宿した者(仮)   作:雲丹

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EX.一誠の場合 act 3

 

 

 

 禁手(バランス・ブレイク)

 神器の力を高め、ある領域に至った者が発揮する力の形。

 単純に言うのならパワーアップ。

 使いようによっては"世界の均衡を崩す力"となり得る。"バランスをブレイクする力"ってことだ。

 

 

双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)

 

 

 それが木場の禁手化(バランス・ブレイカー)

 ドライグ言うには聖と魔を併せ持つ剣……聖魔剣を創り出しているらしい。

 それを自在に操り、木場達はフリードを追い込んでいた。

 そしてもう一人。

 

 

「デュランダル!」

 

 

 ゼノヴィアは天然物の適合者だったのだ。

 聖剣はデュランダル。

 最強クラスの斬れ味を誇る聖剣だ。

 今の木場とゼノヴィアを同時に相手にしては、あのフリードも攻め倦ねている。……が、その顔は喜色に満ちている。

 そんな嘗めた態度のフリードだったが、ついにゼノヴィアに体勢を崩された!

 追撃を警戒するフリード。

 だがゼノヴィアは一歩引いた。

 

 

「あ?」

 

 

 フリードが僅かに目を見開いた。

 けれど俺達からは見えていた……木場が脇から飛び出すのを。

 ゼノヴィアは木場に、聖剣の破壊を譲ってくれたのだ。

 自然と俺達は叫んでいた。

 

 

「ぶっ叩けェェェェ!!」

 

 

「やりなさい! 祐斗! 私の騎士はエクスカリバーごときには負けない!」

 

 

「貴方なら出来ますわ!」

 

 

「信じてます!」

 

 

「ファイト、です……!」

 

 

 光と闇の一閃。

 甲高い金属音を立てて半ばから真っ二つに折れる聖剣エクスカリバー。

 ここに来て漸くフリードは目を見開き、驚愕を露わにした。

 俺がグッと拳を握る。

 木場の勝ちだ!

 悲鳴を上げることもなく剣風に吹き飛ばされるフリードを見て、俺達は確信していた。

 変に回転しながらフリードは……バルパーにぶつかるだろう。

 そこに合わせて自分の肉体を強化して飛び込んでやるのだ。

 

 

『Explosion!』

 

 

 ずっと溜めてきた倍加を爆発させる。

 ドン! と地面がめり込んだ。

 一足で俺はフリードとバルパーの元へ行き拳を振るった。……え!?

 地面が砕けるのとはまた違う、何かにめり込む音と何かが砕ける音が響く。

 

 

「……っ……!」

 

 

 俺の拳はフリードの顔面と捉えた……のに振り抜くことができない。

 どういう、ことだ……!?

 二倍どころじゃない、自分でも把握しきれないレベルの倍加だ。

 それに今の音、確実に頬骨が砕けた一撃だぞ!?

 にも関わらずフリードは棒立ちに近い。……? あいつ、折れた聖剣をバルパーの首元に突きつけている!?

 

 

「い……てェな!」

 

 

 無駄に考えを巡らせていたせいか、俺はフリードの裏拳をモロに受けるハメになる。

 

 

「ぐっ」

 

 

 後ろに蹌踉めき、追撃されたらマズいとバックステップを踏む。が、その追撃は来ない。

 木場とゼノヴィアが横に並ぶ。

 仕掛けには……いけない。

 フリードの困惑しきった雰囲気がソレをさせない。

 

 

「……フリード、今バルパーを斬ろうとしていたよね?」

 

 

「ああ、だが寸前の所で止めていた」

 

 

「そ、そんな事になってたのか!?」

 

 

 木場とゼノヴィアは疑問を口にしたおかげで状況が分かった。だからフリードは聖剣を……じゃない!

 寸止めってどういうことだ?

 

 

「止めた……というより無理矢理にブレーキが掛かった、が近いか?」

 

 

「そうだね。僕に飛ばされた勢いを利用していた分、加減はなかったように見える。にも関わらず止めた……負担も相当なものだったろう」

 

 

 ……えっと。

 

 

「斬るつもりだったのに、体が強引に止まった……?」

 

 

 ……わからん。

 どういうことだよ。

 フリードとバルパーは仲間……なのにフリードはバルパーを斬ろうとした。……意味不明だ。

 

 

「――どういう……ことだ……!?」

 

 

 奇しくも俺が思ったことと同じ言葉を漏らしたフリード。

 後ろから見ても分かる。

 汗びっしょりだ。

 焦っている? いや、木場の言葉通りならば体の方にダメージがきているのか。或いは両方か。……だから何でそんな行動を取ったんだよ。

 

 

「……お前が"こういう"行動に出るのを予想していたのもあるがな」

 

 

 バルパーは冷めた表情で突きつけられている腕を下ろす。この間、フリードはされるがままだ。

 なんてことはない、とバルパーはハッキリと告げる。

 

 

「お前はインプリンティングされていただけだ」

 

 

「インプリンティング……!? テメェまさか……!!」

 

 

 フリードの奥歯を噛む音がここまで届いた。

 インプリンティング……刷り込み?

