終末世界の救世主になりました!   作:雷神デス

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なんか「チーレム?」「チーレムとは一体」とかいう感想が多数あったのでヒロインそのニのお話入ります。


助けられた子

 

 

 

 

『ああ、私は死ぬんだろうな』

 

 

 虫みたいに潰された死骸の山を見ながら、そんなことを考える。

 別に未練は無かった。生きていても、きっといいことなんて何もない。

 痛いのは嫌だけど、この世界から逃げられるのなら別にいい。

 そんな言い訳を考えながら、ぼんやりと奴らを見上げる。

 

 

 ずっと他よりダメな人生だったのに、こんな時だけは平等だ。

 皆訳も分からず殺された。私も同じように殺される。

 いつも通り、自分より強い誰かに潰される。

 違うのは、それがこれで終わりになるっていうことだけだ。

 

 

「助けて」

 

 

 だから、やるならさっさとやるといい。

 足は恐怖でとっくに動かないし、私を助けてくれる人なんて誰もいない。

 あっさりと殺されて、それで誰の記憶にも残らず消えていく。

 友達も、好きな人も、私を見てくれる人なんて一人もいない。

 

 

「誰か、助けて」

 

 

 化け物の爪が、私の視界に近づいて。

 そして次の瞬間には、化け物の姿は無くなった。

 

 

「……え?」

 

 

 代わりにそこにいたのは、目元が髪で隠れてる男の人だった。

 多分高校生くらいだろうか。大人程は大きくないけど、私よりは大きい人だ。

 彼は怪物の体液で濡れた身体を気にもせず、ズンズンと先に進んでいく。

 

 

 たった一撃で、たった一瞬で。

 その人は、私の死神だった物を打ち砕いた。

 

 

「……ぁ」

 

 

 思わず、手を伸ばした。

 逃げ込んだビルで死にかけた私を救ってくれた、一人の男性。

 大量にいたはずのフォーリナーを拳一つで無残に殺した、私の恩人。

 彼は、静かに私の方を見た。

 

 

「あ」

 

 

 否。私のことなんて、見てもいなかった。

 彼は私を通り過ぎ、私の後ろにあった、千切れた腕を持ち上げた。

 大量にある人間の死体の一つ、それがつけていた腕時計。

 それを見て、彼は静かに涙を流していた。

 

 

 その人は私のことなんて見向きもしていない。

 あいつらを殺してるついでに助けられた、その程度の存在だ。

 居ても居なくても変わらないし、死んだとしても多分気にされない。

 彼にとって私はその程度の価値で、明確に赤の他人だ。

 

 それでも、私はその人に魅入られた。

 私には向かないその目に吸い寄せられた。

 ただ一人を除いて向けられぬ、凍えるほど平等な目に。

 

 

 

★★★★★

 

 

 

「おいおい、こんなこともできないのか?困るよ、君」

 

「……すいません」

 

 

 謎の侵略者達の来訪から、一週間が経った。

 元より人と比べて不出来な私は、自分に与えられた仕事を碌にこなせない。

 力も無いし、足も遅いし、頭は悪いし、手先は不器用。

 拾われた命だと言うのに、私は生存者の中で一際役立たずだった。

 

 

「他の子供達はできているのに、なんで君だけできないんだ」

 

「すいません」

 

 

 クスクス、クスクスと笑う私と同じくらいの子供達。

 こういう状況では、皆心の拠り所が欲しいものだ。

 自分がさらし者にされていることは、とっくに気が付いている。

 他の子供達の優越感を煽ることで、士気を上げるために行われていることだ。

 でなければ、わざわざ他の子供達が見ている中でこんなことは言わないだろう。

 

 もしくは、叱っている本人の憂さ晴らしのためだろうか?

