◇
私は高校生になった。
通う学校は主と同じ駒王学園だ。
初日は入学式だったので半日で終わり、早くも二日目。
「ほい、お前ら席につけー……ってほとんど誰も喋ってねーじゃねーか」
枯れてんのか? と言いながら教室に入ってきたのは、このクラスの担任である坂田銀時先生。
銀髪の天然パーマに死んだ魚のような目をした教師。
煙草を咥えているように見えるが、煙もにおいもないから実際は煙草じゃない。飴だろうか。欲しい。
「ま、いいか。早速だが転校生を紹介する」
やる気は全くなさそうだが、仕事は割ときちんとこなしている先生が言うとクラスがザワついた。……ザワついたと言っても、学校が始まってまだ二日。
友人同士になっている人は少ない。
「
言いながら扉を開けて入って来たのは男の子。
黒い髪に黒い目、この国のこと考えると当たり前だけど日本人。……気になったのは髪の一部が、同じ黒色でも少し違うことです。
「はい、この教師に対して敬語を使えないガキが転校生の黒上涼夜君だ。仲良くしてあげなくていいぞ」
「ねェ、それが教師の言葉なの? 本当に教員免許持ってるの?」
「おらクソガキ、自己紹介をしなさい」
無視なの? と先生を睨み付ける転校生くん。
「……」
はァ、と溜め息を吐く黒上君。
「俺は黒上涼夜。本当は入学式にも間に合うはずだったんだけど、諸事情で間に合わなくてな……一応、新入生だ」
……昨日からこのクラスにある二つの空席。
その理由がわかった。
本当なら黒上君は昨日からいるはずだったのだ。
「諸事情? なんだっけ?」
先生が聞くんですか。
黒上君や他の生徒達も同じような目をしています。
「……海外にいたんだが……飛行機にトラブルがあってな。時間に間に合わなかった」
嘘……言ってる。
僅かだが話を考えたように見えた……ほとんど勘だけど。
他の生徒達は気が付いていない。
「き、帰国子女!?」などと騒いでいる。
「――だそうだ。お前の席は……そうだな、席替えでもするかぁ」
何が「そうだな」なのかわからないです。
「お前らが余りにも思春期なので席替えをしまーす。きっかけ作ってやんだから仲良くしろやコラ」
あ、この
クラス中の皆がそう思った瞬間でした。
席替えの方法はくじ引き。
先生は鞄の中から紙でできたくじを取り出し、教卓の上にバラまきました。
……準備がいい。
「……」
結果。
私の席は窓側の一番後ろという良席でした。日の当たりも良く、ぽかぽかしてます。
「よろしく、小さいお嬢さん」
そんな私の隣の席は転校……じゃない。初日から学校を休んでしまった黒上涼夜君のようです。
「早くも皆勤賞を逃した転校生さんですか。よろしくお願いします」
「見た目によらず毒を吐く嬢ちゃんだ」
む。
さっきから失礼過ぎる。
「私は塔城小猫。子供扱いしないでください、転校生さん」
「黒上涼夜な。小猫。……んん? 日本なら塔城って呼んだ方がいいのか?」
海外にいたせいかフレンドリーで、名前を呼び合うことも抵抗がないんですね。
「小猫でいい。私も涼夜と呼ぶ」
その時は意識していなかったけど、後になって思い出してみればらしくないことをした。
私はここまで友好的ではなかったはずだ。
「おう。よろしく」
「……よろしく」
差し出された右手を握る。
これが私と涼夜のファーストコンタクトだった。
◇
翌日。
登校中に見知った人物を発見しました。
その男の子は脇に鞄を抱え、薄い雑誌を読みながら歩いている。
時折人とぶつかりそうになりますが、器用に全部避けています。あ、信号に引っかかった。
「んん?」
ジッと見ていたせいか、彼――黒上涼夜が振り返った。
視線に敏感。
「おはよう、小猫」
「おはようございます」
わざわざ戻ってきた涼夜に、私も少しだけ早足で近づき挨拶を交わす。
私と会ったからか、雑誌を仕舞いはじめる涼夜。
「……お菓子好きなんですか?」
その仕舞っている雑誌が目に入り、つい尋ねてしまった。
