宿した者(仮)   作:雲丹

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Baroque and Beats

 短すぎる休憩。と言っていいのかは微妙だが、肉体に負った方の傷は粗方消すことができた。魔力の方も……まァ魔人化を残しているし大丈夫だろ。元来悪魔や人間の持つ魔力と、魔人化に必要な魔力はまた違うからな。

 そんな判断を下しながら走り出した俺の前に白い影が立ちふさがった。

 ダークカラーの強い銀髪で、透き通った蒼い碧眼をした少年である。

 

 

「久しぶりだな、魔人」

 

 

『元気そうだな』

 

 

 内心で「うげっ」と零した俺の心情を知ってか知らずか――いや全く気が付いていないのだろうけど。誰が見ても美少年だと言うであろう男は片手を上げて気軽に声をかけてきた。ちなみに後者は声こそあれど、姿はない。

 というか何でどいつもこいつも俺に対する呼称が魔人なんだ。名前を呼べ、名前を。

 

 

「白龍コンビ……」

 

 

「拗ねるなよ、涼夜」

 

 

「拗ねてねーよ、倣ったんだよ」

 

 

 現白龍皇のヴァーリ。そしてその神器に宿りし白き龍、アルビオン。

 俺はこいつと面識がある。

 というかヴァーリはアザゼルの元に身を置いている。そのアザゼルと友人でもある俺が、ヴァーリと出会ったことがないという方がおかしな話だろう。

 

 

「さっきの戦い、中々に興味深かった。その後もな」

 

 

「イカす武器だろ?」

 

 

「ああ。是非一戦交えたい」

 

 

 ボロボロになった刀は会長さんに預けた。背中の剣帯に収まっている剣はアラストルのみなのだが、このコートにはいくつか細工が施されている。

 その一つが腰部分の裏側。

 そこに三つの棒が並んで持ち運べるような帯が付いているのだ。

 ケルベロスはそこにピッタリ収まっている。……そのケルベロスはあれから言葉を発してくれない。傷を癒やすために眠っているのかもしれない。それでも充分すぎる程の性能があるが。

 コートを翻してヴァーリにケルベロスを見せると真顔で喧嘩を売られた。戦闘狂なのは治っていないらしい。え? お前も戦闘狂だろって? 俺は戦闘を楽しむように心がけているのであって、別に戦うのが好きなわけではないぞ。

 というかヴァーリのやつの戦闘の楽しみ様は俺の比ではない。

 散歩に行こう……とヴァーリに誘われたことがある。結果、二つのテロ組織を潰していた。

 鍛錬をしよう……とヴァーリに誘われたことがある。結果、山が更地になるレベルの戦いにまで発展した。

 そんなことがザラにあるのだ。

 

 

「ま、今すぐにとは言えないんだけどね」

 

 

 やれやれと肩を竦めるヴァーリ。

 

 

「だったら一々立ちふさがるなよ。どうせコカビーだろ?」

 

 

「ご明察。古より生きる堕天使と戦える機会なんてそうはないだろう?」

 

 

 俺は溜め息を一つ。

 ヴァーリの横を通り抜けると、そのヴァーリも併走してくる。まァ目的は一緒なのだから当然だろう。ちなみに人の出せる速度は超えているので、すぐに皆の元へと辿り着くことができた。

 ……酷い有様だ。

 一人を除いて全員が傷を負っている。致命傷では無さそうだが……ギリギリか? 

 傷のないアーシア先輩とボロボロのゼノヴィア……二人は纏っている雰囲気が特に重い。顔色が真っ青だし。精神的な攻撃でも喰らったのか?

 ……どういう状況なんだよ、これは。

 相手方はほとんど無傷か。

 だがこちら側も意識は残っているみたいだし、まだまだ戦えそうではある。

 というか。

 

 

「アンジェロ型のデビルだァ? どっから沸いた――っとォ?」

 

 

 空中を突貫してくるアンジェロ。名の通り天使のような姿の鎧を纏った魔物(デビル)の剣をアラストルで受け止める。……狙いは荒っぽいが、重い一撃だ。

 

 

「初めて見るタイプだな。……さっきの武器は使わないのか?」

 

 

 すぐ横でヴァーリは面白そうに話しかけてくる。が、その声を打ち消すような叫びが俺に届いた。

 