 

 

「そう、お前の受けていた実験に私も関与していたのだ」

 

 

 その言葉を受けてフリードは懐から銃を取り出し、バルパーの頭に突きつける。

 その腕は震えていて……本気で引き金を引こうとしている、なのに引けない状態なのが後ろからでも分かる。

 

 

「実験……?」

 

 

 状況の変化に部長達もこちらに来ていたようだ。

 部長が訝しげにフリードを……バルパーを睨む。

 

 

「これだ」

 

 

 銃を向けられながらも、余裕そうな顔でバルパーを指を鳴らした。

 変化は……フリードに起きた。

 

 

「あ……ぐ……テメ……なに、を……」

 

 

 倒れ込み、蹲るフリード。

 その体を何処か禍々しい金色の光の線が走って行く。

 それは何かを形作るかのような線だ。

 

 

「ほう? 流石に耐えるな」

 

 

 だが、とバルパーはフリードの耳元で何かを呟いた。

 

 

「ア……ッ……ウ、オォォォォォォ……!!」

 

 

 フリードの咆哮……いや、これは悲鳴、慟哭だ。

 いけ好かない奴の慟哭なのに、なんだ……胸が締め付けられる。

 顔が見えないのに、その後ろ姿がもの悲しい。

 アーシアは顔を背け、耳を塞ごうとしとしてしまっている。

 そして光がの柱が立ち上り、フリードの姿が飲み込まれる。

 

 

「……まさか」

 

 

 呆然とする俺達の中で、ゼノヴィアだけが何が起こっているのか把握していた。正確にいうのなら、可能性に行き当たっていた。

 この目前の光は、やはりどこか嫌な感じがする。

 聖なる力ではない。

 けれど、これと似た感じを俺達は知っている気がする。

 

 

「――上出来だ」

 

 

 光が収まると、満足そうにバルパーは零した。

 けれど俺達はなんの反応もできない。

 何故なら、そこにフリードの姿がなかったからだ。

 

 

「天使、様……?」

 

 

 アーシアが呆然と呟く。無理もない。フリードの居た場所で僅かに浮いているのはまるで天使のようだ。

 左腕を大きく覆う盾はまるで二翼がたたまれているようで、左翼が黒く右翼が白い。

 だが全身はフルフェイスの騎士甲冑で包まれており、こちらも黒と白。

 鎧は純白で、わずかに除く肌のような部分は漆黒なのだ。

 特徴的な部位が多いが、それでも目を引くのは天使の輪のような装飾が頭部にあることだ。

 

 

「天使……概ね正解だな」

 

 

 バルパーは続けて「これは」と言ったが、ゼノヴィアが苦々しく口を挟んだ。

 

 

「帰天だろう?」

 

 

 帰天? って死ぬことじゃないのか?

 

 

「悪魔……いや、魔物の力を使って天使に至る。まさかフリードが……」 

 

 

 ボソボソとゼノヴィアは独り言のように喋り続ける。

 

 

「魔人の言葉を使うならエンゼル・トリガー。あれは魔剣教団でもつい最近に完成させたものだ。フリードが教団と関係があったとは……いや、資料は魔人達が押収していた。なら何故その情報がなかった……?」

 

 

 フリードだったものから目を離さずにゼノヴィアは情報を纏めているようだ。

 おかげでなんとなく読めてきたぞ。

 

 

「聖剣だけでなく、天使まで作ろうとしていたのかしら?」

 

 

 部長がバルパーを睨む。

 と、コカビエルも上から降りてきた。校舎三階のベランダに腰掛け、こちらに耳を傾けている。あいつにとっても興味深いってことか。

 

 

「聖剣という聖なる物を研究していたのを聞きつけた連中に声をかけられてね」

 

 

 バルパーの語りは聖剣の時とは違い、いやに冷静だ。

 あまり進んで研究したいものではなっかたのか?

