◇
「僕も行くよ」
「私も行きます」
「俺ってそこそこ戦えるし、先輩なら友人サービスで安くするからお買い得だと思うんだけど?」
俺が部長にアーシアの救出を拒否され、一人で助けに行こうとしたら、そんなことを言ってくれるやつが三人もいてくれた。
木場祐斗に塔城小猫ちゃん、それに黒上涼夜。
木場の言葉も予想外だったが、小猫ちゃんの言葉も相当に予想外だった。感無量だ。
そしてその小猫ちゃんが言ったのが、黒上を連れて行こうという言葉。
便利屋をやってたみたいな話はバイサーの時に部長と話してるのをちょろっと聞いていた。
そう、バイサーだ。
あの時、俺は外野から見ていたから分かる。
黒上涼夜、あいつだけ異常だった。
汗一つ無く不規則な動きで駆け回り、斬り払い、撃ち抜き……木場と小猫ちゃんに迫る魔物を的確に排除していた。
そんな凄く強いやつの謳い文句に、俺はなんと答えたらいいのか分からなかった。金なんて払えないし、俺にできることなんてほとんどないから。
だってあいつ、きっと小猫ちゃんや木場よりずっと強い。
そういう戦いだった。
部長もかなり驚いていたし。
でも黒上の浮かべた笑みは、「頼んでくれれば助けるよ」みたいな印象があって――
「……甘い物奢ってやるよ」
ついそう言ってしまった。
そしたらあいつ、満足そうに頷きやがった。
……皆のマスコット、小猫ちゃんの一番近くにいる嫌な奴。それが黒上涼夜に抱いていた俺の感情だ。
けどこいつ、いい奴なのかも知れない。
木場もそうだ。
イケメンだからって一方的に嫌悪してたけど……。ほら、なんか準備もいいし。
まさか教会の見取り図を用意しているとは思わなかった。
黒上と小猫ちゃんも慣れたように作戦を考えてるし。
改めて自分の甘さに閉口してしまう。
「覚悟はできてるかい?」
「当たり前だ」
「勿論です」
「とっくの昔から」
その言葉を合図に、俺達は教会に飛び込んだ。
不気味な教会内、その聖堂に待ち受けていたのはフリードとか言う白髪の神父。
時折狂ったような様子になる気味の悪い男で、初めて出会った時は俺も斬られた。
「お前かよ」
どこか疲れたような呟きが耳に入った。
「知り合い?」
小猫ちゃんが問うのと同時に、俺と木場は黒上を見ていた。
「そうなんですよ! 俺も確認するまで? まさかリョウヤ君がいるとはねぇ? 思ってなかったわけですよ。ま、おかげでドーナシークの旦那が瞬殺されたのには納得って感じですけど。いや本当に今回はクソつまんねーと思ってたトコにビッグネームの登場でね、俺様歓喜! 目的は果たしたも同然だったから適当に遊んで帰ろうとしたところに来てくれてどうもありがとう。っつーわけで殺し合おうぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
何か疑うよりも早くにフリードがベラベラ語り始め、こっちに俺に突っ込んで来る!!
手に握られているのは拳銃と柄だけの剣だ。あれはヤバイ!!
俺と小猫ちゃんと木場はすぐに距離を取ったが、黒上は違った。
「日本語しゃべれたのか」
そんなこと言いながら右手に持った黒い銃で、フリードの光る剣を受け止めていたのだ。
はァ!? 確かにアニメとかではたまに見るけど、現実でそんなことできるのかよ!?
「涼夜……!」
「黒上君!」
「黒上!」
俺達が声を上げる。
が、黒上は気にした素振りを見せない。
「リョウヤ君が日本人って言うからさー、覚えた。ま、俺様天才だし? 余裕だったわ」
「へェ? でシスターちゃんは何処にいんの?」
二人の銃が向かい合い、発砲される。
なんであいつら淡々と会話しながら殺し合ってんだよ……。
「んー……やっぱまだ銃の威力は劣ってるか。……で、アーシアちゃんだっけ? そこの祭壇の下に地下に繋がる階段が隠されております。助けたいんなら急いだ方がいいんじゃね?」
っ!?
あっさり言いやがった。こいつは刺客じゃないのか?
「だそうだ。小猫と先輩達は行っててくれ」
祭壇を指さす黒上。
「なっ、バカ言え!!」
「剣もないのに、無茶だよ!!」
俺と木場の反応は当たり前だと思う。ってあれ? 小猫ちゃんは……?
「不意打ちされたらどうするんですか?」
ああ! 凄く睨んでる!!
黒上! 気が付け!! 言葉とは裏腹に、お前めっちゃ心配されてるぞ!! 羨ましいな!!