 

「フリードだ!!」

 

 

 と。

 声の主はイッセー先輩。

 

 

「こいつが……かッ!?」

 

 

 アンジェロの剣を強引に弾き、がら空きの腹部を蹴り飛ばす。

 悲鳴もなく後ろに飛んでいったアンジェロは綺麗に体勢を立て直した。

 

 

「ああ! バルパーが実験に関わってて、上手いことフリードを!!」

 

 

 悲壮を含んだ叫びだ。

 だが理解した。

 名付けるならアンジェロフリードか。量産型は皆が同じデザインだが、帰天した者は人によって特徴が違うからな。

 あの白と黒の翼が指し示すのは……あいつの心の内側、なのかもしれない。

 

 

「涼夜、無様な姿は見せてくれるなよ?」

 

 

「お前こそしくじるなよな」

 

 

 改めて俺に並び立ったヴァーリと軽口を交わす。

 コカビエルは忌々しそうに俺を睨んでいたが、ヴァーリの目的を察したのか既に中空で警戒態勢だ。……小猫達は結構展開に置いて行かれているが……うん、後で説明しよう。

 俺は背にアラストルを収める。

 

 

魔人化(デビルトリガー)――第一段階(クォーター・バレット)……解放(リリース)!!」

 

 

禁手化(バランス・ブレイカー)――白龍皇の(ディバイン・ディバイディング)(・スケイルメイル)!!」

 

 

 赤黒い光と青黒い光を放つ俺。

 白銀の光を放つヴァーリ。

 それぞれが叫ぶとほぼ同時に俺達の姿は変化していた。

 ヴァーリは全身を鎧が包み込んでいるのに対し、俺は両腕が変化しただけだ。……だけ、と言っても最早人の物ではなくなっているのだが。

 コートの右腕を捲っていない理由、それは魔人化した際の俺の右腕にある。肘から下にかけての全体が黒く、マグマのような赤い線が流れている右腕はゴツゴツしたような一見でありながらスマートなのだ。尤も掌部分は指も含めて少しばかり大きく、鋭くなっているが。

 逆に左腕は黒に深い青の線がいくつも伸びている。形も右とは違っており、手の甲に合わせて小さな盾のような形になっており、肘からは棘のようなエッジが伸びている。小指と手首の間からも剣のようなものが肘に向かって生えており、さながらトンファーを持っているかのようだ。……とまァ裾を捲っておかないと破ける。段階上げれば衣服も変化するけどな。

 とにかくだからこそ、コートの裾の着こなしは左右で違う形に落ち着いた。

 

 

「早々に終わらせるぜ」

 

 

 俺の言葉を皮切りにヴァーリと飛び出す。

 方や標的はコカビエル。方やアンジェロフリードだ。

 眼前に迫る俺をアンジェロフリードは大きな剣で迎え撃って来る。

 

 

「ッラァ!」

 

 

 跳躍して右拳を振るうと、大剣とぶつかり合う。

 火花を散らしたのも一瞬、どちらも弾かれてしまった。が、間髪入れずに左腕を上に薙ぐと掌から伸びた剣から青黒い閃光が発生しアンジェロフリードを吹き飛ばした。

 ……黒い左翼を盾にしていたのでダメージはほとんど通っていなさそうだ。事実、距離を離しただけで傷は見当たらない。

 内心で舌打ちする。

 アンジェロ系統は装甲が堅いから厄介だ。加えて飛行能力を持ち、その速度も速い。

 

 

「……随分と静かじゃねェの」

 

 

 俺の言葉になんの反応を見せずに滑空してくるアンジェロフリードに「だんまりかよ」とぼやく。

 あの黒翼が盾として機能する以上、剣を受け止められてカウンターを返される可能性が高い。かつて別のアンジェロに手痛い反撃を受けたことのある身としては、それは是が非でも勘弁願いたい。

 けどまァ魔人化までしたんだ。

 対応はいくらでもある!

