金の華   作:酒池肉林万歳

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4話

 クロード・ラウナレス・ロキア・クルベルクは自身が現在、最も幸運な男だと思っていた。

 ダリア・ディオナエア。〝黄金〟と並び立つほどの美しさをもつ女性からの恋文にクロードは舞い上がっていた。自身が彼女のもとに忍び込ませたメイドが持ち帰ったその手紙には深夜、()()に人目に付かないように自分の邸宅に来てほしいことと、そのメイドに邸宅を案内させる旨が書かれていた。

「ふふふ……」

 この先のことを考えたクロードは思わず笑みを漏らした。

 そんなクロードに目を向けることなく、ラッテ・オプファ・リイル・アーマイゼはダリアの邸宅の玄関扉を開ける。

「こちらです。クルベルク様」

 そう言ってラッテは舞い上がるクロードとは正反対に淡々と邸宅を案内する。迷うことなく、一直線に向かう。あの部屋へ。あの、あの、あの真っ赤な部屋へと。

「この先にダリア殿がいるんだなっ?」

「はい。中でご──ディオナエア様がお待ちです」

 鼻息の荒いクロードにラッテは扉を開けて中に入ることを促した。

 クロードは何の疑いもなく、ダリアの待つ楽園へと踏み込んでいく。

「ダリア殿、お待たせしました」

 

「ハロー、随分と遅かったじゃん。待ってたよー」

 

 ただし、そこにはダリアはいなかった。その代わりに短い金髪の女が一人。

 目当ての人物がいなかったクロードは眉を顰める。

「君は誰だ? 私はダリア殿と会う予定があるのだが」

「あー、その予定はキャンセルねー。あんたはね、これからお姉さんと一緒に楽しいことをするの」

 軽い調子の女の言葉遣いにクロードは不機嫌そうに言う。

「無礼だろう。私が誰か理解できていないのか?」

「んー? わかってるよー。あんたが何処の誰なのかも」

「不愉快だ。失礼させてもう」

 クロードは真紅の部屋を後にしようとしてドアノブに手をかける。しかし、上機嫌だったクロードは気づいていなかった。部屋に入った瞬間にラッテが部屋に鍵をかけたことを、そして自分と金髪の女がこの部屋に二人きりであったことに。

 ガチャガチャとドアノブを捻り、押しては引き、押しては引く。怪訝に思ったクロードは女へと振り返る。

「おい、これはどういう──」

 その瞬間、クロードの右目に刺突用の剣、スティレットが突き刺さった。

「ああああああああぁぁぁ────っ!!!」

 右目を押さえてクロードはその場に体を丸める形で跪いた。

 そんなクロードの苦しむ姿を見て女は愉快そうに笑う。

「あんたさー。ハミズさま……って言っても分からないか、ダリアさまのことをエロい眼で見てたよねー?」

「な、何……?」

 怯え苦しむクロードには女が言っていることが理解できなかった。

 女はスティレットをなぞるように遊びながら言う

「逆はねー、許されるよ。ダリアさまが私たちをエロい眼で見るのはねぇ。でも、逆はダメ。私たちがダリアさまをエロい眼で見るのは許されていないの」

 この真紅の部屋は間違いなく楽園だった。ただし、クロードにとってのではない。

「だから、これから楽しい拷問でぇ、この世に生まれたことをちゃーんと反省してもらってから、もう片方の眼も潰してあーげる」

 クレマンティーヌの楽園である。

 

 

 

 

「クレマンティーヌ。血で汚しすぎないでくださいね」

 と言っても聞こえませんか、とハミズは真紅の部屋の前でクロードの悲鳴を聞きながら、クロードを始末するなら自分に、というクレマンティーヌと約束していたハミズは呑気にそう思った。同時にデザードを楽しんでくれれば良いのだがとも思う。

「ご主人様」

 声の方には頬を赤く染め、恥ずかしそうに肩を小さくしているラッテが控えていた。ラッテにも()ご主人の悲鳴は聞こえてきたが、あれが中でどうなっているのか興味などなかった。

 以前商会の男から自分のことを嗅ぎまわり、邸宅で働きたいと言っている少女がいることを報告されたハミズはその少女、ラッテを雇い入れた。彼女から本当の目的を聞き出したところ、涙と鼻水を流しながら快く全てを話してくれた。

