それは永遠に灯す光
「さて、今日の仕事はあと……これだけだな。ナナカマドとリッケル、それと燃焼水と封じの石」
「はいはい、火事には気をつけてよね」
「わかっている」
「ナナカマドの枝をリッケルに浸す、これは後で使うとして、封じの石を砕いて燃焼水と混ぜるぞ」
「その石、そう使うのかーって感じだよね。石に封じるんじゃなくて、混ぜたものを封じやすくするってのがややこしいんだ。名前変えちゃえばいいのに」
「ふむ、大昔にはその使い方もしていたが、後になって混ぜた方が効果が高いとわかってな、今では石自体に封じるレシピは数少ない」
「へぇ、あるにはあるんだ」
「効果を抑えた方がいいものだな。鉱山や漁業で使用する爆弾とか……今は法が変わり、爆弾は使用されなくなったが」
「危険だもんね」
「いや、とある男が鉱山関係者を名乗り爆弾を大量に仕入れ、王都の民を無差別に攻撃した事件があってな、規制された」
「うわぁ」
「国が変わっても尚残ったほどの法律という事は、その事件を伝え続ける誰かがいたか、或いは変える必要性がなかったか」
「爆弾職人は商売あがったりだね」
「ああ、花火職人になるしかないな」
「混ざったな、ナナカマドは……まだか。様子を見て、銀色になったら教えてくれ」
「はいはい。……リッケルってのもへんな液体だよね。触れた有機物を金属に変えるなんて」
「黄金歴1863年にアール・ファミリアが、"リッケルの変成作用について"という本を出している。有機物別の変成後の金属一覧表もあって非常に有用だ、一読しておけ」
「うげっ、小難しそうな本……」
「金やプラチナには変わらんのだよな。まぁ、用途もそれほど無い金属だからいいが」
「いやいやいや、カネになるでしょ」
「たまに結婚指輪を作る際に使用するが、端金で買えるだろう」
「アンタって金銭感覚狂ってるよな。こないだも城が立つくらいの金を本とか薬品に変えてたし……その金でこのオンボロ小屋が何軒立つんだ?」
「知識ほど価値のあるものはないだろう。まぁ、この家がオンボロなのは認めるが。確かに他の魔術師は、塔を建てたり城を建てたりもする」
「じゃウチも建てようぜ?」
「しかしな、良く考えてみろ。そんな家、住みにくいだろう?」
「……ええー」
「塔なんて、階段の登り降りで時間を費やす割に、部屋数も少ないし、収納もない。城は迷うし、広すぎて手入れができん」
「このオンボロ小屋の手入れはしてんのかよ、最後に掃除したのいつだ? ん?」
「手を伸ばしたらモノに手が届く環境って、素晴らしいと思わないか?」
「届かなくて僕にモノ探させてんだろ」
そう、魔術師は、魔術は使えるけど家事は料理しか出来ない男だった。
選択は服に編み込んだ浄化魔法で済ませ、365日同じ服を着っぱなしにしている。
ありえないくらいのズボラであった。
魔術師は責めるような視線から、逃げるようにナナカマドの様子を覗き込んだ。
「……色が変わったな、次の工程に移ろう」
「銀に変成したナナカマドを、燃焼水と封じの石の混合液につける……そして、"comixe by hawtre in fdrire"」
呪文を唱えると……何がが起きたようには見えないが、徐々に液体が枝に染み込みはじめたはずだ。
もう少し待つ必要があるので、二人は再び雑談を始めた。
「アンタの呪文って短いよね」
「長ったらしく詠唱するのがいやで、圧縮したからな。通常の魔術師なら、この三倍は唱えるだろう。その方が安定するし、魔力を余計に消費しないから、俺みたいな事は本当なら効率が悪いんだが……」
「あ、俺は天才だからな、とかって言っちゃう感じ?」
「いや、気合いでどうにかしている」
「気合い……え、魔法って気合いでどうにかなるの」
「どうにかなっているな。ならない筈なんだが……数式の過程をすっ飛ばして答えを出しているようなものだから、良い子は真似をしてはいけない」
「できねーよ。……ちなみに、今のは正規だとどう唱えるんだ?」
「ああ、たしか、/*defini d use comixe bai femt oy hawtre inxed join key fdrire defini exec over */だったかな? 長いな……」
「これが普通なんだけどねぇ」
「……っと、そろそろ定着したかな? うん、完成だ」
「これが、聖火の枝?」
「ああ、たいそうな名前だが、ただの焚き木だ。暖炉にくべると七つ月を燃え続ける」
「半年も燃えたら暑いだろうな、後半」
「家庭で使う事はまずない。町にある魔除けの灯台に火を灯したりする時に使うんだ。火が絶えたら困る場所だな」
「なるほどね……銀にする意味は?」
「前に言わなかったか? 封じの石で定着させるものは、金属である方が望ましいと。リッケルで変成した物質は前の物質の性質を受け継ぐから、火をつければ燃える木材の性質と、長く燃えるナナカマドの性質を残したまま銀になるからな、なんの問題もない」
「そんな長い呪文聞いたかなぁ? まぁいいや、依頼主に届けてくる」
「気をつけてな」
・・・
「なんか、聖火として使うみたいだったよ」
「……は?」
「今度代々的に武道大会をやるんだって。そのセレモニーで、尽きない聖なる炎として、象徴にしたいんだってさ」
「……流行り廃りは巡るものだからな」
「えっ何それ、前にも似たような事があったの?」
「さぁな」
「あっ、ちょっと教えろよー!」
リッケルってなんだろう?
そんな名前の物資が実在しそうではありますが眠いんで寝ます。
おやすみなさい。