私の父は、祖父でもあり。私の祖父は、曾祖父でもある。
私にとっては当然のことであるけれど、他の子にとっては異常なことらしい。
しかし同時に、それを大人達は『名誉あることだ』と口をそろえて言う。
おかしな話ではあるが、実際にそうなのだ。
『あなたはいつか、ワルキューレになるのですよ』
母はいつもそう言って、休みの日はいつも私に剣や銃を握らせた。
ワルキューレになって、人類を脅かすフォーリナーを倒すためだという。
それをできるのは私達しかいないから、私達は選ばれた人間なのだと。
そしてもし仮に、幾度もの死線を超え、十八まで生き残れたのなら。
私達は名誉なことに、偉大な救世主である父の子を産む権利が与えられるらしい。
そうなった後は、よほど忙しい時以外は宮殿で平和に余生を謳歌できるのだとか。
『お父様の代わりに、私達姉妹が人々を守らなければいけないのです』
お母さんは、私のことを娘であると同時に、妹としても扱う。
お母さんは父との間に私を産んだが、お母さんは父と祖母の間に産まれた子だ。
ややこしくなるが、実際はとても簡単な家系図だ。
男側はただ一人で、女側は数百人くらい。それだけ覚えておけば問題ない。
「だから、私は十八になったら父と結婚しなきゃならないんだって」
「お父さんと結婚するの?変なの」
ワルキューレは、十二になるまでは普通の学校で、普通の人間として育てられる。
戦士として育成するには無駄なことのようにも思えるが、父が必ずそれだけは守らせるようにと言いつけているのだから、きっとそれにも意味があるのだろう。
「変なのかなぁ?」
「本で読んだハプスブルク家より酷いや」
「なにそれ」
「血縁が近い人同士で結婚するのを繰り返して、最終的に痛い目見た人達の家系」
「へー。なんでも知ってるんだね」
「えへへ」
事実、私はそのおかげで素晴らしい友人に巡り合うことができた。
一年生の頃に出会った彼は、私が知る由も無かった知識を沢山披露してくれた。
毎週行われる父との談話会でも、彼の話題を沢山話してしまった。
父はそれを楽しそうに聞いてくれるから、ついつい話し過ぎてしまう。
「けど、家の決まりごとだから、しょうがないね」
「しょうがなくないよ。結婚は、愛し合ってる人同士で行うものだ」
「私、父のことは好きだよ?」
「僕もお母さんのことは好きだけど、それは恋愛的な意味じゃない」
愛にも種類があるのだと、彼はそう教えてくれた。
では、私は父を女として愛しているのだろうか?
ずっと考えてきたが、結局答えは今も出ないままだ。
★★★★★
それから数年経って、私は戦場に出ることになった。
幸い他の姉妹と比べて出来は良かったらしく、任期が終わるまで生き残れそうだ。
彼との交友は続き、相変わらず仲のいい関係が続いていた。
だから、それからもずっと続くと思っていたのだけど。
「僕と結婚してください」
十七なった頃、彼は私に指輪をプレゼントしてくれた。
最初は訳が分からなかったけど、ようやく私は彼の気持ちに感づけた。
彼はずっと、私のことを女として好きになってくれてたらしい。
「あなたのお父さんに勝てるところなんて、一つも無いけど。あなたを幸せにしてみせます」
とても困って、それ以上に涙が出る程嬉しかった。
考えないようにしてただけで、私も彼のことがどうしようも無く好きだったらしい。
返事は返せなかったけれど、唇同士をくっつけて、初めてのキスをした。
衝動的にやって、後から思い返してベッドの上で悶えたけれど、とてもとても嬉しかった。
「いけません」
けれど、姉妹達は私が他の男とくっつくのには反対だった。
他の姉妹と同じように、お父様の子を産むのだと、彼女達は私を叱った。
それでも私は諦めきれずに、父に直訴することにしてみた。
もしかしたら殺されるかもしれない、なんて考えながら。
「やめなさい。馬鹿なことは考えないで」
「分かっているの?あなたは今、大変なことをしようとしてるのよ?」
「私達の使命を忘れるの?戻ってきて、お願いだから」
引き留める彼女達に向けて、私は声を荒げて言った。
「その使命って、誰が決めたのよ!」
彼の受け売りだった。私はそんなものに縛られて、他の子と同じ人生を歩みたくはなかった。
大変なことだとは分かってるけど、それでも諦めたくなかった、捨てたくなかった。
だから、震える足を動かして、父のところまで足を運んで。
「いいんじゃないか?」
とても軽い口調で、父は笑いながらそう言った。
