宿した者(仮)   作:雲丹

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大変長らくお待たせしました!
一段落したので投稿します!


EX.一誠の場合 act 2

 

 

 

 

「こなくそッ!」

 

 

「ハハッ! 龍の腕なら聖剣すらも弾くか! 上手く避けるようになったじゃねェか!!」

 

 

 前の修行の時から涼夜に相手してもらうのも少なくないからな! 腕が龍化して以来、避ける以外にも色々と選択肢が増えてきてるんだよ!!

 

 

「けど足りないんだよなァ」

 

 

 ……俺と涼夜を比べてやがるのか? 確かにあいつと俺では大きすぎる差がある。とはいえフリードに不満げな顔をされる筋合いはねぇ!

 

 

「それに悠長にしてていいのかい?」

 

 

 一度溜め息を吐いたフリードだったがすぐに巫山戯た笑みを浮かべる。

 悠長……? そういえば三十分がどうとか言っていたな。部長達も隙を見て攻撃してくれているが、コカビエルとバルパーの二人に対しても警戒をしているせいで決定打にはならない。

 

 

「三十分後……あァ、もう二十分位か? この町壊れちゃうぞ?」

 

 

 町が、壊れる……? 壊れる!?

 デロンと舌を出して言ったフリードの言葉に、俺は一瞬動きを止めてしまう。

 

 

「オラ、止まンな」

 

 

「ぐぅっ!?」

 

 

 フリードの蹴りが俺の腹部に直撃した。ご丁寧に勢いのある後ろ回し蹴りである。

 

 

「っの! フリード! 町が壊れるってどういう意味だ!!」

 

 

 俺の叫びを聞いてフリードは聖剣をその場で振り回す。

 んー? と無駄に考え込む仕草を見せてから奴は口を開いた。

 

 

「聖剣が一つにする術式に、町に対して影響を及ぼす式を加えたんだと……ボスが言うには余興だとさ」

 

 

 興味がなさそうにフリードは言う。

 

 

「解除条件はボスの打倒。イッセー君達にはちィーっとばかし難易度が高いかな」

 

 

 絶句してしまう。

 あと二十分で狂犬神父は勿論、あのコカビエルおも倒さなくてはならないのだ。

 校庭に展開されている魔方陣を見てみれば、確かに光は強くなっていた。しかもそれに比例するように力を帯び始めている。

 サーゼクスさま達を待っているなんて言ってられない!

 

 

「だーかーらー」

 

 

 しまッ!?

 

 

「戦闘中に呆けるなってーの!」

 

 

 目の前にまでフリードが迫っていた。

 振りかざされる聖剣。部長達の叫びが遠くに聞こえる。

 やばい。

 やばい。やばい。やばい。やばい。

 弾けるか!? 間に合うか!?

 咄嗟に腕を振るおうとした刹那、一つの影が俺とフリードに割り込むようにして飛び込んで来た。

 金属同士がぶつかり合う甲高い音が響く。

 

 

「――へェ?」

 

 

 フリードの意外そうな声が、見知った背中の向こう側から聞こえる。

 

 

「こっちに来たのはやっぱりお前らか」

 

 

 聖剣と魔剣が唾ぜり合うより早くにフリードは背後に跳び抜く。

 ……お前ら?

 

 

『(相棒、後ろだ)』

 

 

 後ろ?

 赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)に宿った赤龍のドライグに言われ振り返ると、部長達の側にゼノヴィアが降り立っていた。

 なるほど。

 

 

「大丈夫かい?」

 

 

「おっせぇよ、色男」

 

 

 振り返りこそしないが、木場は「ははっ」と笑みを漏らした。

 なんだよ、聖剣を前にしても結構冷静でいれるようになれてんじゃねーか。

 

 

「涼夜とイリナは? あいつらの口ぶり的には無事みたいだけど……」

 

 

「彼は正門に配置されていたケルベロスの相手をしてくれてるよ」

 

 

 ケルベロスぅ!?

 こいつ軽い口調で言ったけど、ケルベロスって言ったらギリシャ神話に登場する冥界の番犬だよな!?

