終末世界の救世主になりました!   作:雷神デス

2 / 6
『ワルキューレの中にも、ただの人に恋をする娘がいたようだ。それは単純な歴史の一節としてしか残っていないが、それ故に我らはその数少ないラブロマンスに思いを馳せる』


他人に恋した娘

 

 

 

 私の父は、祖父でもあり。私の祖父は、曾祖父でもある。

 私にとっては当然のことであるけれど、他の子にとっては異常なことらしい。

 しかし同時に、それを大人達は『名誉あることだ』と口をそろえて言う。

 おかしな話ではあるが、実際にそうなのだ。

 

 

『あなたはいつか、ワルキューレになるのですよ』

 

 

 母はいつもそう言って、休みの日はいつも私に剣や銃を握らせた。

 ワルキューレになって、人類を脅かすフォーリナーを倒すためだという。

 それをできるのは私達しかいないから、私達は選ばれた人間なのだと。

 

 そしてもし仮に、幾度もの死線を超え、十八まで生き残れたのなら。

 私達は名誉なことに、偉大な救世主である父の子を産む権利が与えられるらしい。

 そうなった後は、よほど忙しい時以外は宮殿で平和に余生を謳歌できるのだとか。

 

 

『お父様の代わりに、私達姉妹が人々を守らなければいけないのです』

 

 

 お母さんは、私のことを娘であると同時に、妹としても扱う。

 お母さんは父との間に私を産んだが、お母さんは父と祖母の間に産まれた子だ。

 ややこしくなるが、実際はとても簡単な家系図だ。

 男側はただ一人で、女側は数百人くらい。それだけ覚えておけば問題ない。

 

 

「だから、私は十八になったら父と結婚しなきゃならないんだって」

 

「お父さんと結婚するの?変なの」

 

 

 ワルキューレは、十二になるまでは普通の学校で、普通の人間として育てられる。

 戦士として育成するには無駄なことのようにも思えるが、父が必ずそれだけは守らせるようにと言いつけているのだから、きっとそれにも意味があるのだろう。

 

 

「変なのかなぁ?」

 

「本で読んだハプスブルク家より酷いや」

 

「なにそれ」

 

「血縁が近い人同士で結婚するのを繰り返して、最終的に痛い目見た人達の家系」

 

「へー。なんでも知ってるんだね」

 

「えへへ」

 

 

 事実、私はそのおかげで素晴らしい友人に巡り合うことができた。

 一年生の頃に出会った彼は、私が知る由も無かった知識を沢山披露してくれた。

 毎週行われる父との談話会でも、彼の話題を沢山話してしまった。

 父はそれを楽しそうに聞いてくれるから、ついつい話し過ぎてしまう。

 

 

「けど、家の決まりごとだから、しょうがないね」

 

「しょうがなくないよ。結婚は、愛し合ってる人同士で行うものだ」

 

「私、父のことは好きだよ?」

 

「僕もお母さんのことは好きだけど、それは恋愛的な意味じゃない」

 

 

 愛にも種類があるのだと、彼はそう教えてくれた。

 では、私は父を女として愛しているのだろうか?

 ずっと考えてきたが、結局答えは今も出ないままだ。

 

 

 

★★★★★

 

 

 

 それから数年経って、私は戦場に出ることになった。

 幸い他の姉妹と比べて出来は良かったらしく、任期が終わるまで生き残れそうだ。

 彼との交友は続き、相変わらず仲のいい関係が続いていた。

 だから、それからもずっと続くと思っていたのだけど。

 

 

「僕と結婚してください」

 

 

 十七なった頃、彼は私に指輪をプレゼントしてくれた。

 最初は訳が分からなかったけど、ようやく私は彼の気持ちに感づけた。

 彼はずっと、私のことを女として好きになってくれてたらしい。

 

 

「あなたのお父さんに勝てるところなんて、一つも無いけど。あなたを幸せにしてみせます」

 

 

 とても困って、それ以上に涙が出る程嬉しかった。

 考えないようにしてただけで、私も彼のことがどうしようも無く好きだったらしい。

 返事は返せなかったけれど、唇同士をくっつけて、初めてのキスをした。

 衝動的にやって、後から思い返してベッドの上で悶えたけれど、とてもとても嬉しかった。

 

 

「いけません」

 

 

 けれど、姉妹達は私が他の男とくっつくのには反対だった。

 他の姉妹と同じように、お父様の子を産むのだと、彼女達は私を叱った。

 それでも私は諦めきれずに、父に直訴することにしてみた。

 もしかしたら殺されるかもしれない、なんて考えながら。

 

 

「やめなさい。馬鹿なことは考えないで」

 

「分かっているの?あなたは今、大変なことをしようとしてるのよ?」

 

「私達の使命を忘れるの?戻ってきて、お願いだから」

 

 

 引き留める彼女達に向けて、私は声を荒げて言った。

 

 

「その使命って、誰が決めたのよ!」

 

 

 彼の受け売りだった。私はそんなものに縛られて、他の子と同じ人生を歩みたくはなかった。

 大変なことだとは分かってるけど、それでも諦めたくなかった、捨てたくなかった。

 だから、震える足を動かして、父のところまで足を運んで。

 

