宿した者(仮)   作:雲丹

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EX.一誠の場合

 

 

 

 

 

 球技大会を知らせる花火が空に響く。

 今日の天気予報は夕方から雨だそうで……大会が終わるまでは降ってくれるなよ。

 この後は男女別の種目で、その後が部活対抗戦。

 俺は体を温めるために筋トレ。アーシアは朱乃さんに手伝ってもらって、ストレッチで体をほぐしている。

 小猫ちゃんと涼夜は下に敷いたビニールシートの上で、球技のルールブックを読んで最終チェックをしている。

 ちなみに二人のクラスは、クラス対抗戦で優勝していた。俺達オカ研部員も空いてる時間で応援に行っていたのだが、小猫ちゃんと涼夜以外のメンツも相当に濃かった。

 っていうか強すぎだった。運動能力もそうなんだけど、戦略のレベルも高い――部長もそう賞賛したくらいだ。

 木場は……物思いにふけっている。

 ここ最近ずっとだ。

 部長は部活対抗戦の種目を確認しに行っているのだが……あっ、帰ってきた。

 帰還した部長は不適な笑みを浮かべている。

 

 

「ふふふ。勝ったわよ、この勝負」

 

 

「部長、それで種目は?」

 

 

 部長はピースサインで言う。

 

 

「ドッジボールよ!」

 

 

 俺は嫌な予感しかしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「部長ぉぉぉぉ! がんばれぇぇぇ!!」

 

 

 テニスコートのフェンスから俺は部長へエールを送っていた。

 うぅ、部長のテニスウェア姿! ミニのスカートから覗く太もも……最高だ!

 

 

「会長ぉぉぉ! 勝ってくださぁぁぁい!!」

 

 

 あ、反対側で匙の野郎も応援してる。

 "生徒会"と刺繍された旗まで振ってる。

 

 

「あっちの兵士は気合い入ってるなァ」

 

 

 涼夜もちゃんと応援をしろよ。

 ってお前、匙が会長のポーンだって知ってたのか。

 

 

「気合いならこっちも負けてない」

 

 

 小猫ちゃんの言う通り、気合いなら負けてないぜ!!

 

 

「うふふ。上級悪魔同士の戦いがこんな所で見られるなんて素敵ですわね」

 

 

 朱乃さんも楽しそうだ。

 確かにそうだ。

 まさかこんなところで上級悪魔の戦いが始まるなんてね。

 しかも二人とも全く手を抜いていない。真剣そのものでラケットを振るっている。

 

 

「おくらいなさい! 支取流スピンボール!!」

 

 

 会長の放つボールが、高速回転で部長に迫る。

 

 

「甘いわ! グレモリー流カウンターをくらいなさい!!」

 

 

 ラケットで返そうとする部長だが、ボールが突然軌道を変えて急降下した!

 うおおお! 魔球か!?

 

 

「フィフティーンサーティ!」

 

 

 ああ、会長にポイントが入っちまった!

 

 

「やるわね、ソーナ。さすがは私のライバルだわ」

 

 

「うふふ、リアス。負けた方が小西屋のトッピング全部つけたうどんを奢る約束、忘れてはいないわよね?」

 

 

「ええ。私ですら試していないそれを、貴女に先を越されるなんて屈辱だわ。絶対に私が勝たせてもらう! 私の魔動球は百八式まであるのよ?」

 

 

「受けて立つわ。支取ゾーンに入ったものは全て打ち返します」

 

 

 何やらお二人とも瞳に炎が宿っているのですが……。

 

 

「賭けの対象が庶民的だ」

 

 

「それが二人の良いところ」

 

 

 涼夜と小猫ちゃんに同感だ。

 人間界に住むのが長いと、感覚も人間っぽくなるのかな。

 結局、部長と会長の凄まじい決戦は長い一戦となり、最終的に両者ともにラケットが壊れて、同位優勝ということで片が付いた。

 涼夜が不完全燃焼な終わり方に、残念そうに溜め息を吐いていた。なんだかんだで楽しんでたもんな、お前。

 でもまぁ、あんな激しいラリーを繰り返してたら普通のラケットなんて壊れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして時間は部活動対抗戦。

 ……なのだが、直前になってどこかに行ってしまったアーシアが、ブルマ姿になって帰ってきた。

 

 

「ブルマ……!」

 

 

 うぅ、白い生足が……太ももが……ッ!