 まあ、どちらにせよ構いはしない。

 彼等に拠り所があるように、私にも生きていくための拠り所はできている。

 ほら、足音が聞こえてくる。彼が帰ってきた。

 

 

「謝っても、反省しなきゃ意味が無いよ。君はもう少し──」

 

「しっつれいしまーす!」

 

 

 ドスン、と大きな音が鳴り、食料が一杯に入ったダンボールの山が部屋前に置かれる。

 いつものように、大人の数十、いや数百倍の資源を集め戻ってきたようだ。

 私を叱っていた大人は茫然とそれを眺め、子供達もポカンと口を開けている。

 

 普段はこの部屋に入らないあの人だけど、今日はたしかあの人の幼馴染が手伝いに来ていたのだったっけ。多分、それで会いに来たのだろう。

 流石に段ボールを十個同時に持ってくるのは少しあれすぎる気もするが。

 見た感じかなり重そうに見えるのだが、まあ今更な話だ。

 

 

「ん、お取込み中だったか。すいません、いきなり」

 

「あ、いや……」

 

「なに子供を怖がらせてるの!」

 

 

 パシン、と背中を叩かれるあの人。

 結構いい音が鳴ったのに、全然痛そうじゃない。

 あの人にそんなことができるのは、ただ一人だけだ。

 

 

「待ってくれ、釈明されてくれ。お前がこの部屋にいるって聞いて、そういやこのお菓子好きだったなーって思い出したから届けにな?」

 

「怖がらせちゃアウトよ!ごめんね、◆◆ちゃん。慌ただしくて」

 

「いえ。大丈夫です、●●さん」

 

 

 彼は私になんて目も向けない。

 彼からすれば、私はついでに助けた程度の赤の他人でしかない。

 助けられて以降は碌に話をしていないし、一方的に想っているだけだ。

 それでも、彼が私のいる場所に来てくれたのはうれしかった。

 

 

「ていうか何を……うわっ!?これどこから拾ってきたの!?」

 

「あー、ほら。駅前の大型ショッピングモール。あそこ手つかずだったからさ」

 

「……あそこ、前に捜索隊の人達が諦めたって聞いたけど」

 

「ああ、なんか一杯怪物がいたから断念したんだっけ」

 

「一人で行った?」

 

「おう!」

 

「この馬鹿!」

 

 

 たしか、あのショッピングモールには百以上の怪物達がいたと聞いたが。

 それも、人間より大きく、中には熊ほどのサイズの個体もいる、と聞いた。

 例え軍隊があったとしても、あそこから資源を持ち帰るなど不可能だ。

 

 

「安心しろって、今はもういないから」

 

「え、ほんと?なんだ、どっか行っちゃったんだ」

 

「全部殺した!」

 

「馬鹿!!」

 

 

 荒れ果てた世界の中で、彼だけは死とは無縁の存在だった。

 彼の活躍に比べれば、その他大勢の大人の功績なんてあまりにも些細だ。

 彼からすれば、自分と彼女以外はいてもいなくてもいい存在なのだ。

 

 だって彼の強さがあれば、群れる必要なんて無く、どこにだって行けるのだ。

 国を壊滅させた怪物達でさえ、彼にとっては蟻んこ同然なのだ。

 私をゴミだと、出来損ないだと言った人達でさえ、彼にとっては石ころなのだ。

 

 

 ああ、比べるのも馬鹿らしいほど、彼は強大だ。

 他の人達は彼を化け物のように扱うが、すぐにそれは間違いだと気づくであろう。

 そんな枠にすら収まらない何かを、彼は己の肉体に宿している。

 

 

「……いいなぁ」

 

 

 彼の前ではみな平等だ。彼の前では等しく有象無象のその他大勢でしかない。

 虫に序列があったとして、人間の前では等しく潰されるものであるように。

 人間に優劣があったとしても、彼からすれば等しく役立たずにすぎない。

 

 

「……いいなぁ」

 

 

 その中で、ただ一人だけ彼と対等に立つ人がいる。

 それに羨ましさを感じないわけではないが、しょうがないと諦めるしかない。

 例えこの気持ちが恋だとしても、そもそも同じ土俵にすら立ててはいない。

 だから、さっさと諦めるべきなのだろう。

 

 

「いいなぁ……」

 

 

 だって、どう考えても彼の運命の人はあの人で。

 私の運命の人は、彼ではないのだから。

 

 

 

 

★★★★★

 

