金の華 作:酒池肉林万歳
リ・エスティーゼ王国の首都の某所。ゼロを除いた八本指の幹部全員が集まっていた。とある部門の長が口を開く。
「女商人と彼女が雇っているだろう
その言葉に全員が首を横に振る。
事の始まりは八本指の暗殺部門がダリア・ディオナエアという商人を暗殺する依頼を引き受けたことだった。王国でも指折りの大商人を暗殺するというのは大仕事といえるが、その商人の周りに目立った護衛がいないことから容易い仕事だと考えられていた。
「だが、この場に現れない事からゼロがどうなったか想像はつく」
しかし、差し向けた暗殺者は大半が行方不明、残りは死体で見つかると、暗殺部門の施設が偽物、本物問わず火の手が上がることとなった。
そして、その対処に八本指は会議を進めた結果、商人と商人が雇っているだろう人間の八本指へのスカウトをゼロに任せることを決定した。ゼロに対処を一任したのは交渉が決裂した際の脅威の排除を行うためだった。
結果はゼロどころか六腕がこれまでの暗殺者同様、その行方を眩ました。
「あの商人の下にはそれほどまでの使い手がいるのか?」
その質問に答えられるものはいない。いるとすれば、この場にいない警備部門の長のゼロだけだ。
「暗殺はできないのか?」
窃盗部門の長の質問に暗殺部門の長が首を横に振る。
「何度も行っているが、全て失敗に終わった」
「どうする? 以前の話し合いではスカウトするという話だったが」
「無理だろうね。何せゼロの勧誘を断るぐらいだ、誰がやっても同じだろうさ」
麻薬取引部門の言葉に全員が口を閉ざした。
「報復に移るか?」
「やめた方がいいんじゃないかしら。ゼロを葬るほどの戦力をもつ相手に攻撃を仕掛けるのは無謀だわ」
窃盗部門の長が商人への報復を尋ねると奴隷売買部門の長が否定した。
そもそも、報復に移りたくとも、そのための戦力の大部分が削られているというのが現状だ。
「少なくとも
一番被害を受けた暗殺部門は少なくとも報復には移れないのが現状だった。
「それにこっちを攻撃しようと思えば出来たのに、それをしなかったのはこっちにこれ以上の攻撃を仕掛けるつもりがないからじゃないか?」
「同感だ。あの商人とこれ以上、事を構えるのは得策ではないな」
賭博部門の長と金融部門の長も後に続くように同意した。
これ以上、あの商人と関わるのは得策ではなかった。
「では、あの商人にはこれ以上の手出しは無用ということでいいか?」
『異議なし』
とある部門の長がまとめるように言うと、全員が同意した。
ロ・レンテ城のラナーの自室にラナーとダリアに加えて、以前にはいなかった人物がもう一人。年はラナーよりも少し上か、緑の瞳と、長い金髪の一部をロール状にした力強い美しさを秘めた女性がそこにいた。
「今日は二人に相談したいことがあるの」
「恋の悩みですか?」
「まぁっ、 そうなの?」
神妙な様子の女性──ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラにダリアが言葉を返すと、ラナーが両手で口元を隠しながら上品に驚いた。二人の予想外の反応にラキュースは手をあたふたと振り慌ててしまう。その姿だけをみれば、彼女が一騎当千の英雄とは到底、結びつかなかっただろう。
「えっ!? 違うわよ、ダリア! ラナーも本気にしない!」
ラキュースは冒険者である。冒険者とはモンスターを討伐する依頼を冒険者組合という組織から請け負う者たちを指す。しかも、リ・エスティーゼ王国の二つしかないアダマンタイト級冒険者チーム、その内の一つ「蒼の薔薇」のリーダーであり、王国でも指折りの強さをもつ存在である。
「てっきりラキュースに春が来たかと……」
「違います!」
ラナーの残念そうな言葉を強く否定すると、一息吐いて咳払いをし、ラキュースは真面目な面持ちで改めて口を開く。
