イケボで読ます、絶対読ます。
きっと温かな誓い
「楡の木、ガーネットグラス、陽の花、と。
この花をすり潰して、膠とまぜてくれ」
「はいはい、人使いが荒いんだからもう」
「猫だろうお前」
「猫魔神だってば。
それにしてもこんなもの、一体何に使うのさ」
「婚姻の誓いの為の、所謂嫁入り道具だ。
その花は彩色に使う。陽の花は発色がよく、長持ちするから、長く色褪せない、と言う点で縁起物なんだよ」
「ふーん。 その石は?」
「たしか、石言葉が揺らいで縁起が良かったんじゃないかと思ったが……
私も詳しくは知らないよ」
「ふーん」
鼻をひくつかせて匂いを嗅ぐ。
その花は、春風の匂いがした。
「さて、木を削らないとな」
「……これも、魔術師の仕事なのかなぁ?」
「まじない程度の、家内安全とかの魔法はかけるが、大抵は街の大工が作るか、自分達で拵えるものだな。
魔術師が作る事は稀だろう」
「ええー、いいのそんなの……」
「構わんよ、そもそも、既に隠居した俺でも食わねばならんのだから、仕事は選べん」
「僕がきた時にはもう隠居してたからなぁ、昔はどんなだったの?」
「どんな、と言われてもな、旅をしてまわって……修行の日々だった。
そもそもな、俺たちのいう隠居ってのは、修行期間を終えて、居を構え、ひたすら研究に明け暮れると言う意味だ。
魔術師である事をやめるわけじゃない」
「あー、魔術師とは生き方だ!って言ってたっけ?
生き方は急にやめたりするものじゃないね」
「そういう事だ」
暫く、ごりごりと花をすり潰したり、ザクザクと気を削る音が響く。
黙々と作業を続ける二人は、同じタイミングで深く息をついた。
「ふう、なんとか形になったな、絵の具は出来たか?」
「僕にしてはバッチリ。
みてよこのなめらかさ」
「おお……!頑張ったな」
「ふふん。ま、おめでたいものなんでしょ?
なら、見てくれが悪くちゃダメだよね」
「だな、俺も彩色作業、頑張らないとな」
「……会ったこともないのに、よく頑張れるよね」
「依頼人はどうでもいいが、道具は最高のものを提供したいじゃないか」
「素直じゃないなぁ」
この魔術師は、かなりのお人好しである。
そう確信している使い魔にとって、彼の言葉は照れ隠しにしか聞こえない。
なんていったって、自分を使い魔としてそばに置くくらいだ、これがお人好しでなくてなんだろう。
「……どうだ?」
「ムラなし、塗り忘れ無し、模様も綺麗、バッチリじゃない?」
「よし、加工した石を取り付けて……完成だ」
白い地肌に薄紅色の化粧、光に翳すと、星屑を散らしたようにキラキラ光る。
両目に施された赤い石は柔らかく光を返す。
飾る為、贈るための面だが、それだけではもったいないような気がした。
「綺麗なお面だなぁ」
「太陽の面と言う、夫は対となる太陰の面を持ち、互いに交換する事で息災を願う」
「変なの」
「ああ、もっとも、今は儀式の形が昔とは違うかもしれないが」
「外に出てみたいとは思わないの?」
「見るべきものは既に見たからな。
次に俺が旅立つのは、研究をし尽くしたか、死んだ時だな」
「ちょっと、縁起でもない」
「確かに、おめでたいものを作っている時に話す事ではなかったな。
さて、魔法を付与してやろう。
"seal a reject vill"」
「どういう意味なの?」
「魔を退ける、だな。
使い魔は大丈夫だ、この場合の魔は……
説明が難しいな、魔が差した、とかの魔だ」
「うーん、わかるような、微妙なような」
「家庭内の不和と言うのは、大抵ちょっとした魔から始まるものだ。
これくらいなら別にいーや、とか、ちょっとだけだから、とかな」
「ふーん、そんなものかなぁ」
「そんなものだ。
だから、それを防いでおくと、割と長持ちする」
「花瓶に銅貨入れると花が長持ちするみたいな」
「似たようなものだ」
「……自分で言っといてなんだけど、絶対違う気がする」
この魔術師に人間の機微はわかりそうもない。
使い魔は深くため息をついた。
・・・
「花嫁さん、綺麗だったよ。
白くてふわふわで、綿菓子みたいだった」
「そうか」
「お相手さんのお面も銀色で綺麗だった」
「そうか、よかったな」
「でもさ、結婚ってなんでするの?
交尾する相手を決めるのってそんなに重要?」
「人間には、血を尊ぶ概念があるというのもあるし、嫉妬深い生き物だから、という事も言えるだろう。
しかし恐らく……種が増えすぎないように、だと思われるな」
「んん?どゆこと?」
「人間は繁殖力が強い。
出生した子供が生き残る率が高いからな。
だから増えすぎると、世界を埋め尽くしてしまうようになる」
「それでどうして番う相手を一人に決めるの?」
「人間は妊娠したら、出産までほぼ一年、他に手を出さなければ、大抵一年で一人か二人ですむ」
「なるほど。確かに二人目三人目ってしたらその分も増えちゃうね。
あ、じゃあ事あるごとに戦争とかしたがるのももしかして個体調整?」
「いやそれは……
色々な思惑も合わさっている事だから、そうとも言えん」
「ふーん。繁殖するのも大変なんだなぁ」
「……そうだな」
魔術師は遠い目をして頷いた。
この使い魔に人間の機微はわかりそうもない。
「ま、幸せそうだったからいいか。
いつまで続くかわからないけど」
「そうだな」
魔術師は微笑んで、紅茶を一口飲み込んだ。
Noraノベルとの変更点 : 改行した。