 

 

 

「お、久しぶり」

 

「……え?」

 

 

 月が綺麗な夜だった。初めて彼から話しかけられた。

 眠れずに水を取りに行こうとして、ばったりと出くわして。

 幸せをかみしめつつ、一礼して通り過ぎようとした時のことだ。

 思わず声が出てしまい、あらぬ誤解を与えてしまう。

 

 

「覚えてない?いや、三か月くらい前の話だししょうがないか」

 

「いえ。覚えてます。覚えています。……ただ、初めて話しかけられたから」

 

「ありゃ、そうだっけか。まあ、ちょっと君と話がしたくて。時間いいかな?」

 

「……大丈夫です」

 

 

 夢のようだった。初めて彼とちゃんとした会話ができる。

 食料保管庫から少量のお菓子とジュースを貰って、ビルの屋上に向かう。

 

 

「寒くないか?なんなら毛布とかあるぞ。一枚だけだから寒いかもだが」

 

「だいじょ……。……やっぱり少しだけ寒いので、欲しいかもです」

 

「やっぱ寒いよな~。あいつ連れてきた時も寒い寒いって怒ってたし」

 

 

 渡してくれた毛布で体を包み、ビルの屋上から街を見下ろす。

 月の明かりで照らされた、異形の怪物達が蔓延る街。

 以前ならば吐き気を催したかもしれないが、今は美しいとすら感じていた。

 

 

「その。ありがとな。あいつを助けてくれて」

 

「……?ああ、あのことですか」

 

 

 そういえば、と包帯を巻かれた己の右腕の存在を思い出す。

 今日、襲撃してきたフォーリナーから幼馴染さんを庇ってついた傷だ。

 幸いにも彼女には怪我はなく、私の腕に穴が開いた程度で済んだ。

 跡は残るかもしれないが、命に別状はない。

 

 

「お礼を言うのは私の方だと思いますよ。あなたがいなければ、私は死んでました。二回も助けられちゃいました」

 

「俺は誰にも負けないからな。負けるわけない、傷つくわけないって分かって戦ってる。君みたいに、自分が傷ついても他人を助けるなんて度胸はないからさ」

 

 

 誰かを助けることに、価値の違いなんてあるのだろうか。

 あるのだろうな。私自身、彼女を助けたことにさほど価値は感じてない。

 逆に、彼は私が彼女を助けたことに大きな価値を感じているようだ。

 

 

「だから、礼がしたくてさ。何か欲しいものあるなら、今すぐにでも取ってくるぜ!なんでも言ってくれ。俺は無敵だしな!」

 

「……欲しいもの、ですか?」

 

 

 多分、彼は私が年相応の玩具やお菓子なんかを欲しがっていると思ってる。

 けれど、私は生まれて七年間の間、ずっと友達もいなかったし、玩具やゲーム、漫画に触れる機会もさほど無く、ついでに言えば味に関してもさほど頓着は無かった。

 だから必然、欲しいものと言われても選べるものは限られている。

 

 

「……」

 

 

 ふと、『あなた』と答えればどうしてくれるのだろう、なんてことを考える。

 冗談と捉えて笑って受け流すか、惑いは真面目に断ってくれるのか。

 もしくは、絶対にありえないとは思うが、本当に己自身をくれるのか。

 

 

「名前」

 

「ん?」

 

 

 当然、そんなことを言えるわけも無く。

 妥協したような言葉を、スラスラと口に出す。

 

 

「私のこと、名前で呼んでほしいです」

 

「そんなことでいいのか?」

 

「私、あなたから名前で呼んでもらったこと無いです」

 

「そういや、そうだったか」

 

 

 頬を掻き、少し気恥しそうに私の名前を口にする。

 たったそれだけのことなのに、なんだかそれが酷く嬉しかった。

 

 

「◆◆ちゃん……で合ってるよな?」

 

「はい。◆◆で合ってますよ」

 

 

 それから、彼との時間が少しずつ増えていった。

 生まれて初めて、自分の名前に感謝した。

 

