Lycoris x Recoil x Rogue   作:ハンターキラー(偽)

3 / 5
3 出会い2

 

 

 

「は……? ウォールナットが死んだ……?」

 

 

 PCモニター以外の光源が一切皆無の部屋で、一人の男がそう呟いた。

 

 日本一のハッカー、ウォールナット死す。

 

 ダークネット……いわゆるインターネットの裏社会で、唐突に流れ出した情報だ。

 発信源は複数存在し、信憑性の高そうなものから便所の落書きレベルまで、様々な形で吹聴されている。

 普段なら一笑に付す話だが……。

 

 

「ふ……ふふふ……ふふっふっふふふふっ……」

 

 

 男は大きく肩を揺らしつつ、不規則に吐息を漏らす。

 そして。

 

 

「ふっざけるなぁああああ!!」

 

 

 椅子を跳ね倒し、絶叫した。

 声からして憤怒に満ちた表情を浮かべていそうだが、その顔は、玩具のロボットのような被り物で隠されている。

 

 

「このボクが! ロボ太様が直々に引導を渡してやろうと、計画を練り上げた矢先に死んだだとぉ!? ふざけるのも大概にしろこんのロートルがぁああっ!!」

 

 

 三徹の勢いに任せ、男は……ロボ太は叫び続ける。

 非常に高いハッキング技術と、自尊心と嫉妬心を併せ持ってしまったロボ太は、依然から天才ハッカー(ウィザード)として名高いウォールナットを敵視し、執着していた。

 それが勢い余って殺害計画を立てるまでになったのは、ひとえに当人の歪んだ幼稚さ故だろうが、指摘できる人間は誰も居ない。

 

 

「ふぅ……ふぅ……。い、いいや……裏の人間が死を偽装するなんてよくある……きっとそうだ……そうに違いない……!」

 

 

 体力が底をついた所で、ようやくロボ太も冷静さを取り戻す。

 ああいった情報が信憑性を得るのは、ある程度の時間が経過してから。

 それまではシュレディンガーの猫、半分死んで半分生きてるようなもの。

 何より、ロボ太は自分が確かめた情報しか信じない。

 さっき信じかけていたのは、きっと疲れていたからだろう。

 

 

「誰が手引きした……? 誰が始末しようとした……? 全部暴き出してやるぞぉ……!

 そしてロボ太様こそが日本一、いやいや世界一のハッカーだと証明するのだぁ!! ぬぁあーっはっはっはっは!!!!!!」

 

 

 椅子に座り直し、猛烈な勢いでタイピングしつつ、追加のエナジードリンクをキメたロボ太は、また大笑いしながら踏ん反り返る。

 あまりに角度をつけ過ぎ、椅子ごと倒れて頭を打つのは、この三秒後であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが……」

 

 

 長い雨から一転、清々しい日本晴れとなった昼下がり。

 制服姿で旅行鞄を引いていたたきなは、とある建物の前で足を止め、じっくりとそれを観察した。

 

 喫茶リコリコ。

 

 ……と、看板に描かれている。

 いわゆる和モダン的な様式で、趣きある佇まいだ。

 ここに、たきなの目当ての人物がいるはず。

 意を決してドアを押せば、からんころん、とベルが鳴った。

 

 

「いらっしゃい」

 

 

 出迎えたのは、可愛らしい店名と真逆の人物。和装の黒人男性だった。

 奥まったカウンターに居てもなお、貫禄をここまで漂わせる。只者ではない。

 

 

「その制服、リコリスか。では君が?」

「あ、はい。井ノ上たきなと申します。錦木千束さんに御目通り願いたいのですが……」

 

 

 どうやらDAから連絡が来ていたようで、たきなの要件を察してくれる。

 それでも礼儀として用向きを伝え……やっと気付く。

 カウンターに、深緑の和風給仕服を着る女性が突っ伏していた。

 傍らには一升瓶と空のコップ。空気が動いたからか、酒精も臭う。

 

 たきなは、思わず男性に視線で問う。この人が?

