宿した者(仮)   作:雲丹

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Start it right away

 

 

 

 

 

 教会からの信徒が来、俺が――女の子からの告白を断った翌日の休日。

 昼過ぎに携帯に電話がかかって来た。

 

 

「……どうかしたのか……?」

 

 

 くァ、と欠伸を噛み殺しながら通話に応じる。

 

 

「もうお昼」

 

 

 電話をかけてきた相手――小猫は呆れた声音で言った。

 悪いね、朝方まで街を徘徊してたんだよ……それで成果なしとか巫山戯るなと言いたい。まァ割とよくあることだけども。

 ……電話越しだが騒がしいな。外か?

 

 

「休日くらいダラけたい」

 

 

「涼夜は割といつも自由にしてると思う。昨日も部活に来ませんでしたし」

 

 

 自由にしてる、か……否定はし難い。

 

 

「……で、本題は?」

 

 

 小猫とは……まァ他愛ないやりとりを携帯アプリのチャットですることもあるが、事務的なやりとりも多い。主に俺が知らない間に起きたことなんかを教えてくれるのだ。

 昨日はイッセー先輩と木場先輩がエクスカリバーの所有者二人と戦ったとのこと。

 結果は……相打ち、とでも言うのだろうか。

 イッセー先輩は勝ち、木場先輩は負けたらしい。

 木場先輩はともかく。

 意外なのはイッセー先輩か。

 相手も本気だったわけではないそうだが、聖剣を持つことを許された者を下すとは驚きだ。……小猫が言うには「スケベ根性が身体機能を向上させただけ」とのこと。笑った。

 

 

「今からワグナリアに来て」

 

 

「唐突だな……いいけども」

 

 

 そんなやりとりを経て、俺は借りている部屋のあるマンションを出た。ラウンジの辺りで色々と声をかけられたので、「飯食いに行く」とだけ伝えて。

 小猫に言われたワグナリアはファミレスだからな。ある意味でちょうど良かったのだ。

 十分ほど歩くと、すぐに目的地に着いた。

 

 

「いらっしゃいませー!」

 

 

「どーも」

 

 

 明るく元気な笑顔でお出迎えしてくれた店員……名前は種島ぽぷら。

 大きなポニーテールにアホ毛が特徴的な、小さな……本当に小さな少女だ。

 

 

「ちっちゃくないよ!」

 

 

「まだ何も言ってないよ」

 

 

 小猫に勝るとも劣らない勢いで小さな人で……あァいや、確かこちらの方が年上だから、小猫よりも希少なのかもしれない。……まァ二年に上がる頃に、小猫が大きくなっている姿も想像はできないが。

 ガーッ! と激昂した種島だが、俺の言葉に「あ、あれ?」と首を傾げた。いい勘してる。

 なんだかんだでよく来るファミレスで、しかも同じ学生。ワグナリアのアルバイターには顔見知りも多かった。

 

 

「涼夜!!」

 

 

「お?」

 

 

 声の方を見ると、イッセー先輩が立ち上がって手招きしていた。

 

 

「連れがいるから……」

 

 

「はい、すぐにお水を持って行くね!」

 

 

 種島に許可も得たので、俺は先輩達の席に向かう。

 イッセー先輩の隣にいるのは小猫に木場先輩、匙先輩。

 向かい合う側の席にいるのは――。

 

 

「久しぶりだな、魔人」

 

 

「……前から思ってたんだが、魔人は別に俺だけの呼び名じゃないぞ」

 

 

 ゼノヴィアだ。

 そしてもう一人の信徒。

 名前は……紫藤イリナ、だったか。彼女はなんとも言えない表情で俺を見ている。

 

 

「――なんだこの皿の量」

 

 

 小猫もパフェを食べているようだが……皿の置かれ方や位置から察するに……。

 

 

「涼夜……いくら持ってる?」

 

 

「待って。俺を呼んだのって財布にするためなの?」

 

 

「それは違う」

 

 

 イッセー先輩の第一声に、俺は頬を引き攣らせたが、どうやら違うらしい。

 

 

「いや、それも正直あるけど」

 

 

 あんのかよ。

 

 

「実はな、俺達はエクスカリバーの破壊に協力することになった」

 

 

 真面目な顔でイッセー先輩が言った。

 俺はそれを聞きながら、ゼノヴィアの横に腰掛けた。

 

 

「そこで、少し真面目な話をしたいんだ」

 

 

「だが、こんな場所でソレは避けたい」

 

 

 先輩の言葉を引き継ぐように、横のゼノヴィアが言う。

 

 

「……俺に場所を提供しろって?」

 

 

 確かに公共の場では盗聴の危険がある。

 それに考えにくいが、襲われて一般人に被害が出ても困るな。

 

 

「涼夜の家はこの近く」

 

 

 そうだけども。

 

 

「小猫ちゃんがこう言ってるし、ゼノヴィアもお前の家なら問題ないだろうって」

 

 

 あァ、そういうことね。

 結果。

 俺はワグナリアで何も口にすることなく、お金だけは多少支払うことになった。

 って言うか、信徒二人。

 食い過ぎだろ。

 などとイッセー先輩と愚痴りながら歩くと、すぐにマンションに辿り着いた。

 その先輩を含めた六人。

 絶賛マンションを見上げている。

 

 

「デッ……ケエエエエエエエエエ!?」

 

 

「イッセー先輩うっさい」

 

 

「お前……金持ちなのか?」

 

 

「支払いは師匠達が持ってくれてるんだよ、匙先輩」

 

 