「ゴホンッ! ……それで二人に相談したいことは連日の爆破事件のことなの」
「おや、ラキュースからその話題が出てくるとは。てっきり、ラナーから振られるかと思っていました」
ラキュースの口から出た話題にダリアは意外そうな様子で答えた。
王都で連日連夜起きている謎の爆破事件。いくつもの建造物が無差別に爆破される事件であり、多数の死傷者が出ていた。
だからこそダリアは不思議に思った。あくまで事件は王都内で発生しており、その王都は王の管轄である。ラキュースは貴族であるが、王族ではないので、事件に直接的に関わる必要ない。ダリアは説明を求めてラキュースを見る。
そのラキュースがラナーを見ると、代わりにラナーが事情の説明をする。
「実は私の方からラキュースに相談していたの」
「私も貴族だから無関係とはいかないわ」
ラキュースはそう言うが、そんなことを口にできる貴族はハミズの知る限りごく少数だ。人格的にも能力的にも。加えて冒険者という立場がラキュースの人格の高潔さを示していた。
冒険者組合にはいくつかの規約が存在し、所属している冒険者たちはこの規約に従う必要がある。その中に、人との争いに極力関わらないというものが存在する。ラキュースはアダマンタイト級という冒険者の中でもトップクラスの力をもっているため、ある程度の規約から外れた行動は黙認されているが、それでもなお、今回のような事件の解決に尽力できる人格の持ち主はそういなかった。
「とりあえず、ラナーが想定した襲撃場所で張り込みしてみたのだけれど、全部空振りに終わってしまったのよ」
「ごめんなさい。無駄足を踏ませてしまって」
「気にしなくていいわよ。あなたに予想がつかなかったのなら、他の誰にも予想はできなかったわ」
自分の想定が外れたラナーは申し訳なさそうに謝るが、ラキュースとしては王国内で最も頭の切れるラナーに想定ができないのであれば、他の誰にもできなかっただろうと思っていた。
この中で共通認識の薄いダリアは情報の共有を求める。
「私は事件現場を詳しく知らないので、どこで起きたのか教えてもらってもいいかしら?」
「事件の場所については私もまとめているから今、地図を持って来るわね」
そう言ってラナーは地図を持って来るとテーブルに広げた。そこにはいくつかのマークがされていた。そのマークを見てラキュースが頷く。
「私の把握している場所と違いはないわ」
ダリアもマークされている犯行地点を見て確認をする。
「ふむふむ…………うーん、私の思いつく限りでは共通点はないようですけど」
「やっぱり、ダリアもそう思う?」
「はい。強いて言うなら、犯行場所のいくつかは後ろ暗い連中が出入りしている噂がある地域ということぐらいですが、そうでない地域でも事件は発生しているようですね」
ラキュースの言葉に同意しつつも、推測を交えてダリアは答えた。しかし、あくまでも根拠のない推論であり、判断を下せるようなものではなかった。
あまりに情報のない現状にラナーも同意する。共通しているのは犯行が深夜であること、かなりの人的被害が出ている、それぐらいだった。
「やはり、現時点では情報が少なすぎて判断がつかないわね。もう少し情報が集まれば捜査にも進展が生まれるのでしょうけど」
「そういえば、ラキュース。犯行場所付近で何かしらの目撃情報や痕跡はなかったのですか?」
「それが全然なかったのよ。仲間ともこのことについて相談したんだけど、結論としては高度な幻術を使用しているか、かなり腕の立つ盗賊系の職業による仕業ではないかというものになったわ」
夜間ということを差し引いても、爆破という犯行にも関わらず、目撃者が全くおらず、痕跡もないというのは異常であったため、ラキュースは同じ青の薔薇のメンバーに犯人の力量について相談した。その結果、メンバーの
