宿した者(仮)   作:雲丹

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EX.小猫の場合

 

 

 

 

 

 私は溜め息を吐く。

 ここ最近で心配事が多い。

 イッセー先輩の家でアルバムを見ていた涼夜はどこか淋しそうだったし、祐斗先輩は聖剣を見てしまってから何かに取り憑かれてしまったように見える。

 涼夜の方は球技大会の時には楽しそうに振る舞っていたが、その日の内に祐斗先輩に言われた一言でまた難しい表情になっていた。

 ……祐斗先輩の感じていたことは、正直私も思っていた。

 皆が私と涼夜は仲が良い。

 私の一番近くに涼夜がいる。

 涼夜の一番近くに私がいる。

 そう言います。

 でも違う。

 皆が思っているような関係ではない。

 それに言うほど――近くない。……というのは置いておいて。

 色々と問題が重なってきていた時に限って問題は起こるもので。

 

 

「黒上涼夜は飛行機を一機墜落させたのよ。乗客諸共ね」

 

 

 その言葉を聞いた時は驚いた。

 けどその行動が涼夜の本心じゃないのは直感でわかった。勘かよ、と思われるかも知れませんが、当たっていたので問題ないです。

 あの時、私達は信徒の言葉を否定した。

 恐らく涼夜も聞いていたのでしょう。扉の前で気配がしましたし。……私に悟らせる辺り、動揺していたのかもしれない。

 

 

「聖剣エクスカリバーの破壊許可を紫藤イリナとゼノヴィアからもらうんだ」

 

 

 イッセー先輩の提案には……あまり驚かなかった。

 ここ数ヶ月でわかったことだが、先輩は口では「イケメン滅べ」や「チヤホヤされすぎだろ!」と祐斗先輩と涼夜に毒づく。特に祐斗先輩には多い。

 けれど、あの人はなんだかんだで祐斗先輩のことも涼夜のことも気にかけているのだ。

 

 

「エクスカリバー破壊団結成だ」

 

 

 祐斗先輩の説得にも成功しました。

 涼夜と祐斗先輩が顔を合わせても会話がないのを見た時は辛かったですが、二人とも仲直りができて良かった。

 ……匙先輩には悪いことをした思ってます。反省。

 でも祐斗先輩の話を聞いて、一番やる気になったのは匙先輩だった。誰かのために本気で涙を流せる優しいひと。生徒会長も良いひとを眷属にしたと思う。……目標には心底呆れましたが。

 

 

 ――いつもありがとう。学校楽しんで――

 

 

 涼夜に届けられた手紙の文面を読んで、先日ゼノヴィア……さんが言っていたことが事実なのだと思った。

 涼夜は孤児院に多額の寄付をしている。

 手紙には子供の書いた絵も描かれており、涼夜が珍しく感動した様子だった。

 寄付をしているということを適当に理由を付けて、仕方なくやっていると言うような態度の辺り「涼夜らしい」とイッセー先輩が言っていました。同感です。変に偽悪的ですから。

 

 

「「うわっ、美男美女!!」」

 

 

 イッセー先輩と匙先輩の言う通り、写真で涼夜の周りのひと達は美男美女でした。しかも皆してスタイルが良い。男性二人も、涼夜より十……二十センチは大きそうでした。

 そして女性二人……大きいです。

 写真を見たときつい凝視して、自分の胸に両手を当ててしまいました。……誰にも気が付かれなくて良かった。

 

 

「おお……!」

 

 

 コートを手に取った涼夜は、まるで欲しいものが手に入った子供のように嬉しそうだった。

 この日だけでも、多くの涼夜が見れた。こういう日は中々ないので、先輩達も珍しいものが見れたと嬉しそうでした。

 ただ、涼夜の食事事情はいただけない。

 部屋が豪華なのに、冷蔵庫の中身は市販の料理だらけ。入ってる食材はキャベツやニンジン。キャベツのあった理由はともかく、ニンジンがあった理由。

 

 

「キャロットケーキをつくるために……」

 

 