 後から聞いたことだが、彼は名前を覚えたものに情が湧きやすいらしい。

 昔野良犬に名前を付けたせいで、その犬が死んだ時は三日も寝込んだとか。

 私が死んだ時も、それくらい悲しんでくれれば少し嬉しい。

 

 

 

★★★★★

 

 

 

「忙しそうですね、英雄さん」

 

「その呼び方やめてくれって◆◆ちゃん……流石にこっぱずかしいんだよ、それ」

 

 

 あれから三年が経って、ほんの少しだけ大人になった。

 彼は東京にいたフォーリナーを全て蹴散らし、そこから他の奴らの見る目が変わった。

 今までは恐れていたのに、今となっては彼を英雄と呼び、讃えるようになった。

 

 

「●●さんともあんまり会えてないのでは?」

 

「まあな。あいつもあいつで、忙しいし」

 

「看護師学校に行ってるんでしたっけ?医療の心得がある人は、やっぱり重宝されますね。私みたいな体も弱くて頭も悪い子は、暇な時間が多くてとっても気が楽です」

 

「どの口が頭悪いだなんだの言ってるんだか……」

 

 

 最近はもう、陰口をあんまり気にしなくなってきた。

 彼と一緒にいられる時間が幸せ過ぎて、それ以外が耳に入ってこない。

 以前は枯れ枝のようだった体も、少しは肥えてきている。

 幼馴染さんから何度か髪を切ってもらったりしたおかげで、身だしなみも前よりはマシだ。

 

 皮肉なことに、平和だったあの頃より、今の私は充実していた。

 生きていたらいいこともあるものだ。

 

 

「……まあ、明日からもう少し忙しくなってくるけどな」

 

「何かあったんですか?」

 

「米国から通信が届いたんだよ。『フォーリナーについての情報がある、救助を求む』って。だから俺と何人かの人で飛行機に乗って、そいつらを救出しに行くんだ」

 

 

 米国と言えば、最初にフォーリナーが発生した国にして、今最も危険な国だ。

 そこに救助に向かうとなれば、たしかに彼以外に候補は居ないだろう。

 

 

「どれくらいかかりそうですか?」

 

「一か月はかかるだろうな」

 

「長いですね」

 

「助けに行くタイミングが、防衛設備できた今しかないからな。今のところは俺抜きでもなんとかなってるみたいだし。それに、救助を要請してる奴ら、前々からあいつらの情報を全世界に発信してくれてたところだしな。頑張ってたんだ、報われなきゃダメだろ」

 

「……そうですね」

 

 

 彼は、できうる限り自分が受けた恩を返そうとする。

 それは彼の美徳でもあるが、同時にそれが時々少し不安になる。

 彼の肉体は人智を超越しているが、精神はただの人間でしかない。

 いつか、どこかで、彼を追いつめる何かが起きた時。

 果たして彼は、立ち上がれるのだろうか?

 

 

「なんだ。もしかして、俺のこと心配してくれてるのか?」

 

「心配ですよ。当たり前でしょう」

 

「すげぇ真顔で言うなぁ。……まあ、たしかに危険だし。今度はほんとに死ぬかもしれないな」

 

 

 それに関しては全く心配してないのだが。

 

 

「だから、まあ。……そろそろ、覚悟決めようと思ってさ」

 

「覚悟?」

 

「俺、あいつに告白することにしたんだ」

 

 

 …………。

 

 

「おめでとうございます」

 

「いや早いって。まだOK出してくれるかも分からねぇからな?」

 

「大丈夫ですよ。間違いなく上手く行きます」

 

「……そうか?」

 

「そうですよ。自信持ってください」

 

 

 頑張った人は、報われなきゃダメなのだ。

 きっと彼が一番幸せな人生は、彼女と一緒にいることだ。

 それが彼にとって最も正しい選択で、それ以外の選択肢は存在しない。

 まさに運命の人というやつだ。素晴らしいじゃないか。

 

 

「幸せになってくださいね」

 

 

 彼女がそれで、私がそうじゃなかっただけだ。

 だから、それでこのお話はおしまいなのだ。

 

 

「◆◆ちゃんも、いつかいい人見つけて幸せになれよ!」

 