 返されるのは、困ったような苦笑い。

 

 

「安心しなさい。それは千束ではなく、みずきという。こう見えて元DA職員だった」

「それって言うなぁ! こう見えても余計よ、ったく……」

「私はここの管理者で、ミカと呼んでくれればいい」

「……よろしくお願いします……」

 

 

 泥酔はしていなかったらしく、女性がガバっと起き上がる。

 ミカと名乗った男性(本名はミカエルだろうか)は全く動じておらず、これが普段からの行動なのだろう。

 個性的過ぎる自己紹介に、面食らう他に無いたきなである。

 

 

「あいにく、千束は買い物に出ている。座って待っていなさい。コーヒーを淹れよう」

「いえ、どうぞお構いな──」

「たっだいまー! 先生聞いて聞いてっ、さっきそこでめっちゃ可愛い幼女がメロンパン食べ歩きしてて…………あれ? お客さん?」

 

 

 ようやく落ち着けるかと思った矢先、入り口のドアが騒がしく開かれた。

 そこに居たのは、快活な笑顔に短めの髪を揺らし、手には買い物袋を提げた、赤い和風給仕服の少女。

 この少女こそ、東京で随一と称されるリコリス、錦木千束だった。

 

 

「……んで、あなたが派遣されて来た、と?」

「はい」

 

 

 ややあって、座敷席に腰を落ち着けた二人……たきなと千束。

 来客予定を知らなかったらしい千束に、たきなが改めて事情を説明すると、彼女は難しい顔を見せる。

 

 

「でも、わたしも色々と忙しいんだけどなぁー。どうしても手伝わなきゃだめ?」

「ローグ追跡は司令の命令ですよ、拒否するんですかっ」

 

 

 予想外の返答に、たきなは声を荒げてしまう。

 リコリスにとって、司令からの命令は絶対。それをこうも軽く拒否するとは。

 

 

「だってさぁ? その人、誰も殺さなかったんだよね。DAは格好つかないかも知んないけど、敵対する意思はない、って考えられないかな?」

「それは……そうかも知れませんけど、リコリス十人以上を一蹴できるような人間を、野放しには出来ません!」

「まぁそれもそうなんだけどぉ……仲良くしといた方がいい気がするんだよねぇ、千束さん的には」

 

 

 気怠げに、コーヒーのお供に出された御手洗団子(意外と食べ合わせは悪くない)をつまむ千束。

 尚も声を上げようとするたきなだったが、先んじてみずきが窘める。

 

 

「千束ぉ、アンタ甘く考え過ぎ。

 今回は殺さなかったってだけで、これから先もそうだとは限らないじゃないの。

 ……ぶっちゃけ、今まで相当な数を殺してなきゃ、出来ない芸当よ」

「同感だ。奴はあの状況で、一度たりとも狙撃可能な場所に出てこなかった。かなりの手練れだろう」

「先生までぇ……? これじゃあ、わたしだけ分からず屋みたいじゃーん……ヘコむわぁ」

 

 

 賛同者が居ないと分かると、千束は座敷へ大の字に。

 しかし任務に参加する気は無いようで、ここまで来ると太々しさも感じさせる。

 

 

「どうしても、協力して頂けないんですか」

「いやいやいや、そういう訳じゃないよ? ただ、それに掛かりっきりになる訳にもいかなくて……ね? 抱えてる案件もあるし……」

「そんなんあったっけぇ、ミカぁ?」

「日本語学校の臨時講師と、保育園の臨時保育士と、腰を痛めた近所の老夫婦の為の買い出しならあるな」

「どれもこれも雑用じゃないのよぉ、案件なんて言えるぅ?」

「大事なお仕事でしょー!? つーか、クダ撒いてるだけで手伝いもしないアル中に言われたくないんですけどー!」

「まだアル中じゃないわよ! 酒は百薬の長、適度に飲めば健康に良いんですぅー」

「まだって言ったって事は自覚ある証拠よ証拠ー! 禁酒しろー、今からこの店は禁酒法時代だー! 逮捕だみずき・カポネー!」

「ぁんですってぇー!?」

 

 

 わいのわいのと騒ぎ立てる千束に、みずきも対抗して大騒ぎに。

 ミカはもう我関せずと豆を挽いている。

 ……こうなったら、ルームメイト直伝の必殺技を使うしかない。

 

 

「あのっ!!」

 

 

 たきなの裂帛の気合いに、皆の注目が集まる。

 沈黙が広がる中、たきなは座敷から降り…………床に膝をついて、土下座した。

 

 

「うぇえっ!? ちょちょちょ、何してんのぉ!?」

「お願いします。この任務には千束さんの力が必要なんです。どうか御助力をっ!」

「えええ……ああ……ううぅ……」

「成果を出すまで戻ってくるなとも言われています。どうか、お願いします!」

 

 

 露骨に狼狽える千束と、土下座し続けるたきな。

 重苦しい沈黙。

 十秒経ち、二十秒が過ぎ、そろそろ三十秒といった頃には、ミカとみずきの視線が、赤い衣装越しに突き刺さって。

 結局、根を上げたのは千束だった。

 

