバツの悪そうな表情を浮かべる。

 

 

「これは……あれだ……休憩してんだよ」

 

 

 ハハッ、と笑う。

 いや本当に、ここで悪態尽くなんてな。精神的には割と余裕あんだな。

 

 

「なぜ……お前がここにいる?」

 

 

 傷を再生させた不死鳥兄が、俺を怪訝そうに睨む。

 

 

「悪いな。お前の可愛い眷属は全員が再起不能(リタイア)だ」

 

 

「バカを言え! お前のような特別魔力の高いわけでもないただの人間に、そんな真似が……!!」

 

 

 強い否定の言葉。

 

 

「けどお前の眷属来てねーじゃん」

 

 

 ははは、と片膝をついたまま笑うイッセー先輩。

 だがこれで不死鳥兄は幻影剣、二丁銃、魔剣の三つを確認できたわけだ。あと銃火器二種類と魔人化。それで今の俺の手札は全てとなる。

 

 

「くっ……どうせ卑怯な手段を……」

 

 

「レーティングゲーム自体が策を練って相手の裏をかくモンだろ」

 

 

 やれやれと首を振って見せる。

 不死鳥兄はギリッと歯をかみしめた。

 俺は「まァいいか」と会話の流れを切る。

 

 

Shall we dance?(一曲どうだ?)

 

 

「人間風情が!!」

 

 

 俺は一度イッセー先輩に視線を送り、すぐに不死鳥兄に向かって走る。

 俺と不死鳥兄との間は約十五メートル程、その程度の距離なら一足で詰められる。

 勢いのままに突き出したアラストルは、防ごうとした不死鳥兄の腕を貫き胸に突き刺さった。

 まさに串刺しだ。

 

 

「ガァ! こ、のッ!!」

 

 

 鋒を掬い上げるように持ち上げたアラストルを、今度後ろに引き、迫って来た不死鳥兄を蹴り上げる。

 ……っと、ズボンが焦げた。

 まだまだ終わらないぜ。

 俺の側面の空間に幻影剣を展開し、宙に打ち上げられた不死鳥兄に飛ばす。

 右手、右足と左手、左足を交互に狙い、上手く体が回転するようにしてやる。

 

 

「嘗めるなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 が、不死鳥兄も終わらない。

 最初の突進突き――スティンガー以外は急所を避けていたからだろう。

 自身を中心に、球状に炎を纏い幻影剣をかき消した。

 炎はざっと半径二メートル程。

 ……まァ予想通りだ。

 

 

「やりゃできんじゃねェか!!」

 

 

 口元が釣り上がったのが判る。

 炎熱を司る魔物との殺し合いなら、上級のともやったことがある俺としては、それ位やってもらえた方が嬉しい。

 戦闘狂のつもりはないが、どうせ戦うのなら楽しめた方がいい。

 アラストルを横薙ぎに振るい、不死鳥兄に向けて雷を飛ばしてやる。

 その雷は炎を容易く飲み込んだ。

 

 

「……化物め」

 

 

 炎で形取られた翼を纏い、不死鳥兄が言った。

 球状の炎は消し飛んだが、すでに肉体は再生し始めている。未だに帯電はしているが、戦闘は続行できそうだ。

 

 

「よく言われる」

 

 

 これで……俺が介入して一分ほどか。

 左肩に後ろから右手が添えられた。

 

 

「サンキュー、涼夜」

 

 

 イッセー先輩だ。

 どうやらもう動けるようだ。

 

 

「後は俺が」

 

 

 俺は頷いて、校舎から屋上に繋がる扉の上に跳び、そこに置かれている貯水タンクの方に寄り掛かった。

 不死鳥兄は解さないと言った表情をしているが、知ったことじゃない。

 

 

「アーシアが言ってた。悪魔は十字架と聖水が苦手だって。効果は抜群だったな」

 

 

 使ったのか。

 不死鳥兄も顔を強張らせてるし。

 っていうか、僅かに漂う光の気配はそれか。

 

 

「木場が言ってた。視野を広げて、相手と周囲を見ろって」

 

 

 先輩の独白は続く。

 

 

「朱乃さんが言ってた。魔力は体全体を覆うオーラから流れるように集めるって。ああ、駄目な俺でも、やっと理解できた」

 

 

 左手に光の力が増した。……十字架でも持ってるのか? それを強化した? そうか、龍の腕なら聖なる力でも問題ないのか。

 それに体を覆う魔力も徐々に増加していっている。

 

 

「小猫ちゃんが言ってた。打撃は体の中心線を狙って、抉り込めって」

 

 

 体勢を整えて拳を握る先輩が駆け出すと、体を包んでいた赤いオーラが弾けた。

 オーラの代わりに体を纏っているのは全身鎧。

 

 

「涼夜が言ってた。自分の弱さを理解してるってことは、強くも優しくもなれることだって」

 

 

 一瞬で距離を詰めた先輩に、不死鳥兄は漸く慌てふためいた。

 今の今まで再生に力を注いでいたツケだ。

 

 

「な、待て! この婚約は悪魔の未来のためにも必要なことなんだぞ!?」

 

 

 知るか、と不死鳥兄の言葉を切り捨てた先輩。

 

 

「部長が泣いていた――俺がてめえを殴る理由なんて、それだけ充分だァァーーーッ!!」

 

 

 十字架付きの先輩の拳が、不死鳥兄の腹に深くめり込んだ。

 

 

「がはっ!」

 

 

 血反吐を吐きながら、数歩後退る不死鳥兄。

 

 

「こ、こんなことで、俺が……?」

 

 

 そう零して、不死鳥兄は倒れ込んだ。

 立ち上がる様子はない。

 鎧を霧散させた……いや、霧散させざるを得なかったのであろう先輩に近づく。

 それに気が付いた先輩は、こちらを見て笑った。

 

 

「……楽勝!」

 

 

 右手で拳を作り、俺の方に突き出して来る。

 

 

「……の割には満身創痍っぽいけど」

 

 

 俺も笑い、先輩の拳に右手の拳をぶつけたのだった。

 

 

 

 

 

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