◇
時は大きく巻き戻る。
ムカデと式神の排除にそんな時間はかからなかった。
数が多かったとはいえ、こちらは三人。……それも木場先輩は魔剣を作れる。熱を操る魔剣で一掃できたのだ。後は生き残った奴らを殺すだけだった。
「――さて、始めようか」
「おっ? 殺る気ですか?」
先輩の言葉に「いいね」と喜色が多分に含まれた声を出すフリード。
っと、式神は絶命……と言うんだろうか? すぐに消えてなくなったが、ムカデの方は今地面に吸い込まれるように消えていった。
辺りには血痕も何も残らない。
ただの蟲じゃないな、やっぱり。
「――ハハハ! 顔が怖いぜ! 折角の美男子が台無しだ!!」
「くっ!」
やはりエクスカリバーと、先輩の作れる魔剣じゃ性能に差がある。それに精神的余裕が今の先輩にはない。どうにも劣勢である。
面白そうに笑うフリードに腹部を蹴られた先輩は、呻きながらも特攻じみた動きを止める素振りを見せない。
「聖剣に憎悪でもあんのかァ?」
「黙れッ!!」
少しは様子見を、と思ったが……これは駄目そうだ。
先輩はまるで冷静になれてない。
俺は跳躍し、二人の間に割り込ませるように、銃弾を放った。割り込ませるといっても当然、標的はフリードだ。
「っ!?」
先輩が咄嗟に動きを止め、俺は先輩の前に着地した。
武器を刀に持ち返る。
「傍観やめちゃった? まァ今の見てれば当たり前だけどな! いいぜ! 俺様も前菜はウンザリしてたんだ! つうかあんなムシケラだとか式神だとか! ましてや我を忘れてるようなのなんておやつ以下だしな!」
「貴ッ様……!」
先輩が唸るような声を出す。
「そこでノるから駄目なんだ、先輩」
「だけどっ!」
過去が過去なのは判ってる。けど、現状それじゃあ駄目なので……俺は振り向き――頭突きした。
「ッ! ……!?」
目標は木場先輩の頭。
先輩は声にならない声を上げて頭を抑えた。
「まずはフリードの撃破。それから聖剣破壊でもいいだろ? それに悪魔な先輩は一撃貰ったらアウトだし」
「消滅確定でやんすよ。魔人な涼夜ちゃんは大丈夫だけどなっ」
向き直りながら言うと、フリードも便乗してきた。
それでも悪魔よりマシってだけだ。……
くだらないことに身震いしながらフリードに向き直り、刀を構え直す。
「――話は纏まったみたいだな」
「フリード=セルゼン……!」
俺の背後に誰かが着地した。気配は二つ。
話は纏まったというか強引に進めただけだったので、少しズレたことを言ったゼノヴィアが俺に並ぶ。
緊張感のある声で呟いたのは紫藤イリナ。……先にこっちの二人と合流することになったか。
けどまァ何を考えているか判らないとは言え好戦的なフリードだ。撤退するか否かは半々。後者なら力付くで捉えることも可能なわけだが……。
「これまたぞろぞろと……」
トントンと足下を蹴るフリード。
「そっちのナイトも涼夜ちゃんの意見に従うっぽいし、一対四か……ちょーっち分が悪いでヤンス」
そこまで言ったフリードは思い出したように「あっ」と呟いた。
「お前ら有利なのは涼夜ちゃんがいるからだからね! そこにいるのが別の誰かだったら結果は逆なんだからね! 勘違いしないでよねっ!」
……ツンデレ?
声音を変えて叫んだフリードに対して、そう思ったのは俺だけじゃないはずだ。……あァいや、ゼノヴィアは知らなそうだけども。だって凄く怪訝な顔してるし。俺を含む他の二人は「なに言ってるんだ、こいつ」と言った表情になってしまっているだろう。
そんな一瞬の硬直を突いてフリードは手元から何か取り出し――発光させた。
「小細工かよ!」
「スタングレネードか!」
「っ!?」
「卑怯な!」
俺、木場先輩、紫藤、ゼノヴィアがそれぞれが小さく反応し、目元を腕で隠す。
「小細工言うな! ……んじゃ、ばいばいきーん!!」
炸裂した閃光の後、そんな巫山戯た叫びが上がる。
俺達が喰らったのは目くらまし。
袖から取り出せるほどのコンパクトサイズ故か効力はそんな高くないようだが、それでも視力が戻った時には既にフリードの姿は小さく、路地の奥のビルに跳躍するところだった。
そして間髪入れずに駆け出した木場先輩と紫藤。
「先輩ッ!」「イリナッ!」
俺とゼノヴィアが同時に声を上げるが、二人とも止まる気配はない。
「この機会を生かさない手はない!」
「ここで逃がすわけにはいかないわ!」
同じようなことを言われた。
とは言え紫藤はともかく、先輩は俺の案に乗って……結局フリードを逃してしまった。俺にも責任は大いにある。追わないわけにはいかない。
ゼノヴィアも組んでいる相手を無視するわけにもいかない。
俺達が駆け出すのは至極当然のことだった。
「予想していたことだが、そちらのナイトは焦っているな」
「そっちの相方がここまで考え無しだとは予想してなかったけどな」
軽く言い合って、互いに溜め息。
聞いた話だが、紫藤の奴は結構な自信家らしい。それ故の今回の行動なのだろう。
確かにエクスカリバーの所持者というだけで大きなステータスではあるが、それイコール実力というわけではない。
「武器の力を自分の力と勘違いした奴の末路は悲惨だ」
「……耳が痛いな」
思い当たる節があるゼノヴィアは苦虫を潰すかのような表情を作る。でも実は俺にも覚えがある。
「お前は生きてたんだからマシだろ」
「そう……だな」
事実だ。
生き残って嬲られているのなら話は変わるが……ゼノヴィアは生きて、自分の生きたいように生きることができている。
いま危険なのは紫藤と、復讐に焦がれている先輩だ。
「これでもイリナにはそれとなく忠告していたんだ……真っ直ぐに伝えても聞かないだろうからな」
「奇遇だな。俺達も木場先輩を何度も諭そうとしてた」
どちらも功を成さなかったようだが。
先輩に関しては説得できたようにも見えていたが、やはり実際にチャンスを目にすると自制が効かないらしい。
視点が変わると時間も変わる。すっごい変わる。
五時間とか六時間とか規模で変わっているので読者には分かり難いですかね? 涼夜視点だけだと繋がってはいるのですが……。