 ラッテの横までハミズは歩みを進める。そして、ラッテの背後から片腕を回すと、胸を揉みながら耳元で囁く。

「ラッテ、よくできましたね」

「あっ、ありがとうございま、す。ん……ご主人様ぁ」

「今度、ご褒美をあげましょう」

 ハミズは悶えるラッテを意に介さず、彼女の胸を揉みしだき続ける。

 ご褒美。ラッテはご褒美を、あのときの行為を思い浮かべて歓喜から笑みを浮かべ、足が震えてしまう。下半身から崩れそうになるが、足を内股することで堪える。

「えっ、ずる~い」

 唐突にクレマンティーヌの嫉妬の声が割って入ってきた。

 いつの間にかクロードの悲鳴は止んでおり、むくれ顔に血が飛んだ跡があるクレマンティーヌがハミズの側に立っていた。

 そんなクレマンティーヌに動じることなくハミズは尋ねる。

「それでどうでしたか?」

「それが馬鹿らしい話でさー。ラッテちゃんを送り込んだ理由はハミズさまの私生活を調べてぇ、アプローチに使えそうな情報を集めてたんだってー」

 クレマンティーヌの答えにハミズは面をくらい、彼にしては間の抜けた顔をしてしまう。

 ラッテから情報を引き出した結果、本当はクロード・ラウナレス・ロキア・クルベルクに雇われていること、ダリア・ディオナエアの私生活を報告する事を命じられていただけで、詳しい事情は聞かされていないことを判明した。そのため、クロードを拷問して真意を質そうとしたのだが。

「それではなんですか。八本指の暗殺者とは何の関係もなかったと?」

「うん。ぜんぜーん関係なかったみたぁい」

「…………はぁ、しょうがありません。では虱潰しに動くとしましょうか」

 八本指に関係がなくとも、商売敵に自分の弱みを売り込むための情報集めるためなのか、もしくは商品のアイデアを盗むためにラッテを送り込んだのかと、ハミズは考えていたが、真相は何とも言えないくだらないものだった。

 最終的には支配(ドミネイト)して隠している情報を全て吐き出させようしていたハミズだったが、支配(ドミネイト)してもろくな情報は見込めないだろうと判断した。

 ハミズは呆れて溜め息を漏らし、邸宅の窓の前まで移動する。

「ラッテちゃんは邸宅で適当に時間でも潰して、クレマンティーヌはー……まあ、ご自由に」

 そう言うと、ハミズは窓から夜の首都に繰り出した。

 暗殺者の一人が紙に記した情報から都市内に存在する八本指のアジトの一部を探し出すと、幻術【影迹無端(えいせきむたん)】を使用する。このスキルによってハミズは自身の姿を完全に消失させた。姿を消しながら、屋根から屋根へと建物伝いに飛び移る。目当ての建物が確認できるところまで来ると、自身の種族スキルを使用する。

【中位妖異創造】管狐。可愛らしいイタチ科の動物が六匹ほど現れる。ハミズがスキルで出せる上限は十体だが、何があっても対処できるように余力は残しておいた。

 この管狐だが、可愛らしい見た目に反して、レベルは40台と現地民とはえげつない程の戦力差が存在する。しかし、そんな管狐の役割は戦闘ではない。

 ハミズはその場でしゃがみ込み、管狐たちに目線を近づけて言う。

「あの建物から出てきた者の後をつけなさい」

 その言葉とともに管狐たちは散開した。管狐は複数の隠密スキルや相手のアイテムや金銭を奪うスキルを所持しており、ユグドラシルでは偵察や嫌がらせ目的で使われるモンスターだった。

「さてはて、それでは燻り出しといきましょうか」

 ハミズはそう言うと、立ち上がって〈陽・五行・豪炎〉を発動する。目的の建物から爆炎が昇ると、建物を半壊させた。

 全壊は容易いが、目的は暗殺者の殲滅ではないので魔法の威力は抑えた。

 暫くすると、建物だったものから幾人かの人影が現れ、早々に気配を消してその場を後にするのが目に入った。

 ハミズは管狐に後を追わせるが、馬鹿正直に他のアジトに向うことはないと考えている。大半はブラフ、何名かが良くて下部組織の別のアジトだろうが、別にそれでも構わなかった。

「八本指の暗殺部門の方々には眠れぬ夜を過ごしてもらうとしましょう」

 その夜、八本指の暗殺部門の施設がいくつも爆炎で吹き飛ばされる事となった。

 いくつかの施設はハミズの予想していた通りおとりの建物だったが、それでもいくつかの本物の施設から火の手が上がった。

 そして、それは連日連夜続く事となる。

 本物、偽物、関係なくハミズは爆破し続けた。八本指の構成員が逃げ込んだ先には民間の施設も存在したが、国の公共機関に属するもの以外は壊し尽くした。

 そこに何の関係のない一般人も存在することもあったが、そんなことで痛むような心は最早、この世界にやって来たときに無くなってしまっていた。これが異形種という種族によるものなのか、それとも自身の特殊な職業(クラス)によるものなのかは分からなかったが。

