◇
「――はぐれ
「はい。兵藤先輩が襲われました」
はぐれ……組織から外れた、或いは外された連中ね。
先日のバイサーもそうだったが……多いな。やはり魔王の妹がいる土地だからか? ……考えすぎか。
小猫と共に学食で昼食をしながら、昨日の夜に起きたことを教えて貰っていた。
周りは他の生徒で騒がしいし、角席なので話を聞かれる心配もない。
「命に別状はなかったけど、他にも堕天使の仲間がいる」
だとしたら、ベタだが街外れにある教会か?
やれやれ……面倒ではあるが、あまり周りをチョロチョロされても鬱陶しい。
乗り込んじまうか。
俺と小猫がぶちのめした堕天使の男、あいつのレベルを考えると……大したこともなさそうだ。
「恐い顔」
「そいつは失礼」
ジッと俺を見つめる小猫。
その目は「何を考えてるんですか?」とありありと語っている。
それを無視して昼食を口に運んでいく。
……
何がって、その小猫の視線が残りの授業中も続いたからだ。
それは放課後になった今も続いている。
「……」
「……」
き、気まずい。
そう思いながら部室の扉を開けると、パン! と乾いた音がこだました。
音の発生源は……兵藤先輩。
部長に平手打ちをされていた。
「何度言ったらわかるの? ダメなものはダメよ。あのシスターの救出は認められないわ」
あのシスター? あァ、昨日の夜にはぐれ共に連れて行かれたっていうシスターか。
兵藤先輩は昨日より前から知り合いだったとか。
でも昨日は引き下がったんだよな? なんで今になって……。
「何かあったんですか?」
小猫が小さな声で副部長に問うた。
「イッセー君が今日のお昼にアーシアちゃんに会ったそうなんです」
なにそれサボり?
「その時にまた堕天使にアーシアちゃんを連れて行かれてしまったそうで……」
それは……運が悪いと言うか、良いと言うか。
兵藤先輩が無事なのを見ると、正直なんとも言えない。
「それで助けに行くと?」
「そうだね」
俺、小猫、副部長、木場先輩で集まって会話をしていると、部長さんと兵藤先輩の方は白熱し始めていた。
「俺はアーシア=アルジェントと友達になりました。アーシアは大事な友達です! 友達は見捨てられません!!」
「それは立派ね。皮肉ではなく、本当にそう思うわ。けれど悪魔と堕天使の関係はそんな簡単な話じゃないの。隙を見せれば殺されるわ。彼らは敵なのだから」
悪魔に成り立てだから事情なんて知らない、それもあるかもしれない。
けどなんというか……兵藤先輩は人間らしいなァ。
「敵を消し飛ばすのがグレモリー眷属じゃなかったんですか?」
「…………」
部長さんと兵藤先輩が睨み合う。
それを心配そうに見ている俺以外の部員達。
「あの子は元々神側の人間。魔人である涼夜とは違うわ。それは堕天使の元に降ったとしても、私達悪魔の敵であることには変わらない」
「アーシアは敵じゃないです!!」
強い否定の言葉。
「だとしても私には関係のない話だわ。イッセー、彼女のことは忘れなさい」
兵藤先輩が唇を噛む。
そんな簡単に忘れられるか……って感じか。
……そうだよな。
良かったことも、辛いことも、簡単に忘れられるはずがない。
「部長」
副部長が部長さんに近づき、何か耳打ちをした。
それを聞いた部長さんの顔が険しくなる。
「……大事な用ができたわ。私と朱乃は少し外に出るわね」
「部長! まだ話は――!!」
言葉を遮るように、部長さんは人差し指を兵藤先輩の口元に当てる。
「イッセー、
「え?」
「
プロモーション……実際のチェスにもあるな。
自分のポーンが相手の陣地の最終ランクに辿り着いた時、クイーン、ビショップ、ナイト、ルークの何れかに成れるというもの。
それを聞いた兵藤先輩は目を見開き、拳を強く握った。
「それからもう一つ。
悪魔であろうと想いの力は消えやしない。
その力が強ければ強いほど、
「最後に……貴方は強くなれるわ。それは忘れてはダメよ」
言って、部長さんと副部長は魔法陣を使って転移してしまった。
兵藤先輩は大きく息を吐き、去ろうとするが、一人の男の言葉に動きを止めた。
「僕も行くよ」
「なっ……」
木場先輩だ。
兵藤先輩は驚きに言葉を失う。
「僕はアーシアさんのことは知らない。けれどキミは仲間だ。……それに個人的に神父や堕天使は好きじゃないんだ」
一瞬だけ木場先輩の目に憎悪が映った。
……先輩の闇を垣間見た気がする。
「私も行きます」
「小猫ちゃん……」
「二人だけでは不安です」
まァそうだよね。
小猫ちゃああああん! と感動している兵藤先輩を尻目に、俺は溜め息を一つ。
「あと先輩、涼夜は便利屋です」
「そ、そう言えば部長がそんなことを……」
小猫の言葉に、兵藤先輩が俺を見た。
「俺ってそこそこ戦えるし、先輩なら友人サービスで安くするからお買い得だと思うんだけど?」
へらへらした笑みを浮かべて見たら、小猫に「気持ち悪い」とぼやかれた。木場先輩も苦笑してるし。