 俺は左腕を掌を開いた状態でアンジェロフリード目がけて勢いよく差し出す。

 

 

「そらよッ!」

 

 

 音もなく飛び出したのは青黒く透き通った巨大な腕。

 突っ込んで来ていたアンジェロフリードは突如現れた左腕に後ろの後者まで叩き付けられた。しかもそのまま出現させた腕を消さなければ拘束しておくことが出来る。

 実戦で使うのは初めてだったが……上手いこと扱えそうだな。

 元々はネロの悪魔の右腕(デビルブリンガー)を見て真似ただけの……いや、真似とはとても言えない。劣化した技術だったが、漸く実戦でも使えるレベルに至った、かな?

 

 

「……話をする気になったか? それとも話せないのか? どっちにろその天使化を解いてもらうぜ」

 

 

 左腕を向けたまま、未だにアンジェロ姿のフリードに歩み寄る。

 横をチラリと見るとヴァーリの方も終わったようだった。やはり現白龍皇はひと味違う。

 木場先輩もバルパーを捕らえている。こちらに至ってはバルパーの戦闘能力が高くないようだ。

 

 

「おーい、いつも無駄によく回る舌は休暇中か? ベガスにでも行ってるのか?」

 

 

 普段のフリードなら乗ってくるであろう挑発にも無反応。こうなってくると本人の意識はないと判断するのが妥当なところだ。

 

 

「――何をやっている! 戦え! フリード!!」

 

 

 バルパーが叫んだと同時にアンジェロフリードの力が増した。

 ……あの野郎の言葉で、か。暗示、もしくは催眠か?

 マズいな。どっちにしてもフリードの理性がトンでいるおかげで動きが読みやすいが、筋力関係も含めて力のリミッターも外れているのだろう。

 俺はともかく、後ろの校舎の方がそろそろ限界だ。結界の影響で頑丈になっているとはいえ、もう壊れかねない。

 俺は咄嗟に右手で背中のケルベロスを引っ張り出し、左手で校舎の壁を握りつぶしてアンジェロフリードを強く掴んだ。

 

 

You're in my sight(逃がさねェよ)!」

 

 

 遠くに出現させた左腕と、俺自身の左腕は連動しているが、磁石のように互いに引き寄せることも可能だ。

 出現させた方の腕に引っ張られ、その勢いに乗ったまま右手に持ったケルベロスを一本の棍にし……アンジェロフリードの喉元を突いた。

 ガツン! と生身とぶつかったと思えない音が響き、一瞬にして頭以外の部位を凍り付けにする。

 氷は指の隙間を伝い校舎へ。また地面へと侵蝕していき、俺が実体を持ちながらも幻影でもある腕を消した時、そこにあるのは氷山の一角のような強大な氷塊だけだった。

 

 

「――終わったのかしら?」

 

 

 部長さんが問うてくる。

 俺は首を横に振った。

 

 

「このまま氷が砕ければ、またすぐに暴れるさ……今だって常に魔力を流して氷を生成、強化してどうにか保ってる」

 

 

 右手から伸びるケルベロスは未だにアンジェロフリードの首元だ。

 魔人化も何もしなければ解けてしまう。

 

 

「……殺すんですか?」

 

 

 横にならんだ小猫が俺のコートの左脇腹を摘まんで問うてくる。

 俺は「必要なら」とだけ応える。

 先ほどバルパーが叫んだ時、咄嗟に木場先輩が意識を刈り取ったおかげで余計なチャチャをあのジジイに入れられることはない。

 ヴァーリはコカビエルを気絶させていた。その時点で校庭を覆っていた妙な魔法陣も消えたのだが、やはりアーシア先輩とゼノヴィアの顔色は優れない。

 

 

「――……先の大戦で四大魔王だけでなく神も死んだのだと、コカビエルが言っていたの」

 

 

 それに付いて聞いてみると、部長さんは教えてくれた。

 納得だ。

 アーシア先輩は勿論、ゼノヴィアとて信者。神の存在を信じ、その教えを守ってきたのだから。……そちらを見てみると、白龍コンビと少し話していたイッセー先輩は懸命にアーシア先輩を慰めている。そしてゼノヴィアと目が合った。

 

 

「ははは……聞いたか? 私が信じていたものは、とうの昔に消えていたそうだ」

 

 

「らしいな。……悪いが俺は神ってのを信じたことはないぞ」

 

 

 ぶっ飛ばしてやりたいと思ったことはあるけどな。

 

 

「私は……私はこれからどうしたらいい……?」

 

 