 リ・エスティーゼの首都に爆音が響く夜が十度訪れた頃、ハミズはいつものように八本指の施設の近くまで来ると、今までとは異なる気配の存在を感じた。

 目当ての存在が来たのだと思うと、安心して息を吐いて幻術でを解く。

 

 そこに現れたのは猫の耳を生やし、腰に二本の尾をもつハミズだった。

 

 普段のハミズは【月下美人】という自分の種族や見た目を誤魔化す幻術を使用していた。しかし、これには【影迹無端(えいせきむたん)】と併用ができず、一度スキルを解除するとリキャストが発生する性質が存在した。結果としてハミズは現在、本来の姿を周囲に晒す事になっていた。

 しかし、ハミズはそんなことを気にも留めず、今まで通り管狐は召喚する。ただし、魔法で建物を吹き飛ばすことはせず、屋根伝いに目当ての建物の通りまで来ると路地へ飛び降りる。

 首都の路地は本通りこそ舗装されているが、それ以外の通りはろくに舗装などされていないことがざらである。ハミズがいる場所は貧困層の集まる地域だったため、舗装など皆無であった。

 ハミズはそんな路地へ着地すると、数歩だけ足を進めて建物の脇を流し見る。

「いるのは分かっています。出てきなさいな」

「ほう? やはり、ただの商人という訳ではないようだな」

 野太い男の声が建物の脇から返ると、そこからスキンヘッドの男が姿を現した。

 筋骨隆々に鍛えられた体、そして彫り込まれた獣の刺青が目を引いた。

「見覚えがありませんが、どちら様で?」

「ゼロだ。八本指の警備部門を統括している」

「おやおや、まさかトップが現れるとは」

 出てくるなら部門の幹部クラスが精々だと思っていたハミズとしては嬉しい誤算だ。余計な手間を省けることに機嫌を上げるが、そんな感情をおくびにも出さない。

「それはそちらも同じことだろう。腕の立つ魔法詠唱者(マジック・キャスター)でも雇っているかと思えば、商会の長が直々に動いているとはな。しかも、その身形からして普段から高度な幻術を使用しているようだな」

 ダリア・ディオナエアの存在は良くも悪くも有名だ。

 黒髪黒目ので容姿端麗ということは知れ渡っていても、猫の耳に二本の尾をもっているなどの話など聞いたことがゼロは目の前の女が幻術を使用していたのだと推測していた。

「ただし、少々失望もしたぞ。まさか八本指の相手を一人でしようとは愚かとしか言いようがないな」

 ハミズはゼロのこちらを侮るような言葉と管狐からの報告で、他に援軍がいないと判断した。ゼロの力を八本指は自他ともに認めているのだろうと推察する。

 同時に八本指は自分たちに攻撃を仕掛けている魔法詠唱者(マジック・キャスター)の力を警戒していることを意味していた。

「それにしても、随分と遅い対応でしたね」

「遅れもするさ。こっちはお前にどう対応すべきかで部門ごとの意見が割れたんだからな」

 淡々した様子のハミズに対して、余裕のある表情のゼロが答えた。

 犯罪組織である八本指だが、その実態は八つの部門から成り立っており、それぞれの部門が独立している状態にある変わった組織でもある。ハミズはそれらの情報をここ数日の間に八本指の構成員から引き出していた。

「なるほど、それで結論は?」

「お前を新たな部門の長としてスカウトしに来た」

 今度のは()()()誤算ではないが、意外な提案にハミズは内心で少しだけ驚く。てっきり、どこかの部門の幹部もしくは空きが出た部門のトップくらいかと思っていたが、自分の対応に遅れた訳にも納得がいった。

「ふふ、ラブコールときましたか。嫌いではありませんが、私に何かメリットでも?」

「あるとも、裏社会の莫大な権力を手に入れ、その人材や人脈を大いに振るうことができれば、更に莫大な富を得られるだろう」

「そして、あなた方は表社会からさらに手を広げ、深く根を張れると」

 裏社会を支配する八本指は平民だけではなく、貴族にも独自のコネクションが存在する。そこに大商人であるハミズの力が加われば、その地位をより盤石となる。

「そういうことだ。それでそっちの返答は?」

 ゼロは依然として余裕のある態度を崩さない。

 それは強者としての自信から生まれるものなのだろう。そして、ハミズが手を取ることを確信しているのだろう。そうハミズは考えた。考えた瞬間に口角が吊り上がった。

「………………嗤える」

「何?」

 たった一言でゼロの態度が崩れた。ゼロはまるで理解できないものを見る様な目でハミズを見つめる。

 戸惑うゼロを意に介さずにハミズは顔を俯かせて肩を震わせる。

「ふふフフフ…………」

「貴様、何が可笑しい」

 ハミズの嘲笑にゼロが苛立つ様に声を上げた。想定通りに事が進まないことにゼロは眉をひそめる。そして、ハミズはすらりとした立ち姿から一転、どこか力の抜けたよう立ち姿になってゼロを見下す。