 

「んんんんん、もうっ! 分かった、分かったから土下座は止めてー! なんかひどい事してる気分になるからー!」

「……! ありがとうございます!」

「はいはい、それより早く立って……あーあー手も膝も汚れちゃって……」

「特に問題はありませんが……」

「お、お、あ、り! 除菌シート持ってくるから、少し待っててー! はい持ってきた!」

「早過ぎないですか」

「遅いより良いでしょ? 気にしなーい気にしなーい」

 

 

 重苦しい雰囲気など何処へやら、きゃいきゃいと千束がはしゃぎ、着いて行けていないたきなは、戸惑いを無表情で隠す。

 そんな二人を眺める大人達が、やれやれ、と小さく溜め息をついていた。

 

 

「……あれは、フキに仕込まれたな」

「んー? フキって、千束の前の?」

「ああ。ルームメイトの友人だ。本人達は全力で否定するだろうが」

「ふーん……。青春だわねぇ……」

 

 

 こうして、井ノ上たきなと錦木千束による、ローグ追跡チームは発足したのだった。

 なお、発足に際して千束が「チーム名決めようよ!」とノリノリだったのに対し、たきなは「別になんでも良いです」と、早くも塩対応だったそうな。

 さもあらん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「という訳で、さっそく街に繰り出してみたけども……」

 

 

 場所は変わって、街中。

 たきなと色違い……赤のリコリス制服に着替えた千束が、買い物へ行くような軽い調子で隣に問いかける。

 

 

「なんか手掛かりとかはないの? 井ノ上さん。っていうか、たきなって呼んでいい? わたしの事も千束でいいからさ」

「……どうぞ、好きに呼んで下さい。千束さん」

「あははー壁を感じるお返事どうもー」

 

 

 心の壁が目に見えるようだわー、としょげる千束。

 けれど、初対面でこの距離の詰め方は、たきなも初体験だった。

 間違った対応だっただろうか……と不安になりつつも、とりあえず質問に答える事にする。

 

 

「私が出会った時のローグは、迷彩柄のレインコートに、手斧を下げた大きいリュックサックと、厳ついガスマスクを被っていました」

「なるほどなるほど。つまり、レインコートにガスマスク姿で手斧を持った人を探せばいい訳ね、ってそんなん目立ち過ぎるわ! 圧倒的不審者! もはや新手のジェイソンじゃん!」

「ですよね……」

 

 

 たきな自身、言っていて気付いたのだが、あの格好、ホラー映画の殺人鬼と言われてもおかしくない。

 ローグという呼ばれ方には相応しいのだろうけれど、日常的にあの格好はしないはず。

 しかしそうなると、身長くらいしか目安がなくなってしまう。

 

 

「でも、他に手掛かりは殆どありません。残した物と言えば、空薬莢と足跡だけなので。データはこちらに」

「ふむふむ、50AEか……。本国から持ち込んでるにしても、けっこう撃ってるね。普通だったら補給を考えるはず。これが取り付く島になるかも」

「確かに……そうですね。少し特殊な弾薬ですから、入手経路は限られてくると?」

「そゆことー。しかも非殺傷弾だしね。ま、DA本部も、その辺りはもう探ってるだろうけど、とりあえず弾薬の補給ルート探ってみますか」

「了解です」

 

 

 たきなの携帯端末を見ながら、情報を整理する二人。

 一先ず、行動目的も決まったので、揃ってまた歩き出すのだが、千束の口は閉じなかった。

 

 

「ね。どんな感じの人だったの」

「……ローグ、ですか?」

「うん。悪漢なんて言われる割りに、不殺だったんでしょ。やっぱ気になるじゃない」

 

 

 ローグ。

 日本語に訳すと、悪漢・悪党・ならず者、といった意味になる。

 可愛らしい意味合いでは、いたずら小僧、わんぱくな子供、なども存在するが、たきなが抱く印象としては、たった一つ。

 圧倒的な戦闘力だ。

 

 

「強かった、です」

「……まぁ、リコリスを薙ぎ倒しちゃうくらいだしねー。…………え、そんだけ? 他には?」

「他とは?」

「あるじゃんほら、動きが男の人っぽいとか、逆に女の人っぽかったとか、雰囲気的なサムスィンッ! がさ?」

「…………」

 

 

 千束は両腕を広げ、その場でくるっと回って一時停止、あざとく小首を傾げる。

 他にと言われても困ってしまうが、しかし改めて考えてみると、たきなの胸中にも、ある想いが芽生えた。

 

 