「私はラキュースのチームの方々に会ったことがないのですが、どういった方々なのですか?」
蒼の薔薇。チームの全員が女性であり、メンバーの大雑把な
ダリアの質問にラキュースは気まずそうに目を反らす。その反応にダリアは何かまずいことでも聞いたのかと思い、ラナーの方を見る。しかし、ラナーも事情が分からず、二人は不思議そうに顔を見合わせる。
「ラキュース?」
「えっ? あー……そのうち話すわ。ダリア」
「いえ、今話せないのですか?」
ラキュースはチームメンバーを思い浮かべる。その全員が優秀ではあるし、自分との信頼関係も厚いが、同時にかなり個性的な面々である。その中でも、とある忍びがダリアと出会ったらどうなるのか、想像しただけで軽く冷や汗を流れた。強引に話題を事件へと戻す。
「そ、それにても、連日連夜立て続けにこうも爆破事件を引き起こすなんて首謀者の目的は一体、何なのかしら?」
腕を組みながら、意図の読めない犯人のことを考えて眉をひそめる。愉快犯、犯罪組織の抗争、私怨など考え始めれば切りがない。しかし、それに答えられるものはいない。ラナーが先程言った通り、情報が少なすぎるのだから。
そんなラキュースを見つめながら、ダリアが平然とした態度で言う。
「さあ? 何にせよ、犯人はきっとろくでもない野郎ですよ」
「確かに王都でところ構わず、爆破を起こして死者を出すような輩はろくでもない奴でしょうね」
吐き捨てるように言って、ラキュースはまだ見ぬ犯人の姿を想像して、さらに義憤にかられる。犯人の意図がどうであれ、何の罪もない人が犠牲になっているのだから。
ラナーもラキュースの言葉に同意する。
「それでダリアにも独自のコネを使って情報を集めてほしいの」
「わかりました。何か情報があったら二人に連絡しますね」
商人として二人とは異なる人脈をもつダリアはラナーの依頼に快く了承した。
話題に一区切りがつき、それぞれが紅茶に口をつけると一息吐いて張りつめた空気が柔らかいものへと変わる。
「全く、年頃の女性の会話とは思えませんね」
「ふふ……そうですね」
ラナーがダリアへと微笑み返す。王国内で最も美しい者たちのお茶会だったが、話の内容は王都内の爆破事件と、浮ついた話題とはかけ離れたものだった。年頃の女性がするような話題をダリアがふる。
「ラナーはともかく、ラキュースは誰かそういう相手がいないのですか?」
「私はともかく、というのは気になりますが、確かにラキュースの恋愛には興味があるわ」
「ダリアだけじゃなくてラナーまで…………」
二人からの追及にラキュースは頭を押さえつつ、呆れるように声を漏らした。
しかし、ラキュースという冒険者に出会ったことのある人間なら誰もが気になることでもあった。冒険者としてはトップクラスの強さ、そして誰もが振り向くような美貌、そんな人物に懸想している相手がいるとしたら、気にならない人間はそういないだろう。そんな期待を察しつつ、ラキュースは口を開く。
「二人には悪いけどそういう相手はいないわ」
「なんだ、つまらないですね」
ダリアは気を落としながらラキュースを見ると、はぁ……と息を吐きだした。そんなダリアにラキュースは意趣返しと言わんばかりにダリアへと尋ねる。ラキュースも追及される側として呆れてはいたが、年頃の女性ではあるため、この手の話に全く興味がないという訳ではなかった。
「そういうダリアの方はどうなのよ?」
「いませんよ。独り身の方が男性に受けが良いですし、交渉事を有利に進められますから」
自分に聞いておきながら、当人にも浮ついた話がないのではないか、とラキュースは半目でダリアを恨みがましく睨む。ダリアは無言の抗議を気に留める事もなく涼しい顔で紅茶を楽しんでいた。結局のところ、自分たちの間でこの手の話に花を咲かせるのは無理なのだろうなとラキュースは諦める。
そんな二人の遣り取り見たラナーは二人に尋ねる。
