まとうみかわしのベール
彼の自己紹介を聞く事十分、なかなか本題を言わない彼に、俺は痺れを切らした。
「それで、結局君は何を求めてここへ来たんだ?」
「竜の息吹を回避できる様なものが欲しい!」
身を乗り出して意気込む彼に、思わずため息がこぼれた。
今回の勇者は、少々クセが強いらしい。
「戦わなければいいだろう、迂回路を通ればいい」
「いや、でも原作ではここを通っていたし、竜を倒さないとフラグが立たないから……」
「ハァ……金貨1000枚」
「は?」
「だから、金貨1000枚で引き受けると言っている」
「なっ、ここはセルニアの朝露じゃないのかよ⁉︎
どーなってんだ?」
「知らん。モノが欲しいなら対価を支払うのは当然の事だろう?
払うか払わないか、さっさと決めてくれ、俺は忙しいんだ」
「くっそー、バグってやがるぜこのNPC……
わーったよ! 用意してくるから待ってろ!」
「ハァ……」
・・・
「勇者?」
「なんでも、南の国の村で生まれたんだって、勇者の紋章もちの子。
もう旅だって、色々活躍してるみたいだよ」
「色々活躍……なぁ」
「ひょっとしたら、ウチにも来るかもね」
「とりあえずツボ隠しとけ、大事な薬草や薬が入っているんだ、割られちゃ敵わん」
「ああ、フェイス草とかセルニアの朝露とか、それぞれ一つで国が買えるくらいだもんねぇ。
アンタなら、割られたら弁償しろって雪山に放り投げそう。
どこに置く?」
「醸造所……いや、やっぱり俺が運ぼう。
昔の家に置いてくる」
「ああ、はい。行ってらっしゃい」
・・・
「勇者、か……」
「おらっ、持ってきたぞ金貨1000枚!」
カウンターの上に荒々しく置かれた革袋をチラと見て、眼だけで鑑定する。
丁度だ。
「思ったより早かったな」
「おう、魔物のドロップとか売ったらスグだぜ。
で、モノは作ってくれるのか?」
「……みかわしのベールだ、相手の攻撃を弾いたりかわしたりするが、布自体は薄いから防御力自体は無い」
「おおっ、それそれ! サンキューな!」
黒髪の勇者は礼を言うやいなや、ベールを引ったくるように持って行ってしまった。
まぁいいか、私は彼自体には、何も期待していないし。
大事なのは紋章だけだ。
・・・
「なぜ勇者が生まれるのか、考えた事はあるか?」
「全然、そーいうもんだと思ってた」
「実はな、勇者システムを作ったのは俺なんだ」
「……は?」
「昔、8000年ぐらい前かな?
魔王が多発的に発生した時期があってな、それらを討伐する為に作られた人工生命体が元になっている」
「えっと、魔王ってのは、魔物が過剰に魔力を取り込んで、デカくなった個体でいいんだよな?」
「人間や獣人、エルフ等の種族でも起こりうるぞ。
かく言う、俺も片足突っ込んでいる」
「うわー……成る程、化け物に化け物をぶつけたって事かぁ」
「平たく言えばな」
正直、その計画自体はあまり好きにはなれなかった。
あの当時は仕方がなかったとは言え。
「で、なんでそれが勇者に?」
「魔王の発生が落ち着いてきて、その人工生命体の処理に困ったんだ。
そこで白羽の矢が立ったのが俺だったわけだな。
俺はとりあえず彼らを殺し合わせて……」
「えっぐい」
「最後の一人に技やスキルを継承させた。
その一人を紋章に変えて、今後魔王発生の兆しが現れた場合に、人間の中から選んで発現させる事にした」
「うーん? 回りくどくない?
全部壊して、また人工生命体を使うんじゃダメなの?」
「不評だったんだ、民間人に。
見た目が悪いとか、家まで壊すとか、畑を荒らすとか。
人間なら人間らしく戦えるだろ」
「やっぱエグいよ。
って言うか、選ぶ基準って何?
なんか、毎回こいつどうなん? って奴が勇者だけど」
「死んでも困らない人間」
「うっわぁ……」
非常に合理的だと思ったシステムだったが、やはり完璧ではないようで、機会があればアップデートを兼ねたメンテナンスをしようかと思った。
それにしても、勇者に俗に言う転生者が多いのは何故だろう?
紋章の記憶を継承していて、それを前世と思い込んでいる……とかだろうか?
まぁ、今のところ大きな不具合はないし、転生者は倫理観が高いから、殺人は犯さないしとても都合がいい。今はこのままにしておこう。
チンピラ勇者くん割と嫌いじゃないわ。
歴代勇者の中では一番まとも。