 

 

「だ、大丈夫なのか?」

 

 

 俺の心配をよそに、木場は「うん」と短く返事を返した。

 

 

「知り合いみたいだったしね」

 

 

 知り合い!? ケルベロスと!?

 ……ってなんだ!?

 空気が大きく揺れ、視界に反射してきた光が入り、俺も……それこそ部長や木場だけではなく、フリードとコカビエルもそちらに視線を移していた。

 あれは……氷の柱!?

 デッカ!

 上方に行くに連れて細くなっているとはいえ、校舎を軽く超えてるぞ!?

 ってまた不意打ちされる!? ……ん?

 

 

「……」

 

 

 フリードの奴、いま笑ったか……?

 気のせいだろうか。

 ……そうか。

 あいつは涼夜との戦いを望んでいるし、楽しんでいる。

 すぐに砕けた今の氷柱は正門の方に立ち上っていた。つまり涼夜がなんらかの形で関与しているわけだ。

 フリードが自分と涼夜の戦いを考えて笑っても可笑しくはない。

 

 

「紫藤さんも傷は負ってるけど命に別状はないそうだよ……ただまだ意識が戻ってないこともあって、妖館で寝かせてもらってるんだ」

 

 

「そうか。……あれ? 妖館って聖職者は余りいない方がいいみたいな感じじゃなかったか?」

 

 

 基本的に魔に属する者が住んでるのが妖館だって涼夜も行ってたぞ。

 

 

「怪我人だったからね、無理を言って医務室を使わせてもらったって黒上君が言っていたよ」

 

 

 なるほど。

 後で俺もお礼を言っておこう。

 けど医務室も完備されているのか、妖館は。

 本当に凄い設備だ。

 

 

「――一応聞くが、投降する気は?」

 

 

 木場と話してる間にゼノヴィアがこちらに来、フリードを睨みながら問う。

 

 

「バカか。数はそっちが多くても、こっちのが格上なんですよー?」

 

 

 言葉通り、俺達をバカにするように舌を出して煽ってくるフリード。

 色々と腹立たしいが、言ってることは嘘じゃない。

 

 

「だがお前も知っているだろう? 魔人の実力を」

 

 

 ゼノヴィアの言う通りだ。

 普段のままの涼夜にも、俺達オカ研部員で勝てる奴はいない。

 けど涼夜には更に上がある。

 ――魔人化。

 俺はまだ直接それを見たことはない。

 が、使わずともフェニックスすら蹂躙できる涼夜の切り札だ。

 強力無比なのは言うまでもないだろう。

 

 

「ハハッ! お前はあれか? 自分より弱い奴としか戦えない弱虫ちゃんか? 俺様は確かに涼夜ちゃんの実力は知ってるし? 認めてもいる。けどなァ、勝てないと思ったことはねーんだよ! それにあいつとの戦闘は最高だ!! 何も考えないでいられるからな!!」

 

 

 戦闘狂め!

 戦争狂に強力してるだけあるな、オイ!

 

 

「……フリード!」

 

 

 !?

 バルパーが不意にフリードの名を叫んだ。

 

 

「一対一はもういい。次は一対多だ」

 

 

 そう言うとフリードを含め俺、木場、ゼノヴィアと部長達を遮るように光の壁が空に上がった。

 地面から一メートル程は光が強すぎるが、それより上は壁の向こうが見える位には光が弱まっている。

 ……?

 部長達が何か言っているが声が聞こえない。

 

 

「結界だな」

 

 

 ゼノヴィアが鬱陶しいと言わんばかりに呟く。

 結界……パッと見ただけでも学校が分断されてるんだが……。

 

 

「なあ、あの光は……」

 

 

「僕達みたいな悪魔には猛毒だろうね」

 

 

 即答した木場に、やっぱりかと思う。

 凄く嫌な感じがするし、聖なる力なんだろう。

 

 

「恐らく聖剣の力を一部利用しているのだろう」

 

 

 ゼノヴィア曰く、そうらしい。

 当人も聖剣を持っているし、フリードが持っているのも三本分の聖剣だ。辺りに漂っている聖なる気が、いつもとは比べものにならない位多いのは俺でもわかる。

 ならソレを使った結界を張られてもおかしくはない、か。

 

 

「ご明察だ」

 

 

