一年~数年後、かな。
◇
「――それで……人工魔物だっけ? それってなんなんだ?」
俺と紫藤が和解し、話を元に戻すとイッセー先輩が首を傾げた。
「文字通りさ」
「……つまり、人の手で作られた魔物、ですか」
ゼノヴィアの一言で、すぐに小猫が察している。
他のひと達も同じようだ。
「作り出している大元は、そこの魔人殿とその師匠らが潰しているわけだが……」
いや最後に決めたのは俺でも師匠達でもない。
「既に生れた魔物は野に放たれた後だった」
お前、いつまで俺を魔人って呼ぶんだよ。
ゼノヴィアに呆れながらも、俺は言葉を続ける。
「元凶の教団自体は確実に潰したし、資料関連も押収して師匠達が管理してる。それに人工魔物自体、大量の魔物を用いた実験で漸く完成させた存在だ。敵の組織力にもよるけど、簡単に生み出せるものじゃない」
生物と無機物が合わさったような存在だし、元になった魔物自体がまだ不明瞭な存在だ。
そういう意味で、俺や師匠達のような存在は希有だ。この世界にいる魔人って片手で数えきれるらしいし。……まァ碌な人生歩む方が難しいし、少ない方がいいかもしれないな。
「えっと……?」
イッセー先輩はまだ思考が遅いな。まァ知識自体がまだまだ少ないし、仕方がない。
「――既に作られていた人工魔物を回収して使っている、ということかしら……?」
「その可能性が高いな」
紫藤が思い至り、ゼノヴィアが肯定した。
「ただまァ……魔物自体は四月にも見てるし、今回の件とは関係ないかもしれない」
「でも“関係ない”とは言い切れないんですね」
そゆこと、と小猫の言葉に頷く。
まァ関係してるかも。魔物が出てくるかも。それくらいに思っておけばいいとは思う。
魔物との距離がそれなりに近くだったら俺も気が付くしな。
「……まぁこんなところか」
ゼノヴィアが適当に締めくくる。
俺の存在や悪魔と教会の関係を考えると、基本は情報交換を用いながらの不干渉だろうし。
「しかしよく協力することになったな?」
首謀者は恐らくイッセー先輩なので、つい聞いてみてしまう。
どうやって説得したのだろうか。
「……今回我々はドラゴンの力を借りる。そしてそのドラゴンは魔人と友好関係にある。それだけさ」
「ゼノヴィアも魔人……黒上君とは友好的な関係みたいだしね」
「屁理屈じゃん」
先輩の代わりに答えてくれた信徒二人に、俺は呆れ返る。
「知っての通り、私の信仰は柔軟だ」
「屁理屈も理屈の内って言うでしょ?」
フッ、と笑みを浮かべるゼノヴィア。
可愛らしくウィンクをする紫藤。
……いやまァそっちがいいんならいいんだろうけどね。
そのやりとりを最後に、二人はとっとと出て行ってしまった。
まァ礼は言われたし、外までの案内にはユリウスがいるから問題ないだろう。
このマンションの事情は話したから、もしかしたら気を使ってくれたのかもしれない。
……ユリウスには後でお礼をしないといけないな。
「さて、と」
部屋に残ったのは四人。
こっちはこっちで、少し話しておく必要が……?