「安心しな。リョウヤ君が邪魔してくれるから」
フリードはダルそうに小猫に照準を合わせ――撃った。
「「小猫ちゃ――!?」」
放たれた弾丸は小猫に当たる前に大きく逸れた。
またしても叫び、俺達は驚愕した。
小猫ちゃんの顔も驚きに染まっている。
なんだ? いま何が起こった……?
「ほらな、弾かれた」
やれやれと首を振ったフリード。
弾かれた?
「銃弾を撃ち落としたのか!?」
確かに銃声は二度聞こえた気もするし、黒上の銃から煙が上がっている。
「腕が落ちてなくて嬉しいぜ、リョオオオオオウヤくぅぅぅぅぅん!!」
その叫びを皮切りに、再びぶつかり合う黒上とフリード。
「……行きましょう」
小猫ちゃん!?
「そう、だね……この場に僕たちは必要なさそうだ」
そ、そりゃあ、あんな絶技を見せられたら俺達は必要なさそうだけど……。
小猫ちゃんの視線の先は涼夜。
ちょうどフリードの腹を蹴っていた。
「楽しそうでムカつきます」
こ、小猫ちゃん……。
確かに黒上は楽しそうに戦っている。フリードもだ。
「
っとそうだ!!
この場はあいつが受け持ってくれたんだ。
俺は早くアーシアを!!
横を見ると、小猫ちゃんと木場が首を縦に振った。
「おい! 帰ったら俺のことはイッセーって呼べよ!! 涼夜!!」
戦いを苛烈させる仲間に、俺はそう言葉を残して走り出した。
祭壇の下にあった階段を下りる俺達三人。
その扉はすぐに見つかった。
階段を下りた先は一本道だったのだ。
その扉を開けようとした時……扉の方が勝手に開いた。
「いらっしゃい。悪魔の皆さん」
堕天使レイナーレが部屋の奥から声をかけてきた。
部屋中、神父だらけだ。全員がフリードと同じ、光る剣を持っている。
俺は奥の、十字架に磔にされた少女を見て叫んだ。
「アーシアァァ!!」
アーシアがこちらに顔をむける。
「……イッセーさん?」
「ああ、助けに来たぞ!」
俺が微笑んでやると、彼女は涙を流した。
「感動の再会だけれど、遅かったわね。いま儀式が終わるところよ」
儀式が終わる?
どういう――。
突然アーシアの体が光り始めた。
「……ああぁぁ、いやあああああああああああああッ!」
苦しそうに絶叫するアーシア。
「アーシア!」
駆け寄ろうとした俺を神父達が囲む。
「邪魔はさせん!」
「悪魔め!」
「滅してくれる!」
くっそ! どけよ!!
お前らに構ってる暇なんかねぇんだ!!
俺が叫ぶと、バン! と大きな音。
見れば小猫ちゃんが神父を殴り飛ばしていた。
木場も剣を抜き放っている。
「あ、あああぁ」
アーシアから光が飛び出し、それをレイナーレが抱きしめる。
高笑いを始めたが、俺は無視してアーシアの方へ駆ける。
未だに多くの神父が立ちはだかるが、小猫ちゃんと木場が連携してフォローしてくれている。
「サンキュー、二人とも!」
木場の光を喰らう剣が神父の光の剣を消し去り、武器のなくなった神父を小猫ちゃんが吹き飛ばす。
俺でもわかる。実に熟練された連携だ。
「アーシア!」
磔にされたアーシア。
ぐったりしている彼女の拘束を解く。
まだ……まだ大丈夫に決まってる!!
「い、イッセーさん……」
「迎えに来たよ、アーシア……」
「……はい」
返事をする彼女の声はあまりに小さく、生気を感じられなかった。
おいおいおいおい!! まだ大丈夫だろ!!
「無駄よ」
俺の心中を否定するようにレイナーレが冷笑を浮かべる。
それを俺は「うるせえ!」とかき消し、アーシアに語りかける。
「こんなところで死んじゃダメだ……そうだ、一緒に駒王学園に行こう! 友達だってアーシアならたくさんできる! いい奴らがたくさんいて……今日も一緒に来てくれた人達がいて……」
声が、震える。
「……ぁ……り、が……」
腕の中で少女の力が抜ける。
嘘、だろ……?
「ダメだ! アーシア! ダメだ!!」
こんな、こんなことで……!!
「無様ね。
堕天使が笑う。
「ざけんな!! なら
返せ!! そう言おうとした。
言おうとしたが、言えなかった。
爆音が響いたからだ。
反射的に音のを方へ顔を向けると……俺達が入って来た扉だった。
扉が――派手に吹き飛んでいた。
◇