「嗤いもするでしょう。莫大な富程度で私が満足すると思われていたのですから」

「金ではなく権力の方が望みか? なら安心すんだな。八本指の長の一人となれば相応の権力が『だから』手に──」

「──それだけですか? あなたが私に提示できるものは」

 見当はずれのゼロの言葉を遮ると、ハミズはそう言い切った。

 確かにハミズは財力も権力も欲しい。しかし、それは夢のために必要になるからであって、そのものを得ることに最終目標にしている訳ではない。ゼロたちが提示しているものの先にあるもの、それがハミズの目指しているものだ。それを目の前の男に語るつもりは毛頭ないが。

 ゼロは諦めるように、そして呆れるように息を吐く。

「どうやら、こちらの想像以上に馬鹿の類の人間だったようだな」

 そう言うとゼロは戦う構えを取る。その手に武器はなく、拳を握り込まれていた。

 修行僧(モンク)、武器を使うことなく無手で戦う職業(クラス)である。

「ならば、そのまま死ね!」

 その言葉とともにゼロがハミズへと襲い掛かった。並みの使い手なら見失うほどの速度で踏み込むと、その剛腕を振るう。

 何事もないかのようにハミズは後ろに下がりつつ躱し、ゼロはそれを追う形で拳に足を使い、次々と攻撃を繰り出す。そして、ハミズの背後が建物で塞がれる形になるとゼロは渾身の一撃を叩き込む。

 ハミズが横に飛んでゼロの拳を避けると、拳はそのまま建物の壁面に吸い込まれ、轟音とともに壁を崩壊させた。

魔法詠唱者(マジック・キャスター)にしては避けるのが上手いようだが、なぜ魔法を使わない?」

「こちらも聞きたいことがあります。ここにはあなた一人しかいないようですが、それはなぜですか?」

 ゼロの質問に答えることなく、ハミズはそう尋ね返した。

 一人ではなく大人数なら戦闘だけではなく、威圧をかけて先の引き込みも有利に事を進められただろうに、そう暗に含めて言うと、ゼロは鼻で笑って返す。

「ふん! 何を言い出すかと思えば、魔法詠唱者(マジック・キャスター)としての腕から自身を過大評価しているようだな。むしろ、八本指最強のこの俺が一対一で戦えることを光栄に思うんだな」

 強者としての絶対的なプライドからゼロは自身の勝利を疑っておらず、故にハミズの相手を複数人で当たることをプライドが許さなかった。事実としてゼロの強さはリ・エスティーゼ王国のでも屈指のものだ。

「なるほど、なるほど、分かりました。ではこちらも先の質問に答えましょう」

 ハミズがそう言い終えると、ゼロの視界からハミズが消え失せた。

 ゼロの頭の中に一瞬、空白が生じる。その次に驚きで満たされて、ハミズの姿を捉ええるために目だけではなく、首を振ろうとして──

 

「魔法なんて使う必要がないからですよ」

 

 冷たい声色の言葉が右側から発せられると、ゼロは目視で確認するよりも早く、拳を叩きこもうとした。しかし、その腕は振り上げられなかった。

 何が起きているのか、そしてハミズの姿を確認するために振り向く。少し先に誰かの腕を手首を掴む形で持っているハミズの姿があった。いや、誰の腕かなど明白だった。

 それはゼロの右腕だった。

「があああぁ──っ!?」

 肩から血を噴き出しながらゼロの絶叫が辺りに響くが、その声は誰にも届かない。人払いの類はゼロ自身が八本指を介して行っていたのだから。

 苦しみ、絶叫するゼロの姿を目にしながら、手にしているゼロの腕をぷらぷらと遊ぶように振りながら思う。思ったほど固くなかったと──

 戦い方から修行僧(モンク)を想像して【妖異の爪】という素手の攻撃力を上げるだけの自身の種族である猫又のスキルを攻撃の一瞬だけ使用したのだが、その必要もなかった。

 膝を着くゼロをごみでも見るかのように見下ろす。

「みみっちい野望に、過剰な自信と惰弱な力。ここまでくると、あなたの価値はその分不相応の権力だけとなりましたね」

 ハミズの嘲笑う言葉にゼロは言葉を返すことができない。

 腕が落とされた痛みから全身から脂汗が噴き出し、修行僧(モンク)として培ってきたオリハルコンにも匹敵する自分の肉体をこうも容易く引き裂いた事実がゼロの精神を削り去っていた。