 木場先輩は何も言わない。

 ただ気まずそうなだけだ。

 まァいつまでも入り口にいるわけにもいかないので、俺は中に入るように促す。

 

 

「――涼夜」

 

 

 中に入ってすぐ。

 ラウンジ手前で呼び止められた。

 

 

「彼女達は?」

 

 

「あー……信徒だけど……駄目か、ユリウス?」

 

 

 このマンションのシークレットサービスの一人であるユリウス=ウィル=クルスニクは、難しそうな表情で俺を見る。

 

 

「……部屋の前で待機させてもらうぞ」

 

 

 眼鏡を抑えながら、どこか呆れた様子でユリウスは許可をくれた。

 

 

「分かっているとは思うが、妖館(あやかしかん)聖なる雰囲気(そういうもの)に敏感な住人も多い。何かしら理由があるのは察するが、余り感心はできないな」

 

 

「すいません……」

 

 

 素直に謝罪すると、紫藤イリナ以外の全員が珍しいものを見たとでも言いたそうな顔で俺を見ていた。

 

 

「……なんだよ」

 

 

 不満の言葉が漏れるのも仕方がない。

 

 

「お前、素直に謝れるんだな」

 

 

 代表するかのようにイッセー先輩が言うと、小猫達も頷く。

 

 

「おい」

 

 

 色々と言いたいことはあるが、それは歩きながらでもいいか。

 マンション内を俺が先導し、俺達の数歩後ろをユリウスが続く。

 

 

「知ってるひとも多いと思うけど、このマンションはメゾン・ド・章樫」

 

 

 メゾン・ド・章樫(あやかし)

 通称・妖館。

 一世帯毎にシークレットサービスを付けることができる、高セキュリティーの最高級マンション。

 ここには厳しい審査をクリアした者しか入居できない。

 その内容は能力、家柄、経歴。

 

 

「――ってのが表向きの条件」

 

 

 エレベーターで上階へと上がり、歩いてすぐの扉を開ける。

 鍵はカード式だ。

 

 

「実際のところは……人間の中で普通に暮らす、人間以外の血を受け継ぐ連中のコミュニティって感じだな」

 

 

 俺の部屋は玄関から通路を進むと、すぐに広い空間に出る。

 通路先の扉を開けると窓側が一面ガラス張りの大部屋。

 大きな四角いテーブルにソファーが三つ。残りの一辺には薄型テレビが設けられている。

 テレビと反対側の壁には化粧台のような机が備わっており、ノートパソコンや二つのリングが並んだ円冠状の器具が置かれている。

 

 

「どんだけ~……」

 

 

 イッセー先輩が呟いた。

 

 

「お、おい、さっきの通路に階段あったんだけど……」

 

 

 匙先輩には肯定させていただこう。

 

 

「普通に二階建ての家くらいのスペースはあるよ」

 

 

 なんとなしに言うと、皆して絶句してしまった。

 ちなみに通路から入って右側にはカウンターがあり、奥にはキッチンが備え付けられている。反対の左側は和室空間だ。

 

 

「……魔人がこんな良い場所に住んでいたなんて……!」

 

 

「というか我々と差がありすぎて……」

 

 

 信徒二人はなんか黒いオーラを纏ってしまっている。

 お前らがさっき飯すら食えなくなってたのは、なけなしの金を使っちまったからだろ。騙されて高い絵を買わされたって、来る途中で聞いたぞ。

 

 

「……涼夜、嫌なひとだったんですね」

 

 

「えェー?」

 

 

 確かに最高級の設備だけども、部長さんの眷属なら良い場所に住んでるんじゃないのか?

 というか住むだけなら、俺みたいな訳ありの場合は格安でいけるんだよなァ……。

 

 

「え、小猫ちゃんも知らなかったの?」

 

 

「……知りません。初めて来ましたから」

 

 

 え? とイッセー先輩と匙先輩が俺を見た。

 

 

「デートとかしてるよな?」

 

 

「してない」「してません」

 

 

 イッセー先輩の言葉を否定すると、小猫とハモッた。

 まァたまに甘味巡りはしてるけどなー。

 

 

「「ええ~……!?」」

 

 

 何とも言えない表情のイッセー先輩と匙先輩を横目に、俺はキッチンへと入る。

 

 

「凄い数のカップ麺だ」

 

 

「あァ、あると便利だから」

 

 

 ゼノヴィアがカウンターに並べられた数多くのカップ麺を見て感嘆していた。

 

 

「だが、どうして小さな物ばかりなんだ? もっと大きなサイズがあるだろうに」

 

 

 判ってないな、とゼノヴィアに返す。

 俺はキッチンからポットを取り出し、カウンターの隅に置く。

 

 

「この小さいカップ麺、これ全部に片っ端からお湯を注いで並べて食べると……なんかスッゲー豪華な気分になれる」

 

 

 三十円とか五十円のミニサイズのカップ麺。色んな種類のソレを集めるわけだが、数が多いと多いだけ良い。

 

 

「しょ、庶民的だな」

 

 

「顔がキラキラしてるわね……」

 

 

「試してみたいな」

 

 

「激しく同感です」

 

 

「部屋とのギャップが……」

 

 

 イッセー先輩、紫藤、ゼノヴィア、小猫、匙先輩が各々感想を呟く。

 っと、今はやんないけどな。

 腹は減ってるが、別に一食二食食わなくても問題ない。

 ドイツ産の砂糖などの調味料が入っている紙袋が乱雑に並んでいるキッチンから、グラスと飲み物のパックを適当に選び出してテーブルに並べる。

 

 

「んじゃ、会議を始めますか」

 

 

 

 




改稿14/09/14
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