◇
翌朝、俺は妖館のラウンジに顔を出していた。
高級マンションのラウンジなだけあって広い。高級感もホテルのようだし、多くのアンティークテーブルが椅子とセットで並んでいる。
「おはよう」
近くを通ったので挨拶をすると、黒髪をパッツンにした小柄な少女はハッと笑い、少女の一歩後ろにいた男性は小さく頭を下げた。
「気安く声をかけないでもらおうか。おはよう」
「おはようございます、黒上様」
前者は
ひどい言い方だが最後にきちんと挨拶を返してくれることから判るように、真面目で優しい子なのだそうだ。
家庭の事情から少しばかり歪な正性格になってしまったらしい。
後者の方が
彼女らがラウンジから出てくるのと入れ替わるように、少ししてから黒い布がフヨフヨと中に入ってきた。
ラウンジにひとが集まる理由は……食事だ。ちょっとした食堂のようなもので、奥にはバーもある。
俺も日替わり定食を注文して、適当なテーブルに座っていた。……時間が少し遅めだからか、ひともうほとんどいない。
先ほどラウンジに来た黒い布は、定食を食べている俺の方に飛んできて器用にも椅子に座った。
「おはー」
「おはよう」
黒い布の正体は一反木綿だ。
普段は人間の姿でいるのだが、妖館内では“楽だから”という理由で妖怪の姿をしている男だ。
「クロがラウンジで飯って珍しいな」
クロとは一反木綿の先祖返りたる
「レン……お前、木綿の姿でカレーうどん食うのか」
逆に俺は彼をレンと呼んでいる。
俺が野菜とキノコのコンソメリゾットがメインの定食を食べているのに対し、レンはカレーうどんだけだ。しかも一反木綿の姿……カレーの汁が飛んだらどうする気なんだ。
「まァいいけど。……で、俺が珍しいって?」
「無性に食べたくなったんだよなー。……珍しいだろ。凜々蝶も驚いて、また毒を吐いたって後悔してた」
あァ、ラウンジ出た所で会ってるのか。
白鬼院はツンシュンというやつらしい。
ツンデレの仲間で、ツンツンしたことを後悔してシュンとなるのがツンシュンだとか。
「俺は気にしてないけどな。……朝食の理由はアレだ。昨日友達が晩飯用意してくれたんだけどな……怒られたんだ」
「なにに」
「冷蔵庫の中身」
最初に見た時、冷蔵庫にはほとんど食材がなかった。
卵や牛乳。肉に魚。割引シールの貼られた総菜などが大半を占めていた。あとキャベツがほぼ丸ごと一個。
キャベツがあるのは歩に「キャベツはオイスターソースをからめてレンジで二分加熱すると甘みが増して美味しい」と言われたからだ。本当だった。
「ついでに買いだめしてあるカップ麺とかも諸々見られて、きちんと食事を摂ることの大事さを小一時間語られた」
「わーお……」
一反木綿になっているので表情は判り難いが、結構驚いているようだ。
「――でも意外だな」
「何が?」
「いや、言うこと聞くんだなーって」
あァ、それか。
確かに俺は飯を抜くことも多いし、別に一日二日どころか、一週間でも食わなくて問題ない。それは既に経験してるから判る。
「食べたものを写真撮って送れって言われた……」
高級マンションを謳っているだけあり、食事は美味しいし食材にもこだわっている。けれど、少しばかり値が張る。
他と比べたら格段に安いのだろうが、金を使わないで済むのなら使わないでいたい、というのが俺の本音だった。
「性格把握されてんな……ま、食うことは大事だし、俺らもクロと話す機会が増えるって考えりゃ……その説教したって子を支援できるな」
さいですか……。
そんなレンとのやり取りに始まり、俺がラウンジで食事を摂るようになって数日が過ぎた。
その間に起こった出来事は……白鬼院からやけに素直な文面の謝罪の手紙を渡されたり、イッセー先輩にカラオケに誘われたりといくつかあるが、肝心のエクスカリバーの捜索は難航していた。
部長さん達にも勘づかれそうだ。
その日の放課後も、いつも通り着替えて公園に集まった。
神父やシスターの姿で彷徨っているのだ。
俺が持ち歩いている武器はゴーストと日本刀。
ゴーストは腕時計だし、刀は竹刀袋に仕舞えるからだ。
神父服には不釣り合いだが、ギターケースよりはマシだと思ってる。俺、学生だし。神父だけど剣道部なんです! みたいな。
「今日も収穫なしか」
息を吐きながら、気落ちしたように匙先輩は言う。
既に日暮れが近い。
イッセー先輩は部長さんと暮らしているし、限界だろう。