「まあ、その権力もこれから消えてなくなるわけですが」

 そう言ってハミズはスキルを発動させた。

 

 

 

 

 同日の夜。リ・エスティーゼ王国の首都内、五つの人影があった。その誰もが一級品の装備に身を包み、佇まいも強者然とした堂に入ったものだった。

 六腕。ゼロを含めた警備部門の最強の六人の総称であり、裏社会最強といっても過言ではない存在である。その六人の内、ゼロを除いた五人がそこにいた。

「誰か集合の理由をボスに聞いたか?」

 ウォードウォールという名の無骨な全身鎧(フル・プレート)で全身を覆い、腰に鞘に収めた剣を携えた男。〝空間斬〟との異名を持つ、ペリュシアン。

「いいや、俺は何も」

 青白い肌にハゲタカめいた顔をフード・オブ・スピアブロックで頭から被る形で隠している男。〝幻魔〟との異名を持つ、サキュロント。

「件の女商人の雇っている魔法詠唱者(マジック・キャスター)についての話ではないのか」

 フード付きの黒いローブに身を包むアンデットであり、死の気配を漂わせるエルダーリッチ。〝不死王〟との異名を持つ、デイバーノック。

「それか、女商人その人に関する事だな。新しい部門の長にスカウトするらしいからな」

 トラヘ・デ・ルーセスという煌びやかな格好をし、薔薇の意匠がされた抜身のレイピアを携えた優男。〝千殺〟との異名を持つ、マルムヴィスト。

「両者、もしくはどちらかと交渉が決裂でもしたのかしら?」

 踊り子の様な薄い絹の衣装を身に纏い、フェイスベールで顔の下半分を覆った六腕の紅一点。〝踊る三日月刀(シミター)〟との異名を持つ、エドストレーム。

 彼らは自身のボスに呼び出され、とある建物の近くにいた。そこは昼に人通りが多すぎず、少なすぎない程に人の目につく場所だった。

 そして、光に照らされていない通りの闇からゼロが現れる。

「ボス、俺たちを全員集めるとは例の商会に総攻撃でもかけるのか? それとも何かトラブルか?」

 マルムヴィストが代表してゼロにここに集められた理由を尋ねた。

 六腕全員を招集するなど余程の事態だった。件の商会が相当の手練れを雇ったのか、もしくは量にものを言わせてきたのか、その両方なのか。何にせよ想定とは異なる事態になっているのは明白だった。

「………………」

「おい、ボス?」

 質問に答えることなく、沈黙を貫くゼロにマルムヴィストは怪訝そうに見る。

 ゼロは不気味など静かで、その視界にはまるで六腕のメンバーが入っていない様だった。

 その姿に苛立ちと言い知れぬ不安を感じたマルムヴィストが苛立つ様に声を上げる。

「ボス! どうか──」

 したのか! そう言おうとして────

 ゼロの体を何かが貫いた。

 突然の出来事に六腕のメンバーは理解が及ばなかったが、ゼロの体を貫いたのは人の腕だった。それは白魚のような細い腕で、血に濡れることでその白さを際立たせていた。とてもではないが、人の体を貫けるようなものではなかった。

「不細工筋肉達磨、これであなたは用済みです」

 その声とともにゼロの体は横に投げ出され、腕が引き抜かれた。

 そこにいたのはダリア・ディオナエアだ。片腕から血が滴り落ち、顔には薄い笑みを浮かべ、この場には最も似つかわしくない人だった。あまりの事態に六腕のメンバーは茫然としてしまう。

「フフフ、色物ばかりかと思っていましたが、私好みもいるようで安心しました」

 舌なめずりをするハミズは容姿も相俟ってとても妖艶だったが、六腕のメンバーには何を言っているかは理解などできなかった。

「とりあえず、色物たちには早々にご退場願いましょうか」

 その言葉とともにハミズの姿が消え失せる。そして、エドストレームを除く六腕のメンバーの肉体が引き裂かれ、抉れて血しぶきが上がる。そして、その四人は膝から崩れ去ると、そのまま地に伏して物言わぬ死体となる。

 こうして、リ・エスティーゼ王国の裏社会の頂点に君臨する猛者たちはあっけなく、この世から消え去ることとなった。

 

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