 涼夜は変だ。

 ケーキの練習はするのに、普通の料理の練習はしない。

 ミニカップ麺については私も試してみたいが、そんなのしょっちゅうやっていたら体を壊す。

 それに置いてある調味料もお菓子作りに使うようなものばかり。大体なんでわざわざドイツから砂糖を仕入れているんですか。

 それにキッチンのゴミ箱の横に置かれていたピザの空き箱。

 どれだけ不摂生で、しかも努力の方向性がズレているのか……つい説教じみたことをしてしまった。

 翌日からきちんと食事を食べるように言い、食べたものを写真に撮るように言ったら、きちんとメールで送ってきた。リゾット……美味しそうだった。

 それとは直接関係ないが、学校で知らない女の子に「塔城さんには負けませんっ!」と宣戦布告された。一体のなんの話だったのか。

 

 

「今日も収穫なしか」

 

 

 涼夜の家に集まった日から始まった聖剣探し。

 神父やシスターが狙われてるとのことなので、全員がそれらに扮した格好に着替えていました。ただ学校のある限りある時間での捜索は厳しく、その日も終わりかに思えた。

 

 

「――もしもし、そこ行くお兄さん達」

 

 

 そう声をかけてきた男は酷いにおいだった。

 強めの香水と……何かが混じり合ったにおい。

 その男……清一色(チンイーソー)はまるで何か知っているかのような態度をとり、私達の神経を逆なでる。

 

 

「背中に火傷の痕がありますね? それが貴方の罪の始まりだ。償いきれない程の……」

 

 

 その一言が、私には我慢できなかった。

 紫藤イリナ……さん、の涼夜を悪人と決めつけた態度より、よっぽど。

 私は手の平を机に叩き付けた。勿論、手加減はした。

 正直、相手が一般人でなかったら机を投げ飛ばしていたと思う。

 理由は……前に部長達の悪戯で、温泉で涼夜と鉢合わせてしまったことがある。

 その時、私は彼の背中を見ていた。

 見てしまっていた。

 切創、刺創、裂創、挫創……そして、大きな火傷の痕。

 すぐに理解した。

 アレは――虐待の痕だ。

 本人に聞くまでもなく、そうなのだと認識させる傷跡だった。

 再生力の高い魔人である涼夜に傷が残ってる理由はわからない。

 そのことを指摘された時の涼夜は、顔の筋肉を膠着させ、怒っているようにも泣いているようにも見える表情を作っていた。

 私の行動が切っ掛けになって、傷のことを知らない先輩達も勝手なことを言う清一色に怒っていました。

 その後すぐに姿を消した清一色。

 

 

「……ここは僕と黒上君が残って、他の三人で連絡をとればいいんじゃないかな?」

 

 

 巨大なムカデと黒い蟹の形をした式神を前に祐斗先輩は言いました。

 式神はともかく。

 ムカデ、あれはいただけない。つい涼夜の背中に隠れてしまった。

 ……ムカデは脚の数が多く、運動性に富む捕食性の虫だ。顎肢に毒腺を持っているので、正直な話、近接格闘をする私やイッセー先輩では少し危険がつきまとう。

 敵の数が多いし、無駄に大きいからだ。

 その点、祐斗先輩の案は……普段の祐斗先輩なら良案だったと思います。

 

 

「勘違いしないでほしい。イッセー君は聖剣使いと連絡が取れるって言ってたよね? 小猫ちゃんは部長と取れる。匙君は会長とだ。私情がないとは言わない。けど、周りのやつを倒すまでは我慢するよ」

 

 

 そう続けた祐斗先輩の目を涼夜は一瞬だけ見た。

 

 

「んじゃ、それで」

 

 

 何か思うことがあったのか、涼夜はすぐに祐斗先輩の案を採用した。

 この場にいるのは五人。フリードを入れて六人ですね。

 ムカデと式神の相手をすることになるのはフリードを入れて三人。敵襲の可能性も含めて、部長達に連絡をするのも三人。数の上ではバランスがとれている。

 敵の殲滅が終われば、涼夜と祐斗先輩の二人でフリードの相手ができるし……やっぱり良案、なのかもしれない。

 それに悔しいですが、私達の中で一番実力があり経験豊富なのは涼夜。

 その涼夜が祐斗先輩の側にいるのなら、きっと大丈夫だと思う。

 そう信じて人通りのほとんどなかった裏通りを駆け抜ける私、イッセー先輩、匙先輩。

 

 

「「電波入った!」」「入りました」

 

 

 三人同時でした。

 悪魔である私達が五分ほど走っていたので、涼夜達とは結構離れましたが、これで連絡がとれる。……あれ?