 

「いいんじゃないか?」

 

 

 とても軽い口調で、父は笑いながらそう言った。

 拍子抜けするくらい、あっさりと結婚は認められた。

 私も彼も、口をあんぐりと開けて驚いた。

 

 

「別に俺は、他の男と結婚することを禁じてなんていないよ。他の子には俺から言っておこう」

 

 

 父は笑った。思わず私と彼は父に抱き着いてお礼を言った。

 父はとても上機嫌に、私達の結婚を祝福してくれた。

 式はどこでしようとか、何をお祝いに持っていこうだとか。

 見たことが無いくらい、父はそれを楽しんでいるように見えた。

 

 

 

★★★★★

 

 

 

 結婚式が終わって、私は父と一緒の部屋でゆっくりと話をすることにした。

 父はベッドの上で横になりながら、独り言のような私の言葉を聞いてくれた。

 

 

「父さん。結婚を認めてくれて、ありがとうございます」

 

「嬉しかったです。私達を道具として扱っていないことが分かって。愛を持ってくれてることが分かって。私達の幸せを願ってくれることが、理解できて」

 

「父さんが結婚式に遅れてきたのは残念だけど、仕方ありませんね。忙しかったんでしょ?お祝いの品、とっても嬉しかったよ。ベビー用品なんて、気が早すぎるなーって思ったけど!」

 

「彼、どうだった?そっか、優しそうで、賢そうで、イケメンなんだ。フフッ、いいでしょ?私が惚れちゃった男の子だもん!お父さんにも負けないくらいかっこいいよ!」

 

「それに、お父さんと違って私のことだけを愛してくれたしね!……あ、ほらそんな悲しそうな顔しないで?分かってるよ、お父さんはずっと、昔死んだ幼馴染さんが好きなんでしょ?フフッ、私と同じだね」

 

 

 

「泣かないで?分かってるよ、仇を討ってくれてありがとね」

 

「大丈夫だよ。悪いのはフォーリナーだもん」

 

「運が悪かっただけだよ。結婚式当日に襲撃なんて、誰も予想できるわけ無いもん」

 

「私は幸せだよ?ほんの一瞬でも、彼と夫婦になれたんだもん。幸せだ」

 

「それが、ほんの一瞬で奪われてしまっただけだよ」

 

 

 

「泣かないで。私はもう泣かないって決めたんだもん」

 

「あいつらを殺すまで、あいつらが絶滅するまで、私はお父さんの子を産むよ」

 

「あいつらを殺してくれる子供が産まれるまで、私は頑張るよ」

 

「姉さん達、こうなることが分かってたのかもね。フフッ、後で謝らないと」

 

 

 

「ふざけないでよ」

 

「なんで、なんであんなに、一瞬で」

 

「彼の人生はなんだったの?私の恋って無意味だったの?」

 

「あんなに簡単に人間は死んじゃうの?一緒に死ねなかった私は化け物なの?」

 

「ごめんなさい、ごめんなさい。けど、お願いです。お願いです」

 

「彼の死を無駄にしないでください。彼の仇を取ってください」

 

 

 

「あいつらを殺してください」

 

「あいつらを消してください」

 

「私みたいな子が産まれないように」

 

「私達みたいな子が必要のない世界になるように」

 

「お願いします、救世主様。お願いします、お父様」

 

「どうか、この願い(呪い)を、どうか」

 

「叶えてくださいませ」

 

 

 

 救世主に祈りを捧げよ。

 救世主に願いを捧げよ。

 この地獄を終わらせるために。

 この歪を終幕に導くために。

 

 

 願いを背負っていくのが、どれだけ苦痛だと理解していても。

 その呪いが、どれほどあなたを苦しませるのか、理解していても。

 私達には、そうすることしかできないのです。

 

 

 

 




【人物紹介】
『恋をした娘』
救世主の娘。初めて人間に恋をした個体。
比較的人間らしい感情を持ってしまった故に、ただの人間に心惹かれた。
しかし、式場をフォーリナーに爆撃され、愛すべき夫を失った。
人間が息絶えたその地獄で、彼女はただ一人、それを見た。
己達とは次元が違う、神のごときその力を。


『救世主』
始めて人間らしい恋をした娘が不幸になってマジ切れした親父。
今日くらいは父らしく、とタキシードを着て向かった式場はすでに焼け野原。
結果、数百年振りくらいに現場に出て数秒で襲撃者を殲滅してしまった。
願われるのはいつものことだが、今回は割と心が折れかけたらしい。


『フォーリナー』
空気読まずに襲来し、街の一区画を焼け野原にした飛行型フォーリナー達。
現時点での最高戦力は、ぶち切れたチート持ちによって数秒で打ち砕かれた。
本来ならば莫大な被害を与えられるような超戦力だったらしいが、式場一つと、そこにいた何の力も持たない人間達が死んだ程度で終わったのは、人間側にとってはとても喜ばしいことである。


『夫になるはずだった人』
本気でワルキューレを愛しちゃった人。死んだ。
結婚式前にやることはやったらしいので、そこだけが救い。
救世主から見てもかなり好印象な好青年だが、常人の命は紙より安い。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。