兵藤先輩はヘッと笑った。
「……甘い物奢ってやるよ」
「はいな」
交渉成立だ。
「んじゃ、四人でいっちょ救出作戦といきますか! 待ってろ、アーシア!!」
気合い充分。
その兵藤先輩の言葉と共に、俺達は行動を開始した。
向かう先は教会。
外は既に暗く、街灯が光を照らす時間になっている。
「これ、図面」
歩きながら木場先輩が教会の見取り図を広げた。
「やっぱ聖堂でしょ」
それを横目に見ながら俺が言う。
おそらくね、と木場先輩が同意し、続ける。
「入り口から聖堂まではすぐだ。けど、まず間違いなく何かある」
「敵ですね」
「そう。そしてその攻撃をかいくぐり、地下への入り口を探さないといけない」
はぐれ
今まで敬っていた場所、そこで神を否定する行為をし、自己満足だったり神を冒涜している自分に酔いしれたり……まァそういう理由だ。
「っ、なんだこの嫌な感じ」
教会近くまで付くと、兵藤先輩は体中から嫌な汗を流していた。
「中に堕天使がいるってことだよ」
木場先輩の言う通りである。
教会入り口近くで、月明かりに照らされながら、俺達は顔を見合わせた。
「覚悟はできてるかい?」
「当たり前だ」
「勿論です」
「とっくの昔から」
木場先輩の最後の問いに、兵藤先輩も、小猫も、俺も迷うことなく答え――頷き合った。
入り口を潜り、一気に聖堂に向かう。
もう
ダン! と勢いよく両開きの扉を開け放ち、聖堂の中へと足を踏み入れた。
長椅子に祭壇。
蝋燭と電気の明かり。
まァ普通だ。
十字架に磔にされた聖人の彫刻の頭部が壊れている以外は、だが。
「ご対面だねぇ」
柱の物陰から拍手をしながら出てくる人影。
ふざけた笑顔を浮かべる白髪の神父。
「……お前かよ」
俺は見知った顔にボソッと呟く。
「知り合い?」
それを拾った他の三人の視線が俺に集まり、小猫が言った。
「そうなんですよ! 俺も確認するまで? まさかリョウヤ君がいるとはねぇ? 思ってなかったわけですよ。ま、おかげでドーナシークの旦那が瞬殺されたのには納得って感じですけど。いや本当に今回はクソつまんねーと思ってたトコにビッグネームの登場でね、俺様歓喜! 目的は果たしたも同然だったから適当に遊んで帰ろうとしたところに来てくれてどうもありがとう。っつーわけで殺し合おうぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
感情を爆発させて神父――フリードが俺に突っ込んで来た。
手に握られているのは拳銃と柄だけの剣。
その柄だけの剣から光の刃を展開し、大きく振るってくる。
「日本語しゃべれたのか」
俺はそんなこと言いながらWゴーストの右腕に持った方……ヴァイスで剣を受け止める。
「涼夜……!」
「黒上君!」
「黒上!」
三人が声を上げた。
あァ、敵が突っ込んで来たから散開してたのね。
「リョウヤ君が日本人って言うからさー、覚えた。ま、俺様天才だし? 余裕だったわ」
「へェ? でシスターちゃんは何処にいんの?」
剣を弾き、左手のシュヴァルツを突き出すと、フリードも銃を突き出していた。
銃口が向かい合う形で発砲され、弾丸同士が正面衝突する。
「んー……やっぱまだ銃の威力は劣ってるか。……で、アーシアちゃんだっけ? そこの祭壇の下に地下に繋がる階段が隠されております。助けたいんなら急いだ方がいいんじゃね?」
互いに後ろに跳躍し、フリードはなんでもないように言った。
で、銃の威力ね。
確かに今の発砲では、俺の撃った弾丸がフリードの撃った弾丸を潰して弾いていた。
しかし簡単に隠し場所を教えてくれたな……。
「だそうだ。小猫と先輩達は行っててくれ」
祭壇を指さしながら言うと、先輩二人は声を上げ、小猫は俺を睨み付けた。
「なっ、バカ言え!!」
「剣もないのに、無茶だよ!!」
いや、心配はありがたいんだけどね。
「不意打ちされたらどうするんですか?」
あァ? ……あァ、祭壇に向かうまでにことね。
「安心しな。リョウヤ君が邪魔してくれるから」
意外なことに口を挟んだのはフリードだった。
彼はダルそうに小猫に照準を合わせ――撃った。
「「小猫ちゃ――!?」」
放たれた弾丸は小猫に当たる前に大きく逸れた。
そしてシュヴァルツから上がる硝煙。
「ほらな、弾かれた」
やれやれと首を振ったフリードが犬歯をむき出した。
「腕が落ちてなくて嬉しいぜ、リョオオオオオウヤくぅぅぅぅぅん!!」
発砲しながら駆けてくるフリード。
俺も同じようにWゴーストで対応しながら走る。
互いに銃弾が体に当たることはない。
まァ基本的に弾丸は真っ直ぐに飛ぶし、銃口に気を使っていれば避けるのは簡単だし仕方がない。
って、あいつらまだいんのかよ!!
「
渇を飛ばすと、漸く先輩達と小猫は動き出した。
兵藤先輩――いや、イッセー先輩の叫んでくれた言葉に、俺はつい笑みを浮かべてしまった。
◇