宿した者(仮)   作:雲丹

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Trip -innocent of D-

 

 

 

 

 オカルト研究部に入部することになって早数日。

 この部活で使っている部屋の設備がおかしいと思ったのは、俺の入部が確定した日だ。

 ……シャワーがあるのだ。

 簡易的なキッチンもある。

 謝れ。全国の部活動を頑張ってる人達に。

 

 

「今日も頑張っていますのね」

 

 

 入部して変化したこと……オカ研の部室でお菓子を作るようになったこと。

 いや冷静に考えてみると、家庭科部に所属しているわけでもないのに、放課後に家庭科室に出入りするのもアレかなと思っていたのでありがたかったりする。

 

 

「やー、作ってみると意外と楽しいのに気付いた」

 

 

 副部長が俺の後ろから顔を覗かせたので、少し驚きながらもそう答える。

 現在、小猫はソファーで羊羹を食べ、部長はシャワーを浴びている。

 木場先輩はまだ来ていない。

 ……と思っていたら、ちょうど部室の扉が開かれた。

 

 

「あれ? 部長は?」

 

 

「シャワーを浴びてます」

 

 

 やって来た木場先輩に答えたのは小猫。

 先輩の後ろはもう一人、茶髪の男子生徒の姿がある。

 

 

「こちら、兵藤一誠君」

 

 

 木場先輩に紹介され、小猫が頭を下げると、兵藤一誠も「あ、どうも」と慌てて頭を下げた。

 

 

「――男のエプロンとか誰得だよ」

 

 

 兵藤一誠は、次いでこちらを見たので頭を下げようとして――やめた。

 なんか吐き捨てられたから。

 いや確かに俺はエプロンだけど。

 髪も留めてるけど。

 でもそれは衛生面でも大事なことなんだぞ。

 ちょっとムカついたからスルーして作業を続けよう。

 

 

「部長、これを」

 

 

「ありがとう、朱乃」

 

 

 あ、部長が出てきた。

 いつの間にか副部長は部長にタオルを渡しに行っていたようだ。

 シャワーカーテンに映った陰影をガン見している兵藤一誠。

 流石は学園の“変態三人組”と言われているだけある。

 

 

「ひどい顔だ」

 

 

「いやらしい顔」

 

 

 お?

 つい呟くと、小猫も同タイミングで呟いていた。

 そして兵藤一誠に俺だけが睨まれた。

 凄いな。

 話には聞いてたけど、男には嫌悪感マックスなんだな。

 

 

「ごめんなさい。昨夜、イッセーのお家にお泊まりして、シャワーを浴びてなかったから、いま汗を流していたの」

 

 

 部長が制服に着替えてカーテンの向こうから出てきた。

 お泊まり云々の話は、俺が部室に来た時に聞いている。

 兵藤一誠が堕天使に襲われたんだそうだ。

 で、その時の傷を癒やすために部長さんが体を張ったらしい。

 具体的に言うのなら裸で抱き合って、魔力を分け与えたとか。

 ……裸とか抱き合いとかの必要性は俺には判らん。俺一応人間だし。

 

 

「こら」

 

 

 丸めたタオルで部長さんに頭を叩かれた。

 

 

「冷たっ」

 

 

 なんぞや。

 俺は訝しげに部長さんを見る。

 

 

「自己紹介しなさい」

 

 

 はぁ、と呆れたように溜め息を吐かれた。

 誰に? などと言うまでもない。

 兵藤一誠にだ。

 

 

「体を拭いたタオルで叩かれた、だと……!?」

 

 

 俺、現在進行形で睨まれてるんだけどなァ……。

 血の涙でも流すんじゃないかっていう形相の兵藤一誠に向き直る。

 

 

「オカ研部員一年、黒上涼夜。以後よろしく」

 

 

 右手を軽く挙げて言うと、「兵藤一誠だ」と無愛想な対応をされた。

 

 

「ってタメ語かよ!」

 

 

 あァ? そう言えば先輩だっけか。

 いや、部長達も先輩なんだけども。

 

 

「涼夜君は帰国子女だから敬語に慣れていないのですわ」

 

 

「ええ、だから余り気にしないであげて欲しいのだけれど……」

 

 

 部長と副部長からフォロー入りましたー!

 ご覧の通り、二人には敬語を使わなくてもいいと言われている。木場先輩にもだ。

 美人さん二人に言われて兵藤一誠は「ぐっ」と呻く。

 

 

「わ、わかりました。気にしないようにします……」

 

 

「ふふ、ありがとう」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

 話がついた……と思ったら小猫が俺を見ていた。

 

 

「どうして部長達がお礼を言って、涼夜は言わないんですか?」

 

 

 全くです。

 

 

「……ありがとうございます」

 

 

「……おう」

 

 

 小猫に言われて兵藤一誠にお礼を言う。

 渋々といった様子だったが、本人も納得してくれた……のか?

 

 

「それじゃあ涼夜」

 

 

「うん?」

 

 

「ケーキを」

 

 

 笑顔の部長さん。

 

 

「今日は客人もいるのだし、お茶菓子はいるでしょう?」

 

 

「では私は紅茶を準備しますわね」

 

 

 部長さんと副部長で淡々と話が進んでいく。

 ちょ、ちょっと待って!!