生徒会にも内緒だしな。
「――もしもし、そこ行くお兄さん達」
人気のない通りでいきなり声をかけられた俺達は、勢いよく声の方を見た。
いくら今日の区切りで気を抜いていたとはいえ、声をかけられるまで気が付かないとは思わなかった。
「探しものをしてるんでしょ? この
……路上に机を置く占い師のようだ。
ちょうど曲がり角の端に卓を置いており、知らないうちに背を向けてしまっていたようだ。
座っているのは点棒を口に咥えた細目の男で、どことなく薄気味悪い。
「は? いやいいよ。悪いけど急いでるんだ」
イッセーが構えかけた体を直して断りをいれる。
「言っちゃ悪いけど、麻雀の役を名乗ってる易者って信用度低いしな」
「おま、それは失礼だろ」
あァごめん、と少し慌てた匙先輩に謝る。生徒会なんて役職だからか、変に真面目なところがあるな。
……男の視線が不愉快で、つい毒を吐いてしまった。ただ匙先輩も俺と同じようなことを思っているようで、余り責めるような口調でもない。
「そっけないなぁ……。ま、いいや。教えてあげましょう――皆さん、死相が出てますよ」
「怖いですねぇ」と言いながらクククと笑う男に、変に的を射ているせいで俺達が男に抱く不信感が大きくなる。
「何か知っているんですか?」
まだ完全に余裕があるわけではない木場先輩。その視線は鋭く、声音も普段より低い。
「わかるんですよ。死に近いところで生きているでしょう。特に――」
男の指がゆっくりと俺を指し示めした。
「――貴方だ」
整えられてはいるが長く伸びた爪で示され、俺は少しだけ目を見開き……すぐに細めた。
「ほら、誤魔化しているつもりなんでしょうが罪人の目をしているじゃないですか」
っ……。
咄嗟に細めた目を戻す。
楽しそうな男……俺は上手いことノせられたようだ。
「背中に火傷の痕がありますね? それが貴方の罪の始まりだ。償いきれない程の――」
っ!? こいつ、なんで――!?
男の言葉を遮るように、ダン! と机に手の平が叩き付けられた。
俺ではない……小猫だ。
「……なんですか、貴方は?」
俺は驚き、横の小猫に首を向ける。
静かに怒りの籠もった声音で、その目も敵意に満ちていた。
それを合図に他のひと達も口を開き始める。
「喧嘩売ってるのか?」
匙先輩。
「そうだろ、どう考えても」
イッセー先輩。
「……ひとの神経を逆撫でるのがうまいんだね」
木場先輩。
一般人かも知れない相手なので直接手こそ出さないが、きっかけさえあれば乱闘にでもなりそうな雰囲気だ。
しかし全員の批難の眼差しを受けながらも、男は飄々とした態度を崩さない。
「
挑発するように笑う男。
俺の言った言葉を使ってる辺り、性格の悪さが覗える。
「我の牌は運命を語るんです……ほら」
机に置かれていた麻雀牌を一つ手に取り、俺達に見せつけるようにしてくる男。
「“災いは汝と共に”」
その牌には“滅”と書かれていた――。
「ま、信じないのは勝手ですけどね」
笑みを消さない男にイッセー先輩が「どういう意味だ!?」と問いただそうとしたが、背後で聞こえた瓦礫の崩れる音に全員がそちらを振り返り、先輩も言葉を最後まで口にすることはできなかった。
見ると……小さなビルが一棟倒壊していた。
「――ああー、ちかれたー」
巫山戯た声音で瓦礫の山から出てきたのはフリードだった。
その手には……聖剣。
俺は一度振り返るが、そこに易者の姿は既になかった。
「あれ? あれれ? そこにおわすのは赤龍帝のイッセー君! それにリョウヤ君じゃないですかあ!!」
服に付いていた埃を煩わしげに払っていたフリードだったが、イッセー先輩、牽いては俺を見て、嬉しそうに犬歯をむき出した。
「超嬉しそうだぞ」
「多分だけど先輩も標的認定されてる」
俺に同情するように振って来たイッセー先輩だが、俺の返しに「やっぱり?」とげんなりした表情を作る。
そのフリード、足下にいた大きなムカデを勢いよく踏みつぶした。グシャッという果実の潰れるような音。
……いやマジででかいな、あのムカデ。太さ十センチはあるぞ。
「終わってないかよ……ああー、遊びたいなァ。けどなァ……どうにもタイミングがよろしくないんだよなァ……」
面倒だとぼやくフリードの背後の瓦礫の中から、大量のムカデ……それも一般的なものより太く長いムカデが沸いて来ている。言うのなら化物ムカデだろうか?
