歩む軌跡を照らすもの
「面倒くさい」
「こら仕事を放り投げない。
……いつも似たようなもんじゃないか」
「ヤスリでただひたすら石を削るんだぞ?
こんな魔術的でもない作業、嫌になるだろう」
「じゃあ魔術でやりゃあいーじゃん」
「……出来ん事もないが、ポリシーに反する。そうだ、休憩しよう」
「ほんの十分前にも休憩したじゃないか」
「十分もヤスリを動かしていたら充分だろう。
休憩だ休憩、とにかく糖分と水分と小粋な話題が欲しい」
「なんてワガママな奴なんだ……」
「そうだ、その石ってただの水晶に見えるけど、何か効果とかあるの?」
石は無色透明、ひんやりとした綺麗な石だ。
今は削られて白く濁った箇所もあるが、研磨を続ければ透明に戻るだろう。
「ない。ただの水晶だ、べつにガラスでもいい」
「……えっ? じゃあ、僕が編んでるこの紐は?」
指差したのは七色の細い紐を編んでいるものだ。
カラフルだが、特殊なものではない。
「紐だ」
「えっ」
「紐だ」
「……えっ?
あっ、最後にかける魔法が特別だったり?」
魔術師は首を振った。
「いや、かけない」
「じゃあコレ何⁉︎」
「うーん、なんと言えばいいか、太古からある、効果が実証された、今は代わりがない事もないがコストがかかるので結局続いている、おまじないみたいなものかな」
「おまじない、って、民間魔術の事?
効果は微妙だけど誰でも使えるあの?」
「それだ。これも効果は微妙なんだが、他があまりにもコストがかかる為、現場でも使われる事が多いおまじないなんだ」
「コストって、減らせないものなのかな」
「古代の技術があれば減らせるが、オススメはしない。
魔術のコストは減らせないな、正方のペンタグラフという道具になるんだが、作成にA級の魔物の呪骨が必要な上、使い切りなんだ」
「ヒェッ、おいくら万円するんだ……」
「これだと、コストは石と紐だけ、しかも何度でも使える。精度がイマイチでも需要が絶えないんだ」
「ふぇー、ただの石と紐なのに……
古代の技術をオススメしないのはなんで?」
「正確に測定できるが、今の人類にそれを理解する頭がないからだ。宝の持ち腐れだろう」
「あー、成る程ね。アンタは使えるの?」
「専門外だ」
「アンタでも出来ない事あるんだ……いやあるか、掃除とか」
「さ、作業を再開しようか」
魔術師は、都合が悪くなると背中を向ける癖がある。
・・・
「ふぅ……終わった、か」
「あー、肩バキバキ、腰メキメキ、目が霞むわー」
「ジジイだな」
「せめてババアにしてくれ、っつーか年齢はお互い様な」
「俺が死ぬのが先か、世界が終わるのが先か」
「どんだけ長生きするつもりだコイツ」
魔術師はんー、と指を折り数える。
指で数えられるものなのか?
「ざっと計算したらあと45億は生きそうなんだよな、どうしよう、調子に乗って薬飲みすぎた」
「そんな、調子に乗った若者がウェーイする勢いで飲む物じゃないでしょ」
「俺も昔は若かったんだよ、勘弁してくれ」
「……っていうか、不老不死の薬なんて、ウェーイできるほど作れるもんなの?」
「一回飲んだら美味くて、二、三回大量に作ったんだ。
悪酔いしないし、ありゃあダメだ、堕落する」
使い魔は頭を抱えた。
神の酒とも称される、希少素材をふんだんに使ったソレを、美味いからの理由で量産……
この男、世界に喧嘩を売っている。
「……小屋の裏手にある醸造所の名残それか」
「ああ、今でも一滴くらいはあるかもな、いるか?」
「いらねー」
全力で首を振った。
「っつーか、これ本当に効果あるの?」
完成し、紐の先に石がぶら下がったそれを、ふりふりしながら問う。
……耳がピクピクするのは本能だろうか。
「あるぞ、ダウジングと言ってな、石の錘がついた紐を軽く持って、地図の上をこう、動かしたり、実際に歩いてみたりして水脈や鉱山、失せ物失せ人を探すんだ」
「へぇー胡散臭い」
「人間の無意識をひっぱり出しているとか、微弱な魔力を増幅させるとか、色々説はあるが……下手に暴いて効果が無くなっても困る、そっとしておけ」
「ふーん。でもなんで魔術をかけないの?
効果を高めたり出来ないのかな」
「何故か確率が下がるんだよな。
魔術をかけた事を教える教えないに関わらず、ガクッと下がる。
だから、何もしないのが一番だ」
「ふーん、変なの」
使い魔はつまらなそうに机にペンデュラムを置いた。
・・・
「ねぇ、あのペンデュラム、干魃がひどい地域で水脈当てたってさ、よかったね」
「ダウジングは道具より、使う人間のセンスが問われる。
使い手が良かったんだろう」
「たまには素直に喜べばいいのに」
「俺が喜ぶような事ではない」
「はいはい」
筆は進んでるのに動画編集は進んでないのなんでなんだぜ?