「これは、あくまで一個人の感想ですが」

「うんうんうん」

「勝てるビジョンが浮かびませんでした」

「は?」

 

 

 あんだって? という表情の千束に気付かないまま、たきなは言葉を重ねていく。久方ぶりに感じた、克己心のような感情に任せて。

 

 

「どれだけローグとの戦闘を頭の中でイメージしても、勝てる道筋が立てられないんです。

 あの特殊兵装を無しにしたとして、現状の私では、射撃・体術・戦術眼、全てにおいて上を行かれていると思います」

「あーそうなんだー」

「だからこそ、今度は勝ちたいと考えています。もっと力をつけて、必ずや雪辱を果たしたいです!」

「う、うん。頑張ろうねぇ」

「はい! 東京一と称される千束さんの御力、勉強させて頂きます!」

「ヤッバい、この子見た目に依らず脳筋(ガチ)だわ……」

 

 

 言語化した事でやる気も湧いたらしく、胸の前で両手を握り締めるたきな。

 一方の千束はドン引きである。

 楚々とした外見に反して、凄く負けず嫌いな性格のようだ。

 幸い、最後の呟きは聞こえていなかったのか、たきなは首を捻るだけだった。

 

 そんなこんなで、数時間後。

 

 

「うーん、DAが調べないような末端の売人さんも空振り、かぁー」

「やはり厳しいですね……。情報が無さ過ぎます」

「……しゃーない、ちょっと休憩しよ! おやつターイム!」

「そんな事をしている暇は……」

「いいじゃん、ちょっとだけ! 散々歩いて、たきなも疲れたでしょ。コンビニでジュースとお菓子買お、ね? 300円までにするからぁー!」

「……はぁぁ……分かりました……」

「ぃやたー!」

 

 

 意気込んで始めた調査は、しかし空振りばかり続いていた。

 小物の犯罪者とはいえ、売人も一種のローグ(ならず者)。身の丈に合わない稼ぎを得ようと、普段はしないような取り引きをするのでは? と睨んだのだが、当てが外れてしまった。

 その間に、千束のハイテンションな言動にも慣れ、たきなも諦めた様子でコンビニへと向かう。

 ちなみに、売人達は全員縛り上げて、然るべき場所に通報済みである。

 

 

「えっへへー。カッフェオッレとー、シュークリームー。どっこっで食ーべよっかなーっとぅおおぉっ!?」

 

 

 買い物を済ませ、130円のカフェオレと、168円のシュークリームが入ったビニール袋(たきなの分も入っている)片手にスキップしていた千束だったが、唐突に足を滑らせ、前後に大開脚してしまう。

 プルプルと、生まれたての子鹿の如く震える彼女を見て、たきなが盛大に溜め息をついた。もう奇行の域である。

 

 

「……何してるんですか、全く」

「あ、あはは、なんか地面がぬかるんでて……………………ん?」

 

 

 気恥ずかしいのか、顔を伏せたまま言い訳する千束。

 確かに、前日まで雨が降っていたし、そこらにぬかるみがあったのは間違いないが、それとはそれとして“何か”に気付いたらしく、パパッと膝を抱えて座り込む。

 

 

「ねぇ、たきな。ローグの足跡の写真、あったよね」

「はい。それが何か?」

「これこれ」

 

 

 細い指が指し示す先には、千束と同じように、ぬかるみを踏んで出来たらしい足跡があった。

 靴底の形が妙にハッキリしているのは、滑り止めの溝の深さからだろうか。

 たきなは携帯を取り出し、ローグが残していった足跡の写真を表示。地面の物と比べる。

 

 

「足跡、ですね」

「足跡、ですな」

「一致…………してますね」

「一致してはりますなぁ」

 

 

 無言。

 見つめ合う二人。

 やがて、たきなは猛然と歩き出した。

 

 

「ちょっ、たきなっ!? どこ行くの!?」

「追うに決まってます! 市街での足跡追尾の方法は習得してます!」

「それはわたしもだけど、でも、シュークリームはー!?」

「後にしてください!」

「えぇぇー、せっかく買ったのにぃ……」

「千束さん!」

「はぁーいーっ」

 

 

 ごねる千束も、ピシャリと叱られながら着いていく。

 雨が降った翌日であるためだろう、足跡はハッキリしており、追跡も容易だった。

 ところが、最初は確かだった足跡も早々に薄くなり、次の足跡を探すのに苦労するようになる。

 ついには完全に消え去って……。

 

 

「っとと、たきな?」

「……駄目です、完全に途絶えました」

 

 