「善処します」

 

 

 彼女が死ぬ、ほんの少し前の話だ。

 

 

 

 

★★★★★

 

 

 

 

「出てきてください」

 

 

 閉め切られた扉の前で、私は声を上げる。

 

 

「あなたがいなければ、生存者達は生き残れません」

 

 

 自分達の勝手で、彼を振り回そうとする。

 

 

「あなたが戦ってくれないと、沢山の人が死んでしまいます」

 

 

 心が砕けた彼を、それでも働かせようと必死に縋る。

 

 

「どうか、お願いです」

 

「勘弁してくれよ」

 

 

 今まで聞いたことが無いくらい、低い声だった。

 地獄の底から響いてくるような、疲れた声だった。

 

 

「生存者が残っています」

 

「好きだった子が死んだ」

 

「あなたは生きています」

 

「結婚して、幸せになって、二人の墓参りに行きたかった」

 

「それはもう、叶いません」

 

「もう戦う意味が無いんだよ!!」

 

 

 凄まじい衝撃が響いて、尻もちをついた。

 あの時の比じゃないくらい怖かった、恐ろしかった。

 きっと彼はやろうと思えば、この地球だって壊せるのだろう。

 それをしなかったのは、大事な人達がいたからだ。

 

 

「もう、終わらせてくれ。疲れた。なんであいつが死ぬんだよ。ずっと頑張ってただろ。ずっと誰かのために走り回ってたろ。なのになんで、ふざけた終わり方になるんだよ」

 

「そんな終わり方をした奴なんて幾らでもいることなんて知ってるよ。そうさせないために俺がいたんだ。それすらできなかったのが、俺なんだ」

 

「両親も、友達も守れなくって。唯一守れたと思ってたものが、あいつなんだ」

 

「俺にはもう何もない。終わらせてくれ。早く、皆に会いたい」

 

 

 それを許してくれる人は、もういない。

 彼の幸福を願うのであれば、きっとここで死なせてあげることなのだろう。

 彼を本当に愛しているのであれば、彼の願いを聞き遂げてあげるべきだろう。

 

 

「もう私達を守ってくれはしないんですね」

 

「……」

 

「分かりました。今までありがとうございました」

 

「……?おい、何を──」

 

 

 持ってきた包丁を、己の足に突き刺した。

 流れる血液。一応急所は外しているが、ちょっと深く刺し過ぎたようだ。

 意識が朦朧とする中で、彼が扉を蹴飛ばし、私を抱き寄せる姿が見えた。

 

 

 

 

 白いベッドの上で目を覚ます。

 彼はやっぱり怒っていた。

 

 

「何をやってるんだよ」

 

「こうすれば、出てくれるかなって思いました」

 

「死んだら、どうするんだよ」

 

「あなたが出てくれなければ、どっちにしろ死んだ方がマシですので」

 

 

 彼の顔が歪んだ。

 もうとっくに、人類は詰んでいる。

 フォーリナーに対抗できる人類は、もう彼しかいない。

 なら、このまま生き延びたとしても、希望なんてありはしない。

 

 

「私を見捨てないでください」

 

 

 だから、私達は縋りつくしかないのだ。

 彼の慈悲を期待するしかないのだ。

 

 

「私を置いていかないでください」

 

 

 私の生きる糧は、最初から彼しかいない。

 私が生きている理由は、最初から彼にしかない。

 

 

「私と、最後まで一緒にいてください」

 

 

 だから、呪いをかけた。

 彼にしか効かない呪いを。

 新しい約束を。

 

 

「あなたのことを愛しています」

 

 

 私は、彼の運命の人ではない。

 

 

 

 

★★★★★

 

 

 

 

「子供を作りましょう」

 

「は?」

 

 

 唐突に、私は彼にそう提案した。

 

 

「……いや、なんでこんな時に」

 

「こんな時だからです。フォーリナーの撃退は、最早私達の世代で解決できる問題ではありません。あなたが死ねば、もう人類は終わりです」

 

 