部屋中にインターホンが鳴り響いて、俺はゆっくりと玄関の方を向く。
「ごめん、ちょい待ってて」
玄関を開けると……メイドが立っていた。
「お荷物でーす!」
明るく天真爛漫な笑顔である。
「荷物、別に届けてくれなくていいって言ったじゃんか」
メイド――小人村ちのに、俺は苦笑しながら答える。
彼女は妖館で雇われているメイドであって、別に俺専属というわけではない。つまり、仕事なんてたくさんあるはずなのだ。
「うん。けど、この階の掃除もあるから……ついでにいいかなって!」
「そっか……まァありがとな」
ちのはそれなりに大きなサイズの段ボールを抱えているので、お礼を言いながら受け取る。
どういたしまして! と気さくな笑みで返したちのは仕事に戻り、俺もリビングへと戻る。……と、小猫が木場先輩の服の裾を掴んでいた。
「……お手伝いします。……だから、いなくならないで」
――っ。
角度的に見えない。が、小猫は泣きそうな顔で木場先輩を見上げているんだろうな……。
「……まいったね。小猫ちゃんにそんなこと言われたら、僕ももう無茶できないよ」
悶絶しているイッセー先輩をよそに、木場先輩は困惑しながらも苦笑いをした。
「今回は皆の好意に甘えさせてもらおうかな。……おかげで真の敵もわかったしね。でも、やるからには絶対にエクスカリバーを倒す」
木場先輩もやる気になったみたいだ。
小猫も安心した様子だし……とりあえず一区切りか。
俺も小さく微笑んで、ソファーに段ボールを置いた。
「よし! エクスカリバー破壊団結成だな!!」
「そうだね。ただ、その前に――黒上君」
気合い充分なイッセー先輩を窘めた木場先輩は、ゆっくりと俺に視線を合わせた。
「この前は無神経なこと言ってごめん」
深く、本当に深く頭を下げる先輩。
少し驚かされた俺は段ボールを持って先輩に近づくが、頭を上げる様子はない。
「えい」
「わっ」
持っていた段ボールを先輩の頭に乗せてやった。
……正直な話。
木場先輩の指摘は当たっていたので、俺としても困惑……というかなんと言ったらいいのか判らなかった。
「――今のタイミングでそういうこと言う?」
空気が悪くなるぜ、と苦し紛れに言ってみる。
「……その台詞、そのまま返ってこないか?」
今度はイッセー先輩が俺に指摘してきた。
言われてみればその通りだ。
「はは……ごめん」
サイズの割に軽い段ボールを退かすと、木場先輩は頭を上げて頬を掻いた。
「俺は気にしてない……どっちもな」
思うところはあったが、木場先輩も感情があるのだ。
年がら年中を笑顔でいられるわけがない。
今回は理由が理由だし、仕方がないだろう。
「そっか……ありがとう」
「ちゃんと全部終わってから礼は受け取るさ」
木場先輩の微笑みを受けながら、俺は今度こそ段ボールを置いた。
ちなみに今回はフローリングの床。
「じゃあ改めてエクスカリバー破壊団結成だな!」
イッセー先輩ってそういうの好きだよな。
つい苦笑すると、どうやらこの展開に乗り気じゃないひともいたようで。
「……あの、俺も?」
匙先輩だ。
こちらに割って入るのも気まずいのか、恐る恐る手を挙ている。
「完全に蚊帳の外なんだけど……。結局なにどうなって木場とエクスカリバーが関係あるんだ?」
え……?
いやいや、ちょっと待ってくれ、匙先輩。
「……そんな目で俺を見るな、涼夜」
「いやだって……は? 説明してないのか?」
イッセー先輩は気まずそうに顔を反らした。
「そうだよな!? そういう反応になるよな!!」
匙先輩はよほど嬉しかったのか、俺の手を握って嬉しそうに叫んでいる。
「こいつ“エクスカリバーを破壊するんだ”としか言わなくてな!? 碌な説明もないまま半ば強引に連れてこられたんだよ!!」
「あァー……うん。うちの先輩と……同級生が迷惑をかけた……かけてるみたいで……」
それでも逃げなかった匙先輩は評価したいが……意志薄弱? いや、どう考えても被害者だし、こういう言い方はよくないな。小猫の力なら強制連行も簡単だろうし。
……今回の一件、どう転んでも命懸けになるだろう。説明は必須だ。
「いいんだ! 俺はお前みたいなまともな後輩がいてくれただけで嬉しい……!!」
本当に嬉しそうだなァ……。
あまりの反応に、小猫と先輩二人が気まずそうだ。
とりあえず首謀者を見る。
「いや、あのな? 俺も色々と考えてたんだぞ? 元々涼夜には頼み込むつもりだったけどな? 頼むならこっちもそれなりにやれることをやっときたいじゃん?」
「それが戦力補給だと?」
「そ、そうだ!」
「説明も何もないんじゃ、意見も言えないけど?」
生徒会の面々にも信徒二人は説明を行っていると聞いている。が、匙先輩も新人枠の悪魔。知らないことの方が多い。
今までの俺達の会話はさぞかし意味不明だったろう。
「ぐっ……すまん」
しどろもどろに言い訳をしていたイッセー先輩も反省したようだ。
「何も知らない状態だったなんてね」
木場先輩も苦笑いである。
小猫は……あ、目が合った。
「……ごめんなさい」
「うぇ!? あ、いや……ちゃんと説明さえしてくれれば……なあ?」
小猫に謝られた匙先輩は慌てた様子で俺に振った。
「あ? まァ匙先輩がそう言うなら……」
なんだ、意外と協力する気はあるのか?
まァ危険に首突っ込むわけだし、嫌なら抜けてもらった方がいいだろ。
話してもいいか? そんな意味を込めて木場先輩を見ると、先輩は静かに口を開いた。
「――少し、話そうか」
◇