「二人は私には聞いてこないの?」
その言葉に今度はダリアとラキュースが顔を見合わせ、同時に溜息を吐く。
「ラナーはー……ね? ダリア」
「そうですね。ラキュース」
二人の態度にラナーは可愛らしく小首を傾げる。
お茶会を始めてからさらに暫くして、ラナーの部屋の時計がゴーン、ゴーンと鳴る。その音が響くとラキュースはハッとする。
「ごめんなさい。私の方から二人に声をかけたのだけれど、そろそろ依頼の時間だから、お先に失礼するわね」
そう言ってラキュースはお茶会を切り上げて椅子から立ち上がる。
アダマンタイト級冒険者となれば、依頼される案件も高度で多岐に渡る。そして、彼らだけにしか達成できない依頼が存在する。ダリアもラナーもそれを理解しているため、咎めるようなことはしない。
「気にしなくていいわ。頑張ってね、ラキュース」
「今度は浮ついた話の一つでも持って来てくださいね」
「ありがとうね、ラナー。ダリア、その手の話はお互い様よ」
そう言うとラキュースはラナーの私室を後にし、部屋にはダリアとラナーが残る形となった。
しばらくの間、二人は優雅に紅茶を楽しむと、ラナーの部屋に静寂が訪れる。
「それで、どうでした?」
二人の雰囲気は茶会の前半の真剣な空気に比べれば柔らかいものだった。しかし、その雰囲気はラキュースがいた時のものとは何かが違う。
「お陰様で八本指の警備部門を制圧する事に成功しましたよ」
「ふふ……それは良かったです。それにしても、随分と派手に動きましたね」
「おや、ご迷惑をお掛けしましたか?」
「いいえ。かかったものがあったとすれば、ラキュースに犯行場所の想定を出任せに伝えた労力くらいよ」
二人の会話の内容をラキュースが聞けば、その事実に驚愕しただろう。
爆破事件の首謀者かつ実行犯がダリアであったこと、ラナーが虚偽の情報を自分に伝え、事件の真相の解明を闇に葬ったこと、それらを億尾にも出さずに先程まで三人は会話をしていた。
「八本指は私の本当の目的に気付くと思いますか?」
「あなたが警備部門を丸ごと手に入れたという情報が洩れるのは時間の問題だけど、気付いたところで既にどうしようもないのが実情でしょうね」
八本指の暗殺部門に狙われたハミズだったが、力の差は歴然だったため、暗殺者の存在は脅威ではなかった。しかし、暗殺者に狙われている事実は商売が差し支えた。
商人の仕事は善くも悪くも人との関わりによって成り立つ仕事である。どんな背景があれ、暗殺者に狙われている人間に関わることは自分も狙われるのでは、という疑念が生じる。そうすれば、その狙われている当人を避けるようなるのは時間の問題だ。そのため、ハミズは早々に害虫の巣を潰すことにした。
「そうですか。これで夢にまた一歩近づいたというところですね」
しかし、行動に移るにしても得るものが欲しいと考えた結果、警備部門を丸々接収することにした。暗殺部門の人間ではなく、施設を重点的に狙うことで暗殺部門が警備部門に警備を依頼し、そこから徐々に警備部門の上層部まで辿り着くという計画だったが、初手でゼロが現れたのは嬉しい誤算だった。
ハミズは傭兵や冒険者、ときには
「良かったですね。ハミズ」
斯くして自分の兵隊を持つ事となった上機嫌の友人の様子にラナーも喜ぶ。そして、先程までここに居た
「そういえば、ハミズ。ラキュースは食べ頃でしたか?」
ここに何も知らない第三者がいれば誰もが自身の耳を疑っただろう。
「んー……もう少しで食べ頃といった感じでしたね。ただ、良い調理の方法が思いつかないので、食べ頃になるまで決めておかなければいけませんね」
「あら、食べ方はもう決まっているものかと思っていたわ」
「いえいえ、折角のご馳走ですから、時間をかけるのもありですね」
