宿した者(仮)   作:雲丹

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 大会は終わったが、外はすっかり雨模様。

 部室で、雨音に混じって乾いた音が響いた。

 部長さんのビンタだ。

 叩かれたのは俺じゃない。今回はイッセー先輩でもない。――木場先輩だ。

 

 

「少しは目が覚めたかしら」

 

 

 部長さんの方は結構怒っているようだが、木場先輩は無表情に無言。

 部長さんが怒る理由は、木場先輩の態度のことだ。

 競技自体はオカルト研究部が優勝だった。途中で俺とイッセー先輩、アーシア先輩も加わったしな。チーム一丸……と言いたいのだが、木場先輩だけが非協力的だった。

 終始ボケッとしていて、そのことを試合中に部長さんが注意するほどだ。

 その木場先輩が唐突にいつもの笑顔を作った。

 

 

「もういいですか? 球技大会も終わりましたし、夜まで休ませてもらいます。少し疲れたので、普段の部活も休ませてもらいます。昼間は申し訳ございませんでした。どうにも調子が悪かったみたいです」

 

 

 淡々と言った。

 

 

「木場、お前マジで最近変だぞ?」

 

 

「君には関係ないよ」

 

 

 イッセー先輩が問うが、木場先輩は作り笑顔で冷たく返した。

 

 

「俺だって心配しちまうよ」

 

 

 続けたイッセー先輩に木場先輩は苦笑した。

 

 

「心配ね……。基本、利己的なのが悪魔の生き方だよ。まぁ、主に従わなかったし、今回は僕が悪いけどね」

 

 

 普段とはまるで逆だな。

 無茶を言うのがイッセー先輩で、それを木場先輩が落ち着かせる……そういうスタンスだったし。

 

 

「チーム一丸になることの大切さを、この前の一戦で学んだだろ? 足りない部分を補っていくようにしなきゃ駄目なんじゃねえかな? 仲間なんだからさ」

 

 

 木場先輩が表情を陰らせる。

 

 

「仲間か……でもそれは、僕よりも黒上君に言うべきなんじゃないかな?」

 

 

 木場先輩の視線が俺を捉えた。

 

 

「君は多くの人と仲良くしている風だけど、確実に一歩距離をとっているよね。それはオカルト研究部のメンバーに対してもそうだ」

 

 

「……そう見えるか?」

 

 

「見えるよ。現に君だけは、僕になにも言ってこなかった。本当は僕らになんの興味もないんじゃないのかい?」

 

 

 っ!?

 

 

「そ――」

 

 

「木場ッ!!」

 

 

 俺が否定するよりも早く、イッセー先輩が怒鳴った。

 皆が驚き、イッセー先輩を見ている。……俺もその一人だ。

 

 

「……ごめん、今の言葉は忘れて」

 

 

「あ、あァ……」

 

 

 静まりかえった部室で木場先輩に言われて、俺はただ頷く。

 

 

「イッセー君、君は熱いね。――ただね、僕は自分がなんの為に戦っているのか、それを思い出しただけなんだよ」

 

 

「……部長のためじゃないのか?」

 

 

 イッセー先輩の言葉は、すぐに否定された。

 

 

「違うよ。僕は復讐の為に生きている。聖剣エクスカリバー……それを破壊することが、僕の戦う理由だ」

 

 

 強い決意を秘めた表情で言った木場先輩が部室を出て行く。

 それを止められる人物は、ここに存在していなかった。

 

 

「ああー……涼夜。木場のやつ最近変だったし、あんま気にすんなよ?」

 

 

 重苦しい空気の中で、イッセー先輩は笑いかけてくる。

 

 

「……。あァ、平気平気」

 

 

 無理をして笑っているのは明白だったので、俺もヘラッと笑ってみせる。

 二人して笑みを浮かべているからか、部屋の空気が気持ち軽くなった気がする。

 

 

「じゃあ今日は解散しましょうか」

 

 

 部長さんの一言で、俺達は解散することになる。

 各々が帰路に着き、一人になったところで、俺は嫌な臭いに気が付いた。

 舌打ちをする。

 今は銃しかないんだけどな……。

 

 

「……仕方がないか」

 

 

 傘を畳んで走り出す。

 時刻はまだ夕方とも言える時間だが、雨のせいもあって暗い。これなら屋根伝いに飛び移っても問題なさそうだ。

 人通りの少ない裏通りで、パシャッという水音を立てながら着地する。

 辺りに人の気配がまるでない。

 人払いがされている……?

 

 

「おっと」

 

 

 鞄を投げながら真横に軽く跳ぶと、俺の頭と足のあった所を赤く輝く剣のような物が駆け抜けた。

 傘を上に放り投げ、ヴァイスとシュヴァルツで跳んできた二体の後ろ側を撃ち抜きながら振り返る。

 そこに見えたのは壁や床から覗く鮫の背びれ。いや、鮫なんてものじゃない。まるで剣だ。それが回遊している。

 

 

「人工悪魔……!」

 

 

 カットラスと呼ばれる悪魔だ。

 壁面や床面を泳ぐように移動する、基本的に群れで行動するタイプの悪魔で、見た目通り魚と剣を融合させた"人工的に作られた悪魔"だ。

 本来ならフォルトゥナ周辺にいるスケアクロウがこの街にいる時点でおかしいとは思っていたが、これはもう確定的だ。

 誰かがこの街に悪魔を流している。

 

 

「嫌になるな!」

 

 

 ヴァイスとシュヴァルツをショットガンにして左手で構え、投げた傘を右手に逆手で掴む。

 そのまま傘を飛び込んで来たカットラスの目玉のような部分に突き刺し、手の甲で回転。順手に持ち替えて、更に向かって来ていた一体にハンマーの要領で叩き落とした。

 二体のカットラスと拉げてボロボロになった傘にショットガンを撃ち込みながら辺りを見回すと、まだ三体ほど残っている。

 うち二体は動きが遅いのを見るに、恐らく最初に銃弾を撃ち込んだ個体だろう。

 

 

Come on! babes!(来いよ! マヌケ共!)

 

 

 こちらの言葉を理解出来るかどうかは置いておき、両手を開いてあからさまに挑発してやる。

 

 

Ok(よし)

 

 

 功を成した。

 カットラスは"潜っている"状態だと戦い難いが、攻撃の時は大概が飛び出してくる。

 潜ったままで背びれでの攻撃もあるが、それに当たってやるほど俺は優しくない。

 三方向からの同時攻撃。

 一体を足下で絶命したカットラスを蹴り上げて防ぎ、二体を二丁の銃で撃ち抜いた。

 

 

Die(死ね)

 

 

 死骸に直撃して地面に落ちたカットラスに、ショットガンで止めを刺すのも忘れない。

 

 

「……」

 

 

 Xゴーストを腕時計に戻すと、カットラスの死骸が塵になって消えていく。

 ……魔剣教団を潰した以上、人口悪魔はいない……なんて思っちゃいない。

 作られた悪魔の多くが野に放たれたわけだし、そいつらを捕まえれば利用することも可能だからだ。

 だが誰が、一体なんの為に……?

 駄目だな。

 情報が少なすぎて判断できない。

 

 

「……あ」

 

 

 鞄がビチャビチャなことに今気が付いた。加えて言うのなら傘も使い物にならない。……まァ傘なんて意味がないくらい濡れちまってんだけどさ。

 溜め息を吐きながら路地から抜けて大通りまで出る。

 意味がないとはいえ、傘をささないでいると目立つな。コンビニかスーパーで買ってくか。

 

 

 

 

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