 アーシアはもじもじしながら顔を真っ赤にしている。

 

 

「あ、あの……桐生さんに聞いたんです」

 

 

「希硫酸に聞いた!?」

 

 

 涼夜、うるさい。

 それにお前のはイントネーションが違う。

 ボケか? ってああ、帰国子女故のヅレか。

 

 

「ドッジボールの正装はブルマだって……それにイッセーさんも喜ぶって……」

 

 

 き、桐生ぅぅぅぅぅッ! あ、あの女! うちの可愛いアーシアになんて素敵な――じゃない! 破廉恥なことを教えるんだ!!

 

 

「ダメですか?」

 

 

 上目遣いに聞いてくるアーシア。

 

 

「ううん、最高だよ。ありがとうございます……ありがとうございます!」

 

 

 俺はアーシアの手を取って何度もお礼を申し上げた。

 

 

「あっれ、ルールブックにドレスコードの有無は書いてなかったんだが……」

 

 

「……ドッジボールに正装はない」

 

 

 意外と真面目なところがあるのか、涼夜が不思議そうにしていたけど、小猫ちゃんがフォローしていた。

 

 

「それくらい知ってるもんじゃないのか?」

 

 

 涼夜に尋ねる。

 

 

「スポーツの経験なんて、ストバスをかじったことしかないんだよね」

 

 

 ああ、だからクラス対抗戦にしか出てなかったのか。ルールの確認をちょくちょくしてた理由もそれっぽいな。っていうかストバスって……女子受け良さそうだな、チクショー。

 

 

「イッセーさん、例の物を配ったらどうですか?」

 

 

 っと、そうだ。

 アーシアに言われた通り、俺は皆に配るものがあった。

 

 

「皆! これ巻いてチーム一丸になろうぜ!」

 

 

 取り出したのは"オカルト研究部"と刺繍してあるハチマキ。

 俺のお手製だ。

 

 

「あら、準備がいいのね」

 

 

 最初に手にとってくれたのは部長だ。

 

 

「――うん。イッセーって器用なのね。上手くできているわ」

 

 

「へへ、実はこっそり練習してました」

 

 

 涼夜の菓子作りほどの才能はなかったが、それでも毎日少しずつ練習すれば、そこそこの見栄えのものができる。

 それでも上手い人には全然敵わないけど。

 

 

「……予想外の出来映え」

 

 

 ありがとう、小猫ちゃん!

 

 

「ほー……いいな、こういうの」

 

 

 そうだろ、涼夜。

 

 

「あらあら、確かに他の部活動ではアイテムを用意してますわね。帽子だったり、ユニフォームだったり」

 

 

「そうなんです、朱乃さん! そんなわけで俺も作ってみました!!」

 

 

 皆喜んでくれたみたいだ。嬉しいもんだね。夜なべしたかいがあったぜ。

 

 

「ほら、木場も」

 

 

「……う、うん。ありがとう」

 

 

「……今は勝つことに集中しろよ」

 

 

「勝つ、か。……そうだね、勝つことが大事だ」

 

 

 なんだ、その意味ありげな口調。

 色々と心配になるが、木場もハチマキを巻いてくれた。

 ふと見ると、小猫ちゃんは部長に、涼夜は朱乃さんにハチマキを巻いて貰っていた。……あの二人、部活ないでは妹や弟みたいな扱いを受けてる。

 本人……特に涼夜の方は割と抵抗あるみたいだけど。

 

 

『野球部とオカルト研究部の皆さんは、グラウンドへお集まりください』

 

 

 アナウンスで呼び出され、俺達の試合が始まった。

 のだが。

 

 

「狙え! 兵藤を狙うんだ!!」

 

 

「うおおおおおっ! てめぇら、ふざけんんあああああ!!」

 

 

 飛んでくる剛速球を避けながら、俺は涙ながらに叫んでいた。

 そんな俺を見て、涼夜が口元を隠して笑いを堪えている。バレバレだからな! いっそのこと笑えよ!!