拍子抜けするくらい、あっさりと結婚は認められた。
私も彼も、口をあんぐりと開けて驚いた。
「別に俺は、他の男と結婚することを禁じてなんていないよ。他の子には俺から言っておこう」
父は笑った。思わず私と彼は父に抱き着いてお礼を言った。
父はとても上機嫌に、私達の結婚を祝福してくれた。
式はどこでしようとか、何をお祝いに持っていこうだとか。
見たことが無いくらい、父はそれを楽しんでいるように見えた。
★★★★★
結婚式が終わって、私は父と一緒の部屋でゆっくりと話をすることにした。
父はベッドの上で横になりながら、独り言のような私の言葉を聞いてくれた。
「父さん。結婚を認めてくれて、ありがとうございます」
「嬉しかったです。私達を道具として扱っていないことが分かって。愛を持ってくれてることが分かって。私達の幸せを願ってくれることが、理解できて」
「父さんが結婚式に遅れてきたのは残念だけど、仕方ありませんね。忙しかったんでしょ?お祝いの品、とっても嬉しかったよ。ベビー用品なんて、気が早すぎるなーって思ったけど!」
「彼、どうだった?そっか、優しそうで、賢そうで、イケメンなんだ。フフッ、いいでしょ?私が惚れちゃった男の子だもん!お父さんにも負けないくらいかっこいいよ!」
「それに、お父さんと違って私のことだけを愛してくれたしね!……あ、ほらそんな悲しそうな顔しないで?分かってるよ、お父さんはずっと、昔死んだ幼馴染さんが好きなんでしょ?フフッ、私と同じだね」
「泣かないで?分かってるよ、仇を討ってくれてありがとね」
「大丈夫だよ。悪いのはフォーリナーだもん」
「運が悪かっただけだよ。結婚式当日に襲撃なんて、誰も予想できるわけ無いもん」
「私は幸せだよ?ほんの一瞬でも、彼と夫婦になれたんだもん。幸せだ」
「それが、ほんの一瞬で奪われてしまっただけだよ」
「泣かないで。私はもう泣かないって決めたんだもん」
「あいつらを殺すまで、あいつらが絶滅するまで、私はお父さんの子を産むよ」
「あいつらを殺してくれる子供が産まれるまで、私は頑張るよ」
「姉さん達、こうなることが分かってたのかもね。フフッ、後で謝らないと」
「ふざけないでよ」
「なんで、なんであんなに、一瞬で」
「彼の人生はなんだったの?私の恋って無意味だったの?」
「あんなに簡単に人間は死んじゃうの?一緒に死ねなかった私は化け物なの?」
「ごめんなさい、ごめんなさい。けど、お願いです。お願いです」
「彼の死を無駄にしないでください。彼の仇を取ってください」
「あいつらを殺してください」
「あいつらを消してください」
「私みたいな子が産まれないように」
「私達みたいな子が必要のない世界になるように」
「お願いします、救世主様。お願いします、お父様」
「どうか、この
「叶えてくださいませ」
救世主に祈りを捧げよ。
救世主に願いを捧げよ。
この地獄を終わらせるために。
この歪を終幕に導くために。
願いを背負っていくのが、どれだけ苦痛だと理解していても。
その呪いが、どれほどあなたを苦しませるのか、理解していても。
私達には、そうすることしかできないのです。
【人物紹介】
『恋をした娘』
救世主の娘。初めて人間に恋をした個体。
比較的人間らしい感情を持ってしまった故に、ただの人間に心惹かれた。
しかし、式場をフォーリナーに爆撃され、愛すべき夫を失った。
人間が息絶えたその地獄で、彼女はただ一人、それを見た。
己達とは次元が違う、神のごときその力を。
『救世主』
始めて人間らしい恋をした娘が不幸になってマジ切れした親父。
今日くらいは父らしく、とタキシードを着て向かった式場はすでに焼け野原。
結果、数百年振りくらいに現場に出て数秒で襲撃者を殲滅してしまった。
願われるのはいつものことだが、今回は割と心が折れかけたらしい。
『フォーリナー』
空気読まずに襲来し、街の一区画を焼け野原にした飛行型フォーリナー達。
現時点での最高戦力は、ぶち切れたチート持ちによって数秒で打ち砕かれた。
本来ならば莫大な被害を与えられるような超戦力だったらしいが、式場一つと、そこにいた何の力も持たない人間達が死んだ程度で終わったのは、人間側にとってはとても喜ばしいことである。
『夫になるはずだった人』
本気でワルキューレを愛しちゃった人。死んだ。
結婚式前にやることはやったらしいので、そこだけが救い。
救世主から見てもかなり好印象な好青年だが、常人の命は紙より安い。