彼が読んでいた雑誌には――“Sランク厳選スウィーツ特集!!”とでかでかと書かれていたから。
「俺甘党なんだよねェ。昨日も隣町の翠屋っていう喫茶店行ってきたんだ。噂のシュークリームが絶品で……」
そこまで言ってハッとなる涼夜。
「……学校をサボって喫茶店。良いご身分で」
「……いやね? 昨日のおやつ時にこっちに着いてな?」
冷めた視線を向けてあげると、涼夜はどこか慌てて弁明を始める。
……面白い。
「……私はセブンスのケーキが気になってる。濃厚ショコラモンブラン」
涼夜が目を見開いた。
「俺はキャラメリゼサントノーレの方が……」
あ、知ってるんですね。
セブンス――最近有名になったお店で、ハルセという名前の職人さんがやっているお店です。
「イケる口ですね」
「日本の店は
ドヤ顔をされた。
でも有名になったとはいえ、セブンスは隠れた名店に近い。なので本当に調べ混んだのでしょう。
話を続けていると、涼夜は外国のお店も相当に行ったとか。
私は冥界には行ったことがありますが、外国はないので少し羨ましいです。
「ほら、これ美味そうじゃね?」
仕舞いかけていた雑誌を再び出して、私に見えるようにする涼夜。
確かに美味しそうです。
……と言っている間に教室まで着いてしまいました。
ガラッ、と涼夜が扉を開けると数人の視線が集まる。
どうしてか皆して驚いている。
「おはよー」
「おはようございます」
クラスメイトの反応は特に気にしていないのか、涼夜は挨拶をし、雑誌を持った手をヒラヒラと振りながら席に着く。……私も特に気にすることもなく、挨拶をしてから着席すると、我に返ったのかクラスメイトの人達から挨拶が返ってきました。
そう言えば教室に着くまでも何かヒソヒソされてましたね。
何も目立つことはしてないと思うのですが……。
「一限の授業は、っと」
……涼夜も気にしていないし、私も気にしないようにします。
そうして一日の始まりを告げる鐘が鳴った。
◇
キーンコーンカーンコーンと授業の終わりが告げられ、十数分で帰りのホームルームが終わる。
「んじゃ、今日も終了の時間だ。気ィ付けて帰れや」
坂田先生のやる気の無い言葉を最後に、クラス中が浮き足出す。
クラスメイトの仲は、昨日の席替えの力か、それなりに良くなっていた。
……自分が無表情な自覚はある。
だから友人は簡単にできない……と思っていた。
現実は予想に反し、色んな人と会話をした。
「小猫ってこの後なんかあるの?」
原因は
涼夜はフレンドリーだから多くの人に声をかけられる。
その際にわざわざ私にも話題を振って来たのだ。
……お人好し。
「私は部活」
お互いに鞄を抱えながら教室を出る。
「へー……何部よ?」
「オカルト研究部」
オカルト研究部に入るのは最初から決まっていたことだ。
入学式の日も顔を出しに行っている。
「なるほどねェ」
なる、ほど……?
一体どこに納得する要素があったのか。
私が悪魔だと知っているのなら……まぁ納得するのもわかります。
けれど涼夜は知らない……はず。
どういうことでしょう……適当に相づちを打った?
横を見上げると、涼夜は雑誌を読みながら歩いている。
「では私はこっちなので」
「ん、そうだっけか。じゃあまた明日」
また明日、と返しながら、私はまた違和感を大きくさせた。
「そうだっけか」とはどういうことだろう。
オカルト研究部の部室は旧校舎。私達が普段使っているのは新校舎。
そのことを知っていた……?
だけどやはりおかしい。
新校舎ならたまたま部室を見つけていても疑問はないですが、旧校舎にあるオカ研の部室でそれはないと思う。
……この違和感の正体は数日後に明かされることになります。
◇
……これはどうなんだ!?
っていうか小猫視点難し過ぎワロタ……ワロタ……。
精進します。えぇ、本当に。
とりあえず「うちの小猫はこういうキャラだ!」と言えるように頑張ります。