◇
球技大会を知らせる花火が空に響く。
今日の天気予報は夕方から雨だそうで……大会が終わるまでは降ってくれるなよ。
この後は男女別の種目で、その後が部活対抗戦。
俺は体を温めるために筋トレ。アーシアは朱乃さんに手伝ってもらって、ストレッチで体をほぐしている。
小猫ちゃんと涼夜は下に敷いたビニールシートの上で、球技のルールブックを読んで最終チェックをしている。
ちなみに二人のクラスは、クラス対抗戦で優勝していた。俺達オカ研部員も空いてる時間で応援に行っていたのだが、小猫ちゃんと涼夜以外のメンツも相当に濃かった。
っていうか強すぎだった。運動能力もそうなんだけど、戦略のレベルも高い――部長もそう賞賛したくらいだ。
木場は……物思いにふけっている。
ここ最近ずっとだ。
部長は部活対抗戦の種目を確認しに行っているのだが……あっ、帰ってきた。
帰還した部長は不適な笑みを浮かべている。
「ふふふ。勝ったわよ、この勝負」
「部長、それで種目は?」
部長はピースサインで言う。
「ドッジボールよ!」
俺は嫌な予感しかしなかった。
◇
「部長ぉぉぉぉ! がんばれぇぇぇ!!」
テニスコートのフェンスから俺は部長へエールを送っていた。
うぅ、部長のテニスウェア姿! ミニのスカートから覗く太もも……最高だ!
「会長ぉぉぉ! 勝ってくださぁぁぁい!!」
あ、反対側で匙の野郎も応援してる。
"生徒会"と刺繍された旗まで振ってる。
「あっちの兵士は気合い入ってるなァ」
涼夜もちゃんと応援をしろよ。
ってお前、匙が会長のポーンだって知ってたのか。
「気合いならこっちも負けてない」
小猫ちゃんの言う通り、気合いなら負けてないぜ!!
「うふふ。上級悪魔同士の戦いがこんな所で見られるなんて素敵ですわね」
朱乃さんも楽しそうだ。
確かにそうだ。
まさかこんなところで上級悪魔の戦いが始まるなんてね。
しかも二人とも全く手を抜いていない。真剣そのものでラケットを振るっている。
「おくらいなさい! 支取流スピンボール!!」
会長の放つボールが、高速回転で部長に迫る。
「甘いわ! グレモリー流カウンターをくらいなさい!!」
ラケットで返そうとする部長だが、ボールが突然軌道を変えて急降下した!
うおおお! 魔球か!?
「フィフティーンサーティ!」
ああ、会長にポイントが入っちまった!
「やるわね、ソーナ。さすがは私のライバルだわ」
「うふふ、リアス。負けた方が小西屋のトッピング全部つけたうどんを奢る約束、忘れてはいないわよね?」
「ええ。私ですら試していないそれを、貴女に先を越されるなんて屈辱だわ。絶対に私が勝たせてもらう! 私の魔動球は百八式まであるのよ?」
「受けて立つわ。支取ゾーンに入ったものは全て打ち返します」
何やらお二人とも瞳に炎が宿っているのですが……。
「賭けの対象が庶民的だ」
「それが二人の良いところ」
涼夜と小猫ちゃんに同感だ。
人間界に住むのが長いと、感覚も人間っぽくなるのかな。
結局、部長と会長の凄まじい決戦は長い一戦となり、最終的に両者ともにラケットが壊れて、同位優勝ということで片が付いた。
涼夜が不完全燃焼な終わり方に、残念そうに溜め息を吐いていた。なんだかんだで楽しんでたもんな、お前。
でもまぁ、あんな激しいラリーを繰り返してたら普通のラケットなんて壊れる。
◇
そして時間は部活動対抗戦。
……なのだが、直前になってどこかに行ってしまったアーシアが、ブルマ姿になって帰ってきた。
「ブルマ……!」
うぅ、白い生足が……太ももが……ッ!
アーシアはもじもじしながら顔を真っ赤にしている。
「あ、あの……桐生さんに聞いたんです」
「希硫酸に聞いた!?」
涼夜、うるさい。
それにお前のはイントネーションが違う。
ボケか? ってああ、帰国子女故のヅレか。
「ドッジボールの正装はブルマだって……それにイッセーさんも喜ぶって……」
き、桐生ぅぅぅぅぅッ! あ、あの女! うちの可愛いアーシアになんて素敵な――じゃない! 破廉恥なことを教えるんだ!!
「ダメですか?」
上目遣いに聞いてくるアーシア。
「ううん、最高だよ。ありがとうございます……ありがとうございます!」
俺はアーシアの手を取って何度もお礼を申し上げた。
「あっれ、ルールブックにドレスコードの有無は書いてなかったんだが……」
「……ドッジボールに正装はない」
意外と真面目なところがあるのか、涼夜が不思議そうにしていたけど、小猫ちゃんがフォローしていた。
「それくらい知ってるもんじゃないのか?」
涼夜に尋ねる。
「スポーツの経験なんて、ストバスをかじったことしかないんだよね」
ああ、だからクラス対抗戦にしか出てなかったのか。ルールの確認をちょくちょくしてた理由もそれっぽいな。っていうかストバスって……女子受け良さそうだな、チクショー。
「イッセーさん、例の物を配ったらどうですか?」
っと、そうだ。
アーシアに言われた通り、俺は皆に配るものがあった。
「皆! これ巻いてチーム一丸になろうぜ!」
取り出したのは"オカルト研究部"と刺繍してあるハチマキ。
俺のお手製だ。
「あら、準備がいいのね」
最初に手にとってくれたのは部長だ。
「――うん。イッセーって器用なのね。上手くできているわ」
「へへ、実はこっそり練習してました」
涼夜の菓子作りほどの才能はなかったが、それでも毎日少しずつ練習すれば、そこそこの見栄えのものができる。
それでも上手い人には全然敵わないけど。
「……予想外の出来映え」
ありがとう、小猫ちゃん!