 ……開始された部活対抗戦。

 開始早々から俺だけが狙われていた。

 理由なんかすぐにわかったぜ。

 俺以外の部員に当てるわけにはいかないんだ、こいつら的には!

 部長――学園の二大お姉様の一人。大人気の学園アイドル。……当てられない。

 朱乃さん――部長と同じく二大お姉様。学園のアイドル。……当てられない。

 アーシア――二年生で最も癒やし系な天然美少女。しかも金髪。……当てられない。

 木場――全男子の敵だが、当てたら女子に恨まれる。……当てられない。

 小猫ちゃん――学園のマスコット的なロリロリ少女。……当てられない。

 涼夜――一年生の中では男女共に人気。クラスメイトや家庭科部の面々のおかげで二、三年の女子にも気に入られている。……当てられない。

 俺ことイッセー――なぜこいつが美男美女ばかりのオカ研にいるのかわからない。当てても問題ないだろう。いや、むしろ当てるべきだ。ちくしょう、死ね。あいつに照準を合わせろ! ヘッドショットだ! 殺せ! あの野獣を殺すんだ!!

 そんな奴らの声が聞こえてくるぜ!!

 究極の消去法だ!!

 

 

「イッセーを殺せええええええ!」

 

 

「アーシアさんを正常な世界に戻すんだ!!」

 

 

「お願い! 兵藤を倒して!! お姉様達のために!!」

 

 

「小猫ちゃんに手を出そうとする野獣め!!」

 

 

「黒上! 思い出すんだ!! 君の敵は兵藤なんだ!!」

 

 

 全校生徒の悪意が俺に集中する。

 くっそ、うるさいぞ! ギャラリー!!

 

 

「イッセーにボールが集中しているわ! 戦術的には犠牲(サクリファイス)かしらね! イッセー、これはチャンスよ!」

 

 

「がんばりまああああす!!」

 

 

 部長に期待されたなら、俺だって体を張るしかない。

 幸いにも、俺に集中するボールは涼夜がキャッチして投げ、外にいる小猫ちゃんがそれを確保できる。その小猫ちゃんの細腕から繰り出される剛速球も、涼夜が受け取れる。

 おかげでいい感じに相手の数が減っていく。

 俺がボールから逃げ続ければ、優勝も楽に狙える!!

 そんなことを思っていたら、一人の剛胆な野球少年が照準を木場に合わせた。

 

 

「クソォ! 恨まれてもいい! イケメンめ!」

 

 

 おお! イケメンへの憎悪が大きかったのか!

 

 

「――何ボーッとしてやがるんだ!!」

 

 

 遠い目で試合に集中していなかった木場に、俺は毒づきながらも駆け寄っていた。

 庇うように前へ出る。

 

 

「……あ、イッセー君?」

 

 

 イッセー君? じゃねえだろ!

 迫り来るボールを止めてやる! と思っていたら、ボールの軌道が大きく変わった。下方に。

 

 

「あ、フォークだ」

 

 

 涼夜の呟きが聞こえたが、同時に勢いを緩めていなかった球体は俺の下腹部へ。

 

 

「――!?」

 

 

 玉が……玉に……ぐはっ……。

 俺は痛みに耐えられず、その場に倒れ込んでしまった。

 この、例えようのない痛み……男の子だけが知る……圧倒的な痛み……。

 部長が俺を抱きかかえる。

 

 

「ぶ、部長……た、玉が……」

 

 

「ボールならあるわ! よくやってくれたわね!」

 

 

「あらあら、部長。そうではなくて、違うボールが大変なことになっているようですわよ?」

 

 

 朱乃先輩の言葉に察したのか、部長は涼夜に俺を運ぶように頼み、アーシアに回復をお願いしていた。

 物陰でアーシアに俺の腰回りを回復をしてもらうという、なんとも言えない光景だったのだが、涼夜は何も言わないでいてくれた。

 さすがは男の子。

 やっぱりお前もわかるんだな、この痛み……。

 

 

 

 

 




お待たせしました。
一誠視点です。
……理由は涼夜の学園での評価を書くためだったりする。
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