 彼と数年一緒に居て分かったが、彼は割と単純だ。

 適当に理屈を付ければ、大体のことは承諾してくれる。

 

 

「なので、あなたの血を継ぐ子供を残しましょう。もしかすれば、その子供があなたの力を受け次いで生まれてくるかもしれません。もしそうなら、その子は人類を守るための兵力になります」

 

「……戦わせるための子供を産むのか」

 

「それしか手はありません。というわけでやりましょう」

 

 

 建前でもあるが、事実でもある。

 彼にもし寿命があるなら、それだけで人類は終わりだ。

 何より、彼の他にも戦力が無ければ、人類は停滞してしまう。

 ほんの僅かでも、彼の力を受け継ぐ人材が必要だった。

 

 

「◆◆は、今何歳だっけか」

 

「十七ですね」

 

「犯罪じゃん」

 

「こんな世界に今更法律なんてありませんよ」

 

「……それもそうか」

 

 

 結果から言うと、子供はたしかに彼の力を少しだけうけついでいた。

 そうなると当然ながら、他の生存者の女性にも彼の子を産ませることになる。

 すごく不満ではあるが、彼の初めては私が手に入れたし良しとしよう。

 

 

「逞しくなったね、君」

 

「そうじゃなきゃあなたと一緒に居られませんから」

 

 

 私は彼の秘書になり、街の中でなら一日中彼と一緒に居られるようになった。

 恋人や妻なんかでは決してないが、彼と一番親密なのは、多分私だ。

 その事実が、他の何よりも誇らしく、愛おしかった。

 

 

「「最低だなぁ」」

 

 

 私と彼の声が重なった。

 なんだかおかしくなって、笑ってしまった。

 そんな様子を見て、私と彼の娘もまた笑った。

 久しぶりに、心の底から笑った。

 

 

 きっとこの場所は、本当なら彼女がいるべき場所なのだろう。

 私がいていい場所では無く、歪に歪められた道の先で出来た光景だ。

 運命というレールから外れた、ぐちゃぐちゃになった末の場所だ。

 

 

 

 

★★★★★

 

 

 

「置いていくなよ」

 

 

 あれから、何年が経っただろうか?

 できる限り一緒にいたかったけど、もう限界のようだった。

 

 

「最後まで一緒に居るって、言ってただろ」

 

 

 死に際に、家族に囲まれている。

 こんな光景、過去の私が見たら目を疑いそうだ。

 想像もしてないくらい、幸せで、素敵な、夢のような。

 

 

「ごめんなさい。幸せでした」

 

 

 きっと彼は、この先もずっと戦い続けるのだろう。

 私が死んだ後も、娘達の子孫と共に、何百、何千年も。

 私はそれを、見届けることはできない。

 なんて自分勝手で、最悪な女だ。

 

 

「あなたに出会えて、私は、本当に──」

 

 

 娘や孫が泣いている。可愛らしい子供達。

 あの人も泣いている。泣き虫で、かっこいい人だ

 ああ、涙が出る程幸せだ。

 あの人が、何度も名前を呼んでくれている。

 

 

「ありがとう。神様」

 

 

 だから、この幸福に感謝を込めて。

 

 

「もう、私は十分幸せになれたから」

 

 

 せめて、彼のために祈りを込めて。

 

 

「次は、あの人に。とびっきりの、幸せを──」

 

 

 どうか、お願いします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「おい、さっさと起きろ!ちんたらするな!」

 

「……はい」

 

 

 幸せな夢を見た気がした。

 珍しく、鏡の前で笑顔を浮かべられた。

 

 

「酒を買ってこい!ノロマめ!」

 

「はい」

 

 

 それだけではあるけれど、なんだか今日は幸せだった。

 ボロボロのシャツを着て、痩せ枝のように細い体を引きずって、コンビニに向かう。

 その途中で、変な人達を見つけた。

 

 

「なんであんたが一番ビビってるのよまったく。ホラー耐性無いなら別の選べばよかったのに」

 

「予想以上に怖かったんだよ!殴って死なない系だとは思わなかった」

 

「テオスちゃんも呆れてどっか行っちゃったし」

 