 とある古めかしい路地で、たきなの足は止まった。

 そもそもあの足跡自体、かなりの幸運(不運?)によって残されていただけで、都合よく何度も、ぬかるみに足を取られてくれるはずもなかった。

 開発され尽くした都心から離れ、雑多に家が立ち並ぶ下町まで来た上、そのぶん人通りも多いのだから尚更だろう。

 

 

「下町かぁ。人が多いし、ついでに人が住まなくなって放置された家もあるし、身を隠すには打ってつけだね」

「ですがここから先、どうやって調べれば……せっかく手掛かりを見つけたと思ったのに……」

「なぁーに言ってるの」

 

 

 せっかくの手掛かりが途絶え、落ち込むたきな。

 その背をポンと叩き、千束は優しく微笑む。

 

 

「初日でDAが見逃しそうな手掛かりを掴んだんだよ? 報告して、後は任せようよ。それに、やれる事はまだある」

「やれる事……?」

「足跡を逆に辿るの」

「逆に、ですか」

「そう。そしたら、ローグがどこからどう動いたのか、少しは分かるかもよ?」

 

 

 どこかに向かって歩いたならば、その出発点がある……どこからか歩いて来た、というのは自明の理。それを探る事で、ローグの行動目的を探るのだ。

 気を取り直し、二人はコンビニまでの道のりを戻って行く。

 しかしながら、足跡は時間が経つ毎に薄れる物であり、追跡は困難を極めた。

 それでも諦めずに探索を続けて、更に数時間。

 

 

「うーん……ここいらで限界かあ……」

 

 

 すっかり日が暮れ、もうすぐ夜の帳が下りるという頃。

 足跡の「あ」の字も見つからなくなったのは、旧工業団地近辺だった。

 開発が終わり、今では低所得者向けの安アパートとなった、集合住宅が並んでいる。

 

 

「千束さん、付近に使われなくなった貸し倉庫があるようです」

「おー、怪しさ満点だー。最後にそこ行ってみよ」

「はい」

 

 

 マップアプリで情報を仕入れたたきなを伴い、千束がひび割れたアスファルトを進む。

 そして、一縷の望みを託して向かった廃倉庫には、埃に残る無数の足跡があった。

 その中には、特徴的な靴底──ローグの足跡も。

 

 

「ビンゴ! 大当たりー! 賞品はぁー、桃の天然果汁入り清涼飲料水ー!」

「私の分のジュースじゃないですか。……頂きますけど」

 

 

 捜索に掛かりきりで飲むのも忘れ、すっかり温くなってしまったジュースだが、口に含めば、不思議と清涼感を得られた。新しい手掛かりを見つけられたからだろうか。

 ともあれ、喉の渇きを潤した今、するべきは現場検証である。

 

 

「この足跡……。かなり歩き回ってますね。何を調べてたんでしょうか。他にも足跡がありますし」

「さぁ? 流石のわたしでも、そこまでは分かんないかなー。けど、大きな収穫なのは間違いない。楠木さんも大喜びかもよ?」

「…………」

 

 

 一時的な出向、という形で与えられた、今回の任務。

 雪辱を果たすため、と納得した気でいたが、やはり昔から憧れていた生活を──DA本部での寮生活を奪われたのは、不服でもあった。

 この手掛かりだけで戻れるとは思えないけれど、それでも、一歩前進したのは確か。

 

 

「ローグ……私は、必ず……!」

 

 

 言葉少なに、たきなは決意を新たにする。

 沈み行く夕陽に照らされるその横顔を、千束は静かに見守っていた。大口でシュークリームを齧りながら。

 と、そんな時である。

 明かり取りの窓から入る光が、天井付近の鉄骨を照らし、“何か”をキラリと光らせたのは。

 

 

「あれは……?」

 

 

 頬にカスタードクリームを付けたまま、千束は綺麗な形の眼を細め、おもむろにカフェオレのペットボトルのキャップを外し、狙いを定めて…………投げる。

 コン、と小気味良い音を立てて落ちて来たのは、奇妙な不等辺六角形の金属片だった。

 

 

 

 

 




「千束がどんなヤツか? バカだバカ、お人好しの大バカだよ。……ま、意外と押しに弱いとこがあるからな。土下座でもされたら、なんでも言う事きくんじゃねぇか。
 けどその前に、自分のペースを乱すな。アイツになら多少キツく言ったって良いから、面倒になったらしっかり拒否しろ。それと……(以降10分以上も小言が続く)」


 次回は戦闘回の予定。ちょっと長めにお時間を頂きます。ではでは。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。