 うつろな目で、けれども縋るような視線で俺を見つめるゼノヴィア。

 危機的状況で俺をこいつが頼るのは、フォルトゥナで危ない状況だったのを助けたからだろうか。だから信頼されているのだろうか。

 とは言え……俺はアンジェロフリードに視線を戻す。まずはこっちが先決だ。

 

 

「おいフリード、随分と無様な格好じゃないの」

 

 

 言葉に返事はない。

 ただ氷を破壊しようともがいているだけだ。魔人でなくては抑えられない……か? 大した力だ。

 

 

「なんだかんだで俺とお前の決着は付かず終いだったな……お前が逃げたり、俺が逃げたり……不愉快だけど相打ったこともあった」

 

 

 俺の言葉と、ギチギチと氷の軋む音だけが辺りを漂う。

 小猫達も興味深そうにしていたが……驚いているようだ。

 

 

「けどまァお前の今の情けない体たらくじゃあ、最終的には俺の勝ちってとこか? あんだけひとに喧嘩を売ってきた奴が不戦敗なんてな」

 

 

 悲しいぜ、と嘲笑してやる。

 同時にアンジェロフリードの右腕は拘束していた氷を砕き、けれども大きく刀身の折れた大剣を振り下ろしてくる。

 小猫と部長が息を飲んだ。

 が、その剣を俺は左腕の剣で受け止めて言葉を続ける。

 

 

「なんだよ、言い返せもしないのか? ったく、挑発するのはお前の十八番だったろうに……ダセェにも程があるだろ」

 

 

 その瞬間アンジェロフリードは折れた大剣を、今度は自分自身の顔面目がけて叩き付けた。

 一切の躊躇いのない一撃を受け、顔の中心に皹が入り……ボロボロと崩れ落ちる。

 

 

「――今日はよく喋るじゃないの……リョウヤちゃんよォ……」

 

 

 フリード自身の顔が覗き、疲弊しきった表情で言葉が発せられた。ここに来て、初めて聞いたフリードの声だ。

 

 

「けど……ま、俺様は……心が広いか、ら……勘弁して……やんよ……」

 

 

「そいつはどーも」

 

 

 俺は氷と魔人化を解除し、倒れ込んでくるフリードを受け止める。見た目の割に結構軽い。実験とやらの影響なのかもしれない。

 やはり心の中ではどうにかしようと足掻いていたか、フリードは。動きが単調だったしな……勘が当たって良かった。

 無茶をし過ぎだと小猫に脇腹をド突かれた。

 その間ずっとゼノヴィアは俺を見るだけだ。

 ……仕方がないか。

 

 

「しっかりしろよ」

 

 

 ゼノヴィアに視線を合わせて叱咤すると、僅かに肩を揺らした。

 

 

「お前はいま辛いんだろうな、そう思う。けどな、世の中なんてそう思う連中でいっぱいだよ」

 

 

「……厳しいな」

 

 

「こいつですらキツイ人生歩んでたかもしんないんだぞ?」

 

 

 片手で抱えたままのフリードを地面に下ろしながら言う。

 イッセー先輩が実験云々言っていたからな。大方バルパー辺りが説明したんだろうけど、ならここにいた全員が知っているはずだ。

 

 

「お前は……どうだった? 人に生まれながら魔物の力を宿したお前は。――普通の人間として生きたいと思ったこともあっただろう? ……絶望はなかったのか?」

 

 

 ……あまり言いたかないんだけどな。

 そう思うが、言ってやらないとゼノヴィアが進めないかもしれないとも思う。絶望の先に希望もあるのだと、伝えなくてはならない……かつてそう教えられた俺が、今度は自分以外の誰かに伝えなくてはならないのではないか、と。

 少しの間考え、俺は「あったさ」と絞り出す。

 

 

「父さんには見捨てられたし、母さんには虐待された……最後には研究所送りだ。笑えねェっつーの」

 

 

 小猫や部長さん、和気藹々とこちら来ていたイッセー先輩達も息を飲んだ。

 ゼノヴィアも大きく目を見開いて俺を見つめている。

 

 

「世界で一番自分が不幸、絶望の中にいると誰しもそう思う。けど何事にも終わりはあるし、終わったら終わったで皆どっかで折り合い付けて生きていく……人生なんてそんなもんだろ」

 

 