「ただの迷子だろあいつは!ほら、探しに行こうぜ」

 

 

 綺麗な女の人と、なんだか妙にかっこよく見える男の人だ。

 口では喧嘩しながら、手を繋いで誰かを探しているように見える。

 幸せそうで、楽しそうで、なんだか眩しいものを見てる気分だ。

 

 

「……いいなぁ」

 

 

 けれど、何故かその人達には近づいてはならない気がして。

 別のコンビニに行くことにした。

 いつも通りの、最悪な日常の。

 ほんの少しだけ、楽しかった日のことだ。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見ーつけた」

 

「え」

 

 

 ガシッ、と誰かに身体を掴まれ天高く抱えられた。

 抱えた人を見てみると、天使か何かに見えるような、美人な女の子のようだった。

 

 

「うわ、ガリガリだ!よく生きてたなぁ、これ」

 

「あ、あの?」

 

「おーい、二人とも~!女の子拾ったよ~!」

 

 

 その人は、私を抱えたままあの二人の下まで走り寄っていく。

 何がなんだか分からないまま、私は三人の輪の中に入っていく。

 

 

「はぁ?なんだ拾ったって……うわ!?ちょ、大丈夫か!?飯食ってるかこれ!?」

 

「髪もボサボサじゃない!え、何かあったの?」

 

「え、あ、えっと……」

 

 

 訳も分からないのに、何故だか、とっても嬉しくなって。

 涙が出るほど、愛おしくなって。

 

 

「あ、ごめんいきなり大声出して!ていうかこれ誘拐じゃない?」

 

「マジじゃん。おいテオス、お前何やってんだ!?」

 

「いいじゃん。ほら、飯食べに行こー。この子も一緒に」

 

 

 差し出された手を、少し躊躇しながらも、手に取った。

 テオスと呼ばれた、私と同じ髪色の彼女は、嬉しそうに笑って。

 

 

「頑張った人は、報われなきゃダメだからね!」

 

 

 この日から、私の人生は輝いた。

 

 




【人物紹介】
『助けられた子』
負けヒロイン。なんか幸せになったよ。
ずっと自分が愛されてないと思ってたけど割と愛されて死んだ。
若干ヤンデレてるけど自制できてるので大分マシかもしれないね。
本人は満足してたが、誰かさんにとってはまだまだ幸せになってほしいらしい。
ハーレムメンバーその一。

『助けてくれた人』
一応主人公。メンタルは割と弱よ。
幼馴染が死んでやられてた時に、助けられた子に引っ張り上げられた。
恋心はずっと幼馴染のものだが、それとは別に彼女に愛おしさは感じていたよ。

『彼の幼馴染』
勝ちヒロイン。死んだよ。
助けられた子ととっても仲が良かったよ。
正妻ポジのはずだけど、死んだので子供は居ないよ。
可哀想にね。


『ガリガリの子』
楽しい夢を見れた少女。今は現実でも楽しいらしい。
おせっかいな誰かによって、一目惚れしたらしい人のハーレムメンバーになったよ。
ハーレムメンバーになったのが幸せかは知らないけど、本人は幸せらしい。


『妙にかっこいい男の人』
主観。実際にはそこそこ程度らしい。
本人は気づいてないけど、特定の人から一目惚れされる謎のチート持ってるよ。
不思議だね。幼馴染が大好きだよ。


『綺麗な女の人』
主観でなくとも綺麗。実際かなり美人だよ。
何故か妙にかっこいい男の人に惚れてるみたいだよ、不思議だね。
周りからは「釣り合わないだろ」とか言われてるけど、本人は絶対放さないつもり。
妹みたいな子もできて、とても幸せな日々を送ってるよ。


『テオス』
一人だけ名前があるよ。女神かと思うほど美人だよ。
何故かガリガリの子に滅茶苦茶懐いてるし、世話を焼いてくれるよ。
初見だと気づかないけど、ガリガリの女の子と同じ髪色をしているらしい。
綺麗な青色で、まるで星空のような感じだよ(語彙力の限界)。
いつかぶん殴りたい奴がいるらしい。



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