「ほー……いいな、こういうの」
そうだろ、涼夜。
「あらあら、確かに他の部活動ではアイテムを用意してますわね。帽子だったり、ユニフォームだったり」
「そうなんです、朱乃さん! そんなわけで俺も作ってみました!!」
皆喜んでくれたみたいだ。嬉しいもんだね。夜なべしたかいがあったぜ。
「ほら、木場も」
「……う、うん。ありがとう」
「……今は勝つことに集中しろよ」
「勝つ、か。……そうだね、勝つことが大事だ」
なんだ、その意味ありげな口調。
色々と心配になるが、木場もハチマキを巻いてくれた。
ふと見ると、小猫ちゃんは部長に、涼夜は朱乃さんにハチマキを巻いて貰っていた。……あの二人、部活ないでは妹や弟みたいな扱いを受けてる。
本人……特に涼夜の方は割と抵抗あるみたいだけど。
『野球部とオカルト研究部の皆さんは、グラウンドへお集まりください』
アナウンスで呼び出され、俺達の試合が始まった。
のだが。
「狙え! 兵藤を狙うんだ!!」
「うおおおおおっ! てめぇら、ふざけんんあああああ!!」
飛んでくる剛速球を避けながら、俺は涙ながらに叫んでいた。
そんな俺を見て、涼夜が口元を隠して笑いを堪えている。バレバレだからな! いっそのこと笑えよ!!
……開始された部活対抗戦。
開始早々から俺だけが狙われていた。
理由なんかすぐにわかったぜ。
俺以外の部員に当てるわけにはいかないんだ、こいつら的には!
部長――学園の二大お姉様の一人。大人気の学園アイドル。……当てられない。
朱乃さん――部長と同じく二大お姉様。学園のアイドル。……当てられない。
アーシア――二年生で最も癒やし系な天然美少女。しかも金髪。……当てられない。
木場――全男子の敵だが、当てたら女子に恨まれる。……当てられない。
小猫ちゃん――学園のマスコット的なロリロリ少女。……当てられない。
涼夜――一年生の中では男女共に人気。クラスメイトや家庭科部の面々のおかげで二、三年の女子にも気に入られている。……当てられない。
俺ことイッセー――なぜこいつが美男美女ばかりのオカ研にいるのかわからない。当てても問題ないだろう。いや、むしろ当てるべきだ。ちくしょう、死ね。あいつに照準を合わせろ! ヘッドショットだ! 殺せ! あの野獣を殺すんだ!!
そんな奴らの声が聞こえてくるぜ!!
究極の消去法だ!!
「イッセーを殺せええええええ!」
「アーシアさんを正常な世界に戻すんだ!!」
「お願い! 兵藤を倒して!! お姉様達のために!!」
「小猫ちゃんに手を出そうとする野獣め!!」
「黒上! 思い出すんだ!! 君の敵は兵藤なんだ!!」
全校生徒の悪意が俺に集中する。
くっそ、うるさいぞ! ギャラリー!!
「イッセーにボールが集中しているわ! 戦術的には
「がんばりまああああす!!」
部長に期待されたなら、俺だって体を張るしかない。
幸いにも、俺に集中するボールは涼夜がキャッチして投げ、外にいる小猫ちゃんがそれを確保できる。その小猫ちゃんの細腕から繰り出される剛速球も、涼夜が受け取れる。
おかげでいい感じに相手の数が減っていく。
俺がボールから逃げ続ければ、優勝も楽に狙える!!
そんなことを思っていたら、一人の剛胆な野球少年が照準を木場に合わせた。
「クソォ! 恨まれてもいい! イケメンめ!」
おお! イケメンへの憎悪が大きかったのか!
「――何ボーッとしてやがるんだ!!」
遠い目で試合に集中していなかった木場に、俺は毒づきながらも駆け寄っていた。
庇うように前へ出る。
「……あ、イッセー君?」
イッセー君? じゃねえだろ!
迫り来るボールを止めてやる! と思っていたら、ボールの軌道が大きく変わった。下方に。
「あ、フォークだ」
涼夜の呟きが聞こえたが、同時に勢いを緩めていなかった球体は俺の下腹部へ。
「――!?」
玉が……玉に……ぐはっ……。
俺は痛みに耐えられず、その場に倒れ込んでしまった。
この、例えようのない痛み……男の子だけが知る……圧倒的な痛み……。
部長が俺を抱きかかえる。
「ぶ、部長……た、玉が……」
「ボールならあるわ! よくやってくれたわね!」
「あらあら、部長。そうではなくて、違うボールが大変なことになっているようですわよ?」
朱乃先輩の言葉に察したのか、部長は涼夜に俺を運ぶように頼み、アーシアに回復をお願いしていた。
物陰でアーシアに俺の腰回りを回復をしてもらうという、なんとも言えない光景だったのだが、涼夜は何も言わないでいてくれた。
さすがは男の子。
やっぱりお前もわかるんだな、この痛み……。
◇
お待たせしました。
一誠視点です。
……理由は涼夜の学園での評価を書くためだったりする。