 俺は混ざり者だから"人"生ってのも変だけどな、と笑いかける。

 

 

「……慰めが下手だ」

 

 

 ゼノヴィアが苦笑した。どうやら多少は持ち直してくれたらしい。

 けど悪いな、これが俺の限界なんだ。

 でも……本当にそんなもんだよな、人生って。

 イッセー先輩は一度殺されたし、アーシア先輩は魔女扱いで殺された、木場先輩は実験で実質一度殺されてる。小猫や副部長さんも何かを抱えている。フリードの事情は詳しくないが、それでもまともな扱いは受けていないだろう……でなければあんな性格になるものか。

 

 

「――Congratulations」

 

 

 パチパチと軽く拍手をしながらヴァーリが近づいてくる。その手はコカビエルの足を掴んでおり、完全に引き摺っている。……敵だったとはいえ長く生きる堕天使の扱いがそれでいいのか。

 

 

「貴方は涼夜と来た……」

 

 

「ヴァーリとアルビオン……現白龍皇だそうです」

 

 

 部長さんに被せる形でイッセー先輩が言った。

 その言葉を聞いて全員が警戒態勢に入ったが、俺がやんわりと手で制す。

 

 

「目的は達成したか?」

 

 

「達成はした……が、思っていたより楽しくはなかったな」

 

 

 心の底から残念そうに溜め息を吐いたヴァーリは、一度だけイッセー先輩を見て更に溜め息。

 イッセー先輩の纏う気配に僅かだが怒気が混ざる。

 

 

「なんだよ?」

 

 

 食って掛かるイッセー先輩を無視してヴァーリは俺を見て口を開いた。

 

 

「フリード=セルゼン、こいつは魔人だったのか?」

 

 

「あ? 似たようなモノではあるけど……面倒いな。アザゼルに帰天について聞いてみろよ……ってお前、フリードを知ってるのか?」

 

 

「一度勝負を挑まれたことがある。人間にしてはやると思っていたが……」

 

 

 あァ俺にも覚えがある。

 戦いが好きな感じはしていたが、やはりフリードは戦闘狂らしい。誰彼構わず喧嘩を売る様も、やつが狂犬と呼ばれる由縁の一つなんだろうな。

 

 

「勝ったのか?」

 

 

「俺の勝ちだろうが……上手いこと逃げられたのを考えると、な」

 

 

 一拍おいてヴァーリは嬉しそうに口元を釣り上げた。

 

 

「俺が思っていたよりも、世界とやらは広いらしい」

 

 

 言うだけ言って背後へ大きく跳躍したヴァーリは、校舎の屋上へと姿を消していった。

 無駄に一波乱起こして撤退かよ。

 まァあいつのおかげでコカビエルの相手をせずに済んだし、俺も後々のことを考えずに戦えたのだが。

 

 

「……何はともあれ、うちの色男はやったってことだよな?」

 

 

 空気を変えるようにイッセー先輩が口を開いた。その言葉に皆の顔が緩む。

 皆の笑みを見て、俺も体にドッと疲れが出てきた気がする。……思えば長い一日だったものだ。

 先輩達が騒ぎ始めるのを見ながら、俺は両手の調子を確かめる。

 グーパーグーパーと手の平を開いては閉めるを繰り返す。

 

 

「祐斗はお尻叩き千回。涼夜は五百回ね……いくらなんでも、連絡くらい入れられたでしょう? ということで朱乃」

 

 

「かしこまりましたわ」

 

 

 うん、いい感じに馴染んでいるな。

 見た目は人間のものに戻った自身の両腕……その中身は大きく変化しているのだろう。魔人としての力が染みているのがわかる。

 

 

「……んん? 今なんかとんでもない言葉が」

 

 

 聞こえた気がする。

 顔を上げると木場先輩が部長さんに尻を叩かれ始めていた。

 副部長さんがこちらに手招きをしている。

 ジリジリとにじり寄ってくる小猫とイッセー先輩。

 ……。

 

 

Adios(あばよ)!」

 

 

 片手を上げて笑顔で言い放った俺は……駆け出すのだった。




モチーフがなんなのか知っている人は知っているだろう魔人涼夜。
段階以外の設定も色々と考えてあります。
要はまだ秘密があります。
……一体いつになったら出せるのかわかりませんが←


15/05/24
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