 くくく、と笑いながらバルパーが言った。

 その名を木場が憎々しげに呟く。

 

 

「――僕は聖剣計画の生き残りだ……いや、正しく言うのなら一度は殺されている」

 

 

「ほう? 悪魔に転生することで生き長らえたか」

 

 

 木場の憎悪の視線を受けながら「数奇なものだ」とバルパーは涼しげに言い放つ。

 

 

「このような極東の地に計画の生き残り、聖剣使い、魔人が集まるとはな……ある種の縁すら感じるな」

 

 

 小バカにするように言いやがって。

 木場も飛び出してこそ行かないが、今後の言葉次第では一触即発だ。

 

 

「私は聖剣が好きだ。本当に。夢にまで見る程に。……だからこそ、自分に聖剣の適正がないと分かった時は絶望したよ」

 

 

 今までの態度とは打って変わり、真面目な語りだな。

 

 

「だがふと気が付いた。自分で使えぬなら、使える者を創り出せばいいとな。そしてそれは完成した」

 

 

「完成、だと?」

 

 

 木場が怪訝そうに尋ねる。

 俺も研究は失敗だと聞いている。だから被験者は用済みだと処分されたのだと。

 木場だけでなく、部長やゼノヴィア達もそう言っていた。

 

 

「聖剣を扱うには特殊な因子が必要だ。そしてその因子を、被験者のほぼ全員が所持していた」

 

 

「だが……僕たちは聖剣を扱えなかった」

 

 

 それが失敗作の烙印を押された理由だもんな。

 できるだけ落ち着こうとしているのか、木場は自分の感情を抑えるように言った。

 

 

「そうだ。が、それには理由がある。なに、単純な話でな。エクスカリバーに必要な因子の量を仮に十とした場合、被験者の多くが二や三……多くても五しかなかったのだ」

 

 

 ……なるほど。

 腹立たしいが、俺でも理解出来る例え方だ。

 

 

「そこで私は考えた……因子だけを抽出し、集めることができないか――とな」

 

 

「……ならば我々聖剣使いが祝福を受けるとき、体に入れられるのは――」

 

 

 事の真相を察したのか、ゼノヴィアが忌々しそうに歯がみしている。

 

 

「これだろう?」

 

 

 バルパーは見せびらかすように懐から光り輝く球体を取り出した。

 

 

「聖剣に適合しうる者達から、聖なる因子のみを取り出し結晶にした物だ」

 

 

「皆から因子を抜き、あまつさえ殺したのか!!」

 

 

 限界だったのだろう。

 木場は叫びならバルパーに向かって駆け出した。

 速い!

 倍加をしてない俺では追いつくことなどできない!

 

 

「木場!」

 

 

 殺気を身に纏い、その手に掲げた魔剣でバルパーを切り裂こうとする木場。

 だが現実には金属同士がぶつかり合う音が響くだけに終わった。

 

 

「邪魔をするな!!」

 

 

「そォはいかないでしょーよ」

 

 

 フリードが聖剣で木場の魔剣を受けやがった!

 あいつ、木場の動きに追いつきやがったのか!

 俺も慌てて駆け出そうとするが、バルパーは更に言葉を続けた。

 

 

「フリードにも使ったが、この結晶も"その時"の物だぞ」

 

 

 くれてやる、と結晶を放る。

 あいつ、なんて真似を……!

 

 

「あ……」

 

 

 かつての仲間の命とも言えるかもしれないソレを、木場が無視できるわけがない。

 一瞬だけ呆け、慌ててその結晶に手を伸ばす木場。

 けど今はダメだ!

 目を背け、背を向けた木場にフリードは容赦なく剣を振るう。

 

 

「させるか!」

 

 

 間に合った!

 ゼノヴィアがフリードと木場の間に割って入り、聖剣で聖剣を受け止める。

 その隙に俺もフリードの顔面目がけて拳を叩き付けるべく腕を振るう。

 

 

「っとォ!」

 

 

 俺の拳を避けやがった!

 しかもバックステップのついでとばかりにバルパーも回収してやがる!

 

 

「兵藤一誠! 木場祐斗を!」

 

 

 っ!?