 

 

「俺のケーキなんて――」

 

 

「駄目です」

 

 

 ゑ?

 俺の言葉を遮って、小猫がバッサリと言い切った。

 俺はギギギと壊れた歯車のように首を動かし、小猫を見た。

 

 

「あの、小猫さん……確かに俺も人前に出せるような品じゃないと思うよ? でもあの、そこまでハッキリ言われると流石に少し傷付くのですが……」

 

 

 無表情にも見える小猫。

 だが僅かに機嫌が悪そうだ。……俺なにかしたっけ?

 

 

「違う」

 

 

 小猫がまたキッパリと否定する。

 

 

「兵藤先輩は涼夜に謝るべきだと思います」

 

 

 はい? と俺、部長さん、兵藤先輩が同時に呆けた声を上げた。

 副部長と木場先輩だけは何やら事情を理解しているようで、楽しそうに笑みを浮かべている。

 

 

「涼夜のエプロン姿をバカにしました」

 

 

 キリッと兵藤先輩を睨む小猫。

 ……え?

 俺も困惑してるから睨まないで兵藤先輩!

 

 

「ケーキを作った人をバカにして、ケーキをもらえると思わないでください」

 

 

 あ、そういうこと。

 言わんとしていることは判る。

 「いただきます」という言葉も食材や食材を作った人、調理をしてくれた人に対するお礼だもんな。

 小猫は食べるのが好きだ。ならばそういうことを大事にするのも頷ける。

 というか俺も「いただきます」と「ごちそうさま」は毎回言う。

 まともに食えなかった時期があるせいで余計に、食べられることのありがたみが判るし。

 

 

「そういえば最初にバカにするようなことを言っていたね」

 

 

 木場先輩が思い出したように呟いた。

 

 

「……そう。確かに料理人(コック)……いえ、お菓子職人(パティシエ)かしら? どちらにしても作ってくれた人に感謝は大事よね」

 

 

 木場先輩の言葉で小猫の言っていることが事実だと判ったのか、部長さんも小猫を支持し始めたようだ。

 うーむ、部長さんってお嬢様……だよな? にしてはやけに理解が良いな。

 偏見と言われればそれまでだが、良い育ちの女の子が所謂(いわゆる)下々の者に理解を示すとは……俺と同じような境遇の知り合いでもいるのだろうか。

 それともただ単に本当にきちんとした教育を受けていたのか。……後者、かな。兄の人柄的に。

 

 

「イッセー?」

 

 

「う……はい」

 

 

 子供をあやすように部長さんに言われ、兵藤先輩はバツが悪そうな顔をしている。

 

 

「……黒上」

 

 

「お、おう……?」

 

 

 なんだこの空気。

 なんでちょっと気まずい空気なんだよ!?

 兵藤以外の先輩陣!! その生暖かい視線をやめろ!! マジで!!

 

 

「その、悪かった……な」

 

 

「あァうん、その……気にしてないんで」

 

 

 謝罪もされたし、俺も許した。

 これで一段落……じゃないよ!!

 

 

「「幼稚園かッ!?」」

 

 

 我慢できないで俺と兵藤先輩は叫んだ。

 だって流石にあり得ない。

 なんだ今の生ぬるい空気!

 気持ち悪っ!!

 いや俺は幼稚園行ったことないけどな!!

 

 

「はい、気持ち悪かったです」

 

 

「「自覚あるから言わないで!!」」

 

 

 くっそ……なんでだ!?

 兵藤先輩に謝罪させたかったんじゃないのか、小猫は!?

 なんで俺に飛び火してんだよ!?

 

 

「兵藤先輩! 変な空気作んのやめてくんない!?」

 

 

「俺かよ!? 元はと言えば……俺が悪いけど!!」

 

 

 俺達が言い争いを始めたところで、パンパン! と手を叩く乾いた音が響いた。

 発生源は我らが部長さん。

 

 

「はいはい、そこまでにしなさい」

 

 

 呆れたような、けれど楽しそうな部長さん。

 

 

「そろそろ話を進めたいのだけれど……いいかしら?」

 

 

 あっ。

 

 

「あ、す、すいません……」

 

 

 慌てて兵藤先輩が頭を下げる。

 俺の方も冷静さを取り戻してきた。

 兵藤先輩の今後の話が始まったので、小猫に声をかける。

 

 

「俺は礼を言うべきなのか?」

 

 

「思ったことを言っただけ」

 

 

 そうかい。

 まァ俺に、というより作る側に対して失礼だと怒っていたわけだもんな。

 

 

「ありがとな」

 

 

 それでも礼を言うのは、俺が嬉しかったから。

 声が小さくなってしまったのは単純に気恥ずかしさから。

 

 

「……デレた」

 

 

 やかましいわ!!

 

 

「……。どういたしまして」

 

 

 そんな言葉を聞きながら、俺はケーキの取り分けに入ったのだった。




おかしい。
説明会のはずが茶番回になっていた(驚愕)

改稿14/09/10
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