 

 

「よし、早速――」

 

 

 先輩二人が手早く携帯を操作しますが、その……必要がなさそうです。

 だって。

 

 

「力の流れが不規則になっていると思ったら……」

 

 

「これは困ったものね」

 

 

 部長と生徒会長がそこにいますから。当たり前ですが険しい表情です。

 二人を確認して、ポロッと携帯を落とすイッセー先輩と匙先輩。

 匙先輩からのコールを受けて生徒会長が携帯を取り出しましたが……イッセー先輩の携帯は「現在電話に出ることができません」音声が流れている。画面には紫藤イリナと書かれています。

 

 

「あ……っ……これは……その……じゃなくて!」

 

 

 一瞬瞳の泳いだイッセー先輩でしたが、すぐにハッとなった。

 

 

「大変なんです! 実は――」

 

 

「兵藤! ここは走りながら説明するべきだろ!」

 

 

 匙先輩の言う通りですね。

 

 

「どうやら切羽詰まった状況みたいですね」

 

 

「ええ。涼夜もグルなんでしょう? あの子がいないのと関係あるのかしら?」

 

 

 三年生二人は冷静だ。

 そして察しもいいです。

 

 

「涼夜と木場が戦闘中で……ああ! もう着いてきてください! 匙、説明頼む! 俺はイリナに!」

 

 

「ああ!」

 

 

 

 こっちです! と声を上げる匙先輩はイッセー先輩と一緒に駆け出してしまった。釣られて私と部長達も。

 大方の事情を説明しながら来た道を戻っていると、イッセー先輩は未だに携帯を操作している。

 

 

「イッセー先輩、電波はあるんですか?」

 

 

「ああ、けど通話に応えてくれない……からメール送っておいた」

 

 

 匙先輩が説明を続けているので、聞いてみたが……それはおかしい。

 

 

「電波、あるんですね」

 

 

 電波が入ったのは部長達と合流した場所だ。

 そこから戻っているのに電波が入っているのは変だと思う。

 携帯をポケットにしまったイッセー先輩も同じ事を思ったと言います。だがその疑問に対する答えは持ち合わせていない。

 

 

「エクスカリバーの破壊……」

 

 

「それに第三勢力の可能性ですか」

 

 

 匙先輩が説明を終えると、部長は呆れたように、会長は疲れたように息を吐いた。……後で確実にお説教コースですね、私達は。

 

 

「とにかく今は祐斗と涼夜に会わないといけないわね」

 

 

「そうね。彼らなら大事にならないと思うけれど……」

 

 

 今はとにかく合流が先決だ。

 そんなことは、私達の主もわかっています。

 人通りのない通りから路地裏を抜け、更に奥に進んだ場所にある少し開けた空間。そこが私達が別れた場所でした。

 戻ってくるのは、電波の入る場所に着くまでかかった時間よりも短かったと思う。

 だけど、私達がそこに着いた時には……。

 

 

「……ビルが倒れているだけね」

 

 

「怪しい易者も見当たらないわ」

 

 

 誰もいなくなっていた。

 倒壊しているビルはそのままだが、辺りにひとの気配はなく、ムカデの死骸も残っていない。

 

 

「っ、涼夜! 木場ァァァァ!!」

 

 

 イッセー先輩が叫びました。

 けれどその声は反響するだけで、二人が出てくる気配はありません。

 匙先輩も声を上げながらビルの周りでキョロキョロと辺りを見回しています。

 

 

「……」

 

 

 かくいう私も、どこかに手がかりがないかと探しています。

 が、不意に部長が手を叩いた。

 

 

「――落ち着きなさい」

 

 

 結局。

 二人の捜索は使い魔に任せて、この場を後にすることになった。

 仮にも敵対者がいた場所だったし、手がかりも見つからなかったからだ。

 部長達にもう一度詳しく説明をし、私達は解散することになった。

 その数時間後には再集合することになりましたが。

 

 

 

 




小猫視点です。
少し場面を振り返っていき、最終的には少し物語が進みました。

次も別視点……かも。
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