果てにはよく判らない黒い蟹もいる。
「……」
女の子の小猫には耐えられないことだったのか、俺の背中にサッと隠れた。
いや、男女関係なく気持ち悪い。
「な、んじゃありゃあ!?」
「きもっ! ああ! かゆい! 背中がかゆくなる!!」
イッセー先輩と匙先輩も悲鳴に似た声を上げている。
木場先輩も表情がフリーズしているし、それくらいに衝撃的なのだ。
「リョウヤちゃあん、これ電撃で消し飛ばしてよー!」
ヘラヘラと笑うフリードだが、そんなこと頼んでくるということは奴が犯人ではない……のか? けど聖剣持ってるし、堕天使と組んでるのは間違いない。ってことは……第三勢力か!?
「アラストルは持ってきてない」
言いながら俺は日本刀を袋から取り出し、腰に付けておいたホルスターに通す。
マジかよ、とフリードが落胆している。……ムカデと蟹の処理は止まっていないが。
「全員一旦引いてくれ」
ヴァイスとシュヴァルツでムカデと蟹を撃ち抜きながら俺は静かに言う。
「……聖剣を見逃せって言うのかい?」
「先輩、あの蟹の胸見えるか?」
不満だと声と態度に出ている木場先輩だが、一応話を聞く気はあるようだ。
「あれは……梵字?」
「そう。あれは――」
「式神」
俺の言葉を遮るように小猫が言った。
どうやら知っているらしい。
「エクソシスト……フリードが式神を使ってるのは見たことないし、そのフリードが戦ってるってことは……」
「あの神父と蟹やムカデは仲間じゃない……?」
匙先輩が勘づいた。
確証はないけどな、と付け足す。
でもあの二種類は攻撃し合ってるわけでもないし、まず確実にグルだろ。
「流石に第三勢力が出てくると、部長さんや会長さん、ゼノヴィア達にも知らせないとまずい」
蟲と式の中「うぜええええええ!」と叫ぶフリード。
こちらは冷静に対処させてもらおう。
「おい! 狂犬!!」
「あァ!? ンだよ!?」
態度悪っ。
「そいつら何だ!?」
「知るか! こっちも引っ掻き回されてンだよ!!」
グチャグチャと足下のムカデを踏みつぶし、式神を斬り払い、時に銃をぶっ放つフリード。足下が血やら粘液やらでグチャグチャになっている。きもい。
あいつ、ガチで苛ついているな。
だがこれでフリード達と式神共が組んでないがハッキリした。
「らしい」
「お前、結構イイ性格してるよな」
俺の切り替え速さに匙先輩が呆れている。
そう言っても、腕は休めてませんよ?
「……圏外になってます」
「え? ……あ、俺もだ!」
小猫が携帯をチェックしたらしい。
続いてイッセー先輩もだ。
結界が張られてるし、まァそうだろ。放って置いても部長さん達は気が付くと思うが……。
「……ここは僕と黒上君が残って、他の三人で連絡をとればいいんじゃないかな?」
銃声とは対照的に、木場先輩が静かな声音で言った。
「木場、お前……」
「勘違いしないでほしい。イッセー君は聖剣使いと連絡が取れるって言ってたよね? 小猫ちゃんは部長と取れる。匙君は会長とだ。私情がないとは言わない。けど、周りのやつを倒すまでは我慢するよ」
……ぶっちゃけ連絡なんて一人……イッセー先輩だけでもいい気はする。
ただ小猫はムカデの相手なんて嫌だろうし……というか素手で相手取りたくないよな、ムカデ。あのサイズのに噛まれたら、毒の方もシャレになんなそうだ。そういう意味でも小猫は戦闘に参加すべきではない。
ただ三人なら結界抜けて同時に部長さん、会長さん、聖剣組に連絡がとれる。それに人数比的にも悪くない。他にも敵がいる可能性はあるし……メリットはある。
それに……木場先輩に戦うなというのは酷か。
「……んじゃ、それで」
肯定すると、イッセー先輩が俺を見た。
「いいんだな?」
「帰りで襲われる可能性もあるから、三人も警戒はしてくれ」
そうして話は纏まった。
◇
オリ主がいて、ダンテ達もいる。
というわけでDMC悪魔以外にも、他の組織や敵キャラ関係を水増し。
っていうか今回出した清一色とか知ってる人いるのかという疑問。いや原作終わってないけどね。
友人に「もっと好きに書けばいいじゃん」と言われたので、結構好き勝手し始めました。
なんかクロスオーバー系になりつつある気がする……。
でもメインはDDにDMCを混ぜたものだと言い張る私。
次回は恐らく別視点。
今話ともども楽しんでもらえたら幸い。