 

 

「フリードは帰天。――悪魔化がデビル・トリガーなら、確かに天使化はエンゼル・トリガーだな。魔人も上手いこと言う」

 

 

 笑うバルパー。

 それはいい。

 俺達が知りたいのはソじゃない。

 

 

「なんてことはない。フリードは初期の初期。実験体としては初の人型を保った個体だ……所謂プロトタイプだな。データなどとうの昔に破棄されているだろう」

 

 

「……それが理由か」

 

 

 木場が忌々しそうに言った。

 敵だと思っていたフリードすら被害者の可能性が出てきたからだ。

 そして涼夜達が知らなかったのは……バルパーの関わった案件が、より過去のものだったからか。

 

 

 

「インプリンティングやワードによる強制的な天使化はその名残だ」

 

 

 フハハ、とバルパーは心底面白そうに笑う。

 

 

「普段の狂った様子は元となった魔物の影響! 戦いを求めるのは戦闘中は何も考えずにいられるから! 何故なにも考えたくないか!? 簡単だ! うちに秘めた魔物が囁きかけるからだ!」

 

 

 囁きかける? 涼夜はそのような事は言っていなかったから、それは実験の影響だろ!

 何が面白いのか全く分からねーよ!

 

 

「何を、知っているの……?」

 

 

 部長の声は怒りに震えていた。

 

 

「多くを! なぜなら実験体は何もこいつだけではなかったのでね……ああ、今も生きているのは正真正銘フリードだけだが」

 

 

 バルパーのゲスな笑み。

 それと同じ歪んだ顔でコカビエルが声をあげた。

 

 

「優しい優しいグレモリー! 一歩違えばそこの騎士ではなく、フリードがお前の眷属になっていた可能性もあるわけだ!!」

 

 

 っ!?

 こいつ同情を誘ってやがるのか!

 

 

「バルパー!」

 

 

「……やれ、フリード!」

 

 

 部長達の顔が歪んだのを確認してコカビエルはバルパーの名を叫び、バルパーはフリードに一言だけ告げた。

 

 

「……」

 

 

 無言のままフリードは右手に握られた折れた聖剣を顔の前にまで持っていく。

 俺達は悲壮な表情のまま構えた。

 やらねばやられるのだ!

 

 

「いい皆! 同情の余地はあっても、今の彼は敵よ!!」

 

 

 部長が俺達を鼓舞する。

 容赦するなと。

 打ち倒せと。

 

 

「……」

 

 

 だがフリードは向かってこない。

 部長の言葉を聞きながらも、皆がその様子を窺っている。

 ……とフリードの持つ折れた聖剣に黄色い光が包み込み、一瞬で刀身を形成した。

 先ほどまでのものではない。それは片刃の大剣だ。

 柄はないに等しく、片翼のレリーフが彫られている。

 バサッ羽音を立て、と翼を広げたフリード。

 左肩から生えた翼はアンバランスだが、その姿は天使とも……堕天使とも言える。

 白と黒の翼を翻し、俺達に剣を向けた。

 

 

「――来るわ!」

 

 

 部長が叫び、距離を取る。同じように下がったのは朱乃さんとアーシアだ。

 相手の武器は剣。

 俺は籠手が、木場とゼノヴィアは聖魔剣と聖剣。生身の小猫ちゃんは危ないか?

 自然と剣士二人が最前線。俺と小猫ちゃんが中衛。部長達が後衛という陣形になっていた。

 ――が、それらは無意味だった。

 一瞬。

 ほんの一瞬である。

 俺は風が通り抜けた気がしたのだ。

 そして気が付くと、地べたを這いつくばっていた。

 アーシアが悲鳴を上げているのが聞こえる。

 なのに、体が動かない。

 胸の辺りが酷く痛む。

 血が出ている。

 斬られた、のか……?

 

 

「っ……」

 

 

 頭だけ動かすと少し離れた位置で小猫ちゃんが倒れている。出血はない。……俺が斬られたから、隣にいた小猫ちゃんには斬撃でなく打撃を放ったのだろうか。

 剣が一本で良かった。

 木場とゼノヴィアは……まだ立っている。けれど最初にいた位置からは遠く離れてしまっている。吹き飛ばされたんだろう。

 部長と朱乃さん……アーシアの治癒を受けている。傷だらけに見えるが、大丈夫だろう。

 

 

「……?」

 

 

 アーシアだけ無傷だ。

 だからこそ彼女は泣きそうな顔で治癒を急いでいる。けど無傷ってどういう……フリードが手心を加えた? あのどう考えても暴走っぽい状態に持って行かれたフリードが?

 いや。

 今はそれどころじゃないな。

 

 

『(相棒、傷は深いぞ)』

 

 

 わーってるって。

 けどあの剣は聖剣ではないみたいだ。

 ドライグに応え、どうにか立ち上がる。

 傷は胸から腹部にかけての一太刀だった。無意識のうちに左手で傷口を押さえながら、俺はフリードを観察する。……部長達の奥で背を向けて、向かって来る気配はない。

 なんだ?

 まるで何かを待っているみたいだ。

 

 

 

 




フリードは進化した(フリード自身はB連打。だが無意味だ)!
フリードは(自分の体が)言うことをきかない!



15/05/18
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