 

 

「すまん!」

 

 

 腹を抱えていたフリードはバルパーを下ろし、そこにゼノヴィアが駆ける。

 俺は彼女に言われた通り、後ろで蹲るようにしている木場に駆け寄った。

 

 

「皆……」

 

 

 屈み込み、両手で結晶を包み込んでいる木場。

 哀しそうに、愛おしそうに、懐かしそうに結晶を撫でる木場は、頬を涙が伝っていた。

 その時だった。

 結晶が一際激しく発光し、小さな粒となって弾けたのだ。

 弾けた粒はまるで雪のように学校中を包み込み、形を成していく。

 それは徐々に形成されていき――人の形となった。

 木場を囲むように現れたのは青白く輝く少年少女たちだった。

 

 

「唯一生き残った友との再会が、魂を解き放ったのですね」

 

 

 朱乃さん? に部長達も。

 ……あの聖なる結界が消えた?

 まさか今の結晶が結界を消した……のか?

 

 

「み、んな……僕は……僕は!」

 

 

 俺でもわかる。

 この魂達は、木場がかつてを共にした聖剣計画の……犠牲となった者達。

 本当に幼い。

 十才やそこいらに見える。

 

 

「ずっと、思っていたんだ……僕より夢を持っている子も、僕よりも生きたいと願う子も、たくさんいた! なのに僕が! 僕だけが! 平和な、暮らしを……!」

 

 

 嗚咽まみれに木場は本音を吐露する。

 自分が生きていて良かったのか――と。

 

 

「俺達のことはもういい……君だけでも生きてくれ」

 

 

 霊魂の中でも年長に見える男の子が、微笑んだ。

 

 

「っ!? だけどっ!!」

 

 

 子供のように声を荒げる木場に、男の子は諭すように続けた。

 

 

「君は俺達を忘れなかった。これからも忘れはしないんだろう」

 

 

 その声は何処か寂しそうで、何処か嬉しそうでもある。

 

 

「それが――俺達の生きた証になるんだ」

 

 

 木場がハッとなって顔を上げた。

 木場は他の霊魂の子達に目をやると、全員が笑みながら頷く。

 

 

「そういうことだ……だから君は生きていていいんだ。笑っていいんだ。楽しんでいいんだ。――そしてそれを、俺達も願っている」

 

 

 その言葉を皮切りに、先ほどまでとは比べものにならない大粒の涙が木場の頬を流れ出す。

 その様子を優しげな視線で見つめていた男の子の口が動き、それに習うように他の子達も口を動かし始めた。

 これは……?

 

 

「聖歌……?」

 

 

 アーシアが呟いた。

 そうだ、これは聖歌だ。

 木場も泣きながら聖歌を口ずさみ始める。

 それは彼らにとってただ一つの希望で夢。

 それは彼らにとっての生きる糧。

 それを歌う彼らと木場は、まるで無垢な子供のような笑顔に包まれていた。

 

 

 僕らは一人ではダメだった。

 

 

 私達では足りなかったけど――。

 

 

 皆が集まれば、きっと大丈夫!

 

 

 聖歌に混ざって、そんな声が俺の耳にも届いた。

 本来なら聖歌は悪魔に良い影響を及ぼさない。寧ろ逆だ。

 だが何故だろうか。

 俺は……俺達は苦しみなんて感じない。

 感じるのは温かさだ。

 友を想う、温かなもの。

 俺の目からも涙が伝う。

 

 

 聖剣を受け入れるんだ。

 

 

 恐くなんてない!

 

 

 仮に神がいなくても!

 

 

 神に見捨てられても!

 

 

 俺達の心はいつだって――。

 

 

「――一つだ」

 

 

 彼らの魂が天に昇り、一つの光になって木場の元へ降りてくる。

 優しく神々しい光が、木場を包み込んだ。

 

 

『(相棒)』

 

 

 なんだよ? ドライグ。

 

 

『(あの騎士は至った)』

 

 

 至った?

 

 

『(禁手(バランス・ブレイカー)だ)』

 

 

 ドライグは楽しそうな笑いを零した。

 

 

 

 




涼夜がいない場面を執筆するとどうしても一誠視点で書いてしまう……というわけで前話から引き続き一誠側の物語。


15/05/17
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