慈愛に満ち溢れた存在であると評される第三王女が堂々と女性を食い物にするという話題を口にしているのだから。そして、何よりもその女性は彼女の親友ともいっても差し支えない人物である。しかも、その女性を食おうとしているのは同じ友人にも関わらず、それを止めようともしていない。
「しかし、悪い人ですね。友人を食い物にされようとしているのに」
目の前の
「まあっ、ハミズ。あなた食い物にされるの?」
なんともくだらない茶番劇にハミズもラナーもくすくすと笑ってしまう。だが当人たち以外からすれば、何もかもが歪なやり取りであり、それは言外にラキュースは友人ではないという宣言でもあった。
人を貶め、蔑ろにしているにも関わらず、二人はその会話を心の底から楽しんでいた。ラナーは微笑みながら会話を続ける。
「食欲が性欲の一部とはどんな感じなのですか?」
「う~ん……どんなと言われても、一度の行為で色々なものが満たされるとしか」
ハミズは現在の体になると同時に、自身の三大欲求に変化が生じた。それが性欲と食欲の変化だ。
まず、容姿の良い女性を見ると食欲が強く刺激されるようになり、性行為を行うと性欲だけではなく、食欲も満たされるようになった。因みに逆はない。普通の食事を行ったとしても、ある程度の食欲は満たされたが、性欲は満たされるということにはならなかった。
ラナーは興味深そうにハミズを見つめる。
「ハミズの猫又という種族の性質なのかしら?」
猫又。二本の尾をもつ猫の妖怪であり、ハミズの種族名。
諸説あるが、猫又とは年老いた猫が妖力を得て妖怪へと化けるに至った存在とされる。人間に化けることもできるが、本来の姿は人を食い殺す大きな猫であり、最大の特徴は尾が二又に分かれていることだろう。
ハミズもそう記憶していたが、ユグドラシルというオンラインゲームの設定ではどのようにされていたのか詳しくは覚えていなかった。もしかしたら、自分の知らない設定があったのかもしれない。
「さあ? こればっかりは同族に会ってみない事には何とも言えませんね」
そんなことは一生ないでしょうけど。そう言ってハミズはティーカップに残っていた紅茶を飲み切った。そうは言ったが、ハミズは猫又ではなく、自身の別の種族が関係しているのだろうと考えていた。この辺りの設定をラナーに説明するのは面倒なので口には出さないが。
素っ気ないハミズの態度から、その内心をラナーは察して特に追及することなく、別の話題を振る。
「何にせよ。あなたはこれで兵力、財力の基礎を手に入れることに成功したということね」
ハミズの夢には必要なものが大きく分けて三つある。それが兵力と財力。そして最後にもう一つ、それをラナーは口にする。
「あとは最後の権力だけになりましたね」
社会的地位と言ってもよい。ただし、ハミズが望んでいるのは商人程度が持ち合わせているものではなく、最低でも貴族級の権力が必要となる。この権力がハミズにとって大きな壁だった。
財力は自身の
「その最後が大きな問題なのですよね…………」
そう言って、ハミズは溜息を吐いた。権力は先の二つほど容易に手に入るものではなかった。
権力を得る手段は複数ある。例えば、権威ある者が功績や実績を上げた者に与えるものが権力である。もしくは大勢の者から畏敬の念を集めた者に自然と生まれるものも権力といえるだろう。他にも媚びを売る、他者の地位を簒奪するなどが挙げられる。
「ラナーには何か妙案がありますか?」
「いいえ。貴方の思う通り、今すぐどうこうできる問題ではないわね」
ラナーの答えにハミズも肩を落とす。先のラキュースの言の通り、王国内で最も────いや、周辺国家内で最も優れた頭脳を持っているとハミズは考えていた。そのラナーがそう言うのだから、今すぐ解決する問題ではないのだろうと結論を下した。
「ままならないものですね」
ティーカップの底に微かに残った紅茶に目を落としつつ、そう独り言ちた。